飛田が初めに惚れ込んだのは、彼女の闘いだった。  
場所は人気のない裏通り、状況は女一に対し男数人。しかも男は全員何かしら武器を持っていた。  
たまたまその通りに入った飛田が、助けに入ろうと駆け寄ったのも無理のない状況だった。だが、その必要は皆無だった。  
女は表情一つ変えず、突き出されたナイフを紙一重で避け、手刀と膝で手首を躊躇なくへし折る。もう片腕は肘で後ろの相手の鳩尾を強打する。  
襲ってくる相手を紙一重で避け、無駄のない動きで確実に相手を仕留めていく。その動きはしなやかで、見事としか言い様のない闘いだった。  
その見事さに、飛田が彼女の技の流儀を尋ねたのが二人の出会いである。  
それからと言うもの、飛田はジムに彼女…橘梓を招いてはその技を研かせる為に仲間や自分と闘わせていた。  
やがて、飛田の目は梓の技から梓自身へと移り、はっきりとした恋愛感情を抱くまでになっていった。  
幸いなことに梓も飛田のことを想ってくれていたので、二人が恋仲になるまでにそう時間はかからなかった。ただ、問題はその後にあった。  
 
梓は色恋に関してとても鈍感だったのだ。  
イイ雰囲気に飛田が持ち込んでも、それに梓は気付かない。  
初めて部屋に連れてきた時もキスまではしたが、押し倒す寸前でくーくー可愛い寝息を立て、その気だった飛田の出鼻を見事に挫いたのだ。  
「まぁ、俺のことは好いてくれてるんだしなぁ…。」  
団体の仲間との前では厳しく、ストイックな顔しかしない梓だが、飛田と二人きりの時には、幼く見えるあどけない笑みや、リラックスした表情を見せる。彼女のそんな姿は、飛田にとっては大事な宝物だ。  
現に今も、飛田の背にもたれかかってうとうと居眠りをしている。  
梓は、美女と言うよりはりりしいといった方がいい顔立ちで、その体は鍛え上げられたしなやかな筋肉で作り上げられている。  
柔らかさが少々足りないその体が、梓を実年齢より一、二歳幼く見せていた。梓は二十歳を既に過ぎていたが、それ以前に飛田と梓の年齢差は片手では足りない。  
梓の鈍さは経験のなさが原因だと悩みつつも、飛田は梓を愛しげに見つめるのだった。  
 
「…へ?」  
「だから、梓に昔男がいなかったかって聞いてるんだよ。」  
数日後、飛田は梓の部屋を訪れていた。  
梓は外出中で、居たのは同居人兼護衛兼親友という白木麗しかいなかったが、飛田にとっては好都合だった。  
「男ですか…あたしの知る限りでは居ませんね。っつうか、居ません。」  
「…その、根拠は?」  
「あたしは小さい頃からずっと梓と一緒でしたし、護身術の訓練も一緒に受けてました。口説いてきた馬鹿は梓がのしてましたし、見合い相手は大抵ボコってましたから。」  
「…おい、ってことは………。」  
すらすらと言う麗に飛田は苦笑で顔を引きつらせた。飛田の頭の中である結論が弾き出される。  
「梓って……………やっぱり処女?」  
「だと思いますが。どっちにしろその確率は非常に高いですね。…なんなら、聞いてみますか?もうじき、帰ってくる頃だと思いますし。」  
片手に泡立て器、片手にボウルを持ったまま振り返った麗は目線をドアに向ける。と、その時。  
「ただいま。」  
梓が絶妙のタイミングで帰ってきた。  
「お帰り。…噂をすれば、影ね。」  
「私の、噂?」  
首を傾げて尋ねる梓に麗は、  
「中身は飛田さんが教えてくれるって。だから、飛田さんのとこに行く準備しな。」  
 
「うん!」  
麗の言葉に梓は満面の笑みで頷くと、リビングから自室へと直行した。  
「あそこまで嬉しそうに笑う…いえ、笑うこと自体、よその男の人の前じゃね、なかったんですよ。」  
梓が部屋に入ったのを確認して麗が言う。  
「……何か、友達っていうより保護者の言う台詞だな。確か、同い年だろ?」  
「老けてるって言いたいんですか?…それよりも、梓が来たらちゃんと帰って下さいよ。ホテルとか行かないで……ね。」  
笑顔ながら迫力を感じる念の押され方に飛田もさすがに少したじろぐ。  
「わかってる。…梓の鈍さは十分承知してるから、…何とかやるよ。少しずつ……馴らして、教えてけば、いいんだろ?」  
「ま、そんな感じで…お願いしますね。妙なトラウマ残ったりしたら、あたしも辛いですから。」  
「…何の事?」  
と、出かける支度を終えた梓がひょいと顔を出した。「「何でもない」よ。」  
驚きつつも平然とした風に返事する二人。  
「用意できたんだな。じゃ、行くか?」  
立ち上がる飛田に梓は  
「はい!」  
と元気良く返事する。「明日明後日の飯当番みんなあたしがやるから、ゆっくりしてきな、梓。」  
「え…いいの?」  
戸惑う梓に麗は頷くと、  
「いいの。だ・か・ら、さっさと行きなって。」  
と言い、二人を送り出した。  
 
「飛田さん。麗と、何の話してたんですか?」  
飛田の部屋に着いた梓は、早速飛田に「噂」について尋ねた。  
だが、「噂」は内容がアレな上、まさか本人に面と向かって言えるような話ではない。飛田の目が思わず泳ぐ。  
「どうしたんですか?…そんなに、私に聞かれたくない話、だったんですか?」  
飛田の傍らに座り、飛田を見上げながら梓が困った様な顔をする。  
「…い、いや…。」  
角度によっては今にも泣きだしそうに見える梓の視線に、飛田はだらりと冷や汗を流す。  
「じゃ、教えて下さい。」  
真剣な口調の梓。内容に思い当たる節が全くないのだろう。飛田は身を屈め、梓と視線をあわせて囁いた。  
「話の中身は口にあまり出来ない奴だから…実地で説明するんでいいか?」  
「いいですけど…?」  
きょとん、と書き文字がつきそうな顔で飛田を見つめ返す梓。その顔は幼く見えて、これからしようとすることに罪悪感さえ覚えてしまいそうになる。  
だが、飛田は躊躇せずに梓を胸に抱き寄せた。  
「…飛田さん?」  
「…梓、…お前を…」  
ダキタイ。  
唇だけが動く飛田の囁きに、梓は戸惑いを隠せずに飛田を見上げる。  
「えと、それは…抱き締める方…ですよね?」  
「違う。」  
飛田はきっぱり否定すると、軽く梓の額にキスをした。  
 
額に感じた飛田の唇の感触に梓の胸がとくん、となる。  
「…そうされるのは、嫌か?」  
「…えっ、と…。飛田さんのことは好きですが……その、心の、準備が…。」  
どきまぎしながら答える梓。慌てふためく姿が可愛らしくて、飛田は思わず微笑んでしまう。  
「…落ち着け梓。」  
「え、あ、はい。」  
裏返った梓の声に飛田は思わず盛大に吹き出してしまった。堪え切れずに笑う飛田につられて、梓も思わず笑ってしまう。  
そうやって暫らく笑いあった後、飛田は宥めるような優しい口調で話しだした。  
「経験ゼロなのは聞いたから、無理矢理突っ込むとか無茶な真似はしない。梓。……優しくしきれないかもしれないが…いいか?」  
暫しの間。やがて梓の唇がゆっくり動きだす。  
「……はい。」  
頷いた梓は、少し体を起こすと、初めて自分から唇を重ねた。  
触れるだけの拙いキス。しばらくして梓が唇を離すと、今度は飛田が深く唇を重ねてきた。  
きつく吸い上げ、わずかに開いた唇の隙間から梓の口腔に舌を侵入させる。  
「…ん、…ピチャ…ふ……。」  
時折、梓の舌を絡め取って吸い上げながら、快感のポイントを探していく。  
飛田の腕の中で梓は、目元を赤く染めて、飛田から与えられる快感にただ酔うしかなかった。  
 
「……ふぅっ。」  
しばらくして唇を離した飛田は、次に梓の首筋へ顔を埋めた。  
梓はキスだけでぐったりしており、飛田の動きを目で追うことしか出来ない。  
ちゅ…。  
「ぁ。」  
額にされたより生々しく感じる熱い感触。舌先でなぞられる度、梓はきつく目を瞑ってピクリと反応する。  
「…力を抜きな…。」  
強ばる梓に優しく囁きながら、飛田は梓の服を脱がせていった。  
急かないように留意しながら、一枚ずつ丁寧に脱がせていく。先に上半身を下着のみにすると、見慣れた腕が露になった。  
タンクトップにスパッツ姿というのが、飛田のところでトレーニングしている時の梓の服装なので、似たような姿は見慣れている。  
しかし、いつもと違った目で見るその腕は、筋肉のつき方さえ艶めかしく感じた。  
「…飛田……さ…ん?」  
動きを止めた飛田に、梓が声をかける。  
「…あぁ。…綺麗な腕だなぁって、つい見とれてた。」  
飛田はタンクトップの裾から手を侵入させると、梓の肌に直に触れた。  
そのまま手を梓の背中に持っていき、ブラジャーのホックに手を掛ける。  
すると、今までなすがままだった梓が、いきなり飛田の手をタンクトップの上から押さえてしまった。  
「…どうした?」  
「…床に押し倒されるのは…。」  
 
梓の言葉に、飛田は状況を確認する。確かに、このままの流れだと梓を床に押し倒す事になる。  
だが、梓はそれを拒否している。優しくすると言ってしまった以上、選択肢は一つだった。  
「…ベッドで…ってことか?」  
飛田の確認に梓が小さく頷く。  
「わかった。……ベッドまで運ぶぞ。」  
態勢を直すと、ひょいと梓を抱き上げる。梓も、飛田の首に両腕を絡めてしっかり掴まる形になる。  
「…余裕、出てきたな。」  
「…ないですよ。心も、体も…何か、変だし…っ。」  
困惑と快感が頭の中で渦を巻く。  
ぞわぞわとした熱さが、腹部の奥にかすかに蠢いて、体の自由を奪い始めている。  
「…飛田さん、……早く…。」  
慣れない感覚から早く解放されたい梓は、体内の妙な熱に耐えながら途切れ途切れに声を出した。そうして飛田の頬に唇を押し当てる。  
荒くなりだした吐息を感じ、体の力を抜いて飛田に完全に身を任せると、梓は静かに目を瞑った。  
早くなっている自分の鼓動。飛田の体温。動き。目を閉じた代わりに色々なものが敏感に伝わる。  
少しして、ゆっくりとベッドに寝かせられたのが分かった梓は、離れた飛田を見ようとゆっくり目を開けた。  
 
梓が見た時、飛田は既に上半身裸になっており、ズボンに手を掛けていたところだった。  
トレーニング中はTシャツを着ているとはいえ、梓は飛田の体を見慣れている。  
けれど、状況が違うというだけで、梓の目にはその肉体が全く違って見えた。  
飛田に手加減なしの真剣勝負をして貰いたいと思ったことは何度もある。  
格闘技の為に鍛え上げられた肉体で、きつい関節技をかけられるのも嫌じゃない。  
実際、飛田とトレーニングしている時に、真剣勝負をねだった事もある。だけど、いつも手加減されてばかりだった。  
飛田が手加減する理由も分からなくはない。それでも、梓は飛田と本気の勝負をしたいといつも思っていた。  
「……………っ。」  
梓は飛田の背中を見ながら、自分でズボンとタンクトップを脱ぎ始めた。  
そしてブラジャーとパンツのみの姿になる。  
脱いだ服を簡単にまとめると、ベッドの下に落とし、待つ態勢になった。目は飛田の鍛え上げられた見事な体を、じっくりと観察している。  
抱き締められる時の腕の優しさ、厚い胸板の温かさ、抱きついた時の満ち足りた気持ち。  
飛田から与えられてきたものが胸を満たし、梓はふわりとした感覚を覚える。  
ぞわぞわとした熱は、不快ではなくなってきていた。  
 
全裸になった飛田は、梓の方を向くと、ベッドに腰を降ろした。そのまま近くに寄って来た梓の肩を抱く。  
「…下着は着けたままなんだな。」  
「…飛田さんの手で、外して貰いたかったから。飛田さんも、外したかったんでしょう?」  
梓は体を動かし、飛田の膝の上に乗ると、そのまま飛田に体を預けた。  
肩に回されていた飛田の手をそっと握り、背を反らせて顔を見上げる。  
「…どうぞ、…お好きな様に。」  
軽く背伸びをした梓は、自分なりに可愛い声で精一杯の誘い文句を口にする。  
そのまま飛田にキスをした梓は、握っていた飛田の手を自分の胸へと押し当てた。飛田の手から手を離し、両腕を降ろす。  
飛田は小さく頷くと、梓の胸から背へ手を移動させ、ブラジャーのホックを外した。  
ブラジャーを脱がせると、梓の乳房がようやく露になる。大きさは標準よりやや大きいぐらいだが、張りは飛田が抱いた女性の中では一番あると思われた。  
片方の乳房を軽く手で覆い、揉んでみると見かけどおりの弾力が伝わってくる。  
「…んっ……。」  
小さく声を上げた梓はキスを深くすると、飛田の口腔におずおずと舌を入れようとした。飛田はそれに答えるように薄く唇を開き、梓の舌を受け入れる。  
 
ぺちゃ…。  
飛田の口腔内を舐め、ぎこちないながら、梓は飛田の舌を絡め取り、舌を絡めあったまま深く唇を重ねた。  
「…っぅ…ふ…ん…。」  
飛田の力強い手で乳房を揉まれ、唇の隙間から堪えきれない吐息を零す。と同時にきつく吸い返され、ぞわぞわとした熱が体を覆っていく。  
梓は未知の感覚に若干の戸惑いを残しつつも、飛田が与えてくれるこの感覚に身を委ねていった。  
「……っはぁ…。」  
とどめとばかり一度きつく吸い上げたところで飛田が唇を離す。  
飛田が離れた梓は、くたっとなってそのまま後ろに倒れそうになってしまう。  
「わっ…!」  
飛田は慌てて梓を抱き留めるとベッドに寝かせた。と同時に梓のパンツを一気に脱がせる。  
飛田が脱いだ服の山に投げた自分の下着を見て、うっすら紅潮した梓の頬が真っ赤に染まる。  
「……!?」  
飛田の目に全裸をさらした梓は、羞恥からか脚を閉じ体を隠そうと身を捩る。  
しかし、覆いかぶさってきた飛田に抱きすくめられて抵抗をやめる。  
「…ぁ……。」  
飛田の体温を直に感じ、心がふわりと浮き上がる。熱が浮遊感と一体になり、梓は恍惚とした笑みを浮かべた。  
肌に飛田の唇が触れる度、熱は熱さを増し、梓の心を満たしていく。  
「……飛田、さ…ぁ…。」  
 
ぞくり。  
艶めいた甘い声が縋りつく様に飛田の耳に残る。  
「…何か…っ、……凄い……疼く…。」  
縋る声は尚も甘く飛田に絡み付いていく。  
「…ん…わかった……。」  
首筋や鎖骨に唇を落としていた飛田は、小さく頷くと堅くなった梓の乳首を口に含んだ。  
軽く舌先で舐めるだけで梓がぴくっと体を反応させる。  
「…ふぁ…っ…あ…ぁ…。」  
胸にある飛田の頭を抱き締めるように梓が腕を回す。  
飛田は乳輪全体を濡らすように梓の胸を舐めていく。乳房を舐めながら飛田は、片手をそっと梓の股間へとのばした。  
秘裂からはわずかに愛液が滲んでいるが、濡れ具合が十分ではない。  
飛田はまだ閉じかけの秘裂をゆっくりなぞると、クリトリスを探り、指先で弄り始めた。  
「っ!…ぁ、なっ……これ……ぇっ、あ…。」  
飛田の下で梓が体をびくつかせて、急に強くなった刺激についてこられずに悶えている。  
飛田がぐりぐりと強く刺激すると、梓は背を反らせ、腰を何度も跳ねさせた。  
「…やぁっ…あ!……ひ、…飛田…っ…さぁ…ん…あ…は、…あぁ!…変に、……なるっ!!」  
飛田の頭を抱いたまま身を捩らせると、掴んでいた髪がプツと小さい音を立てて千切れる。  
飛田は一旦愛撫を止めると、梓の様子を見ようと顔を上げた。  
 
肌は快楽に紅潮し、いつもは鋭い光を宿す瞳は、涙で潤みきっていた。喘ぎ過ぎたせいか唇は少し乾き気味だったが、端からは涎が少し零れている。  
はふはふとせわしなく息をしていた梓は、顔を上げた飛田の頭から腕を離し、飛田と見つめあった。  
「……飛田、……さん……?」  
「…変に、なるの…恐いか…?」  
飛田が静かに問う。しかし梓は首を横に振った。  
「……止めないで、…下さい…止められると、…余計…疼いて…変に、…なります…。」  
声を出す度に、疼きが体を侵食する。梓は腕を伸ばすと、飛田の肩を掴んで言った。  
「…続けて、……下さい。」  
梓は飛田の首に腕を回し直すと、心持ち脚を広げて飛田の動きを待った。巻き付く腕がかすかに震える。  
「…あ…っう…んっ………!」  
潤ってきた秘裂を飛田の太い指で撫でられると、ぬちゃりと生々しい水音が響く。指先で擦ると、梓の腰がびくびくと痙攣し、更に愛液が秘裂から滲み出る。  
「…んぅっ……うっ……、ぁあ…あ…。」  
甘い息を吐きながら、梓が腕に力をいれて飛田の顔を引き寄せる。  
視線があい、一瞬動きが止まるが、それもわずかなことで。  
自然に目を閉じた二人は唇を深く重ね、再び行為へと没頭していった。  
 
ぴちゃ、ぬちゅ、ぺちゃ、にちゅ…。  
舌の絡み合う音と秘裂から溢れる愛液と肉の擦れる音が交じりあい、区別がつかなくなりかけた頃、飛田は指先を入り口に軽くあてがってみた。  
愛液で濡れたそこはわずかにひくついており、指一本ぐらいなら抵抗なく受け入れられそうになっていた。  
ちゅぷっ。  
「…!…んぅ…。」  
ゆっくりと差し入れられた指に、梓が眉を寄せる。やがて根元まで飛田が指を入れると、狭い膣を解すように中を掻き回しだした。  
「……ぅう…ぁ…んぅ……。」  
唇の隙間から零れるのは、梓の切なげな吐息。飛田が唇を離すと、梓は飛田の首筋に顔を埋めた。  
目の前に見えた龍破の傷らしき傷痕に頬を寄せ、飛田の匂いに目を細める。  
「んぅ…ぁあ…あ…はぁ…っあ…。」  
中で指が動くのを感じ、切なげな喘ぎを零す梓。にちゅにちゅと飛田が膣を掻き回す音がはっきり耳に響き、体は無意識に指を締め付ける。  
「…はぁっ、…あ…っ…ああん…あっ……!!」  
「…っ、…ここか…?」  
飛田の指が内壁の一部を撫でた瞬間、梓の体に強烈すぎる快感が走る。  
すると、飛田の指の動きが急に変わった。中を掻き回しつつも、指先はその場所を擦り続ける。その動きに、梓は一気に快感の高みへと追い上げらていった。  
 
「…っ、…ぁあ…あっ!……ぁあ…ああん…んあ…ああああぁっ……!!!」  
頭の中が真っ白になり、快感に四肢が堅く強ばっていく。  
訳もわからず梓はきつく抱きつき、切羽詰まった嬌声を上げるしかなかった。  
「…ぁあ…あ…っ……。」  
自分の下で絶頂へと昇りつめる梓の体を、飛田は優しく撫でた。指の動きを加減して梓をうまく高みへと昇らせていく。  
「……はぁ、はぁっ、あぁっ、あぁ…。」  
絶頂を越え、ゆっくりと弛緩していく梓の体。その肌にはびっしりと汗が浮いていた。  
飛田は一旦中から指を抜いて、梓が落ち着くのを待つ。達した直後の梓の体は敏感になり、触れ合う飛田の肌にさえ感じてしまう。  
初めての絶頂に梓は、ぐったりとして荒い息を吐くしかできなかった。  
「大丈夫、か?」  
「……とりあえ…ず……。」  
飛田の声にきつく瞑った目を開き、飛田を見上げる梓。快感からくる涙で潤んだ目には余韻の色が滲み、初々しい色香に満ちている。  
その艶めかしい様子に飛田は、魅入られたかのように梓の頬に口付け、零れた涙を舐め取った。  
「…っ…ぅん…。」  
頬に感じる飛田の唇にさえ感じてしまい、小さく反応する梓。恥ずかしさに思わず横を向く。  
だが、体は飛田を求めて再び疼きだしていた。  
 
「…飛田、…ぁ…さ、ぁん…続き…。」  
「…ん…。」  
ぬち、…にゅちゅっ。  
「…っ!………んぅっ…!」  
飛田の指を二本挿入され、梓は辛そうに顔をしかめる。だが、飛田が指を動かし始めると、梓の体は強い快感に支配されていった。  
にゅちゅっ、ぬちゅ、にゅちゅっ、ぬちゅ、にゅちゅっ……。  
「はぁ、あぁ……あ、ん……ぅあ、あっ、んぅ…。」  
先程までの急速に追い上げられていくのとは違う、丁寧な前戯。時折奥の方を抉られると、それだけで達しそうになる。梓は達きそうになるのを堪え、蕩けた喘ぎを零し続けた。  
飛田はその甘い吐息が耳に入るたび、理性をかき消されかける。  
闘いの場ではストイック、二人きりの時はあどけない顔を見せる梓が、艶めかしい喘ぎを上げて自分の下で官能的な様を見せている。  
その姿に飛田は激しい情欲と言い様のない愛しさをかきたてられた。  
今すぐ己を刻み付けたい衝動に耐えながら、飛田は梓の肌にキスマークをつけていく。  
「…、ぁあ、っ……はぁ、……っ、あ……んぅっ…!」  
顔は梓の首筋に埋めたまま、飛田は枕元の周辺に空いた手を伸ばした。  
すかっ。  
手は見事に空を切る。  
「………………あれ?」  
手応えがないのに気付いた飛田は、思わず顔を上げて確認した。  
 
「……んぅ……飛田、…さん?」  
飛田の唇が離れたのに気付いた梓は、焦点が合わない目で飛田の顔を見た。  
飛田は間の抜けた顔をして枕元を見つめている。  
「…どうしました?」  
指を止められた下半身は快楽を欲して疼きだす。  
梓の声にやっと我に返った飛田は苦笑で顔を引きつらせて答えた。  
「……コンドーム、切らしてた。」  
前の彼女…いや、何回か一回限りもあったし…梓と知り合ってからは部屋で女抱いてないし…。  
考えを声に出さないように気をつけながら、焦った飛田は自分のドジを心から悔いていた。  
「悪い、…俺バカだ…。…ごめん。」  
「……いい、ですよ。無くても。」  
落ち込んだ飛田を救ったのは、梓の一言だった。  
「…え゛…。」  
「…中途半端で…放り出されてる方が、…きついですから……。」  
疼く体を抑えるように自らを抱き締め、微笑む梓。そして、飛田の広い背中に腕を回して抱きつき、こう囁いた。  
「……もしもの時も、責任とって…くれますよね?」  
「……、…あぁ。」  
囁いた梓にしっかり頷いた飛田は、前戯を再開した。飛田の指の動きに、梓の体は敏感な反応を示す。  
「…あぁ、ああ…っ…あ、ああ、あ…。」  
梓の肉襞は指をきつく締め付け、秘裂は愛液を溢れさせる。梓の体は快楽に馴染んでいき、うっとりとした顔で飛田を見上げた。  
 
ちゅぷり。  
梓の眼差しに飛田は小さく頷き、愛液で潤った秘裂から指が抜かれた。  
「……梓、…力抜いてくれ。」  
体を起こした飛田は、梓の脚を両脇に抱える。  
そして、ぐしょぐしょに濡れた梓の秘裂に、猛ったペニスをあてがった。  
飛田の体躯に見合った大きなそれを、少しずつ、腰を小刻みに動かして挿入していく。  
「…っ、…うぅ…ん、…うぅっ……うわっ……。」  
少しずつ肉が押し広げられていく感覚に、梓は辛そうに目を瞑り、歯を食い縛って痛みに耐えていく。  
ぷつっ。  
聞こえるか聞こえないくらいな音がした瞬間、梓の内股に鮮血の飛沫が飛んだ。  
「…、っ!つっ……。」  
無意識に腰が動き、飛田のペニスから逃げる様に体が無意識にずり上がる。  
しかし、飛田に脚を抱えられている状態ではそれもままならず、ついには奥まで飛田のペニスを受け入れた。  
「ん…うぅ、……痛…っ…。」  
梓がうっすら目を開けると、飛田が体を倒して梓を抱き締める。その表情は何かに耐えている様で、梓にはその顔が辛そうに見えた。  
「…梓…。締め…。」  
飛田が全てを言い終わる前に、梓は飛田にきつく抱きつき、大きく息を吐く。  
それだけで締め付けと痛みがだいぶ和らいだのか、飛田の顔にも若干の余裕らしきものが見えてきた。  
「動いて…いいか?」  
 
「………っ。」  
飛田の囁きが梓の体を熱くする。いつもと全く違って聞こえる飛田の声に、梓は黙って頷くしかなかった。  
梓が頷いたのと同時に、飛田がゆっくりと腰を動かし始めた。  
ずちゅ、ずちゅ、ずちゅっ…。  
「…っ、…ぁ、あっ、…あぁ、あぁ…っああ……。」  
中で飛田が動きだすと、梓の下半身に疼痛が広がる。じんじんとしたその痛みは確かに痛かったが、同時に感じる疼きがそれを緩和させる様に広がった。  
梓はがっちり飛田にしがみつき、疼痛がもたらす不思議な感覚に声を上げて耐える。  
「…っ、…ああ…ああぁ……。…ああ、あああああぁ…。」  
「……梓、気持ちいいか?」  
梓の痛みを堪える声に、快楽の甘さが交じったのを感じてきた飛田は、腰を動かしながら尋ねた。  
受け入れたとはいえ、梓の体に負担がかかり過ぎているのではないかと気掛かりだったのだ。  
「…そんな…聞かない…で…あぁ……。」  
飛田の問いに頬を赤らめる梓。その後の吐息の甘さに、飛田はついにんまり笑みを浮かべてしまう。  
「……そうだな。…その声で…分かったよ。」  
「……飛田…さん…ぅ…。」  
文句がありそうな顔で自分を見る梓を大人しくさせようと、飛田は腰の動きを激しくした。  
「!やっ、…まっ…ああん、…ぁ…。」  
 
飛田の動きが激しくなったと同時に、梓の感じていた疼痛が快感へと変化する。  
ぼんやりとした感覚が一気に鋭くなり、梓は嬌声を上げて腕の力を強くした。  
「あ、…っああ、ぁん、…はぁ、…あぁ…ああ…んぅ……。」  
指先に無意識な力が籠もり、飛田の背中に赤い痣を作る。  
「……っ、…うぅ…。」  
快楽に目覚めた梓の中はとろけきっていた。ぎちぎちに締め付けられ、飛田は達しそうになるのを必死に堪える。  
「…あ、…ぁあ…んぅ…はぁ…いぃ…。」  
秘裂から血の混じった愛液が溢れるのを感じ、自分を貫く飛田の熱さに、梓は歓喜の笑みさえ見せ始めていた。  
「…っ、…凄……いぃ…あぁ…あっ……飛田、…さ…ん…。」  
喘ぎ過ぎて擦れた声で、梓は必死に飛田の名を呼ぶ。  
「…気持ち…いぃ……幸せ…です…。」  
高ぶった感情からくる言葉。そこには何一つのごまかしや偽りもない。  
零れた言葉は、そのまま飛田の胸に染み渡った。  
「…俺も。」  
格闘家として、恋人として。大事に育ててきた梓が、自分の腕の中で「女」へと変化していく。大切に磨き上げてきた掌中の珠が、さらに輝きを増していくのを飛田は強く感じていた。  
「…っ!…う…あ…あず…さ…。」  
 
「…っ!…あぁん…はぁ、あ…飛田、さん……!…」  
梓を追い上げる突き上げに、梓はがっちり飛田の背中にしがみつき、自然と腰を揺らしだす。  
鋭い快感が子宮から全体に広がっていくのを感じ、梓は体を強ばらせた。  
「…っ、…あっ…あ、あぁ…ひ、…飛田さぁんっ!!。」  
達した梓は体を硬直させ、秘裂から大量に愛液を溢れさせながら、きつく飛田のペニスを締め上げる。  
「………ぅ!!…っ、ああああぁっ…!。」  
飛田のペニスが熱い白濁を吐き出すと同時に、梓は意識を手放した。  
 
 
初めての夜から一週間程たったある日。飛田は部屋で悩んでいた。  
梓がなぜか、その翌日から飛田の前に姿を見せなくなったのだ。  
「…まさか……。」  
妊娠。  
飛田の頭にその二文字がくっきり浮かび上がる。いつ頃からそう言う兆候が現われるのか、飛田は全く分からなかった。  
が、そうなったのなら、自分はきちんと責任を取らなければならない。飛田が覚悟を決めて電話をかけようとしたその時だった。  
部屋の電話の着信音が鳴った。  
「はい、飛田です。」  
『あ、飛田さん。白木です。』  
「……どうも。ちょうど今、かけようと思ってたんだ。あの、梓なんだが…。」  
『ああ、梓なら生理痛でねこんでますよ?』  
「え?!」  
『飛田さんちから帰ってきて、数日して生理きましてね。梓貧血で唸ってます。』  
「……そうか、ならいいんだ。」  
『ということで。飛田さん、今度は忘れないでくださいね?』  
「ああ。」  
何で電話をかけようとしていたのか麗にはしっかり分かっていたようだ。苦笑する飛田。  
『梓ったら、具合悪いのに動こうとするんですよ。本番が近いからって…。』  
「何の?神武館の大会か?」  
『よさこいソーランです。………梓!』  
受話器の向こうで物音がする。少しして、電話口の人間が変わった。  
 
『飛田さん…。』  
「梓か?」  
『はい。…ご心配かけました。』  
受話器の向こうから聞こえてきたのは、普段どおりの梓の声。飛田の苦笑が優しい笑みに変わる。  
「いや、いいんだ。俺が悪いようなものだから。…で、よさこいって聞いたんだが…四国か?」  
『札幌の方です。やっと衣裳が出来たから、通しやりたいのに、麗が…。』  
『貧血で這ってるくせに何言ってんの。まだダメだっ…。』  
『飛田さん、六月の十日頃って予定は?』  
受話器の取り合いは梓が勝ったらしい。飛田は頭の中で予定を思い起こしてみた。  
「あ、……休みはないな。」  
『そうですか…』  
淋しそうな梓の声に飛田の胸がちくりと痛む。  
「………別のイベントに出る時は教えてくれ。見に行くから。」  
『はい!…貧血治ったら、行きますんで。それじゃ、失礼します。』  
電話が切れると同時に、飛田も受話器を置いた。思わず安堵の溜め息を洩らす。  
「梓…。」  
声。表情。体。心。闘い。自分だけが知る梓の全てが愛しく思え、また、他の男に取られたくないという気持ちが強く沸き上がる。  
 梓は飛田の宝だった。  
 
 

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