「きゃ………んっ…」  
 
花輪家のお屋敷のとある部屋に密着する影が二つ。  
 
「……はぁ…」  
 
まだ夜とは言えない明るさの残る、時間は夕方を過ぎた頃だった。  
 
「花輪クン……」  
「何だい?」  
「…花輪クン……ひゃっ」  
 
私は行為の最中に花輪クンの名前を呼ぶのが好きみたいで、それを知っている花  
輪クンが私の首筋にキスを落とした。  
 
花輪クンと私が付き合い始めたのは随分と前の事だった。  
今となっては花輪クンとのこういった行為は、滅多に無いながらも何度か行って  
いて。  
まあ私の家の都合で遅くなっちゃう前にしていたんだけど。  
相手の事が大好きで、だから恋人とする事は自然な事なんだと、私もちゃんとわ  
かっていた。  
 
でも恥ずかしさはいまだに消えなくて、無意識に隠そうとしてしまう。  
 
「さくら、君……腕を、どけてくれない?」  
 
この日もやっぱり顔を両腕で覆ってしまい、花輪クンが息継ぎの合間に聞いてき  
た。  
でも自分じゃどうする事もできないよ。  
 
やだ……恥ずかしいもん…!」  
 
泣いてる私なんて絶対ブスだもん…。  
 
この涙は何なのか、今は全然わかんなくて。  
だから余計に見られたくなかった。  
 
「そんな事、ないさ…」  
 
頑なに隠そうとする私の腕にフワリと添えられた温かさ。  
それは花輪クンの手だった。  
 
「ももこはいつも、可愛いよ」  
 
あれ?いつの間にか呼び方が変わってる。  
 
「無理しなくていいんだ……」  
 
優しく語りかけてくれる花輪クンの声。  
 
「ただ、」  
 
私にだけ与えられる心地良い響き。  
 
「少しでもいいから僕を見ていて欲しい……」  
 
僕じゃなくてキミ。  
 
そんな花輪クンが大好きで、そんな花輪クンだから大好きで。  
 
「は…なわクン……!」  
 
ゆっくりと両腕を顔から離した。  
けど我慢できなくて花輪クンに抱き着くと、ちょっと驚いた声が耳元でする。  
その後に「それじゃあ僕を見ても貰えないな」と笑う声。  
 
「……ゃあ……ん…」  
「ももこ……僕も名前で呼んで…?」  
「和…ひこ……ひゃ…」  
 
もう考える事がままならない頭で、意識を繋ぎながらやっと答えた大好きな人の  
名前。  
 
「好きだよ、ももこ……っ」  
「和彦………私も…好、き」  
 
イク瞬間がどんな感じかなんていつもわからなかった。  
何も考えられないくらい幸せな気分になってるのは感じてるんだけど、これが気  
持ち良いのかはわからない。  
まだ私にはボンヤリとしていた。  
 
そのまま呆気ていると、花輪クンから額にキスされる。  
視線を向けた先にはいつもの微笑みがあって。  
嬉しくて思わずこっちも微笑んでしまった。  
 
「ねぇ、ぎゅうってして?」  
「ああいいとも」  
 
汗ばんだ熱い体を密着させても、鼓動を感じられるから好き。  
裸のまま抱き着くと、花輪クンを全身で感じられるから好き。  
その後抱きしめながらまる子の頭を優しく撫でてくれるのが好き。  
そんな花輪クンが大好き。  
 
「ももこ。いつまでも僕を、見ててくれ」  
「うんっ」  
 
END  
 

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