クレアはセリエの言葉を受け入れて、腕を後ろに廻すとエプロンの紐をシュルルッと  
ほといて床へと落とした。黒いワンピースも両肘を前に掲げると躊躇いもせずにホックを  
外して、あっさりと脱いでしまう。そしてクレアは白い肌着姿だけとなってしまった。  
「ぐうっ、よ、よせ、クレア……!」  
 ドナルドはその時、セリエに唾を吐きつけたい衝動に駆られていたが、変化を見越してか  
セリエのサラマンダーのような瞳にドナルドは覗き込まれて恫喝される。  
 
「おまえが、なにをしたいか手にとるようにわかるな」  
 きつく握り締めた屹立を離して、ドナルドの下腹にペニスを摺り込むように撫で擦っていた。  
「よせ」  
「さっきまで勤しんでいたことをわたしの見ている前でしてごらんよ、ドナルド」  
「……」  
「今度はだんまりかい。そんなに、クレアがかわいいか、愛しいか」  
 セリエはドナルドを握り締めて呻かせる。クレアは耳を塞ぎたい衝動と鬩ぎあいながら、  
荒れる息なんとか整えようとするが、これから始まることの怯えを誤魔化せずに小さな  
肩を上下に大きくゆらしていた。  
 
 少女は肌着の肩紐を鎖骨のおわりから少しずつずらすと、今度はゆっくりと落として  
いってドナルドとセリエの前にその若々しい蒼い裸身を晒したのだった。セリエには  
もうひとつ、ドナルドにいましがたまで愛でられていた女の肌という忌々しさがあった。  
目が炎の舌をチロチロと出していた。  
 
 クレアの蒼白の雪のような肌が眩しい。重く垂れ込めた灰色の空の下の雪では  
なかった。天上は晴れ渡って、照り返す眩しさに目を細めてしまうような、教会に射す  
陽光を吸収してクレアは輝いている。その肌にアクセントを与えていたのが、クレアの  
履く黒いオバーニーブーツで、無垢な白い素肌と黒の色彩の取り合わせが少女に  
まったく別の艶をもたせている。清楚でいて淫を掻き立てる。  
 
 ドナルドのペニスを受けれた少女の躰、抱擁の旋律を刻んでまだ間もない疼きと微熱を  
帯びているだろう下腹を覆い隠す腰に巻かれたたよりない白い布だけを残して、少女は  
両腕を交差させて自分を心細そうに抱き締めながら佇んでいた。いちどは、腰布に手が  
及ぼうとしたクレアだったが、どうしてもできずに躰が顫える。セリエの声を待つ  
ことにしたことで、クレアは瞳を潤ませていた。  
 
「胸の紋章を先に腰に巻きな。その後で腰布を取れ」  
 クレアはドナルドから貰った首に掛けられたフィラーハの紋章を後ろ手に廻して、  
長いやわらかな金髪を掲げると両肘を前方に突き立てる。幾度となく見た少女のその  
所作が魅せてドナルドを興奮させていた。クレアもドナルドのペニスが膨らむのを  
敏感に感じ、急に羞かしくなって思わず視線を床へと移し貌を赧くするのだった。  
 
 セリエの手のなかで跳ねた膨らむペニスを叱責するかのようにきつく握り締める。  
「んんっ!」  
 ドナルドの声に天使の躰がびくんと顫える。それでも、クレアは手を止めず、尖った  
ほっそりとした綺麗な顎を引いて、やがて首に掛かっていたフィラーハの紋章を、  
女が咲き始めた腰に巻き直して恥丘の位置にそれが据えられた。  
「腰布も解け、クレア」  
 セリエの容赦ない言葉がクレアを打ちのめす。もはや後戻りは出来ない。  
 
「はい」  
 かぼそくても、はっきりとした意思をクレアはセリエに示してみせたが、  
いざ腰布に手を掛けても手の顫えがどうしょうもない。  
「どうした、はやくしろ。肌を許し合った仲ではないか。なにを羞かしがることがある」  
 ドナルドに抱かれる為にセリエに近づいたクレア、自分のもとから逃げた  
ドナルドを壊したいが為だけに、クレアを女にしたセリエ。ふたりの女の視線が絡み合った。  
「はい」  
「も、もう、ゆるしてやってくれ、セリエ……」  
 
「ダメだ」  
「せめて、鍵を……教会の扉に……ぐうっ」  
「たいがいにしな、うるさいよ。そんなことしたら、おもしろくもなんともないじゃないか」  
 クレアに躊躇している時間はなかった。腰布を脱ぐのにもさほど時間は掛からない。  
紋章はゆれて、まばらに生え揃った恥毛よりもやや下、おんなを息吹かせはじめた  
黒々とした繊毛の上に銀の煌めきが鎮座する。  
 
 たとえ、ドナルドとの情交の残滓がこぼれてしまって紋章が濡れようとも晒して  
しまうことの後悔はしていられない。クレアはセリエの望み通りの姿で立ち尽くす。  
「そのまま犬になれ」   
「……」  
「わからないか、いぬだよ。四本足で地を這う奴さ。イヤなら地を這う天使にでも  
おなり。それとも牝豚かな?」  
 クレアはセリエの言った通りに屈んでトンと床に両手を付くと、言われた通りの  
四つん這いになった。ドナルドの目にはクレアの哀れさとは違う、まったく別の感情も  
生まれていた。  
 
「おまえもこいつも罰当たりだよな」  
 クレアの下腹と胸が哀れなほど波打っている。貌を下に向け、首をがくっと折れて、  
床にクレアの金髪が肩からさらりと垂れる。  
「クレアはお前のことを慕って――」  
 セリエはドナルドの顎を上に上げた。  
「さあ、此処へおいで。ゆっくりとでいいからね。はやく歩かれでもしたら道化だからね、クレア」  
 クレアはゆっくりと歩き始めた。セリエの言葉に従ったわけではないが、好きな人のために  
それしかできない、せいいっぱいのことをしたまでのこと。  
 
 けれど、もどかしいほどに、ゆっくりとではあったが。セリエはそれを利用して  
ドナルドのペニスを握り扱きだす。  
「もう、ゆるしてやってくれ」  
「ゆるす?わたしとクレアとで、たっぷりとおまえを愉しまそうとしているのにか?  
それに、こんなにも濡れているじゃないか」  
 セリエはペニスを握っていた手を出して、ドナルドの呻く口の中へと指を  
突っ込んでいた。貌の前にひけらかした。指はドナルドの透明な分泌物で濡らついている。  
 
 そしてセリエが目を落とすと、クレアが既に傍にまで来ていた。相変わらず、貌は  
下を向いたままだった。  
「なにをしている、クレア。こいつのズボンを脱がせろ。得意なんだろ」  
「……」  
 クレアはだまってドナルドのズボンに手を掛ける。  
「返事をしろ、クレア!」  
 セリエの首筋にくっきりと胸鎖乳突筋がふたつ浮き出たのをドナルドは見て、いまさらながら  
セリエの狂気を認識した。首筋を舐め愛に燃えた遠い記憶がドナルドの中で霞んでゆく。  
「は、はい。セリエさま」  
「おまえの愛とはそれだけのものか。這いつくばった天使に感謝したらどうだ」  
 セリエは舌を出してドナルドの流した哀しみの雫をぺろっと舐めた。  
 
 
 白い女王カチュアが退席した後、一同も席を立ちぞろぞろとサロンへと歩きだす。  
「情報の出所もわからず、誰がドナルドらを連れてくるのかもわからず……」  
「なんとも難儀なことよな」  
「さしずめ、システィーナ殿ではないのかな」  
「いくらなんでも、本人が表立って動くわけにもいくまいて」  
 うるさい者たちが立ち去って、システィーナとアロセールたちもやおら立ち上がった。  
 

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