ずがーーーーん
今日も学校では、大きな音が聞こえます。
これは、太助くんがキリュウさんの試練を受けている音です。
キリュウさんは、周りの自然の物を大きくしたり、小さくしたりすることができます。
太助くんは、守護月天のシャオちゃんをその任務から解き放つために、がんばって強くなるんだそうです。
シャオちゃん、ルーアン先生、キリュウさんの3人は、精霊としてずっと長い間、いろんな心の清い人と一緒にいたそうです。
今は、みんな太助くんと一緒にいるけど、いつか離れてしまうそうです。
そこで、太助くんはシャオさんをその運命から解き放てる様に強くなるため、キリュウさんの試練を受け続けているそうです。
運命を解き放つ、かぁ…。
僕もルーアン先生とずっと一緒になれたら…。
キリュウさんと…。
…あれ(汗)
おかしいなぁ、なんでだろう…。
その時、僕の机が大きくなりました。
そして、それはそのまま太助くんの所に突っ込んでいきました。
…太助くんは避けたけど。
いやー、太助くん、すごい反射神経ですねー。
これも修行の成果っていうやつなのかな?
そんなことを思っていると、
「お〜、乎一郎、元気か〜」とたかしくんが声をかけてきました。
野村たかしくん、僕や太助くんのクラスメートです。
「たかしくんはいつも元気だね〜」
「おう!シャオちゃんの笑顔が俺に毎日元気を与えてくれるんだ!」ちなみに、たかしくんはシャオちゃんの事が好きだそうです。
「太助くんも毎日元気だね〜」
「まあな〜、これもキリュウちゃんの試練のおかげだな!」
ふとキリュウさんを見ると、試練を太助くんにしてるキリュウさんは、どこか楽しそうでした。
正確に言うと、試練を頑張ってる太助くんが楽しいのかな?
「キリュウさんも、なんか楽しそうだね」
「ああ、これがいわゆるサディストってやつだな」
「たかしくん、それちょっと違うよ…」
そんなこんなでお昼休みも終わって、午後の授業が始まりました。
ルーアン先生は社会の担当だそうですが、他の授業も色々できるみたいです。ルーアン先生すごい!
「…というわけで、亡くなられた太助大王の為に、数千人の太助帝国の人員を働かせ、大きな墓である太助ピラミッドが建設されたのです」
…どこか間違ってる気がするけど、ま、いいですよね♪
午後の授業も終わって、放課後になりました。
今日は僕たちが掃除当番です。
山野辺さんはもう帰っちゃったみたいだけど…。
「俺達がみんなの安全を病原菌から守ってるんだ…!」
「…たかしくん、僕達は栄養士じゃなくてただの掃除当番〜」
ゴミを出しに行くと、ベランダにキリュウさんがいました。
「こんにちは、キリュウさん。」
キリュウさんに会うと、僕はぺこりとあいさつをしました。
「おお、遠藤殿。」
キリュウさんも目が合うと、ぺこりとあいさつを返してくれました。
「キリュウさん、この前はどうも、ありがとう」
僕がお礼を言うと、
「…いや、私の方こそ、色々迷惑を掛けたな」
「そんな事ないですよ」僕が笑いながら歩き出すと、キリュウさんも付いてきてくれました。
「キリュウさんは、太助くんと会う前は、どこにいたの?」
「私は…深い闇の中を、一人で漂っていた。新しい主殿に会うまで…」
「キリュウさん…」
「…でも今は、主殿と会えるから、毎日が楽しい」
そう言ってるキリュウさんは、楽しそうな眼をしていました。
「キリュウさんは、いろんなご主人様と、会ったんですよね」
「ああ、今までにたくさんの主殿と会った。皆心の清い人達だったが…」
「どうしたんですか?」
「今の主殿の様に、勇んで試練を受けようとしている人はいなかった」笑いながらキリュウさんは話してくれました。
「太助くん、シャオちゃんを守護月天のお仕事から解き放てるといいですね」
「ああ、そうだな…」
「……」
「どうした?遠藤殿」
「キリュウさんは…」
「…?」
「キリュウさんは、万難地天の仕事から離れて、自由になりたいって思ったこと、ありませんか?」
「私は…」キリュウさんがしゃべろうとする口元を僕はじっと見ています。
「私は、この、万難地天の宿命から離れたいと思ったことは、ない…」キリュウさんはそう、言いました。
「万難地天とは、主に試練を与え、成長させる宿命の精霊、私はそれ以上でも、それ以下でもないだろう…」
「そっかぁ〜…」
「…でも、いつかキリュウさんを幸せにできる人とも、会えるといいですね」
キリュウさんはうつむきながら
「私には…そんな資格なんて…シャオ殿とは違うから…」
「…僕は、そうは思わないな」
「遠藤殿…」
「シャオちゃんも、ルーアン先生も、キリュウさんも主の為に頑張っているのなら、きっと幸せも来るんじゃないかなぁ」
「……」
そう言ってる間に、ゴミ捨て場についたのでゴミを捨てました。
その帰りに、
「…遠藤殿は、主殿と共に居て、主殿が強くなったと感じているか?」そうキリュウさんが尋ねてきました。
「太助くんは、どこかたくましくなってきてますね〜、心も体も」
「そうか…」
「太助くんも、きっとキリュウさんのおかげだって、思っているんじゃないかな」
「……」キリュウさんは、黙って目を瞑りながら
「もし主殿が強くなっているのなら、私はそれだけで十分だが…」
「たまにはそう思われるのも、…嫌ではない…と思う…」キリュウさんは恥ずかしそうに下を向きながら言ってくれました。
「今度太助くんに、聞いてみようかな?」そう僕が言うと
「や、やめてくれ」とまた顔を赤くしながらキリュウさんはうつむいて言いました
「おーい!遅いぞ乎一郎ー!」たかしくんの声が聞こえてきました。
どうやら教室に着いたみたいです。
僕たちが教室に入ると「乎一郎さん、おかえりなさい」
と、シャオちゃんが出迎えてくれました。
キリュウさんにも気付いたみたいで
「あ、キリュウさん、こんにちは」
「こんにちは、シャオ殿」
「さっきそこで、キリュウさんと会ってきたんだよー」
「そうなんですか〜」
「…シャオ殿」
「キリュウさん、なんですか?」
「シャオ殿は、今、幸せか?」そうキリュウさんが聞くと、シャオちゃんは笑顔で
「はい!」そう答えました。
「…そうか」キリュウさんはふと笑いながら
「これからもそういった日々が続くと良いな」そう言いました。
「そうですね」シャオちゃんもにこっと笑いました。
「おーい、乎一郎ー」…と、たかしくんが呼んでたみたいです。
「たかしくん、どうしたの?」
「実は…」
「?」
「出るんだ…」
「何が?」
「お化けだーーーーー!!!」
「へ〜…ってえぇ!?」
「いいか乎一郎!これは世紀の大発見だ!もしおばけが実際にいる証拠を見つけたらこれはツチノコを見つけたのと同じくらいすごいことなんだぞ!たぶん教科書に俺たちの名前が載るぞ!」
…なんか例えが微妙かもしれないけど、とにかく凄いことみたいです。
「それでたかしくん、お化けがいるって証拠は?」
「ああ…これから掴むんだ!」
「まだなんだ?」
「あぁ…だが兆候はある…」
「ちょーこー?」
「用務員のおじさんが言っていた…最近誰もいないはずなのに、夜に物音がすると…」
「…ってことは、それがお化け?」
「あぁ…おそらくな。もう夏だし、お化けが出てもおかしくない季節だ!」
「…というわけで太助!」そう言うと太助くんを引っ張ってきて
「俺達で、お化けと思われる不思議な生物の正体を暴くぞ!」
引っ張られてきた太助くんは「たかし…不思議な生物なら俺たちの周りにいっぱいいるだろ…?」
と言いましたが、
「何ぃ!太助、お前はシャオちゃんをお化けだって言うのか!!」
「いや…お化けとは違うと思うけどさ…(汗)」
「太助様!」と、突然シャオちゃんが太助くんを呼びました。
「はぃ?!」(びくっ)
シャオちゃんは太助くんの方をじっと見ながら、「太助様、お化けって…」
「い、いや、俺はシャオをお化けみたいだなんて思ったことは一度も…(滝汗)」
「お化けって、どんな人なんですか!?」目をきらきらさせながらシャオちゃんは言いました。
「え゛!?」
「皆さんの話を聞くと、お化けさんって、とってもすごそうな人ですね」
「あぁ…そ、そうかも…(汗)」
「よし!」たかしくんが立ち上がって、
「シャオちゃんも興味津々だし、ここは一発、お化けの正体を解明するぞーーー!!!」
「という事で、今日の夜9時に各自道具を持って集合だ!!」
「おーーー!!」
(本当にやるのか…?)
(ほう、幽霊か…)
夜9時。
学校の前に集まった太助くん、シャオちゃん、たかしくん、僕、花織ちゃん、山野辺さん。
「ここが、幽霊の居城か…。」たかしくんが腕組みをしながら唸ります。
どこか風も冷たくて、闇が天を支配していますね、太助くん。
「…それは、夜遅くだからだと思う…。」
「七梨先輩、こわーーい☆」(だきっ)
「わっ、くっつくな愛原ー!」(汗)
「太助様、幽霊さんと会えるといいですね」(にこっ)
みんなでわいわいしゃべりながら、夜の学校へ入っていきます。
ギギギ…
「わぁっ!」(びくっ)
足音で軋む木の床に、太助くんがびっくりします。
「なんだぁ?七梨、そんな事じゃシャオを救えないぞ!」
「う゛…うるさいなぁ…仕方ないだろ…?」
「そうだぞ太助!シャオちゃんは俺が守る!!」
そう言いつつ、たかしくんがシャオちゃんの手を取って勢いよく駆け出します。
「たかしくーん、走ったらあぶないよー」
でもたかしくんは、
「はっはっは!幽霊でも妖怪でもかかってきたまえ!」
…大丈夫かなぁ。
その時、たかしくんが走っていた床がズボッと抜けました。
「のわっ!?」
「たかしさん、大丈夫ですか!?」傍で走っていたシャオちゃんが声をかけます。
「あ、ああ…大丈夫だよシャオちゃん、こんな床は所詮世紀末救世主、野村たかしの敵じゃないさ。」たかしくんは冷や汗をかきながらも元気そうでした…。
「それにしても危ないなぁ…この校舎古いんじゃないか?」と、山野辺さん。
そのとき、床に開いた穴が大きく広がりました。
「…え゛?!」
「危ない!」まっ逆さまに落ちそうになるたかしくんを、式神の軒【車袁】さんに乗ってシャオちゃんが助けました。
「おいおい…扉もでっかくなってるぞ…。」
「こんな事するのって、まさか…」
とそんな事をみんなが考えていると、
ゴゴゴゴゴゴ…と音が聞こえてきました。
「きゃーー七梨先輩たすけてー☆」(ぎゅっ)
「わー愛原そんな事してる場合じゃないってあれ、あれーー!」
太助くんの指差す方向の遠くから、ゴロゴロゴロと何かが転がってきます。
「巨大なサッカーボールだ…」
「わー、おっきい」
「いいからみんな逃げろーーー!」
どどどどどど…
巨大なボールから必死で逃げ出す太助くん、シャオちゃん、たかしくん、僕、花織ちゃん、山野辺さん。
「あっ!あれ使えないか?」山野辺さんに声に、みんなが振り向きました。
そこにあったのは巨大な定規。これでサッカーボールを止められる…かも。
「くっ、重いな、この定規…。」みんなで持ち上げて、なんとか正面に置きました。
「さぁ、デカブツのサッカーボールめ!どこからでもかかってこーい!!」
「相手するのはお前じゃなくて定規だろ…」
そんな会話がされてるとはつゆ知らず、サッカーボールはこっちに向かってごろ゛ろと転がってきます。
どすっ
大きな定規の先っぽに、サッカーボールが突き刺さりました。
「やったぁ!」愛原さんが喜んだのも束の間、
ばぁん!!!!!
定規に突き刺さったサッカーボールが、大きな音を立てて破裂しました。
「……………耳が…痛い」
「……きゅうっ」(ばたん)
(…くわーん、くわーん…くわーん…)
「び、びっくりしたー……」
大きな音で、耳が、ぼわ〜んとしてしまいました。
するとそんな僕達に響いてくる声が…
「少しは、やるようだな。だがまだこの程度ではないぞ」
どこからか、学校中から響き渡る声がしてきます。
「くっ、キリュウか…。よーし、今回の試練、受けて立つぞ!!」
「太助様、がんばって下さいね」(にこにこ)
「試練もいいけどさ…ゆーれいは…?」
「幽霊ねぇ…正体見たり枯れ尾花ってとこなんじゃないか?」
みんなのそれぞれの思いの中、学校探険が始まりました。