『高淤の悪戯』  
 
「あ、あの……」  
「ん? 何だ?」  
 深夜の安部邸、その一角にある安倍晴明の孫、昌浩の部屋。とっくに日が変わっている時間、当然昌浩も、物の怪もっくんと一緒に夢の中、のはずだった。  
 しかし、バッチリ目は見開き少々遠慮がちに自分を叩き起こし、尚且つ圧し掛かって微笑んでいる女に尋ねた。  
 女の名は高淤。簡単に言えばとても凄くて偉い龍神様、いや今は人の姿なので女神と呼んだほうが正しい。  
「退いていただくわけにはいかないでしょうか」  
「無理な相談だな、安倍の孫」  
「孫言うなっ!!」  
 相手は神様、へたな事を言えば祟られる。そんな思いもあり、少しぎこちない笑顔で高淤に頼み込んでみるも、即答の上に昌浩にとっての禁句を軽く言われた。  
 この禁句に関しては神だろうとおそらく関係はない。近所迷惑とも言える大声で高淤に返した。  
「……祟ってやろうか?」  
「し、しつれいしました、すみません、ごめんなさい、どうか、どうかお許しを」  
 しかし所詮昌浩が大きく出たところで相手は神だ。その神が一言言っただけで昌浩の態度は再び元に戻り、少し体を震えさせ高淤に謝罪を連呼した。  
「何しに来た、高淤の神」  
 更にさっきまでグースカ寝ていた物の怪が、高淤の神気を感じ取り、赤い目を光らせじっと睨む。  
「ん? 我が神気を感じ取ったか。形は物の怪だが、さすがは十二神将だな」  
「物の怪言うな……」  
 高淤の軽くからかうような口調に対し、もっくんは更に不機嫌そうに睨み昌浩と同じような返事をする。  
 押し倒されている昌浩は首を横に動かして苦笑しつつ見ていると、顔の両側に手の感触が伝わった瞬間グイっと正面を向かされる。  
 眼前には綺麗なお姉さん、昌浩も男なので思わず頬を赤くした。いや、むしろ高淤は部屋に入ってきた時から何故か裸なので赤くする背ざる負えない状況だ。  
「……とりあえず何か着ろ……」  
 半目にし、呆れて全裸の神にもっくんは言うが高淤はまったく聞こうとはしない。  
 むしろ昌浩が着ていているものの中に片手を入れ、楽しそうに微笑みながら胸やら弄り始めている。  
 あまり感じた事のないゆっくりと動く手の感触に、僅かに体を震わせながら昌浩は困惑の表情で高淤を見上げていた。  
「ちょっ……ぅ……あの、いったい何をして……」  
「いいから大人しくしていろよ? 流石に反応が初々しいなぁ」  
「やめろ。昌浩が嫌がってるだろ!」  
「ふぅん、そうか? 本当に嫌がっているのかな?」  
 もっくんの声は徐々に荒々しくなっていく。だがそれも軽く流し、高淤が軽く手を振る。  
 どうやら何かの力を使ったらしく、昌浩が着ているものは勝手に脱げていき、戸惑う昌浩は抵抗なく半裸にされる。  
 夜の風が吹き、体をブルッと震わせた昌浩の顔は真っ赤。それもそのはず、半裸にされ硬くそそり勃った肉棒が露になっているのだから。  
「ほう、なかなかの大きさじゃないか」  
「ほ、本当にもうやめ……」  
 
 震えた声の昌浩を他所に、高淤は皮被りの肉棒を掴み上下に動かし始めた。  
 吼えまくるもっくんを無視し、妖艶な笑みを浮かべ肉棒を動かす手の速さを上げる。  
 今まで感じた事のない、体中が痺れるような感覚に体を硬直させ昌浩は体から来る何かの衝動に耐えていた。  
「おい! こら何やってるんだ! その手を離せ!」  
「そう怒鳴るな。ん? そろそろか」  
 もっくんの言葉を軽く受け流しつつ、高淤の手は止まり、代わりに高淤はゆっくりと体を動かし顔を昌浩の肉棒に近づける。  
 そしてぱくりと肉棒を口に咥えた瞬間、手とは違う衝撃に襲われ昌浩は体を跳ね上げ何か爆発したような感覚に襲われる。  
 そう、昌浩は高淤の口内に精を放出させたのだ。  
「んッ……んんッ」  
 肉棒から出る熱く濃い液体を高淤は喉を鳴らし飲み干した。もっくんはボカーンと呆然。昌浩は少し涙を浮かばせ射精の感覚に浸っている。  
 高淤の口が肉棒から離れると、精の糸が垂れ呆然と正面を見上げる昌浩を微笑みながら見下ろしていた。  
「ふふ……なるほどこんな味か、孫のは」  
「……」  
 孫言うなっ! が返ってこないあたり昌浩はそんなツッコミができる状態ではないのだろう。  
 しばらく昌浩は呆然としていたが、ハッと我に返ったもっくんがまさに鬼の形相で高淤に怒声を放った。しかも紅蓮の姿となって。  
 いきなり現れていきなり昌浩をある意味で襲ったのだから、紅蓮の怒りは当然といえば当然だ。  
「ふざけるなよっ高淤の神っ!! 貴様何のつもりだっ!!」  
「うるさいぞ? 別に良いではないか、いずれは経験することだ」  
「なっ! それは……そうだが」  
「それでは私は戻る。ではな……」  
「ま、待て……っ!」  
 そして何事もなかったかのように、女神の如き微笑で高淤は貴船へと帰っていった。  
 暗い闇が支配する夜に一筋の光が貴船に向かって飛んでいく。  
 紅蓮は、この度の被害者である昌浩の顔を見ると、もうすでに寝息を立てていることに軽くため息を吐きつつ昌浩の乱れた服を直す。  
 そして赤い光とともに物の怪の姿に戻ると、昌浩の部屋を後にし他の十二神将のところへと向かう。高淤の神対策の為だ。  
 晴明に言っても良かったのだが、どうせ楽しむに決まっていると何となく予感したためやめておいた。  
 
「お前たち……頼みたいことがある」  
「ひっ……騰蛇」  
「我たちに頼み?」  
「あぁ、実は……」  
 そして偶然いた太陰、玄武に相談するもっくんの姿を清明は微笑ましく見ていたそうな。  
 ……タカオカミノカミにお願いしてよかったと……。  
 
完  
 

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