時間を戻し、木村と弥生の居る離れ。
「うう…。」
「大丈夫か?」
じわじわと強くなる気配に弥生は眉をしかめた。
京都にいた頃はあまりに量が多すぎたので、あまり気にはならなかったが、今は
どうしても気になってしまう。微酔い気分が覚めてしまった弥生は、傍らに置い
た鉄扇を手にすると立ち上がった。
「…木村はん。…何や、けたくそわるい霊の気配がしとるんで、様子、見てきます。」
「…、……あぁ、霊な。取り憑かれるなよ?」
桜酔いよりはまだ一般的な、霊感という弥生の特異体質。気配を無視して床に就
くことも出来るのだが、方向が方向なだだけに、無視する気にはなれない。
「様子見たら、すぐ戻りますさかい、待ってておくれやす。」
「ん。」
弥生と一緒に木村も中に戻る。木村がサッシと障子をきっちりと閉めている間に、
弥生は離れを出て廊下へと向かった。部屋に残った木村は布団に入り弥生を待つ。
「……っ………。」
無意識のうちに背を丸めた木村は、小さく唸りながら、わきあがっていた熱を堪
える。桜酔いはときには迷惑な体質だが、霊感の方は特に迷惑だと感じてはいな
かった。しかし、今回ばかりは迷惑だと思わずにはいられなかった。
「…あれ、梓。どないしたん?」
嫌な霊の気配を辿り、廊下を歩く弥生。と、途中で膝を抱えて座り込んでいる梓
を見つけ、声をかける。と、梓は顔をあげ弥生を見上げた。
「………!」
焦点の合わない、淀んだ瞳。
その目に弥生は反射的に後ずさる。ゆらりと立ち上がった梓は、ぞっとする笑み
を零し、弥生へと飛び掛かった。
「!」
足を滑られつつ後ろに飛んだ弥生は、崩れた態勢のまま鉄扇を投げ付けた。避け
る時に出来た隙をつき、弥生は梓との距離をとる。
「あかんわ…。」
柔道のみの勝負であれば、弥生にも勝機があるが、空手や喧嘩となると分が悪すぎる。
しかし、取り憑かれている梓を放ってもおけない。弥生は腹を括ると構えを取っ
た。嫌な気配の霊は弥生に反応を示したのか、半分梓から出て弥生の様子を伺っ
ている。隙を見せれば襲い掛かってくるのは間違いないだろう。
「…梓、堪忍な。」
弥生が一気に間合いを詰めようとした次の瞬間だった。
バサアッ!
弥生の後頭部に衝撃が走り、塩が弥生と梓にたっぷりとかかる。塩によって清め
られた梓から霊が抜け出すが、それを壁に縫い止めるようにお札を括り付けたくないが襲う。
「上手く…いったかな?」
弥生の後頭部に当たった容器を拾い上げた圭は、くないが刺さった場所に女将か
ら貰ったお札を貼りながら呟く。
「ま、やり損ねたにしても、しばらくは大人しくしてるでしょ。…あ、大丈夫?」
「………。」
「……いったぁ〜。」
瞳に光はあったがぼんやりしている梓と、容器が直撃した頭を擦る弥生。
二人とも頭から塩をかぶってしまい塩塗れになっている。
「…やっぱり、ありましたね。結局、間に合わなかったか…。」
お札を見上げて梓が言う。
「いいじゃない。被害は食い止められたんだから。」
「…うちは被害にあいましたよ…。せや、張島はんって、視えましたっけ?」
お札を貼り終えた圭は、箒を手にして首を横に振る。
「気配と感だけで投げた。…ほら、お風呂に行ってらっしゃい。待ってる人が、い
るでしょ。」
軽く二人を箒で小突く圭。それに押されるように二人は小走りで浴場へと向かう。
それを見送った圭は庭の方を向くと、声をかけた。
「女将。そっちは片付いた?」
ザッ。
圭の声に、林から一人の女性が顔を出す。
年は圭より若干上。落ち着いた色合いの和服をまとうその手には警棒。
女将と呼ばれたその女性は警棒で林の中を示す。
「そっちの覗きらしきのが数人。後ハイエナ一人。」
「了解。覗きは後で兄貴に引き取りに来させます。ハイエナは適当にいたぶっち
ゃってくださいな。」
「了解。皆林の中に転がしてあるから。」
女将が警棒を一降りすると、手の中から一瞬で警棒が消える。
「使い勝手は悪くないけど…軽いのよね。」
「ごっつい銃ぶん回してた人からみたら、それは軽いでしょうね。」
「あら、ナイフも使ってたわよ?」
くすりと笑う女将に肩を竦め、圭は廊下の掃除を続ける。
「それじゃ、あたしはこいつをいたぶってるわね。」「…はいはい。」
女将が男を一人引きずって姿を消す。
「…やれやれ…。」
圭は無意識に山の頂き…実家の養成所がある方角を見上げて苦笑したのだった。
「あっ…。」
浴場へと急いでいた梓は、部屋の前で飛田とぶつかった。
足を止めて飛田を見上げる梓の頬を、飛田は大きな手で包み、顔を上げさせる。しっかりとした視線で見つ
める梓に、飛田は優しく見つめた。
「もう、大丈夫だな。」
「…はい。…えっと、塩を被っちゃったので、お風呂入ってきます。大丈夫ですから、ちょっと待ってて下
さいね。」
「塩?……あぁ。」
言われれば少しざらついている。飛田は身を屈めると、梓の耳元に唇を寄せた。
「……不安に思うことはないからな。」
耳たぶに触れる暖かい感触に梓は頬を赤くする。
「…はい、行ってきます。」
足音を立てぬように静かな足取りで向かった梓を見送りながら、飛田は離れに戻った。
「…駄目だな、俺……。」
自分の方で情報を集めなかった為に、梓に迷惑をかけてしまった。
梓に直接向かってくるものは白木がある程度捌いているだろうが、彼女とて万能ではない。
「…誰なんだよ、一体…。」
大事な宝を苦しませる人間を放っておく訳にもいかない。飛田は布団に横になり、目を閉じると事態の解決
法を練り始めた。
「……さん、…田さん、飛田さん!」
考え始めてしばらく経った頃だろうか。頬をぺちぺち叩かれた飛田は、目を開けた。
「…あ、梓。」
「…寝てるかと、思いましたよ。」
浴衣をゆるく羽織り、湯上がりの肌はわずかに赤みを帯びている。
はにかんだ様ないつもの笑顔を見て、先程はやはり取り憑かれていたのだと実感する。
「……考え事、していたんだ。」
「……犯人は、二人居ると思います。一人は見当がつきましたけど、もう一人…心当たり、ないですか?」
「え?」
ぽすん、と飛田の隣に寝転がる梓。
「…うちに、電話がかかってきた時点で気付くべきだったんです。麗の職場の人が犯人なら、すぐに何らか
の処理をする筈ですから。でも、それが出来ないってことは、麗が知らない相手…。つまり、私の同僚しか
いないってことになるんです。」
「…心当たりは?」
梓の方に寝返りを打った飛田が尋ねるが、梓は首を横に振る。
「それは…。でも、とっかかりがあるなら、後は何とかなります。……動くのは、東京に帰ってからになり
ますけどね。」
梓は体を動かすと、飛田の胸板に顔を埋めた。浴衣の合わせ目から覗く肌に頬を寄せ、小さい声で何か呟く。
飛田がうなじを軽く撫でると、梓はぴくりと体を強ばらせて反応を示した。そのまま指を下へ滑らせ、背
中から腰に向かって撫でると、梓の唇からかすかな吐息が零れる。
「……んっ、……。」
体の奥に熱が籠もり、無意識にきつく目をつぶる梓。
「……反応がいいな。」
抱き寄せられて囁かれた一言に、梓は俯いてしまう。
二度も至る前に中断してしまったのもあるのだが、やはり先程の自慰の影響もあるかもしれない。
「…そう、ですか…?」
体が火照るのは湯上がりだけではないだろう。それ以上何か言われるの前に、梓は顔を上げると、腕を伸ば
し、飛田の頬に手をやった。唇で唇を塞ごうと、飛田の腕の中から抜け、顔を近付ける。
「……………。」
絡む視線に硬直し、一気に赤面する梓。
飛田は吹き出したいのを堪えると、自分から梓に口付けた。硬直したままの梓は目を見開いたが、二度目の
キスの深さにすぐにとろけていく。
「…、っ、ふっ……んぅ……!」
ぴちゃ…ちゅ…。
舌を絡め取られてきつく吸われると、じわりと体の奥から快感が湧いてくる。
流し込まれる唾液をこくりと飲み込み、快楽を求め火照る体を押しつけながら、応えるように舌を絡めあう。
互いの境界がわからなくなる程の濃厚なキスに、梓の体は熱くなり、秘裂からはじわりと愛液が滲む。
「…んぅ…う、…ふぁ…ああ………。」
しばらくしてようやく唇を解放された梓はぐったりと飛田に寄り掛かる。
肌はほんのりと紅潮し、潤んだ瞳で飛田をぼんやりと見つめた。
「…飛田さん…、…抱いて…。」
しゅるり、と帯が解かれ、飛田の大きな手が浴衣の前を開き、梓の肌に触れる。
「…んんっ……ぅ…ん…。」
背中に回されたブラジャーのホックを外す手、ショーツを下ろす手にさえも、火照った梓の体は敏感に反応
した。
「…あんまり、可愛い声出してると、加減…できなくなるぞ。」
「加減なんか、…いりません。」
梓は浴衣の袂を探ると、避妊具の箱を出して枕元に置いた。
「…、…飛田さんが、…欲しい、です。」
満たされていても、けして忘れることができない、誰か別の女性に飛田を奪われるのではないかと言う不安。
心と体に深く刻まれた飛田からの愛情に抱く独占欲。
その感情に突き動かされるまま、梓の唇が動く。
「…何されてもいぃ、…っ、…飛田さんなら…、…だから、離さないで…ぇ…。」
声にならない声、頬を伝う涙。震える指先がもどかしげに飛田の帯を解く。
「ああ…。」
飛田はぽろぽろと涙が零れる頬に口付け、涙を吸い取りながら、触れるだけのキスを梓の肌に降らせていく。
「…っ、…んぅ…、…ん、……ぁ、…あっ!」
耳元、首筋、鎖骨と触れていった飛田の唇に、梓は身を捩らせて反応する。さらに乳房を滑り、乳首を甘噛
みされると、一際高い声を上げて反応した。
「…っぁ、…んっ、…あ…は、ん…。」
片方の乳首を吸われながら、もう片方の乳房を揉まれ、梓は無意識に飛田の頭を抱え込んだ。癖のある髪に
指を通し、太い首を撫でる。
ちゅ、ぴちゃ、ちゅ…。
「…ぁん、…はぁ、…あ…ん…っ!」
音を立ててきつく吸い上げられ、飛田の髪を掴む手に力が入る。
「…梓…痛い……。」
髪を引っ張られた飛田は愛撫を止めると、梓の手を自分の頭から外させた。代わりに敷布を掴ませると、梓
の顔に目をやってから軽く乳房に口づける。そのままキスを腹部、太ももへと繰り返していった。
「っ、んぅ、…ぁん、…っ、…は…。」
脚を開かされ、されるがままに飛田の目に秘裂を晒した梓は少し恥ずかしくなり、布団に顔を埋める。
「んっ……。」
飛田は梓の脚を軽く手で支えると、内股をきつく吸い上げた。ぴくりと梓の腰が跳ねる。
「…やっ…!」
赤い跡を付けられる度、梓はきつく目を瞑った。腰はもどかしげに揺れ、秘裂からはじわじわと愛液が滲み
だす。快感を欲する体に羞恥を覚えながら、梓はちらりと飛田の方を見た。
「え、…っ、…あ、…あぁっ…!」
愛液でしっとりと濡れた秘裂を軽く舐めあげられて、梓の腰が跳ねる。飛田は梓の腰をしっかり押さえると、音を立てて溢れた愛液を啜り上げた。