琵琶湖に出発する直前、太郎は一人の女と会っていた。  
二条通の桜の枝に「逢いたい」と文を結ぶと、その日の夕方には彼女から場所のかかれた返事が吊られていた。  
返事の短冊を握り締め、指定された宿の部屋へ向かうと、既に八千代は待っていて、のんびりとお茶など飲んでいる。  
「太郎ちゃん、ずいぶん急やねぇ。いきなり呼び出して。またどっか行くん?」  
「あ、あぁ。今度のは大仕事やで」  
彼女に自分の仕事は教えていなかった。  
ただ、今回の仕事が自分にとって、いや日本という国にとって、  
何かとてつもないものになるであろうことを太郎は確信していた。  
「はい」  
八千代の入れてくれたお茶を飲んで一息つくと、どちらともなしに二人は奥の部屋へと向かった。  
一組の蒲団が置かれているだけの質素な部屋だ。床の間にすら掛け軸も何もなく、ただ一輪、名も知らぬ花が花瓶に刺してあるだけだった。  
特に話もせず、蒲団の上に寝転がる。沈黙すら有意義な時間に思える女はそういない。  
無言で見つめあうと、自分でも思いもかけない言葉が口から漏れた。  
「…ええか」  
「どうしたん? いつもそんなん言わへんのに」  
その声に、八千代は不思議そうに聞き返す。  
それもそうだ。八千代とはもう長い付き合いのはずなのに、一体何を了解させようというのだろう。  
 
床に敷いてある煎餅蒲団に八千代を押し倒すと、そのまま素早く着物の前をはだけさせた。  
くるくると帯を解くと、何度見ても生唾を飲んでしまう、蝋細工のような白い肌が、羞恥で微かに朱に染まっている。  
蒲団に倒れこんだ八千代の背中に腕を回すと、太郎はそのぽってりとした唇に口付けた。  
『くちゅぅっ』隠微な音を響かせながら、舌の粘膜同士が絡まり合う。  
八千代の口内から溢れた唾液が、彼女の細い首筋を糸のように伝い、胸元まで滴り落ちた。  
その雫の筋を自分の舌で絡め取りながら、空いた手を胸の突起へと向かわせる。  
既に硬く尖ったそこを指の先で摘み上げると、八千代の身体が小さく震えるのが分かった。  
「っ…ぁあっ…やめぇ」  
「なんや。気持ちよくないんか?」  
にやりと笑って訊ねれば、言葉にならない声が途切れ途切れに答えようとする。  
「ぁっ…き…もちえっ…くぅっ」  
「ん。女は正直なんが一番やで。正直モンには、もっとええことしたる」  
ふっと耳元に息を吹きかけながらそう言って、片方の手はそのままに、もう片方の手を脚の間に滑り込ませる。  
太腿の間の淡い茂みを掻き分け、柔らかい場所に指を這わせると、そこはもう刺激を待ってじっとりと濡れていた。  
そのまま敏感な部分に指を当て、くりくりと押し動かすと、八千代の身体が指の動きにあわせて白い蒲団の上を跳ねた。  
「はぁ…ぁんあ…っふ」  
「可愛いわ、八千代」  
 
産毛が逆立ち、じんわりと汗ばんだ肌をいとおしく抱き留めて、太郎は再び八千代に口付けた。  
太郎ののどに流れ込むこぼれ出た唾液すら、彼女のものだと思うと上等の甘露のように感じられた。  
そっと唇を下のほうへ移動させる。蜜で溢れた場所に口付け、わざと卑猥な音を立てて嬲り上げると、八千代はすすり泣く声を上げつつも、ぎゅっと背中にしがみついた。  
形よく手入れされた爪が太郎の肌に食い込み、素肌に跡を付ける。  
「ひゃぁっ、も…やっやぁ…はんっ…。た、太郎ちゃ…も、お願…い」  
「ん」  
何もせずとも、八千代の姿を見ているだけで熱くなったそこを、とろとろに溶けた彼女の身体にあてがった。  
八千代はいつも苦しそうな顔をするので、必ず強く肩を抱き寄せて瞳を見つめてやらねばならない。  
他の女相手なら面倒に思った行為が、彼女に対しては全く苦でなく、  
むしろその顔を見ているだけでも十分満たされるわけに気付いていないわけではなかった。  
…けれど自分の仕事を考えれば、真剣な交際を申し込む事などできようもない。  
こうして遊びと割り切って付き合う事が、自分の中での最大の譲歩だった。  
「あ、あぁっ…太…郎ちゃ…んっ」  
「八千代…八千代、好きやで」  
「ほ…んっま…に?」  
「ああ、お前ほどええ女、京中探してもおらんわ」  
「あ…た…ろちゃ、う、ちも…たろうちゃ、あやあっ…んのことっ」  
「俺の事が?」  
「す…あぁっ、やあぁっ、くっぅっ」  
必死で己のほうを見る八千代をつい苛めたくなり、つい激しく腰を突き上げてしまう。  
いやらしく背中や尻を撫で、耳の中まで嘗め回しながらの腰使いに、八千代の息は荒くなる。  
 
「…八千代、俺もな…」  
「はっ…なっん、やの…ぉ?」  
目に涙をためて悶えながらも聞く姿が美しく、太郎はさらに深く抽挿を繰り返した。  
先ほどを遥かにしのぐ快感の波に対して、八千代に耐えるすべはなかった。  
その刺激で絶頂に達したのか、八千代の身体はびくびくと痙攣を起こした。  
「…お前の事大好きやで」  
その言葉が聞こえているのかいないのか、次の瞬間、太郎が精を放つと同時に、八千代はがっくりと首を落として、意識を飛ばしてしまったのだった。  
 
 
安宿の古びた畳から突き出た繊維が、ちくちくとほの白い背中に刺さる。  
その刺激に、太郎の腕の中でまどろんでいた筈の八千代はふと目を覚ました。  
振り向けば、いつの間にか身支度を済ませている男と目が合い、二人して苦笑を漏らした。  
「悪いな。起こしてしもうたか」  
「ううん。……また、寝てる間に出てくつもりやったん?」  
その言葉には答えずに、男は少し顔をゆがめた。考えている事を当てられると、必ず同じ顔をするのだ。  
その顔が、けれどいつもより幾分こわばっている事に、八千代が気付く事はなかった。  
 
 

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