「セリエさん!退いて下さい!私たちが奴らを引き止めますから、早く!」
ボード砦に籠城してみたもののヴァレリア解放戦線の命運は尽きかかっていた。後退を余儀なくされ
辛酸を舐めた赫の女神は狂気に走り我を見失って、不気味な鉄仮面の騎士団と剣を交えていた。
「おやめください!これ以上の戦闘は無意味です!体力の消耗を招くのみです!」
「五月蝿い!ならば、尽きるまでだ!」
長い赤毛を振り乱して、セリエが鬼神の如くピアスをぶん!とふるってテンプルナイツを突く。
血がブシュッ!と噴き出て、追撃のなかに突っ込んでいこうとしている。
「なにをしている!早く連れて行け!」
ヴァレリア解放戦線メンバーは残るものとセリエを守るものとに瞬時に袂を分かっていた。
「離せ!これは叛乱だぞ!」
セリエは血飛沫の掛かった顔を烈しく振って暴れていたが、躰はアジトのなかへと引き摺られていく。
「さらば……!」
時間稼ぎの為の戦士たち三十人は、赫の女神を一瞥すると、傾斜を駆けて行く。
「よせええええッ!無駄死にだぞッ!」
「セリエさんが生きていれば本望です」
「ちがう!手段はどうあれ、私が示したかったのはバグラムの意志だ!」
「ごめん!」
狂乱するセリエの腹を剣の柄で鋭く突いていた。
「うぐっ……。な、なにを……する」
戦士たちは身近に迫った死を直感していた。屈強なセリエでさえも、仲間の死を前にして出てきた
言葉は去って行ったシスティーナへの弁解でしかなかった。
残った十二人の戦死たちは、アジトにセリエを運んで、脱出路へと急ぐ。階下の倉庫に降りて
隠し扉を急いで開けると、男が二人ほど通れる通路が現れる。
「急げ!時間がないぞ!早く行けッ!頼んだぞ!」
扉を開けた四人の男が早く通るようにと促している。セリエをガードした八人の男たちは彼らを
振り返ることなく闇の中に消えていった。すぐに扉を閉めて彼らは追撃の手の者を待ち構える。
恐怖でこめかみには玉のような汗が噴き出ていて、唇は土気色になっていた。
「武者震いか?」
「ああ。そういうことにしといてくれや」
その刹那、ふたつの影が音もなく迫って四人を俊殺していた。彼らにとってしあわせがあったとしたら
痛みを感じる暇もなく殺されていたことかもしれない。
「もう遊びはおしまいだよ」
オズマは剣を振るって血糊を飛ばす。
「姉さん。奴らはここから逃げたみたいだぜ」
「まだ手をかけるのかい。うっとおしいんだよ」
「しかし……」
「おいで、オズ」
「姉さん、追わないのかい?」
「追うもないもんだよ。上にあがって水のオーブを使うよ。らしくないかい?」
「らしくないね。ハハハッ」
階下の男と女はゲリラの四人の死体に唾を吐き捨て掻き消える。
「もうすぐだ」
「ううっ……。皆はどうした……」
担いでいた男がどうしたものかと顔を窺う。
「やめろ。逃げることだけ考えていろ」
「は、はい」
通路が途切れて上に登る梯子が見えてきたとき、耳に不快な音がつんざいて空間が歪み出し
始める。躰が痺れるような感覚に解放戦線の敗走者たちは包まれていく。
「セリエさん。できるだけ息を詰めておいてください。わかりましたか」
「み、みんなは……」
「いいですか。息を……」
キイイィィィィィィィィィィィィィィィーーーン!男たちは上にあがるのを諦めて通路の隅にセリエを
囲むようにして盾となる。空間の歪みが臨界点に達したその時、蒼白の閃光にすべてが
包まれていった。
鉄仮面の連中はゲリラのリーダーの首を捜して歩き回っていた。
「こいつだな」
ゲリラの戦士たちが、何かを守るようにして折り重なって死んでいた。後方では、何人かが剣を
構えて待機している。やがて、赫の甲冑を纏ったセリエの躰が現れてきた。
「惨めなもんだな。こうなっちまうとな」
鉄仮面の男がセリエの長い赤毛を鷲掴みにして顔を吊り上げる。
「そのままにしてろよ。いま落としてやるぜ」
「んっ、んああ……」
セリエが髪を吊り上げられる痛みに感覚が戻って来て、呻き始める。
「この女、生きてるぜ。仕方ねえ。担いで上に行くか」
セリエは水のオーブの迫撃を受けて、感覚がほとんど麻痺していた。反応するのはむしろ屈辱的
な暗黒騎士団の言葉に対してであった。
「オズさま。ゲリラの女リーダーいかがなされますか?」
「処刑しろ!」
「はっ!」
「その前にお前たちが、こやつを嬲ってもかまわぬ」
「よ、よろしいのですか?」
「ああ、好きにしろ。ただし、感覚が鈍化していて反応が無いかもしれんぞ」
「……」
「その代わり、首はちゃんと持って来いよ」
「はっ、かしこまりました」
オズは姉の後を追うようにしてボード砦を去っていった。砦には八人のテンプルナイツが残された。
「どうする。玩具にでもしてあそぶか?」
「躰が壊れちまっているらしいぜ」
「とりあえず中へ行こう。ここでは濡れる」
セリエを担いでいた男は彼女を地面に落として、手で赤毛を掴んで引き摺った。
「うああっ!ああ……!」
セリエの両の手が髪を引っ掴んでいる男の手に絡みついていた。
「おい。頭皮が剥がれちまわないか」
「これぐらいやらねば、感覚が戻ってこないだろ」
「ふん。まあ、ほどほどにしとけよ。壊れたら元も子もない」
砦に残った男たちはこれからの趣向にペニスを烈しく滾らせて、笑い合う。
髪を引っ掴まれて引き摺られて、セリエは重い呻きを発している。時折顔が痛みに仰け反って
彼女の美しい顎のラインが見えて彼らを歓ばせていた。愛しい者に対して魅せるべきものが
陵辱者たちの贄でしかなかった。やがてすべてが男たちの玩具に変る。髪も瞳も、細い指も、
輝くばかりの白き肢体も。
「こ、殺せ……」
空ろな目が開いて、命の炎が蒼白く揺らいでいた。
「ああ、望みどおり殺してやるぜ」
「うああっ、かっ……。あっ、あ……。きっ、貴様らは騎士なのだろ……」
「そうだぜ。だからなんだってんだよ」
「ひと思いに殺して……」
「それは、まともな戦士に対してだな。仲間を見殺しにする奴には出来ない相談だ」
「うっ、ぐうっ、うあぁああああッ!」
セリエは引き摺られながら、髪が引き千切れるのも気にせずに狂ったように躰を揺り動かす。
「世話の焼ける牝豚だなあ」
男はセリエの髪を離して、蹴りを入れて転がした。
「ぐえっ、がはっ、うえっ……」
セリエの躰がごろんと転がって扉にぶつかって、起き上がろうとして尻を浮かす。
「いつまで這いずってんだ!さっさと起きやがれ!」
男の蹴りが脾腹にまともに入っていた。
「げえっ!」
セリエはその一撃で吐瀉するが、出てきたものは胃液だった。
「それぐらいにしといてやれ。犯っちまう前に、おっ死んでしまうじゃねえか!」
また髪を掴まれて、顔を引き上げられたとき、セリエは白目を剥いていた。
「おい、死んだんじゃねえだろうな」
外ではどす黒い雨雲が掛かってきていて、地面に次々と降り注いで凄まじい音を立て始め出す。
赫の女神は地に堕ちて、床を這っていた。芋虫のように這う赫の女神を見て嗜虐心を煽られた
テンプルナイツの七人は次々に着ている物を脱ぎ捨てていく。そのおぞましき鉄仮面を除いては。
一人の男がセリエの腰を抱え、短剣を抜いてレザーの紐を裂いていく。セリエの四肢には全くと
言っていいほど力がはいらない。頭は抱きかかえられる度にくなくなと揺れて、またある男は
両の手を掴んで、掲げるとグローブを抜き取とって素手を曝け出す。セリエの前には真っ黒な
光りすら届かない地獄の闇が大口を開いて待っていた。
男の手が内側の太腿をねっとりと撫で付けると、そのおぞましさに意識が覚醒して地獄を
見てしまった。鉄仮面を被った全裸の男たちが自分の躰に群がっている。躰の芯に激痛が
走り、セリエ・フォリナーは絶叫していた。
「ぐああッ!があぁあッ!」
その赫い唇にもペニスが突っ込まれて、烈しい吐き気が込み上げてくる。頬をペニスで突かれ、
美貌が醜く歪む。しかし、不思議なことに涙は零れ落ちなかったというより、もはや死んでいたから
だった。躰を烈しく揺さぶられて、前に後ろに穢れた白濁を注ぎ込まれ、両の手にもべっとりと精液
に塗れたペニスを握らされていた。
ヴァレリア解放戦線のアジトで仲間を失って、薄暗いその部屋に赫き女神はオーバーブーツを
履いだけの全裸で七人の敵にあらゆる体位で責められるためだけに躰を提供させられていた。
今のセリエは獣のように四つん這いにさせられて、七人の男たちは不気味な鉄仮面だけを付けた
全裸で彼女を欲望の赴くままに責め捲くっている。その欲望が尽きない訳には、薄汚い床に白磁の
肌を持つ女の肢体は幻想的でさえあったからだ。
「ランスロットさまの蒐集品の絵画みたいだぜ!そう思わねえか?」
「たしかに裸婦像のおんなだぜ!」
「こら、舌ぐらいを動かせよ」
それを聞いていた別の男が、どうでもいいと言った具合にセリエの頬をバシバシと叩きに掛かる。
「んっ、んっ……」
「叩くな!歯があたるじゃねえかよ!」
「その方が刺戟があって気持ちいいだろ」
「バカいえ。噛み切られでもしたらどうするんだよ」
「こいつに、もうそんな意志なんかねえ。殺してくれって言ってただろ」
「ほれ、また出すから締め付けなってんだ!」
鉄仮面の奥の妖しい光りを放つ男がセリエの双臀を平手で打擲して、みるみるうちに朱を刷いた
ように赧く染め上げさせる。
(涙など流すものか……。私を守って死んでいった者たちに対して私が出来ることは、泣かずに
死ぬることだ!)
男の傘が開いて膣内に、直腸に白濁をセリエはまた射込まれる。
「おい!もう、やめるんだ!」
扉が開っぱなしになっていたそこに、ずぶ濡れの八人目の男が立っていた。
「俺がかわってやるぜ。もう、こんな女は飽きたからな」
「ちがう。こいつの仲間がやってきたんだ」
「何人だ」
「十人」
「ま、弱っちい奴らだ。六人で相手してやるか」
「お前は、この玩具であそんでろ。ヌルヌルだがな。おめえは固いんだよ。硬くするのは此処だけに
しときな」
そう言って歩哨に立っていた男の股間を握って、六人は着替えると豪雨のなかに飛び出していった。
「おい。いつまでやってるんだ。たいがいにしとけ」
セリエの空ろな瞳に光りがもどってグリフォンに変る。
「もうじき射精そうなんだ。うっ、ううっ、うあぁああああああああッ!」
「ぺッ!」
ぼてッ!っと血に塗れた塊が転がっていた。
セリエは四つん這いのグリフォンに変貌して噛み切った肉塊を吐き捨てていた。ペニスを喰い
千切られた男は床に崩れて転げまわろうかという時に、歩哨の抜いた剣によって一瞬に絶命する。
「セリエさんですね。僕はロード・デニムです。あなたを助けに……」
仮面を脱いで素顔を晒したものの、セリエはグリフォンのように躰を揺らして、彼を威嚇して今にも
飛び掛らんとしていた。
「姉さん!セリエ姉さん!助けに来たのよ!」
「シ、システィーナ!み、みんなは!他のみんなは!ひとりでもいい!生き残っていた者がいなかったか!
答えてくれ!システィーナ!システィーナ!」
全裸のままセリエは妹に詰め寄って仲間の安否を詰問するも、妹は静かに顔を横に振るだけで、
外の豪雨はセリエが流した天上の涙となっていた。