死んだんだって聞かされていたパパが帰ってきた。
気が弱くてママにはとても敵いそうもない人だけど、でもすごく優しい。
それがボクのパパだった。
夢にまで見たパパがいる生活がいよいよ始まる。
派手な再婚式の後、ボクはパパの膝の上に乗っかって、甘えさせてもらったんだ。
最初はちょっと恥ずかしかったけど、だんだん楽しくなってきて、気がついたらもう十一時。
よい子はとっくに寝てる時間だ。
もう少しパパと遊んでいたかったけど、ボクはいい子だから、おやすみなさいを言って部屋に戻った。
再婚とはいえ、新婚の二人には気を遣わなくっちゃね。
部屋に戻る。
パジャマに着替えて、脱いだ物をきちんとたたんで、ボクはベッドに潜りこんだ。
身体は眠いといっているのに、パパが来た緊張と興奮のせいか、ボクはなかなか寝付けない。
何度も何度も寝返りを打ったけど、やっぱり寝付けなくて、ボクはトイレに行くことにした。
隣の部屋のパパたちにボクが起きているって気づかれないように、ボクは気を遣ってドアをそっと開けて閉め、足音を忍ばせておトイレへ。
用が済んでちょっとすっきり。
これならすぐに寝られる。
パパたちはどうしてるかな。
もう寝ちゃったかな。
パパたちの部屋の前まで来たとき、ボクはそう思って足を止めた。
ボクはただ仲良くしていてほしいな、っていうそれだけの気持ちでそうっとパパたちの部屋の戸を、二人に気づかれないようにほんの少しだけ開けた。
ひょ〜!
キスだよ、キス。
パパとママはまだ着替えないままでキスをしてる。
ママが、いつもだらしなくしてて、わがままし放題のママがおとなしくして、ほんの少しだけほっぺたを赤くしてパパと抱き合ってる姿はなんだかすごく不思議で、
ボクはつい、そんなママを見つめてしまった。
心臓がどきどきしているのが分かったし、覗きをするのはよくないって分かっていたけど、ボクはなぜだかそこから離れられなくなっていたんだ。
「ん……っはあ」
ママが苦しそうに息をして、パパから顔を離した。
良く見えなかったけど、舌が……舌が、出ていませんでしたか?
ママはうっとりとした顔でパパを一度見つめてから、おでこをパパの肩に乗せた。
な、なんだろう、これ以上見てはいけない気が……。
でも、ボクの足は固まってて動かない。
目も、ママたちに釘付けになってしまっている。
って言うか、パパ!
なぜママのお尻を触るの!?
「あっんっ……もう、せっかちなんだから」
???
「蝶子を目の前にして我慢する方が無理だって事くらい、分かってるだろう?」
?????
「あっ!首は……やあ……」
パパがママの首にキスをすると、ママがボクの知らない声を上げた。
「や、なんて嘘ばっかり。蝶子はこうされるのが好きだったじゃないか」
「……誕生日は忘れてたくせに、そんな事ばっかり覚えてるのね」
「誕生日だって忘れてたわけじゃないさ。ただ、仕事が……」
「よしてよ。今はそんな話、聞きたくないわ」
「そうだね。僕も今日はこんな話はしたくないよ」
ママが……ママがしおらしいんですが。
しかも、なんか、気のせいか、ママのお尻が揺れて、揺れて……。
二人はまたキスをした。
今度はさっきより、もっと乱暴な感じで、パパは相変わらず、しかも両手でママのお尻を触って、っていうか、揉んでいて……。
ああ、それは通販で五万円もしたワンピースなのに。
そんなにしわくちゃにしたら、アイロンをかけるのが大変だーー!
って、そんな事より、このまま見てちゃダメだ、ダメだ。
部屋に、部屋に、戻らなきゃ……。
そう思うのに、ボクはまだここを離れられないでいた。
「はッ……」
ママの背中が弓みたいなカーブを作って、ママの顔がパパの顔から離れた。
さっきのは見間違いじゃなかったみたい。
やっぱり舌が……。
「お、お願い……」
『お願い』?『お願い』?ママが、お願い???
「どうしたんだい?」
「焦らさないでよ……」
「このくらいで焦れたのかい?」
「相変わらず意地悪なのね……」
意地悪??パパが???
「蝶子のお願いが聞けるのはこういう時しかないからね」
パパがくすりと笑った。
その笑顔はいつものパパだったけど、その口ぶりは確かになんだか意地悪だった。
「ちゃんと……触ってよ」
節目がちになったママが言う。
「どこを?」
「どこ、って……」
ママはパパを見上げて、睨みつけたみたいだったけど、横から見てても全然怖くない。
むしろ、赤くなったほっぺたはどことなく可愛い……かも。
「服の上からは嫌よ」
「そうだね。じゃぁ、脱いで」
『脱いで』?脱ぐんですか??
僕の頭はすでにパニック。
そんなボクの存在に気づいていないママはパパの腕からするりと抜けると、パパに背中を向けた。
「ファスナー……下ろしてよ」
言ってることはいつもと変わらないのに、ママのこの変貌ぶりは何なんですか?
パパはパパで言われた通りにファスナーを下ろしーーーて、なんで手を胸に持って行くのっ!?
「あっ……うっ……」
「十年前とちっとも変わってない……」
パパがまたママの首にキスをすると、ママは小さな悲鳴を上げた。
「ちょっ……痕、つけないでよっ」
ママが相変わらず怖くない顔でパパを睨んだけど、パパは全然動じない。
「そう?ごめんね」
笑ってそう言うと、またママの首に顔を押し付けた。
散々、首やらほっぺやらにキスをされて、胸も揉まれて、そのせいか、ママはもうぐにゃぐにゃだった。
パパはそんなママのワンピースをあっさり脱がして、後ろから抱きついたまま、ママとベッドに倒れ込んだ。
ママの髪が乱れて、広がる。
パパがママのパンツの中に手を入れた。
ボクはもう、何がなんだか分からない。
驚く余裕もないまま、ほんの少し開けたドアの隙間から、ずっと二人を見つめてる。
「あっ、だ、だめ……」
「駄目なのかい?僕はもう、これ以上は我慢できないよ?」
「うそ……」
「嘘じゃないのは、分かってるだろ?」
「……だったら、早く……」
息を途切れさせながら、ママはまたお願い、と言った。
あれは、なんだったんだろう?
ママがお願いを言った後、パパはママのお尻に……多分、おちんちんを……入れてた。
それから、パパがママの名前を何度も何度も呼びながら、すごくママをゆさぶって、ママはすごくやらしい声を出して、最後に悲鳴を上げて二人してベッドに沈没。
ボクはそこで我に帰って、今しかないと思って慌てて部屋に戻ってきたわけなんだけど、パジャマは汗でびっしょりだった。
心臓はどきどきしてるし、顔は熱い。
やましい気持ちもあるけど、ジェットコースターに乗った後みたいなふわふわした感じが全然抜けない。
ボクはもう一度ベッドに潜りこんで、お腹の下に手を伸ばしてみた。
いつもと違う感じがする。
ボクも大人になったらあんな事をするのかな……。
それはちょっと、怖い気がする。
明日の朝、パパとママに普通の顔で会えるかな……。
今夜はきっと眠れない。
(了)