戦闘が終わっても烈しい雨が砦には降り注いでいた。惨めで冷たい雨が天上から一人の女を  
濡らして長い髪を頬に貼り付かせている。ボード砦のその一角にヴァレリア解放戦線の赫の  
激情、セリエ・フォリナーがそこにいた。  
「姉さん。なかに入ろう」  
「生きていたのか、システィーナ。わたしを嗤ってくれてもかまわないよ」  
 セリエはその顔を天上の黒い雨雲に向けると、静かに瞼を閉じていた。  
「そんな。嗤うなんて……」  
「なら、罵ったらどう。いいざまでしょう」  
「いいかげんにしてよ!」  
「いいかげんにだと!おまえに何が判るというのだ!」  
「わかるわけなんか無いでしょ!姉さんの我儘で多くの仲間が死んだのよ!」  
「本音が出たか」  
「なんですって!」  
 システィーナは初めて感情に身を委ねて、長姉の胸倉を掴みにかかっていた。  
「よせ、システィーナ!やめるんだ!大切なお姉さんなんだろ!」  
 デニムがふたりに割って入っていった。  
「なんだ。この甘っちょろい奴は!」  
 システィーナが姉を突き飛ばして、吐き出すように言う。  
「私たちのリーダー、ロード・デニムよ!」  
「まだ、ごっこ遊びをやめていないのか」  
 
更に食って掛かろうとしていたシスティーナをデニムは制して、水溜りに力なく崩れているセリエに  
手を差し伸べる。飛びつきたい衝動を堪え、握りこぶしで大地をセリエは叩きつける。  
「確かな物が欲しかっただけだ!攻めていてこそ……。迷いがあっては、死に呑まれてしまうだけだ!」  
「仲間になっていただけませんか。セリエさん」  
 豪雨に長い髪が乱れ雨水をしぶかせて鬼神のようにデニムの顔を見る。  
「おまえが私の手段になるというのか」  
「姉さん!」  
「かまいませんよ。その目で確かめてください。気に入らなければ抜けて頂いても結構ですから」  
「デ、デニム……!」  
 デニムの言葉にシスティーナは多少なりとも驚く。現状はきゅうきゅうで、いますぐにでも戦力は  
欲しかった。  
「虚勢なのか、揺ぎ無い自信なのか判らんな。それともただのバカかのどちらかだ」  
 システィーナの顔がさらに険しくなっていった。  
「もう行きましょう。デニム」  
「確かめてくださっても結構ですよ」  
「そうさせてもらうよ」  
 大地に崩れていたセリエがスピアを突き立てると、ゆっくりと立ち上がった。その姉の姿を見て  
システィーナのなかに不安が走るのだった。その感情は恐怖にも近しいものともいえる。  
「気を付けて、デニム。ああいう時の姉さんは、善からぬことを考えているものなのよ」  
 デニムに小声でシスティーナは耳打ちをするのだが、次の瞬間にはセリエの行動に驚かされて  
いた。厚手の革のグローブを捨てて甲冑の紐を解き始める。  
「セリエさん!なにをなさっているんですか!?」  
 
「見てわからないかしら。裸になるのよ」  
「裸って、どういうことなのよ!」  
 システィーナがセリエの奇行に詰問をする。  
「確かめるのよ。デニム、そういったわよね」  
「はい……」  
「ならば、わたしをこの場で抱くことね」  
 システィーナの平手がセリエの頬を捉えていたが、デニムの手の甲が彼女の攻撃をガードした。  
「デニム……」  
「構いませんよ」  
「ほんとうにいいのね、デニム?わたしをこの場で抱けば私は仲間にはなるけれど、システィーナや  
ごっこ遊びのお仲間さんたちは磐石ではないみたいだから、困るのではなくって?」  
「お喋りなんかしていないで、早く脱いで下さいよ。セリエさん」  
遠くで三人を見ていたアロセールが激怒して、止めに入ろうと駆けて行こうとしていた。  
「よせって」  
「カノープス。おまえは、あんな好き勝手なこと言われて平気なのか!」  
「おまえさんは、デニムを信じてついて来たんだよな。なら、また信じろよ」  
「で、でも……」  
 カノープスの白い翼が大きく拡がって、仲間の視界から三人を消し去る。そうせずとも、皆は  
瞼を静かに閉じていた。  
「ごっこ遊びではないようね」  
 セリエが呟いた。  
 
「なら、もういいでしょ、姉さん」  
 その間にもセリエの手は休まることなく動いていて、鎧を落として鎖帷子までも脱ぎ始める段に  
なると、デニムも肚を決めて鎧に手を掛けていた。セリエが胴衣までも落としてオバーブーツを  
残してデニムの目の前に裸身を晒していた。セリエは躰を包み隠さず戦士の鍛えられたスリムな  
肢体に彫刻のような整った乳房と下腹の黒々とした叢をも隠そうとはしなかった。  
「わたしは本気よ」  
そうシスティーナに言い放つと、セリエはズボンを脱ぎに掛かっていたデニムに飛びついていた。  
焔の獣欲・サラマンダーは、そのしなやかな美脚をデニムの腰の後ろで組み合わせて青年の唇を  
貪婪に求め、顔をくなくなと揺すっていた。システィーナは姉の浅ましくも凄まじい気性をあけすけに  
見せ付けられて衝撃を受けて固まって、ただ視線を逸らすのがやっとだった。  
「こんなのが、セックスであるわけがない……」  
 システィーナは小さく呟いていた。デニムはよろめきながら、軒に躰を寄せてセリエを濡れないように  
もっていった。デニムの口腔にはセリエのサラマンダーの舌が強引に押し入って、烈しく蠢いている。  
まさに、わたしを御してごらんといった風情でデニムを嘲笑いながら愉しんで呑み込もうとしている。  
デニムの舌は強く吸引されて魂までも持っていかれそうなほどだ。腰も淫らに動き始めている。  
 デニムは中途半端に脱いだままだった腰布を肌蹴させてペニスを外気にやっとの思いで晒した。  
「どうした!デニム!はやくわたしの膣内に突っ込んでごらん!さあ、来てごらんよ!」  
 セリエの背中を軒下の壁に預けて、片脚を下ろさせて滾る屹立をズリュッと一気に押し入れる。  
「あうっ……。はっ、入ってきたね。坊や!はやくわたしを満足させてごらんよ。はやくううっ!」  
「くっ!」  
 セリエの肩に顔を乗せてデニムは歯を食いしばる。  
 
 目を背けていた筈のシスティーヌはどしゃぶりの雨にずぶ濡れになりながら、デニムとセリエの交わりを眺めていた。ふたりの喘ぎが雨のなか白い吐息となって吐き出されている。しかも、デニムを弄ぶ  
風情だったセリエはいつしか彼のペニスの衝きあげに高みに押し上げられては、奈落へと  
突き落とされるような閨声をあげるまでになっている。自分も獣のような肉の絡み合いに  
加わりたいという欲望がふつふつと湧きあがることが判っていただけに、信仰が揺らぎそうで堪らない。  
「あっ、あっ、あっ……。き、気持ちいい?わたしの膣内(なか)、気持ちいいの!?」  
 デニムにセリエは右太腿を抱えられて、彼の押し付けるようなパワフルな抽送にふくらみきったクリトリスはひしゃげて擦り上げられて、躰にズンズンと重い衝撃を受けている。  
「ど、どうだ!これで満足か!」  
 躰の不安定な立位での交わりが続いていた。  
「まだ、まだよ!もっとわたしの膣内を掻き回してよ!下ろして、後ろから突きなさい!」  
 セリエの切迫した声音に指導者としての命令口調がデニムの性欲の焔を焚き付けていた。濡れた  
髪を振り乱して喚いているセリエの望みどおり後ろから突きあげよう降ろさずに彼女の脚を折り  
たたんで廻そうとしていた。  
 
セリエは抜去されて後ろからの挿入とばかり思っていたので、慌てて壁に両手を付いて支えを取って  
ヒイヒイ言いながら回転しなければならなかった。やっとのことで背中を取られた頃には躰は  
ぐったりして、糸が切れたように四肢を投げ出すような格好になっている。  
「あうぅうっ、ああっ、はあ、はあ……」  
 下腹を両の手を組んで抱えたデニムは、彼女の躰をゆっくりと下ろしていく。セリエの裸身は腕を  
伸ばして軒下の壁をのたくるように摺り落ちる。躰が地に落ちたことで、ふたりの裸身に烈しい雨が  
叩くように降り注いできた。セリエはぐったりとして肩を落として絶息寸前のように喘いでいる。  
デニムに尻を掲げられて突きあげられて、乳房は泥の地面に醜く拉げて揺さぶられている。  
「デニム!デニム!もう、姉さんは失神しているわ!もうやめて!デニム!」  
 デニムはシスティーナの呼びかけに果てることなく律動を中断はしたが、セリエは白眼を剥いて  
総身をふるわせていた。それが豪雨の寒さからなのかはわからない。デニムはセリエのふるえている  
肩の肩甲骨に口吻をして膣からペニスを抜き去った。折れた翼をいたわるように。  
 

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