「キリュウ、明日空いてるか?」
場所は七梨家の応接間。土曜日を明日に控え、特にする事もなく学校から帰ってきた太助は、一足先に帰ってソファーでお茶を飲みながらくつろいでいたキリュウに開口一番そう言った。
「…? いや、特に予定は無いから空いているが…試練を希望でもするのか?」
「ん〜…試練とは違うんだけど、まぁ似たようなもんかな」
そうキリュウと会話をしている最中にも関わらず、太助の目はチラチラと夕食を作っているシャオリンのいる台所の方を気にしていた。
「…なるほど、シャオ殿に関する事か」
「あ〜…やっぱりバレたか」
「それは、それだけ態度があからさまではな。…それで主殿、私は明日何をすれば? シャオ殿の為なら微力ながら協力させてもらうが」
キリュウは手に持っていた茶碗をテーブルに置き、太助の言葉を待つ。
しかし…。
「いや、後で上で話すよ。今はちょっと…」
なおも台所を気にしている太助を見て、キリュウはピンときた。
「─もしかして、シャオ殿に聞かれたくない話なのか?」
「うん、出来るだけ当日までシャオには知られたくないんだ。
だから夕食の後にでも屋根の上に来てくれないか?」
その言葉にキリュウは無言で頷いた。言葉を発しなかったのは台所からシャオリンが出てくるのが見えたからだ。
「あら? 太助さま、キリュウさんと何を話してらしたんですか?」
「えっ!? い、いや、何でもないよ? それより、シャオはどうしたの?」
太助は冷や汗をたらしつつ、シャオの関心を逸らそうとする。
「いえ、ちょっとお醤油を切らしてしまってて。スーパームサシまで買いに行ってきますので、太助さま、もう少し待っていて頂けますか?」
その太助の態度をシャオリンは大して疑問にも思わなかったらしく、いそいそとエプロンを外し始める。
と─。
「あの…シャオ殿、私が買いに行こうか? 私もちょうど手が空いていたところだし、何よりいつもシャオ殿だけに作ってもらっているのは心苦しいし」
「え、でも…」
「飛んでいけば大した労力でもないから、大丈夫だ」
「─判りました。じゃあ、今醤油の名前をメモしますからちょっと待ってて下さいね」
シャオリンはそう言い残すとパタパタと台所にメモを書きに行き、居間には太助とキリュウが残った。