「どうかしたのですか?こんな時間に?」  
メガネをかけ直し、彼女の顔をみる。  
「・・・うん、ちょっとね・・」  
艦長の様子がおかしい、きっと彼と喧嘩でもしてきたのだろう。  
付き合いの長い彼女はなんとなくそう思った。  
 
いつもは一人で抱え込んで、海を見ている。  
今日は自分を頼って来てくれた、そう思うとなんだか嬉しい。  
「立ち話もなんですから、どうぞ中へ」  
ターニャは深夜の訪問者を部屋に招きいれた。  
 
彼女の部屋は持ち主の性格を表しているのか  
シンプルで無駄がなかった。  
先ほどまで仕事をしていたのだろう、PCが開いていた。  
暫くすると彼女は奥からカップを二つ持って戻ってきた。  
「落ち着きますから」  
差し出されたカップを受け取る。  
こんな時間なのでカップの中身はコーヒーでなくホットミルクだった。  
「ありがとう・・」  
 
「やっぱり変かな・・こんなの・・」  
多くは語らないが、兄弟同士の恋愛について悩んでいるようだ。  
ターニャはカップの液体を一口飲んでから、ゆっくりした口調で返した。  
「艦長、私は貴女が幸せなら別に構わないと思いますが」  
七波は手の中のカップに落としたままだった、視線をターニャに向ける。  
 
「ありがとう、ターニャ・・貴女がいてくれてよかった」  
迷いがふっ切れたのか、いつもより晴れやかな笑顔だった。  
 
彼女が自分の部屋に帰っていく  
ターニャは何も言わずその背中を見送った。  
 
何故こんなに胸がざわつくのか・・  
胸の前で組んだ腕にぎゅっと力が入る。  
七波には誰よりも幸せになって欲しいと思っている  
なのに、こうやっていつも自分を頼ってきて欲しいと思う。  
心のどこかで彼との仲が壊れてくれないかと、期待している自分が確かに存在する。  
幸せな彼女は自分を頼ってはくれないのだから・・  
 
「・・・最低ね」  
大事な人が傷ついてほしいなんて・・  
メガネを外すと天を仰いだ。  
 
 
あの夜から数日たった。  
 
 
最近、七波はターニャとの間に距離を感じるのだ。  
もともと仕事の事を話すことが多かったのだが、  
それでも、彼女とは言葉を交わさなくても分かり合えていたのに・・  
「・・ターニャ・・」  
明日でも構わない書類を手に七波は、ターニャの部屋を訪ねた。  
 
「こんな時間にごめんなさい、これ明日までだったわね」  
 
少しして扉が開くと、赤い顔をしたターニャが出てきた。  
「・・か、艦長!?・・」  
彼女は夢でも見たかのように、目を擦る。  
 
七波に書類を渡され、状況を理解したのかすぐに副官の顔になった。  
「・・艦長すみません、わざわざありがとうございます」  
彼女からワインかなにかのアルコールの甘い香りがしてくる  
「ターニャ・・どうしたのよ?貴女あまりお酒強くないんでしょ・・」  
七波は歓送迎会などで、ベロベロに酔った彼女を思い出したのか苦笑する。  
 
ターニャは七波の視線を避けるように  
書類だけ受け取ると、部屋に戻っていく  
 
「待って、ターニャ!!」  
七波もターニャの後を追って部屋に入っていった。  
 
ターニャは力なく、部屋のベットに腰を下ろす。  
七波も彼女の隣に腰を下ろした。  
部屋のテーブルの上には、空になったボトルと飲みかけのグラスが置いてあった。  
随分飲んでるらしい。  
「ターニャ?」七波は心配になって俯く顔を覗き込む。  
「何か嫌な事でもあったの?」  
「・・・七波・・」  
 
ターニャは七波を抱きしめた。  
「ターニャ!?」  
かなり酔っている、それゆえ今の彼女の言動は、限りなく本心に近い。  
「・・貴女を取られたくないの・・」  
「何、言ってるの、ターニャ?」  
誰に何を取られる事をいっているのか、七波にはわからない  
ただそのことでターニャが酷く胸を痛めているのだ。  
 
「七波、私、貴女が欲しいの・・」  
 
 
 
「・・・・・っ痛・・」  
頭が痛い、割れそうだ・・  
「!!!」  
で、なんで自分は裸でいるのだろう??  
思わずシーツをかき抱く。  
確か、最近、不眠気味なのでお酒を・・  
そしたら、七波が現れて・・  
艦長のことばかり考えていたから、見た幻覚だったのか?それすら記憶が曖昧である。  
とりあえシャワーでも浴びて来よう  
気だるい体を起こして、一歩ベットから足を踏み出した  
 ベキッ、と鈍い音が足元から聞こえてくる  
「あっ・・」  
何でこんな所にメガネが・・いったい昨日なにがあったのだ。  
スペアーの眼鏡を引き出しの奥から引っ張りだして、眼鏡をかけた。  
テーブルの上には今日必要な書類がもう置いてある。  
シーツには謎の赤い血痕。  
必死に思い出そうと試みるが、頭痛が酷くなるだけだった。  
もう、お酒は控えよう・・  
割れそうに痛む頭を抱えながら、ターニャはのろのろとバスルームに向かった。  
 
 
「おはようございます、艦長」  
「・・・・お、おはよう・・」  
頬を赤らめ、目を逸らす七波。  
「??」  
ターニャは怪訝な顔をしながらも自分の持ち場に着いた。  
 
 
「アイショーティー」  
ターニャが冷静に彼女の指示に、いつもの通り返しているだけなのに・・  
次第に七波がイラだってきているのが、伝わってくる。  
何をそんなにイラだっているのか?  
彼女が冷静さを欠く要因がわからず、ターニャーは思わず首を捻る。  
 
暫くして、そのイライラの原因は明らかに自分である事に  
ターニャはやっと気づいた。  
 
(昨日、艦長は私の部屋に来たのかもしれない・・そこで何か・・)  
 
「・・ターニャ、後で、少し話したいの・・」  
「かまいませんが・・」  
 
 
 
二人は仕事が一段落した後、ターニャの部屋でおち会った。  
ソファに腰掛、深呼吸すると言いにくそう七波が切り出した。  
「ターニャ、貴女の気持ちを聞かせて欲しいの・・」  
やはり昨日の艦長は部屋に訪ねて来ていた。  
 
そして自分は酔った状態で何か余計な事でも口にしたのだろう  
ターニャはズリ落ちそうになった眼鏡を、クイッと元の位置に押し上げる。  
 
「艦長、酔った勢いで、私が何を口走ったのかは知りませんが  
そんな言葉信じないで下さい。私は貴女が幸せなら別に構わないのですから・・」  
「嘘っ・・じゃぁ、何で昨日あんなことしたのよっ!!」  
目が点になるターニャ。  
「まさか、覚えてないのっ!!」  
お酒が入っていて記憶が、とターニャが言葉にすると  
 
怒ったように七波はターニャをソファーに押し倒し  
そしてそのまま、ターニャの唇を奪った。  
 
 
 
続きます・・  
 
 

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