「はぁ…。」
札幌の街角を溜息混じりに歩く一人の女性。彼女の名は鳩羽藍。
現在東京在住、出身はここ札幌。彼女の溜息の元は、これから向かう先にあった。
「大志のバカ、ちっとはマシな体になってりゃいいんだけどな。」
彼女が今向かっているのは、神武館札幌支部。藍は現在本部に通っているが、元は札幌支部の門下生であった。
藍は神武館四鬼竜の一人、増畑大志と幼なじみなのである。
「デブってたら魔女の箒百回の刑………それより、『お預け』が効くか。どうせ一度は魔女の箒かますんだし。」
藍は帰省する度、増畑に肉体改造を通告している。その甲斐あってか、増畑の空手はただのパワー任せの空手から少しずつ変化していた。
だが、藍が肉体改造を通告しているのは、全く別の理由からだった。
150Kgもある野郎に押し倒されてちゃ身が保たない。
増畑は藍にベタ惚れだが、藍は増畑を親友以上恋人未満の存在として扱っている。
二人の間には肉体関係があるが、それはあくまでスキンシップの延長線上で、恋愛感情のないものとして、藍は考えていた。
「いないことを祈るしかないわね。」
藍はくたびれた感じの顔で神武館の入り口をくぐっていった。
「藍〜♪」
道場に一歩足を踏み入れた瞬間、増畑を知る人間なら誰でもひいてしまいそうな猫なで声と同時に、2Mの巨体が藍の方へと向かってきた。
藍は軽く踏み込むと、無防備な増畑の鳩尾に蹴りを入れた。
そのまま三角飛びの要領で壁を蹴って今度は胸に膝を叩き込む。その膝を真直ぐ上にあげ、止めに顔面を蹴りあげた。
ダン、ガッ、ダン、ゲシッ。
壁と増畑の間を三角飛びしながら増畑を攻撃し、最後にバク宙で着地する。
これが藍の対増畑用必殺技、「魔女の箒」である。
ぐらり。どーんっ!
「藍、ひどい…。」
「学習しろ、馬鹿。」
見事に尻餅をついた増畑にきっぱり言い放った藍は、増畑の足を踏み付け、睨み付けた。
「素足なんだから、そんなに痛くないでしょ。で、大志。今の体重は?」
唇は笑みを浮かべているが、眼差しは氷の様に冷ややか。嘘をつこうものなら、どんなお仕置きが待っているか分からない。増畑は顔を引きつらせた。
「130…。」
「上出来じゃない。」
前回言い渡した数字より良い成果をあげた増畑に、藍がにっこりと微笑む。そこでようやく増畑は安堵した。
「でも、それをキープ出来なきゃ意味ないわよ。」
足を退かしながら藍が言う。
「分かってる。で、藍。何でこんな時期に帰ってきたんだ?」
「よさこいソーランの下見。帰るんなら、会場の大体の幅とか見てきてって頼まれた。」
「よさこいソーランって、六月のだろ?藍、出るのか?」
「合同チームだけどね。…差し入れ、四十人分忘れないように。」
「飲み物で良いか?」
「十分。数こなすから酒はいらない。」
親しげな会話を交わす二人を遠巻きに見る門下生。藍を知る者はいつものことと見ていたが、藍を知らない門下生は困惑した表情で二人のやりとりを見ている。
「誰なんすか、あの人。」
「あー、増畑のダチ。昔はここの門下生で、女子最強だったんだ。何せ増畑に勝てたのは彼女だけだったし。」
「勝ったぁ?!」
年配の師範の言葉に、若い門下生の視線が藍に集中する。その視線に藍は好戦的な表情で返した。
「大志、荷物頼むね。」
持っていた鞄と薄手のジャケットを増畑に放り投げた藍は、構えて言い放った。
「遊んであげるよ、坊や達。」
黒帯初段二十人、所要時間一時間。
軽く汗をかいたと言う風な顔で談話室に来た藍は、先に来ていた支部長と増畑の二人と向かい合う席に腰を下ろした。
「支部長。お久しぶりです。」
「相変わらず元気だな。鳩羽。」
「タフじゃないとやってけない仕事してますんで。」
小さく笑みを零す藍。
「で、いずれは俺のよ…」
がん。
増畑の無駄口を拳で黙らせる藍に、支部長が盛大に吹き出した。
藍は東京の葬儀屋の社員。増畑の実家は葬儀屋。藍の実家はその隣の花屋。
増畑は藍に嫁に来てほしい。藍はその気はおそらくまだない。
「お前ら、相変わらずだなぁ。」
「こいつが相変わらず馬鹿なだけです。」
「藍が素直じゃないだけっす。何せ夜…。」
こり。
増畑の喉仏を藍が掴む。
「大志。鍛えられない急所、わかるよね?」非常ににやついている藍の嫌な笑顔に増畑は半泣きで首を縦に振った。
その二人のやりとりを戸の隙間から覗く門下生達は、藍の凄さを改めて思い知った。
「増畑さんをびびらせるなんて凄ぇ…。」
「女にしちゃあでかいけど、精々160ぐらいだろ?」
「さすが鳩羽。札幌支部の良心。」
「でもなんか、美女と野獣っぽいすよね。」
「あいつは美女じゃなくて魔女だよ。俺はそう思ってるがな。」
「…聞こえてるよ。」
わざと少しだけ開けておいた隙間から、覗く面々に向かって藍が一言。
妙にドスの効いた声に、覗いていた門下生が脱兎のごとく逃げ出す。その様子に藍は呆れた笑みを浮かべた。
「…すいません支部長、私、そろそろ帰ります。」「あぁ。居るうちにまた顔出してくれよ。」
「…押忍。」
藍は一礼すると、談話室を後にした。
その日の深夜。
夜間部に出た後で帰宅した増畑は、部屋で爆睡していた。
その眠りはあまりに深く、両親が急な仕事で出たのにも気付かない程である。
と、そこへ隣家の二階の屋根から増畑の部屋のベランダに跳び移る人影。その物音に全く気付かない増畑。
人影は手慣れた様子で鍵のかからない窓を開けると、静かに室内へ侵入していく。
「相変わらず凄い眠りっ振りだこと。」
布団をはぎ取り、増畑を上半身裸にし、頑丈な鎖つきの手錠で両腕を頭の上でまとめてベッドに固定する。それでも起きない増畑に人影は呆れた顔になる。
「ま、これくらい鈍いなら遊び甲斐もあるか。」
差し込む月光を浴びながら、人影…藍は羽織っていたローブを脱ぎ捨てる。
コルセットとブラで別れる、黒いエナメルのビスチェ。重要な部分を隠すだけの露出度の高い革のパンティー。ビスチェと同じ素材のガーターベルトをパンティーの下に着け、革製のストッキングをそれで固定していた。
藍は髪を結う紐を外す。すると、毛先に癖のついた髪が首筋を覆った。ローブを拾い上げ、ポケットに入れていたコンドームの箱を取り出す。
「さぁて、サバトの始まりと参りましょうか。」
そう呟く藍の表情は冷たくも妖艶だった。
「ん…。」
増畑の上に乗った藍は、首筋に顔を埋めた。そこからつつ…と、ゆっくり唇で増畑の肌をなぞる。
筋肉の割れ目を舌で軽くなぞり腹部までいったところで、藍は増畑の腹に顔を寄せた。
「生きた人肌って…やっぱ、いいなぁ。」
手は自然に脇腹や胸の愛撫に動き、指先で増畑の乳首をつまんだ藍は、それを弄ぶ。
「む…ん?……。」
と、その時。増畑が薄目を開けた。半分まだ寝たような状態の頭では状況が把握できないらしく、藍のやることをぼんやり眺めている。
藍は寝呆けた増畑に小さく笑うと、体をずらし、脇腹を甘噛みした。筋肉に添って見せ付けるように舌で舐め回し、そのまま唇でズボンのゴムの部分を噛む。
そのまま口でズボンを脛まで引き下ろすと、太股に歯を立てて噛み付き歯型を残した。
そこでやっとはっきり目を覚ました増畑は、自分の状況に気付いて声を上げた。
「藍……!」
「いつもの夜這いでしょ?何驚いてるの。」
「これのどこがいつもの…。」
腕を動かした増畑は、自分の手首を拘束しているものに気付いて目を見開いた。
金属の輪の内側に柔らかい毛皮の付いた手錠は、長い鎖の中間がベッドに固定されていて、増畑が力をこめてもびくともしない。
外そうともがく増畑に藍は告げた。
「言っておくけど、大志の力じゃ壊れないからね、それ。ちゃんとテストしたのを貰ってきたんだから。」
「それも…か?」
体を起こした藍のあまりにも煽情的すぎる衣裳に、生唾を飲みつつ尋ねる増畑。
「これはあたしが作って貰った奴。イメージとサイズを伝えたら凄いの作ってくれてさ。手錠は別件の人から分けて貰った。」
藍は艶やかな微笑を返すと増畑の下腹部に腰を下ろした。そのまま手を増畑の胸板に伸ばし、柔らかいタッチで撫で回す。
「っ…な…んっ!」
「…ここは、どう?」
笑みを崩さないまま、藍の指が増畑の乳首を弄ぶ。肌を重ねる度に開発されていった性感帯を攻められ、増畑は思わず反応した。
「……っ!……ぅ…。」
「我慢しなくても、いいのにさ。…大志も口は結構素直じゃないじゃん。」
腰を少し後ろに引くと、もっこりとした感触が藍の尻に触れる。
「体の方が正直だね。大志は。」
藍は増畑の胸に顔を埋め、片方の乳首を口に含んだ。舌で転がしながら時折歯を立てると、増畑の体がびくんと反応する。
「………っ!」
反対側もそのまま指で弄ばれ、増畑は歯を食い縛り、喘ぎ声を上げないよう耐える。しかし、藍の体に触れている増畑の股間は、確実に質量を増していった。
ぺちゃり。
唾液をたっぷり含ませた舌で舐め上げながら顔を上げた藍は、増畑の上から退き、脛の上に座り直した。
中央が大きく膨らんだトランクスを一気に引き下ろすと、半勃ちになった増畑の巨大なペニスが露になる。
藍は、ビスチェの胸元に手を突っ込むと、胸の谷間から短いベルトを取り出した。
「…藍。頼む、それだけは………!」
使われたものは違ったが、よくやられていた行為が頭に浮かび、叫ぶ増畑。
「やだ。」
藍はそれに構わず慣れた手つきで、増畑の巨根の根元を、そのベルトで少し緩めに締め上げた。そして、腰を浮かすと、半端に脱がせていたズボンとトランクスを増畑の足から外す。
藍は体を倒し、増畑の半勃ちの巨根を乳房で挟んだ。胸の谷間からはみ出た部分に息を吹きかけながら、弾力のある乳房で巨根を刺激する。
「…、……!…ぁ…っ…あ、い…。」
唇をすぼめ細く息を吹きかける度、巨根が硬度を増していく。藍が体を上下させ、胸で巨根を擦り上げると、増畑は苦痛と快楽の狭間を漂った。
「っい、…痛っ…う、…あ、…くっ!」
完全に勃起した巨根の根元をベルトが締め付ける。
藍は増畑の上から離れ、ベッドの上に置いたコンドームの箱を取ると、封を切って中から一つ取り出した。
コンドームの袋を破った藍は、先走りを滴らせる増畑の巨根にそれを被せると、増畑の脚をまたいで膝立ちになった。
そして、腰の両脇に手をやると、パンティーに付いている止め金を外した。股間を覆う部分が落ち、藍の秘裂が露になる。
欲望を煽られつつも、それを吐き出すことを止められた増畑は恨めしそうに藍を睨む。
「…藍、…殺す…気…か…。」
「うん。生殺しにね。」
すぐにはイかせないと言う風に囁いた藍は、巨根を秘裂に押し当てるように股を押しつけ、太股で挟むように腰を下ろした。そのまま素股で腰を動かす。
「…ん、…あ…っ…あっ…あ…。」
藍は、片手でクリトリスをいじり、巨根に当たるように秘裂を広げながら、もう片方の手はビスチェの上から胸を強く揉んでいる。
快感で頬を赤らめて喘ぐ様は艶めかしい。が、それも今の増畑にとっては拷問にしかならなかった。
「……ん、っ痛!…あ…う…っ…!」
淫らな藍の姿。
ペニスを刺激する熱く濡れた秘裂。
今すぐ組み敷いて、無茶苦茶に犯してやりたいと言う欲求が頭を支配する。だが、両腕を拘束された今の状況では抱き締めることさえ出来ない。
解放されない欲望が体内を渦巻き、快楽と苦痛が最大限に高まった瞬間、
「…………っ!!」
体を強張らせた増畑は、射精しないままイかせられた。
「…はぁ…あぁ……はあ……。」
虚ろな目で藍を見上げ、荒い息を吐く増畑。
藍はその眼差しに潤んだ眼を向けると、腰の動きを速めた。と同時に、止め金を外し、ビスチェの胸の部分を外す。
張りのある乳房を露にした藍は、直接乳首をいじりながら、愛液を擦り付ける様に、腰を回しだした。
「ぁ…ぁんっ…あ…っあ…はぁ…んぅ……。」
一気に水音の粘り気が増えたような感じになり、煽られた増畑はせめて、動かせる下半身を使おうと、腰を上下に動かした。
「っ!ぁ、……はぁ、あっ…!」
増畑が腰を上下させる度に、クリトリスをきつく擦られた藍が甲高い嬌声を上げ、腰をくねらせる。だが、それは逆効果だった。
「痛!…ぐ…あ…っ!…うわぁっ!!」
腰を動かしたことで秘裂に刺激されたペニスが更に堅く張り詰める。先走りさえ止めてしまい兼ねないきついベルトの締め付けに、増畑は思わず目の端に涙を滲ませた。
「…大志、…出したい……?。」
クリトリスをいじっていた手を増畑の巨根に伸ばした藍は、自分の愛液で濡れたそれの裏筋をそっと撫でた。
「…っ…!」
ざわりとした感覚に息を詰まらせ、増畑は縦に首を振る。
今にも泣きそうな増畑の表情に、藍は薄く笑って頷くと、巨根の根元に手を伸ばした。
かちゃかちゃ。
ゴムが破けたり外れたりしないよう、注意してベルトを外す藍。
ずるりと抜き出したベルトは増畑の体液を吸ってぬめっている。
藍が軽く扱いただけで、巨根はあっさりと白濁を吐き出した。
「…ぅお!…っ…おぉ…。」
吐き出された精液はコンドームをすぐに満たし、溢れた白濁は幹を伝って増畑の股間を濡らす。
藍はコンドームを外してやると、器用に縛ってゴミ箱へと放り投げた。
「…はっ、はあっ…、…藍……。」
「……まだ、駄目。」
新しいコンドームを箱から出しながら、藍は増畑の言葉をすぐに遮る。
「…先に、綺麗にしなきゃでしょ?」
「え?……おぉっ!」
藍の言葉を一瞬理解出来なかった増畑が、藍の次の行動に嬉しそうな顔をする。
藍が体をずらし、増畑の股間に顔を埋め、精液塗れのペニスを舐め始めたのだ。
「…っ、ん……ふっ……。」
根本から先端に向かって、舌を動かし、白濁を舐め取る藍。
舐め清めることだけが目的の為、細かな舌技は使わないが、美味そうに精液を飲み込む姿は淫らで、出したばかりの巨根も、すぐに熱を帯び始める。
「…お前、…キスはさせて、…っ…くんない、けど…口でするのは、…好きだよな…。」
「…ん……。」
増畑の言葉に生返事を返し、藍は熱心に巨根についた精液を舐めていく。巨根に付着した精液が減る度に、増畑の巨根も勢いを取り戻し、堅く勃起していった。
こく。
最後の白濁を飲み込み、巨根を綺麗にした藍は、顔を上げて増畑の顔を見た。
「…生きてるから…だと思う。……」
「はぁ?」
「…今更、だけど…あたし葬儀屋でしょ?…で、あたしはどうしても、…御遺体の湯灌やら…修復とか、やること多いのよ。…で、時々無性に生きた人肌に触れて…精気を貰いたくなる時があってさ…。」
「…で、夜這いに来ると。」
「うん。あんたなら面倒ないし。…彼氏じゃないから、キスはさせないけどね。」
彼氏にしない理由まで聞くと興醒めになってしまうのを分かっている増畑は、わざと話を変えた。
「…で、何で手錠なんか付けたんだ?」
「あんたに完全にリードさせたらこっちの身が持たないから。ま、遊びだと思って割り切ってよ。」
綺麗にした巨根に、新しいコンドームを着けながら、藍はさらりと返した。コンドームを着けた上から再びベルトを着けるのを見た増畑は、不満そうに藍を睨む。
「また、我慢させるのか?」
「文句あるなら、このまま朝までいてもらうよ?…手錠の鍵はあたしが持ってるんだからね。」
「………わかった。」
渋々頷く増畑。藍は勃起した巨根をまたぐように膝立ちになると、二本の指で秘裂を広げ、巨根の先端をあてがう。
「久々なんだから、…入るまで、腰、使わないでよ?」
予め釘を刺した藍は、そのままゆっくり腰を沈めていった。
「っ…、ぅん…ぁ…はぁ…っあ…っ…。」
ゆっくりと腰を降ろし、奥まで受け入れたところで、藍は増畑の腹に手をついた。そのままゆっくりと腰を動かし始める。
「…んぅ…あ…っ…んぁ、…ふぅ…はぁ…ぁ…。」
「…う…ん…ぐぅっ……。」
クリトリスを擦り付けるように腰を上下させる藍の唇からは甘い声が、耐えず藍の肉壺の刺激に快楽と苦痛を与えられている増畑の唇からは呻き声が零れる。
にゅちっ、にゅちゃ、にゅちっ…。
愛液が潤滑剤となり、生々しい肉が擦れ合う水音が響く。
「…んぅ、あぁん…はぁ、…あっ…ん……。」
みっちりと埋まる巨根に藍の内部はうねるように蠢き、藍の顔には自然と快楽に恍惚とした表情が浮かぶ。「…はぁ、ああ…い…ぃ…ぁん…ああ、あ…。」
魔女というより夢魔といった方が正しいその媚態に、増畑の意識が一瞬苦痛から解放された次の瞬間。
「…ぐっ…う…あ…!!」
びくん、と体を仰け反らせた増畑は、藍を深く突き上げると同時にベッドに深く沈み込んだ。喘ぎ声と呻き声を上げ続けた唇の端からは涎が零れ、目は見事に白目を剥いてしまっている。
「…あぁっ……あ、んぅ、ああ!!っ……はぁ…あっ……ちゃあ…。」
きつい突き上げに達した藍は、身動きしない増畑に、やり過ぎたか、と言う顔になる。
「…大志、…生きて、る?」
繋がったまま、増畑の顔をぺちぺちと叩く藍。
すると、わずかに呻き声を上げながら、増畑が藍を見上げた。しかしその顔にいつものふてぶてしさはない。
「…藍、…イかせて…くれ…頼む、から……。」
「ぅん…ちょっと…やり過ぎだった、ね。……………猿みたいに腰振りっぱなし、の奴が言う…台詞じゃ、…ない、…け…ど……。」
突き上げられた際に根元まで巨根を受け入れた藍の体を、増畑は揺らす様に突き上げる。
藍は快感に堪えながら、腰を少し浮かせ、根元を締め付けるベルトを外しにかかった。
「っしょ、…これで…、……っ、…ん、ぁっ!ああ…っ!!」
「ぅ、あっ、……あ……!」
ベルトを外した瞬間、内部で巨根が熱く脈打ち、それと同時に突き上げられ、藍は強い絶頂に達する。と同時に増畑も射精し、心身疲れ切った様に再びベッドに深く沈み込んだ。
「…はぁ、はあぁ…、んああ…。」
体を仰け反らせ、達した時の姿勢のまま息を整える藍。
「…はぁ、はぁ、はぁ…。」
漸く解放され、荒い呼吸を整えないまま、余韻に浸る増畑。
「……とっ…んっ…。」
しばらくして、藍がゆっくりと腰を上げて巨根を抜く。抜けた瞬間、愛液が股間を伝って腿を濡らす。藍は小さく息を吐き、増畑に尋ねた。
「まだ、…いける?」
ベルトを放り投げた藍の問いに、増畑はこう答えた。
「…いける。…いや、…泣かす。そうしないと、俺の気が済まない。」
「上等…。」
増畑の答えに楽しそうに笑った藍は、増畑の脛に腰を降ろした。精液の溜まったコンドームを外すと、それを縛ってゴミ箱へと放る。
「じゃあ、…空打ちなしのガチでいくよ。」
藍は精液塗れの巨根を胸で挟むと、谷間からはみ出た先端をちろちろと舌先でくすぐりだした。たっぷりとついた精液を舐め取りながら、感じるツボを集中攻撃するように舌を使う。
乳房を手で押さえた藍は、扱くように胸を手で上下させた。
「……ぁむ。……んっ…。」
亀頭を口に頬張り、頬を窄めて尿道に残った分を吸い取るように吸い上げると、増畑の内股がびくりと反応を示す。
藍は片手を増畑の内股に伸ばすと、追い打ちをかけるかのように内股を優しく撫でた。
「…っ、…ぐっ……。」
「…っ、…んう……はぁ、…んっ……。」
喘ぎ声を出すまいとこらえる増畑の険しい顔を、ちらりと見た藍は、乳房をしっかり掴むとそれで巨根を揉み扱くよう、きつく擦り上げた。
強いパイズリで、根元についていた白濁が乳房の表面に付着すると、藍は見せ付ける様に舌でそれを舐め取った。
「濃いねぇ…やっぱ、空撃ちさせてから出した奴は…。」
白濁を舐め取りながら、美味そうに啜り上げる藍。その表情自体が情欲をそそる。
「…………っ!」
淫ら、としか言い様がない藍の顔に、増畑は息を飲んだ。
いなくなった直後は知らないが、ここ二三年は自分としか肌を重ねていない筈の藍が、妖艶過ぎる。
呟く声、魔女と言うあだ名の由来ともいえる、わずかに異国の血を引く容貌。美味そうに精液を啜る唇。飲み込む時の喉の滑らかな線。
月に三日帰ってきてれば奇跡、と言うぐらい姿を見るのは稀。性行為に及ぶなど二月に一回あればましな方なぐらい、藍に会うこと自体が少ないからか、欲求のせいでそう見えているのかもしれないが、藍はその存在全てで、増畑を魅了していた。
「んっ…ご馳走様。……元気になったねぇ……。」
ちゅぷっ。精液を思う存分味わい尽くした藍は、堅さを取り戻した巨根にコンドームをつける。そうしてから、再び増畑の股間をまたいで膝立ちになった。
「…っ、…ん…ぅ…!」
少し勢いをつけ、腰を落とす。奥まで受け入れたところで、藍は腰に力をいれ、銜え込んだ巨根を締め付けた。
「…っ、あ…ん、…き、つ…。」
「………どう…?」
淫らな表情のまま、ゆっくりと藍が腰を動かし、体を上下させる。
その度に、とろけた肉襞が吸い付くように巨根に絡み付き、奥へと吸い上げるように蠢く。
「…っ、…うぅ…っ…くっ。」
肉襞の感触に増畑はしばし意識をとろけさせていたが、泣かすと決めた以上、とろけっぱなしではいられない。
増畑は、藍を揺らす様に腰を動かし始めた。
「…ん、…あん!…抉られて…ああ…!」
カリが膣壁を強く刺激し、高い嬌声を上げる藍。しかし、これだけでは済まなかった。
ぎち、ぐちゅ、ぎち、ぐちゅ、ぎち、ぐちゅ…。
子宮口にはまった亀頭が、入り口を広げるかの様に、藍の一番奥を何度も突いてくる。
「っ…あ、効く、っ、きてる、っ、あ、あ…っ!!。」
体の奥を熱くする巨根の突き上げに、藍の腰が自然とくねる。
「…いぃ、……がんがん、…来て、よ…っ!あ、はぁ、っ。」
膝立ちで腰を上下させ、両手できつく自分の乳房を揉む藍。堅くなった乳首を指で捏ね回すたびに、藍の中は収縮を繰り返し、精気を絞るように巨根を締め上げる。
増畑は無意識のうちに、ぷっくり堅くなった乳首に触れようとするが、手錠の音に舌打ちをする。
「…頼むから、…胸、…揉ませろ…。」
「…、ダメ……腰、…っん、……使って、イかせて、みなよ……。」
喘ぎの混じった擦れた声で、なおも言い合いする二人。
そうしながらも、行為が治まることはなく、さらに激しさを増していく。
「…っ、ん、…うっ、…あっ。」
藍が腰を沈める度、増畑は深く突き上げ、きつく締め付ける膣をかき回す。
「あ…っ、んぅ、あぁ…、きてる、ぅっ!あ、っん、はあぁ…!」
その度に藍は嬌声を上げて腰を揺らめかせた。
やがて、強い快感に膝の力は抜け、体を支え切れなくなって、根元まで増畑を受け入れる。
「っ…、ぁっ…いっぱい…つまってる、…あ、んっ、はっ…いぃ、いぃ、よ、ぉっ!」
快楽からくる歓喜の涙で目を潤ませる藍。肌は鮮やかに紅潮し、滲む汗が体を覆うコルセットやガーターベルト、ストッキングを湿らせる。
ゆっくり体を増畑の上に横たわらせた藍は、胸を擦りつけながら腰を回した。指を股間に伸ばし、クリトリスをいじりながら、体を揺らめかせてひたすら快楽を貪る。
「っ!あ、あっ、はぁっ、ん、あ、ぁっ……!」
淫らな嬌声が切羽詰まったものに変わるとともに、藍の内部も激しく蠢いていく。
気を抜けばすぐに達しそうな程の快感に、増畑は歯を食い縛って耐え、藍の腰が跳ねるくらいに激しく小刻みに突き上げた。
「…、っ!ぐっ、あ、ん、うっ、…う、おぉぉっ…!」
「っ、やっ、あ…!…いぃ…っ。」
二人の嬌声は限界が近いことを互いに告げ、動きも更に切羽詰まったものに変わってくる。
体液の混ざった匂いが部屋に籠もり、ぐちゅ、ぬちゅ、ぐちゅ、ぬちゅ、ぐちゅ…と肉の擦れ合う卑猥な水音が二人の聴覚を支配する。
藍は跳ねた腰を増畑の腰に叩きつけるように尻を振り、増畑の巨根は愛液を滴らせる肉壺を貫く。
結合部から大量の愛液が溢れて二人の動きに更に拍車をかけた。
「…ん!ぬっ…う!ぁ、あっ…ぐ、ぅ、ああ…っ!う、おぉ、おおぉっ!」
「や、あっ、いぃ、壊れる、熱い、いぃ、よ、ぉっ!っ…あああああっ!」
同時に達した瞬間、二人の意識は同時に真っ白になり、そのまま意識を手放した。
それから数時間後。目を覚ました増畑は、手錠が外されているのに気付いた。
ベッドの周りを見回すと、手錠は汗と愛液塗れになった衣裳とともに床に置かれている。
隣に目をやると、普通の下着姿の藍が安らかな寝息を立てていた。おそらく、自分が気絶した後で汗を流しにいったのだろう。
さすがに自分を運ぶことは出来なかったらしく、増畑の体は互いの体液でびっしょりと濡れ、股間には愛液と精液の混じった粘ついた液の乾いたものが貼りついている。
「藍………。」
襲うなら今。増畑が思った次の瞬間である。
「起きてるかい?」
ドアの向こうで、増畑の母が声をかけたのだ。次の瞬間。
がばっ!
「はい、起きてます。」
藍が飛び起き、返事をしたのだ。
「おはよう。藍ちゃんの着替え、ここに置いておくから、着替えたら下に来てくれる?」
「はい。わかりました。」
さっきまで寝ていたとは思えないしっかりした声で返事する藍。唖然とする増畑。
「ああ、うちのバカもついでに起こしておいてくれない?何せ、特級ものだから、バカの手もいるくらい忙しいのよ。」
「はい。…あぁ、起きてますよ?」
ひょこっと、増畑を振り返る藍。その顔には悪戯っこのにやにや笑いが浮かんでいる。
「ああ、ならいいわね。大志、花輪運び手伝いなさいよ?」
「へーい…。」
出鼻を完全に粉砕され、うなだれる増畑。その目の前にはすっかり仕事人の顔の藍がいる。
「次は、手錠持ってこないであげるから。よさこいおわった後で休み一日とれたら、相手したげるよ。」
ひらひらと手を振り、部屋の戸の前まで行った藍は、置いてある二着の作業着と黒いスーツを取り、てきぱきと着替えていく。その姿に増畑は心の中で号泣した。
「藍のバカ野郎〜〜〜〜!」
氷の魔女蛇足。
六月。札幌の街はよさこいソーランの熱気で溢れ返っていた。
街に溢れる、色とりどりの衣裳をまとった踊り手達。その中に、藍や梓、弥生が所属するチーム、神龍娘々の姿も会った。
「大志、サンキュ。」
踊りの合間、差し入れの飲み物を手に笑顔で礼を言う藍。その明るい顔に増畑は嬉しくなる。
胸までの丈の振り袖の上着に、同色の裾を絞った袴に帯。色は赤、青、白、黒の四色。背中にチーム名が入った衣裳姿の仲間達がそれぞれ増畑に礼を言う。
が、それらは増畑の耳を素通りしていた。増畑の目は、完全に藍しか見ていなかったのだ。
「あれ、増畑…君?」
聞き覚えのある声に増畑が振り返ると、そこにはカメラを手にした猪熊の姿。
「押忍…あ、どうも。仕事っすか?」
「休み。仕事できてたんだけど、昨日で終わった。増畑君は見物?」
「いえ、彼女が参加してるんで差し入れです。」
殴ろうとする藍を忍がはがい締めで押さえ付ける。
「猪熊さん…でしたよね?すいませんが、写真撮ってくれませんか。タイマー忘れたんで集合写真撮りたいんです。」
それまでずっとカメラマンに撤してきた玲穂が、猪熊に自分にカメラを渡そうとする。が、猪熊はカメラを受け取らず自分のカメラを構えた。
「僕ので撮ったげるよ。後で送って上げるから。はい、皆並んで〜。」猪熊の声に神龍娘々の面々が一斉に整列する。
「はい、チーズ!」
かしゃっ!
その後、猪熊の撮った写真がちょっとした事件を起こすのだが、それはまた、別の機会に。