「はあぁ〜〜〜〜〜ぁぁ」
夜の安倍低の廊下で、昌浩のこの世の絶望と言わんばかりのため息が吐き出される。
その昌浩の後ろには、笑いを堪えながら白い物の怪が四速歩行で歩き、一跳びで昌浩の肩に飛び乗った。
「まっ、言っちゃったもんは仕方ないよな?」
「はぁ……」
長く細い尻尾を昌浩の頭に乗せ撫でる様に動かしながら、物の怪は可笑しそうに笑いながら言う。
再び昌浩からため息が零れる。
あんな事言わなきゃよかった、と後悔の念に支配される。
思い出すだけで、あの狸ジジイにむかつき、自分が言った内容に顔を真っ赤にさせる。
まぁ、事の発端はつい数分前にさかのぼる……。
夜回りを追え、もっくんと六合と共に家へと戻ってきた昌浩は、晴明が呼んでいると天一から聞き。じい様の部屋へと向かった。
やや薄暗い晴明の部屋にて、昌浩は本日の夜回りの報告を済ませる。
顎鬚を撫でながら昌浩の報告を黙って聞いていた晴明は、聞き終えるといつもの如く昌浩をいじり始めた。
「時に昌浩?」
「何でしょうか?」
「いつになったら、ひ孫の姿を見せてくれるのかの?」
「はい!?」
軽い感じで出た晴明のとんでもない言葉に、ボンッと顔を赤くさせ昌浩は驚きの声を上げた。
「なっ、なな、何を言っているんですか!?!」
「だってぇ〜」
「だ、だってではないですよ! あ、兄上たちがいるでしょう!!?」
「わしは”昌浩の”子が見たいのぉ」
「そ、そそそ、そんな事、急に……言われても……」
徐々にトーンを下げ、紅蓮の髪のように顔を真っ赤にしながら俯き始める昌浩。
その背後で、物の怪が「落ち着け」と言いながら背中を叩いていた。
しかし、そんな昌浩の初々しいリアクションも晴明の読みどおりであった。
「あぁ! なんと嘆かわしい!」
「は?」
「老い先短い老人に、我が孫は子すら見せてはくれぬのか……あぁ悲しい!
そんな孫に育てた覚えはないのに……非情な孫だのぅ……」
晴明のいつものおちょくりにプチっと、軽く、いや結構深く何かが切れる音がしたような気がする。
それはまぁ、昌浩の堪忍袋という物で、これだけ昌浩にとって禁句である孫を連発されれば、キレるのも当然とも言える。
どーどーと、動物を宥めるように昌浩を宥めるもっくんを弾き飛ばしながら、昌浩は勢いよく立ち上がり、もっくんは壁に激突した。
「あぁーわかりましたっ! 見せますよ! あぁ、見せましょうとも!!」
「おぉ、そうか。昌浩ガンバ♪」
「期待して待っていてください! それでは失礼します!! いくよもっくん!」
「い、いたた! は、放せ昌浩ぉ!」
室内に怒声を響かせ、昌浩の攻撃でダウン中だったもっくんの尻尾を掴みつつ、ズカズカとその場を後にした。
それを眺めていた晴明は、まさに思惑どおり! と言わんばかりの笑みを浮かべていた。
「玄武」
「どうした、晴明?」
「ちょっと水鏡で……」
「晴明……そういうのはよくないぞ」
「我もそう思う」
「六合も玄武も冷たいのぉ」
「どうしよう……」
つい勢いで言ってしまったが、晴明の部屋を出てすぐに自分がはめられた事に気づいた昌浩。
「だから、言っちゃったもんは仕方ないって言ってるだろ?」
「だけどぉ」
「まっ、俺の飛ばした挙句に引き摺った罰だな、罰」
昌浩の肩に乗り、尻尾で頬をぺちぺち叩きながら、もっくんは言い切っていた。
「まだ怒ってるの? 何度も謝ってるじゃないか」
「気持ちがこもってな〜い! もっと気持ちを込めて、すみませんとか、ごめんなさいとか、もうやりませんとか言ってみろ!」
「すみません、ごめんなさい、もうやりません。だから許してください物の怪様ぁ」
「物の怪言うなぁ!!」
もっくんのご希望通り、全ての台詞を言った後、昌浩は手の平を合わせ崇めるような口調で謝る。
しかし、物の怪様というフレーズに反応し、期待を裏切らないツッコミを入れるもっくんは、まぁ許してやろうと言いながら肩から飛び降りた。
「それで? どうするんだ?」
「どうしよう」
「あのなぁ。まぁ、もうこんな時間だ、彰子も眠っているだろうし…………夜這い?」
「へ、変なこと言わないでよもっくん!」
ケラケラと笑うもっくんに、顔を真っ赤にさせる昌浩。
昌浩にとっては、このまま何もしなければじい様から何を言われるか分からない。
かと言って、晴明に宣言したとおりにしたとしても、おそらくじい様にいじられるのは明白。
昌浩はある意味で追い詰められた。
その後の対策について話しているもっくんと昌浩、そんな会話をしていると、昌浩の部屋へとたどり着く。
すると、もっくんは何度も感じたことのある神気を感じ取り、少し険しい表情になり立ち止まる。
が、昌浩はまったく気づくことなく、もっくんの言葉を聞き流しつつ部屋へと入った。
「来たか、安倍の孫よ」
「孫言うな! ……って、彰子?」
部屋への第一歩でいつものツッコミを響かせる昌浩。
その対象は、眠っていると思われていた彰子だった。
妻戸を閉め、何かが、いや明らかに変だと思い、昌浩は首をかしげる。
目の前にいるのは確かに彰子なのだが、胡坐で腕を組み不適に笑っていた。
その上、髪の色は白銀、瞳の色は綺麗な水色。
そんな彰子は今まで見たことのない、今後もおそらく見ないであろう姿に昌浩は、脳内である仮説を生み出した。
目の前にいる少女は、彰子ではないと。
「だ、誰ですか?」
彰子に似た少女に戸惑いながら問う。
この仮説は間違ってはいないのだが、昌浩はもっくんのように確信的には気づいておらず、いわば勘というやつだ。
それでも自らの正体が気づかれたのかと、彰子似の少女、いや一応彰子本人が一瞬驚いたような表情を浮かべるが、すぐにまた笑みを浮かべ立ち上がった。
「ほう、すぐに見抜いたか。少しは成長した、ということだな」
「いや違う、多分勘だ」
「も、もっくん!」
「何だ、勘か」
感心したような彰子の口調も、もっくんの一言により、昌浩の止めもむなしく僅かに落胆する。
が、また直ぐに微笑みながら昌浩の目の前まで寄る。
目の前に彰子の顔、それに先ほど晴明に言った言葉が頭をよぎり、顔を赤くする昌浩。
「な、なに?」
「何をやっている、高淤の神」
「た、高淤の神!?」
昌浩を見つめ続ける高淤を、もっくんが少し警戒するような声で言うと、昌浩は驚きの声を上げた。
ここでようやく、目の前にいる彰子に高淤の神が憑いているという事に気づいたようだ。
「ようやく気づいたか。まだまだ、未熟だな」
さらに艶な声で高淤に痛いところを指摘され、昌浩は押し黙る。
そんな昌浩に、とりあえず座れと敷いてある布団へ導く高淤。
布団の上に座り、しばらく沈黙が続き、まずもっくんが不機嫌の時に似ている声で高淤に口を開いた。
「で? 本当に何しに来た、こんな時間に」
「そんなに邪険にするなよ神将。ただ様子を見に来ただけだ」
「じゃあ見ただろう。早く貴船へ帰れ」
「随分な扱いだな私は」
昌浩は会話に入れず黙っている。
神様にそんな喧嘩売るような口調でいいのもっくん、祟られるのは俺なんだよ?
内心ビビリまくりの昌浩。でも高淤はまったく気にする様子はなく、クスクス笑っていた。
「さて、私もそろそろ本題に移るとするか」
「本題?」
昌浩ともっくんが声をそろえて尋ねた。
「そう、本題だ……」
「え? ちょ……な、なに、んむっ!」
「なーっ!」
艶な声で前かがみになりながら昌浩に迫る高淤。
昌浩がたじろいだ刹那、高淤は昌浩の唇を奪い、もっくんは驚愕する。
唇を塞がれたまま、そのまま押し倒される昌浩は高淤にされるがまま、口内に舌を入れられた。
「んッ……んふふ……んんッ」
「ッ……ッ!」
口内を嘗め回す小さな舌の感触に身を震わす昌浩の反応に、高淤は楽しそうに舐め続け、口を放す。
昌浩ももっくんも放心状態で、その隙に自分の衣服と昌浩の衣服を高淤は脱がしていった。
作業が終わると、昌浩も高淤も単一枚になり少し肌蹴ていた。
「いつまで呆けてるつもりだ?」
「……ハッ! ちょ、なに――」
「な、なななな、なにをやっているんだ高淤のかみ!!?」
まず昌浩の言葉は、二足歩行で裏返った声で叫ぶもっくんの声でかき消された。
今にも神に立ち向かおうとするもっくんに、本気でやばいと思う昌浩。
しかし、それでも高淤の表情は揺らぐことなく、微笑みながら誰かを呼ぶように手を軽く叩いた。
すると……
「さぁ、向こうへ行くぞ騰蛇」
「邪魔をしてはけませんよ、騰蛇」
「なっ! 勾! 天一! は、放せ、昌浩ぉ〜〜〜〜!!!」
突如としてもっくんの背後から、勾陳、天一が現れ、猫のようにもっくんの首を勾陳が掴むと、部屋から出て行った。
もっくんの叫びが家中に響き、昌浩は少し呆気に取られ、高淤が強引に正面を向かせた。
「さぁ、続きをはじめようか」
「つ、続き?」
「そう……子が欲しいのだろう?」
「き、聞いていたんですか?」
「あぁ、来たときに偶々、な」
高淤の不適な笑み、絶対偶々じゃないと昌浩は確信するものの、自分はどうする事もできない。
相手は神様、おそらく自分の術など通じないし、彰子には絶対、絶対に使いたくはない。
高淤と昌浩の唇が再び重なり、再び侵入してくる舌の感触に身を震わせ、体を硬直させる昌浩。
どうやらまだ口付けに感触に慣れないようだ。
「んッ、んふぅ……はぁ、ほら、ちゃんと舌を使え。祟るぞ?」
「っ! は、は、い……」
軽い高淤の脅しに、肩をビクッとさせ恐る恐る舌を絡めさせる。
ヌメッとして生暖かいく、小さく動き回る高淤、というより彰子の舌、そして口内に送られる唾液の感触に、昌浩の中で何かが熱くなり始めていた。
やがて長く重なり合っていた唇が放れると、お互い荒くなった息遣いが室内に聞こえていた。
「初めてにしては、なかなか、流石は晴明の孫だな」
「……い、言うに事欠いて、孫言うな」
「………さて、次だ」
昌浩の上に跨いでいる状態で、高淤は妖艶な笑みで囁くと体を反転させ、昌浩にお尻を向ける体制になった。
「ふぅん、もうこんなに硬くなって……なかなか立派だなぁ」
「そ、そんな」
自分の恥ずかしい部分をまじまじと見られた上に、その感想を思いっきり言われ昌浩は恥ずかしそうに顔を赤らめる。
小さな手で握られ、軽く扱かれるだけで亀頭からは、透明な液が流れ出始め高淤の手を汚した。
「ほら、どうだ?」
「ぅくっ……ど、どうって言われても」
「ふむ……まぁ、初めてだろうだから仕方がないか。それなら、こちらを見た感想でも聞かせてもらうか?」
高淤は腰を突き上げ、幼い秘所を昌浩に見せる姿勢となった。
毛もなく、線だけが見える秘書からは何かが出ており光っている。
ただそれだけだが、昌浩の興奮は高まっていくのだった。
ただ黙っている昌浩に、早く答えろと高淤が言うと、生唾を飲みつつ昌浩は口を開いた。
「なんというか……綺麗です」
「そうか。まぁ、私の体ではないのだが……次は本人に言ってやれ」
「が、頑張ります……」
妙な励ましに、苦笑しながら答える昌浩。
次はいつ頑張れる時が来るのだろうとか考えていると、高淤が自分の上から退いたのでゆっくりと起き上がった。
やっと終わったのかと、内心思っていたがそれは見事に甘い考えであった。
「さてと、本番といこうじゃないか」
「……えと」
とりあえず状況を考えてみた。
昌浩の目の前には、仰向けに寝て、脚を広げ膝を曲げている、妖しい笑みを浮かべている彰子……高淤の姿。
本番? ということは今までの準備的なものだと昌浩は判断したが、どうすればいいのか分からず困惑していた。
まぁ、経験がないんだから仕方がない、そんなことを思いつつ高淤は無知な人間を導いてやることにした。
「ソレを、コレの中に入れるのだ」
昌浩の肉棒と、自らの秘所を指を刺し命令し、昌浩はそれにしたがって高淤に傍によると、恐る恐る秘所に肉棒をあてがった。
「腰を使って、押し込むように」
「や、やっているんですけど……」
「んッ……ぁんッ、仕方がない孫だな」
膣内に肉棒を入れようとする昌浩だったが、滑ってうまく挿入できない。
それでも秘所を刺激され、喘ぎが混じりだした声で高淤は片手で肉棒を掴み、ゆっくりと自分の中に収めていく。
亀頭が収まったころには、昌浩に今まで体験したことのない快感が流れ始め、何か出そうな衝動に襲われるが、昌浩はグッと我慢する。
「ほら、あとはッ、腰を使え……一気にな」
高淤に言われたとおり、昌浩は一気に突き入れた。
「痛っ……っつ……」
「あ、だ、大丈夫ですか!?」
昌浩のことの問いかけは、高淤の異変によるものもあったが、体は彰子なので彰子自身に対するものがかなり強い。
焦って抜こうとするが、両脚を自分の腰あたりに組まれ、そのまま強制的に押し込まれた。
結合部からは血が流れている、そう――昌浩が彰子の処女幕を破った証拠だ。
「抜くんじゃない、大丈夫だよ」
「あ、ああ、ああの、血、血が出てますけど!」
「あぁ、これか? フフ、初めての場合は誰もが出るものだ。案ずるな、しっかり治しておいてやるから」
「そ、そうですか……」
まるで子供を宥めるような優しげな口調で、高淤は昌浩の頭を撫でてやった。
瞳に涙を浮かばせていた昌浩、高淤を言葉に少し安心する。
しかしその瞬間、彰子の安否に飛んでいた神経が元に戻り、電撃のようなものが体に流れ昌浩の体は痙攣した。
「そろそろ……いいか。腰を前後に動かせ」
「は、はぃ……」
快感に身を震わせながら、言われたとおり腰を引き、そして再び突き入れる。
すると、再び体はビリビリと痺れ、味わったことのない快感が体中に流れる。
昌浩は夢中で腰を動かし、高淤は突かれる度に甘く喘いでいた。
「んッ……あぁっ、あんッ……い、いいぞ孫……はッぁんッ!」
「はぁ……んッ……ッ!」
「ひぁッ、あぁッ……このかんじ……ひさし、ぶりッ……あぁんッ!」
正常位で高淤を突く昌浩。
結合部からは卑猥な音が流れ、血と愛液が布団を汚す。
処女ということもあって、高淤の膣内はかなりきつく、容赦なく昌浩の肉棒を締め付けていた。
その快感に、まったくの未経験だった昌浩には既に限界だった。
何かが出る衝動……ちょうど尿を出すときのものに似ている為、このままではまずいと思い昌浩は腰を引こうとする。
が、すでにガッチリと高淤の脚が組まれているため抜く事はできず、限界が切れた昌浩は高淤にそれを放った。
「ひゃああぁッ!! で、出たッ、か……」
「かっ、ぁッ!」
射精の快感に、高淤は妖艶な笑みを浮かべ、昌浩は高淤の体の上に抱きつくように倒れこむと、射精の快感で体を跳ねながら痙攣している。
白濁した精液は、あっという間に高淤の膣内を満たし血と混ざって外へと流れ出ていた。
そして射精も終わり、二人は呼吸を荒くし、しばらく繋がったまま快楽のに浸っていた。
「はぁ、はぁ……はぁ、なかなか、はじめてにしては……」
「は、はぁ、ありがとう、ござい、ます」
今回初めて高淤に褒められたような気がして、何となく嬉しく感じて昌浩は笑みを浮かべる。
高淤の脚から解放され肉棒を引き抜くと、彼女の横にだるそうに倒れこむと、激しい疲労感と眠気に襲われた。
そして、倒れて数秒もしないうちに寝息を立て始め、高淤はゆっくりと立ち上がると昌浩の寝顔を見てクスリと笑っていた。
「神の前で寝るとは……やはり面白いな」
そう呟くと、乱れた昌浩の服や布団を神のお力で元通りにし、自らの服も元に戻す。
そして、昌浩の髪を数回撫でると、その場を後にし彰子の部屋へと戻っていき、彰子の肉体から光と共に出て行く。
その光が向かった場所は貴船ではなく、晴明の部屋だった。
「これでよかったのか?」
「ほほ、ありがとうございます、高淤の神」
「いやいや、楽しませてもらった。言われたとおり、子は宿ぬようにした。膜も元に戻しておいたぞ」
「何か何まで……」
「また何かあれば呼ぶがいい。アレを気にとめている間は協力してやる」
「はい」
全ては晴明と高淤の作戦だった。
高淤は満足そうに言うと、光と共に貴船へと帰っていき、晴明もまた微笑んでいた。
陰陽以外にも学ぶことはあると言いたかったのだろう、多分、いやそういう事にしておこう。
一方で勾陳と天一と共に消えたもっくんは……。
「ほら太陰。怖くないからこっちへ来い」
「太陰、ね?」
「うぅぅぅ……」
「何で俺が……」
無理やり神将の姿にさせられ、太陰の騰蛇克服の為に働いていたそうな……。
―終―