「姉さん、セリエ姉さんッ!!」  
がたんと背後で音がした。私は血と泥に汚れた首を何とかそちらに向ける。  
システィーナ。  
私の愛する妹。  
そして、  
私から去っていった妹。  
「無事だった、姉さん!?」  
うるさい。  
嗤えば良い。  
結局私は、…………。  
 
 
デニム・パウエル率いる「神竜騎士団」がセリエを救出してから三時間後。夜営地のテントには騎士団の主要メンバーが集まっていた。  
「俺は反対だ」  
バーサーカーのブラッドが吐き捨てた。  
「あんなテロリストの頭を仲間にだと?冗談じゃ無い。デニム、アンタイカれてンのかッ!?」  
「口を慎めブラッド!!」  
カノープスの鋭い言葉にも、ブラッドはどこ吹く風であった。  
「なァカノープスさんよ、あんたもわかンねえのか?俺達は今、トラブルの種を抱えるわけにゃいかねえ!!」  
「姉さんがトラブルの種だって言うのッ!?」  
システィーナが思わず席を蹴倒す。  
「止せシスティーナ」  
アロセールが落ち着いてシスティーナを嗜める。  
「デニム、あンたの意見が聞きたいねッ!!あンたどう考えてるんだ、あァッ!?」  
ブラッドが唾を飛ばしながら言う。  
静かに聞いていたデニムはゆっくりと目を開いた。  
 
「僕はセリエさんを仲間として迎えたい。過去に拘っても仕方無いと思っている」  
デニムの言葉で、もはや会議の決は取られたようなものだった。  
 
「糞ッたれ!!」  
テントに帰るなり、ブラッドは水の入ったバケツを蹴飛ばした。  
「親分、どうしたんですか」  
ブラッドが長を勤める傭兵部隊は、基本的に荒くれ者ばかりだ。  
金次第で主義も主張も変えるこの男たちを、力一点のみでブラッドはまとめあげている。  
実力はある。  
だが思考は足りぬ。  
しかし権力は欲する。  
ある意味この混沌の時代の象徴のような男だ。  
「駄目だ駄目だ話にならねえッ!!デニムのガキはいつまで夢見てんだ!!俺たちゃ戦争をしてんだぞ、せ・ん・そ・う・を・ッ!!」  
ブラッドは吠えると傍らの酒瓶をあおる。が、空である事に気がつき、  
「糞ッたれ!!」  
天幕の向こうにむけて放り投げた。と、空中でその瓶をぱしんと掴んだ男がいた。  
ホークマン、バーン。ブラッド同様古参だが、ちゃらけた性格から上には立とうとしない男である。  
「駄目っスよ頭ー、こっち側はプリースト達の天幕があるンすから。ぶつかったら大事でしょー?」  
へらへらと言うその態度にはしまりが無い。  
 
「何だバーンテメェ、文句があるのか?」  
ブラッドが凄むも、  
「無い無い、無いッすよー」  
とへらへらと笑い、瓶を片手に飛んで行ってしまった。  
「……ケッ」  
唾を吐くと、ブラッドは新たな酒瓶を開けた。  
 
セリエは、夜営地の外れの木陰にいた。  
惨めだった。情け無かった。  
同志には謝りようも無いし、おめおめ生きながらえたところでこの通りお荷物だ。  
「ゴリアテの英雄、か……」  
噂に違わぬ甘ちゃんだ。私が彼の立場なら絶対に私など受け入れない。士気にも体面にも全てにマイナスだ。  
「…………」  
やはり出て行こう。そしてどこかで仲間達に殉じよう。そうセリエは決意し、すっくと立った。そこへ、  
「あら?」  
調子外れな声が聞こえた。目をやると、一人のホークマンが上空から降りてきた。  
「わー、あー、はーはーはー。アンタかい、セリエさんって?」  
不躾にじろじろと人を眺め回し、軽く男は言った。  
「そ、そうだが」  
「俺はバーンってんだ。よろしくな!!」  
にかっと笑い、手を差し出される。思わず握手をしてしまったら、  
 
手の甲にキスをされた。  
 
「あ、なッ!?」  
真っ赤になって手を引くセリエ。バーンはへらへらと笑いながら、  
「や、美人がまた多くなって大変よろしいね!!今のは挨拶だよ挨拶」  
とおどけてみせる。  
……正直、セリエの嫌いなタイプだ。ヘラヘラして真面目になる事無く、主義や主張も無くフラフラと生きているに決まっている。  
「……そう。でも私はもう出て行くからさよならね」  
そう言い、踵を向ける。  
「ちょ、ちょーっと待った待った!!何よ出て行くって?デニムはアンタを受け入れたんだぜ!?」  
ばさばさと羽根をはためかしてバーンはセリエの前に降り立つ。  
「私が決めたの。どいてちょうだい」  
キッと睨み付ける。  
「……なぁ、もうしょーがねーじゃんよー。過去に拘っても何にもならねーぜー?」  
ブラッドのその物言いにセリエの顔に怒気が走る。  
「あなたなんかに何がわかるって言うのッ!?いいからどいて……」  
「おいバーン!!お前何して……」  
あちゃー、とバーンが顔に手をあてる。現れたのはよりによってブラッドだった。  
「ほーう……これはこれはテロリスト様。どの面下げてこの部隊に居座ろうってんだ?」  
 
走る。走る。走る。  
捕まらぬように。  
 
 
 
「バーン……テメェ何してる?テロリスト殿ど仲良く、か?」  
ぎろりと睨むブラッドの視線を、しかしバーンはへらへらとかわす。  
「やだなー頭、俺らぁ一緒に戦うんスよー?美人ともなりゃ嬉しくて挨拶しちゃいますって」  
(頭……)  
セリエの頭の中でミルディンに教えてもらった部隊組織が思い出された。恐らくは傭兵達を束ねているのがこの酒くさい男なのだろう。  
(…………)  
バーンとは違う意味でセリエの嫌いなタイプだ。大体、居座る気などはなから無い。  
「ふん、確かに見てくれはな。だがコイツは味方を平気で見殺しにして生き延びたんだ、戦士じゃ無ェ」  
その言葉にかっと血が上る。  
「……取り消してもらおうか」  
「あん?」  
怒りに顔面を真っ赤にしてセリエがブラッドに叫ぶ。  
「取り消せと言ったのだ!!誰が平気で味方を見殺すッ!!だいたい私はテロリストなどでは無いッ!!ゴリアテの英雄という割りにはずいぶん下品な犬を飼っているのだなデニムとやらはッ!!」  
しん、と闇が答え。  
次の瞬間、セリエの体はブラッドの片腕一本で襟首を掴まれ持ち上げられる。  
 
「調子に乗ってべらべらまくしたててくれるな姉ちゃん?」  
「離、せッ……」  
呼吸が出来ず、セリエはブラッドの手を引き剥がそうと試みるが、  
「力も無え糞アマが……キッチリ教えこんでやらにゃならねえか」  
ぶん、と片手を振ると、セリエの体は宙を舞う。  
「あ……ぐッ!!」  
投げ出され、呻くセリエにブラッドが迫る。  
「犬だと?雌犬が吠えてくれたな?あぁ!?」  
振りかぶった拳。  
そしてその後に待つであろう凌辱。  
セリエは思わず悲鳴をあげ、目を閉じる。  
「ひッ……」  
 
 
ばちん、と肉が肉を打つ音。  
「バーンッ……!?てめェっ!?」  
声に驚き、恐る恐る目を開けたセリエの瞳に映った光景。それは、岩をも砕きそうな拳を止めるバーンの姿であった。  
「頭、女に拳とかはマズいですって」  
一瞬戸惑うブラッドだったが、  
「どけクズ。死にたいか」  
底冷えのする声で脅す。  
「だってどいたら殴るでしょ?美人は殴るモンじゃなくてキスするモンですよー」  
へらへらと笑っているバーン。が、先ほどから掴んだブラッドの腕が微動だにしない。  
……まさか、力で拮抗している?  
セリエは呆然と見ていた。と、  
「馬鹿、逃げなさいって!!ヤられたいワケじゃ無いでしょーにッ!!」  
叫ぶバーンの声に弾かれたように、セリエは駆け出していた。  
 
逃げて、ばかりだ……。  
セリエは呟く。  
闇雲に走ったとは言え、この距離だ。  
そうそう追いつかれもすまい。  
 
私は最近、逃げてばかりいる……。  
すうっ、と涙が頬を伝う。コレも逃げだ。感傷を感情に乗せて逃げているだけだ……。  
「ゲ・ゲ・グゲゲッ」  
「!?」  
突然の奇妙な声にはっと周囲を見ると、  
「!!」  
野生のリザードマンに取り囲まれている!!  
「くッ、……!!」  
護身用のダガーしか、武器は身につけていない。それでもソレを引き抜く。  
(死ぬかな)  
一瞬そう思い、ソレも悪くないなと思う。  
少し遅れてしまうけど、皆のところへ行けるのだから。  
「グゲェエッ!!」  
一匹のリザードマンが襲いかかって来る。躱し、腹にダガーを叩き込む。  
「グギィャッ」  
奇妙な声をあげてリザードマンが倒れ込むが、  
「!!」  
腹筋に咥え込まれたダガーが、セリエの手から滑り抜ける。  
「ギャァァッ」  
もう一匹の斬撃をかろうじて躱すが、  
「グギャァッ」  
「くゥぁ!!」  
その背後から繰り出された槍の一撃が背中をかすめる。びしゃり、と湿原の泥水の中にセリエは倒れた。  
 
これで終わる。  
私は死ぬ。  
待ってて、皆……。  
いつからか降り出した雨にうたれ、ぼんやりと考えたセリエの目に、  
「うぉおらぁぁあああッ!!」  
怒声と共に巨大な斧が飛来し、目の前のリザードマンを吹き飛ばすのが映った。  
「な……」  
 
 
ばさり、ばさりと湿った羽根の音がする。  
目の前にブーツが降り立つ。  
「平気かい、姉さん!!」  
若干の緊張をはらみつつもへらへらとした感じを受けるその声。  
バーンと名乗ったホークマンが、不敵に笑いながらそこには立っていた。  
「もー、逃げろっつったら天幕のほうへ逃げなさいよ。何でこんなトコに来てるかな!!」  
軽口を叩きながらもバーンの斧は次々とリザードマンを葬る。  
「あ、危ない、左ッ」  
思わずセリエが叫ぶ瞬間も、  
「お見通しよッ」  
バーンには何でもないことのようだった。  
(強い……)  
この男も。先ほどの男も。否、  
自分が、弱いのだ。  
セリエはそれを痛感しながら、遠のく意識を手放した。  
 
 
むず痒いような感覚が、背中と腰に走る。  
雨が屋根を叩く音。  
セリエはゆっくりと目を開ける。  
ぼう、という明かりは松明だろうか。  
「あ、目が覚めたか」  
バーンの声がした。  
 
「あ……」  
何か言おうとした瞬間、  
「!?」  
背中と腰のかすめたキズに柔らかいものがあたる感覚にびくっと固まる。  
「動くなよ。リザードどもの毒を吸い出してるんだから」  
「す、吸いっ……!?」  
ぞわりとした感覚と共に、吸い上げられる。  
「ば、馬鹿やめッ」  
「うるせえ黙ってろ!!」  
突然バーンが声を荒げる。それに固まった隙に、彼は血を吸い、そして吐き出した。  
「はっ、やっ、ちょ……んッ!!」  
セリエは身を捩ろうにも捩れず、ただ悶えた。気がつけば上半身は何もつけておらず、更には自身の弱い腰や背中を男の唇が這い回る感覚。恥ずかしさと官能が互いに加速していく。  
「ふう、こんなモンで平気か……」  
やっとバーンが解放してくれた時には、既にセリエの体は完全に火照っていた。  
「はぁ、はぁ、はぁっ……」  
「だ、大丈夫か?ンなにキツかったか?」  
気遣って伸びてくるバーンの手すら、妙に意識してしまう。  
「あ、ヤッ」  
「もしかして他も怪我……」  
言いながら抱きあげられる。  
「ちょ、待っ……」  
止める間も無く、裸の上半身がバーンの目に晒される。  
「あ、悪ッ……え?」  
 
傷の痛みや何かとは違う、上気した肌。  
固くしこった、二つの膨らみの頂点。  
「……もしかして」  
バーンがにやにやと笑う。  
「感じちゃってた?」  
「!!なッ、何を、馬鹿なッ」  
真っ赤になってセリエは否定するが、  
「ん、あッ!!」  
乳首を爪弾かれ、思わず甘い声が出る。  
「へへ、やっぱり」  
言いながらバーンは首筋に、胸元に啄むようなキスをする。  
「ふぁッ、ちょッ、やめ……ッ、やぁッ」  
甘い声が漏れ出る。自身の「女」を強烈に意識する。  
「ん……」  
「!!」  
唇が吸われ、舌が侵入してくる。抵抗する間も無く、舌が絡み合い、セリエの頭の中に霞がかかってくる。  
「ふ……ッ、あ……ッ」  
「俺も、アンタを見てたら……へへ、こんなになっちまってよ」  
バーンはセリエの手を自らの股間に導く。既にそこは熱くたぎり、隆起している。  
「……あ……」  
「イイ、よな?」  
返事も待たず、抱きすくめられ、愛撫される。優しく、丁寧に、傷をいたわりながら、しかし性感は刺激して。  
「は……ンぁっ、駄目、や……ッ」  
豊かな乳房を揉まれ、吸い上げられ、セリエは少女のように喘ぐ。  
 
「可愛いぜ、アンタ」  
「や、ぁッ……」  
耳元で、甘く響く男の声。  
戦いに次ぐ戦いの日々、セリエはここ暫く全く御無沙汰であった。ましてバーンの指は、その無骨な作りながら優しく、繊細にセリエを愛撫する。  
「んんッ、んッ、〜〜〜ァァっ!!」  
必死に我慢しても甘い声が漏れ出る。  
「……そろそろ、俺も我慢できねえ」  
バーンはセリエのズボンを脱がし、自らの一物をまた出した。  
「!?ッ……な……」  
夢うつつだったセリエの視線が、ソレを見た瞬間に固まる。  
「ん?あ、ああ、ホークマンは人間より立派だって言うのは本当らしいな」  
黒光りしながら天を仰ぐソレは、決して経験豊富とは言えぬセリエにしても規格外である事は容易に理解できた。  
「や、無理……」  
「大丈夫だって。ホラ、……こんなにトロトロにしちまってるじゃねえか」  
「んんんんッ!!」  
陰核を触られ、さらにセリエの膣は熱くぬめる。そこへバーンの指が入り、かき回すように動かされる。  
「あ、あああああっ、や、あ、駄目っ、あ、んあッ、あああっ!!」  
耐え切れず、必死でバーンにしがみつく。  
「……いれるぜ?」  
バーンの言葉に、セリエは真っ赤になりながら頷くしか無かった。  
 
 

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