ようやく春になったとは言っても、雪はまだそこかしこにしっかりと堆積している。  
その雪が夕日を受けて赤橙に染まる紫黒の大路を、市松は愛馬のトープを自分の屋敷に向けて走らせていた。  
紫の上が関東に行くための護衛を二ヶ月勤めた市松は、今日、ほんの今しがた帰郷した。  
菊音の待つ屋敷に帰るのはのは二ヶ月ぶりだ。  
正式に婚約して以来、菊音は市松の屋敷に住んでおり、普段は紫御殿の近くの孤児院で子供たちの面倒を見ている。  
生来の子供好きと、発明好きが役に立っているらしい。  
だが、おかげでこの二ヶ月は離れ離れだった。  
紫御殿に紫の上を送り届けるやいなや、市松は市松同様、旅の疲れが残るトープを飛ばしてきたという訳である。  
屋敷の屋根が見えてくる。  
菊音はきっと、また何か新しい物を発明していて、それを見せてくれるに違いない。  
いや、もしかしたら、案外自分が居ない間に料理の練習でもしていて、手料理を食べさせてくれるかもしれない。  
そんな事を考えていたら、トープの俊足さえ遅く感じられてきた。  
ようやく屋敷に着くと、市松は門をくぐるかくぐらないかのところで転げるようにトープから降りた。  
玄関には向かわず、緩む顔をそのままに庭を回って直接菊音の部屋へ向かおうと、一歩大きく踏み出した。  
その瞬間、  
「あっ!トープ!」  
不意に後ろで声がした。  
思わず前につんのめりそうになるのをどうにか堪えて、後ろを向くと、想い人の菊音はあろうことか、自分より先にトープの首に抱きついていた。  
ほんの一瞬、不満を覚えはしたものの、無邪気な笑顔で、お疲れ様、と言いながらトープの首を撫でる仕草に、市松の不満はすぐさまどこかへ消え去った。  
「菊音ーっ!俺も帰ったぞ!」  
腕を広げて走り寄ると菊音はすかさず一歩下がってから、  
「お市さんもお帰りなさい」  
と、少し視線を外して言った。  
腕が空ぶってしまったのは残念だが、菊音の頬は僅かに染まっていたから、市松はそれで満足した。  
 
それでもついつい、菊音にあれこれ求めてしまう。  
「菊音。お帰りのチューは?」  
顎を突き出し、自分の唇を指す市松。  
「っはあ?そんなものありませんー」  
「えー。いいじゃんかー。愛しの旦那様が半年振りで帰ってきたんだぞ?」  
「半年じゃないでしょ。二ヶ月。  
だいたい、誰が旦那様なのっ!まだ結婚してないでしょっ!」  
毎度繰り返されるやり取りがたまらなく嬉しくて、市松は更に身を乗り出した。  
「菊音には二ヶ月でも俺には半年。いや百年ぐらいの時間だったんだからさー。  
いいだろ?チューしよ、チュー」  
「ちゅうちゅうって、ネズミみたいに……もう、恥ずかしいなっ」  
ふくれっ面を作りながらも、いっそう赤く染まる頬を見ているだけで胸が何かに満たされていく。  
すぐ目の前に居るのだから、いくら相手が身軽な菊音とは言え、すばやく手を廻せば、簡単に抱きしめられる。  
抱きしめて、自分からキスをしてしまえばいいと思う反面、菊音からしてほしいと思ってしまう。  
どうにか言いくるめて、そういう方向にもって行けばいいのかもしれないが、市松は駆け引きなんてものは知らない。  
戦でも色恋沙汰でも、飛騨の市松はいつでもただ押すだけである。  
市松は再度、  
「菊音。お帰りのチュー」  
と唇を突き出してみた。  
菊音は赤いままの顔で俯いて、視線を足元に泳がせ、それから、あたりを見回してからほんの少し背伸びをして来た。  
菊音の唇が、自分の唇にほんの一瞬触れて、そして去っていった。  
顔の筋肉が溶けるかと思うほどに緩む。  
菊音にそのままの顔を向けると、菊音は小さな声で、お帰りなさい、と言った。  
そして、言うやいなや市松の横をすり抜けて自分の部屋へと向かって走り出した。  
「菊音!今日の夜は酒飲もうな」  
小さな後姿に声をかけると、菊音は背を向けたまま右手を上げて小さく手を振り、部屋のある方へと曲がって行った。  
姿が見えなくなってなお、しばらくの間市松はそこに立っていたけれど、表情筋が再活動を始めると市松は、  
「お疲れさん、走ってくれてありがとな。今日はお前も休め」  
そう言って、トープを撫で、厩へと引いていった。  
 
――夜。  
二人の周りには数えるのが面倒になるほどのお銚子が転がっていた。  
「それでねー。銃って言うのを見た時にー、あれと同じもの作るのは無理だけどー、似たのならーって、思ってねー」  
空の拳銃型水鉄砲の引き金を引きながら、菊音がそれを作ったときの事を呂律の怪しい口調でしゃべっている。  
酒のせいか息遣いも少しおかしい。  
水鉄砲についての何度目かの講釈を終えると、菊音はそれをぽいと放り、箸を手にした。  
何かつまもうと思ったらしく、卓を眺めたが皿は皆、とっくの昔に空になっていたから、菊音は仕方なく空の箸をゆっくりとした動作で口元に運び、口寂しいのか箸を噛んだ。  
酒のせいで溶けた目の周りがほんのりと赤く染まっている。  
箸を咥えた唇が時折小さくちゅ、と音を立て、市松は身体がうずくのを感じ始めていた。  
「菊音、まだ何か食うか?」  
「え?……ああ」  
菊音は呼びかけに顔を上げ、しばらく市松の顔をじっと見てから、俯いて口を尖らせ、要らない、と言った。  
「口が寂しいんだろう?」  
問いかけに、視線だけがこちらを向く。  
誘われている気がするのは、自分が菊音に飢えているせいか、と自問自答していると、菊音が何か決意したように口を開いた。  
「お市さん……!」  
「どうした?」  
「と、隣に行っても、い、いかなっ」  
また表情筋がどこかに消えていく。  
「おう!もちろん。なんなら、膝の上でもいいぞ!」  
市松が膝を叩いて、両腕を大きく広げると、立ち上がりかけていた菊音は、  
「えー。膝は、いくらなんでも恥ずかしいよう」  
と、言った。  
 
それでも、傍に来た菊音に市松が、来いよ、と手を差し伸べると、菊音はその手に自分の手を重ねて、お邪魔します、と遠慮がちに膝の上に腰を下ろした。  
片腕にすっぽりと納まってしまう華奢な肩を抱き寄せると、菊音は抵抗することなく、頭を左肩に乗せてきた。  
繋いだままの手をなんとなく握ったり解いたりするだけなのに、押し倒してしまいたい衝動に駆られる。  
その衝動をどうにかやり過ごそうとしていると、顎に菊音の唇が触れた。  
「……菊音?」  
菊音はゆっくりと、どこかけだるそうに頭を上げ、空いていた手を市松の肩に置いた。  
「お市さん……」  
酒気を帯びた息が唇に触れる。  
「目ぇ、閉じて」  
恥ずかしそうに笑ってそう言う菊音に、市松の理性は危うくそのたがを外しそうになった。  
しかし、菊音からこんなことを言ってくるなんてことは今までに無かった。  
酔った時、いつもと違う色香を纏うことはままあるけれど、それでも誘っていたのはいつも自分の方である。  
市松は身体の内側で増幅する興奮を抑え込み、言われたとおりに目を閉じた。  
「開けないでね」  
「おう」  
「……開けちゃダメだよ?」  
「うがーっ!!開けないって!」  
思わず目を開けて吠えると、菊音が目の前でじっとこちらを見ていた。  
珍しくこちらを直視するその表情にもどきりとする。  
これ以上耐えるのは正直、かなり難しい。  
それを菊音に悟られないように、市松は咳払いを一つして、改めて目を閉じた。  
 
「おかえり、お市さん」  
菊音はそう言うと、唇を押し付けてきた。  
先ほどとは違って、きちんとしっかり触れてくる。  
触れていた鼻先が一度離れ、唇も少し遠ざかった。  
けれど、すぐにまた、今度は傾斜をつけて唇が塞がれた。  
唇の隙間が消えて、繋いでいた手が強く握られる。  
腕の中の身体が熱い。  
いや、熱いのは自分かもしれなかったけれど、市松にはもう区別がつかなくなってきていた。  
口の中で舌を大人しくさせておくのが困難になってきた。  
抱いていた肩をそっと引くと、菊音は促されたとおりに顔を引いた。  
ふ……とこぼされた小さな息が火照った口元を冷やす。  
薄く目を開くと、菊音と目が合った。  
いつもなら、すぐに伏せてしまうその視線を今日は伏せない。  
潤んだ目で微笑むと、菊音はまた顔を自分から寄せてきた。  
遠慮がちな舌使いが唇を嬲ってくる。  
ほんの少しの動作だというのに、それ以上されたらおかしくなりそうで、市松はその舌を唇で捕らえた。  
「んーっ!」  
菊音が抗議の声を上げたけれど、それには応じず、そのまま菊音の口を塞ぐ。  
触れ合う舌先が甘くて、市松はしばらく菊音の舌と唇を味わうことに没頭した。  
ゆっくりと互いに唇を食んでは舐め、吸っては離しとするうちに、肩に置かれた菊音の手が、きつく寝巻きを握り締めてくるようになった。  
焦れているのだろうか。  
それともただ、空気を欲しているだけなのだろうか。  
いずれにしても、市松に菊音を開放してやろうという気は起こらず、市松は繋いでいた手を菊音の腕へと登らせていった。  
 
市松の手が二の腕にたどり着くと、菊音は小さく、おそらく無意識に肩を竦めた。  
かまわずに手を身体へと移し、パジャマの上から胸を探る。  
指先に微かに触れた突起を手がかりにして、その周囲を幾度か指で柔らかく押してやり、それにつれて顕著になってきたその先端を指で擦る。  
「んっ……ん、う……」  
市松が指を動かすたびに菊音は小さく声を漏らし、絡み合っている舌がぴくりと跳ねた。  
その声がもどかしそうに、焦れているように聞こえて、市松は親指と中指できゅ、とそれを挟み込んだ。  
「っ!ふ、あっ!」  
不意に菊音の顔が離れ、二人の唇の間に溜まっていた唾液が堰を無くして、市松の顎へと落ちた。  
「あっ……あ、ごめんね」  
飲んで酔うのはいつものことだが、今日はやはり何か違う。  
菊音は口を近づけてきて、その雫をちゅ、と吸った。  
そしてそのまま、おずおずとしたふうではあるけれど、自分から唇を寄せてきた。  
いつもよりちょっと積極的な菊音を堪能したい。  
そう思うのに、身体が急かしてそうさせてくれない。  
市松は軽い口付けを返すと、パジャマの裾を捲りあげた。  
 
「えっ!あ……」  
市松の手に簡単に納まってしまう、乳房と呼ぶにはあまりにも緩すぎる傾斜と淡い桃色の乳頭が顔を出し、朱が菊音を耳まで染めた。  
きつく目を閉じてしまった菊音の鼻の頭に一つキスをして、市松は顔を身体の方へと移した。  
舌でそっとその先端を撫でてやる。  
「くっ……ふ、はッ」  
声を抑え込んでいるせいで荒くなった菊音の息が耳にかかり、市松をさらに高めていく。  
舌を押し返してくるようになったそれを唇で捕らえると、菊音が頭にしがみついてきた。  
目の前の胸が荒く上下している。  
そろそろ……と思い、パジャマを手放すと、それは目の前に落ちてきた。  
さすがに鬱陶しい。  
「菊音、ちょっと、放せ」  
「……へ?な、なに?」  
「頭だ、頭。ちょっと放せ」  
「あ、うん」  
市松の言葉をようやく理解した菊音は市松から腕を解いたが、その腕ですぐに胸元を隠してしまった。  
「その手も」  
「えぇ……だって、恥ずかしいよう」  
消えそうな声で訴えられたが、なだめてやる余裕はもう無くて、市松はパジャマを引っ張った。  
「おっ!おいち、さんっ!」  
「すまん、菊音」  
「え?あ、ちょっと、たんっ……」  
 
市松は剥ぎ取るように菊音からそれを脱がすと、そのまま座布団の上に押し倒した。  
菊音は両腕で胸を隠し、真っ赤な顔を背けている。  
何か言いたかったけれど、言葉が上手く出てこなくて、何も言わないまま市松が菊音の腰に手を置くと、菊音はほんの少しだけ腰を浮かせた。  
堪えきれずに、下着も一緒に引き下ろすと、菊音が慌てて身体を起こした。  
「あっ!うそ、やっ!」  
とっさに身体を隠そう捩られた腹から尻のラインが、意図せずに市松を誘う。  
「……菊音があんまり色っぽいから、ついな」  
菊音の両脇に手をついて市松がそう言うと、菊音は口を尖らせた。  
「お市さん、すけべよ」  
「バーカ、惚れた女の身体に欲情しない男が居るかよ」  
市松が同じように口を尖らせると、少し不服そうだった菊音はその言葉に僅かに俯いた。  
俯いたけれど、菊音は両腕を遠慮がちに市松の首へと伸ばしてきた。  
菊音の身体は見えなくなってしまったけれど、首に絡められた腕と頬に押し当てられた唇が愛おしくて愛おしくて、市松は片腕で菊音を抱いて、再度座布団の上に菊音を寝かせた。  
再び唇を重ねてから、市松は菊音の身体に手を置き、脇から腰へと滑り降りていくと、手の下の脚に力が入るのが感じられたけれど、菊音は脚を閉じずにいてくれた。  
その間に手を入れる。  
指先にぬるりとした感触が伝わってきた。  
その流れに誘われて指を進めていく。  
「あっ!……ふうぅ」  
周りの肌にも刺激を加えながら中指の先を身体の中心へと差し込むと、菊音の唇が離れた。  
 
市松の肩にすがりつき、眉根を寄せて声を殺そうと唇を噛んでいる。  
顎に口付け、指では入り口をくすぐる。  
指をもう一関節沈め、鎖骨に鼻っ面をすり寄せて、そのすぐ下の柔らかい肉を吸う。  
「んッ!」  
「すまん、痛かったか?」  
菊音の声に市松が慌てると、菊音は小さく数度、顔を横に振った。  
「へ、平気だよ……」  
謝罪の意を篭め、今しがた自分がつけた跡に口付けて、市松はまた唇を下へと移していった。  
乳房を通り過ぎ、鳩尾を経て舌先でへそを擽る。  
寝巻きの肩を握り締めていた菊音の手が、市松の頭に添えられ、髪に指が絡みついてきた。  
それにつれて菊音のこぼす息も荒く、切なくなっていき、市松の唇の下では菊音の腹がひくひくと震えた。  
顔が手と同じ位置まで来たところで、市松はそれまで微かに動かしていた指を更に奥まで進めた。  
「はっ!あううっ……!」  
声と同時に指が締め付けられ、熱い雫がとろりと手の甲まで流れてきた。  
「ふ、……ん、んんっ!」  
自分の指と菊音の身体の境に舌を這わせ、その奥を押すたびに菊音はびくびくと身体を震わせる。  
かみ殺した声が市松の耳を打ち、市松は耐え切れず菊音から指を引き抜いた。  
菊音が詰めていた息を短く吐き出した。  
「菊音、もういいな?」  
市松が顔を上げて問うと、菊音は目尻に涙を滲ませて、こくりと頷いた。  
 
寝巻きの帯も解かず、そのまま菊音の上に身体を移すと、菊音の手が襟元にかかった。  
「お市さん……ずるいー……」  
口を尖らせてそう言いながら、市松が寝巻きにしている浴衣の胸元を引く。  
「菊音も意外とすけべじゃん」  
思わず笑ってそう言うと、お市さんは女心が分かってないのよ、と言われてしまった。  
けれど、否定は出来ない。  
帯を解きながら舌を出して誤魔化すと、菊音は、  
「でもいいの。お市さんだから」  
と、また首に手を伸ばしてきた。  
上体を菊音に預け、身体の中心を合わせる。  
「いいな?」  
もう一度尋ね、菊音が同意したのを確認すると、市松は菊音の中にゆっくりと己を沈めていった。  
「ん……く、ふっ」  
汗ばんだ肌と肌がぴたりと重なり、菊音が首にしがみついてきた。  
それに合わせるように、身体の芯も締め付けられる。  
耐え難い快感に市松は自分を抑えることが出来ず、すぐさま身体を揺らし始めた。  
繋がった箇所から、濡れた音が響いてくる。  
「あっ!は……ぁうっ!」  
菊音が寝巻きの背を握り締めているのが分かる。  
別々に過ごしていた二ヶ月間の言いようのない想いが今更のように首をもたげてきて、市松はそれをかき消すように動きを荒くしていった。  
「菊音……ッ」  
「お……いち、さっ……あ、んぅッ!」  
目の前にある赤い顔が、顰められた眉が愛しくて思わず名を呼ぶと、菊音は答えてくれた。  
喘ぎながら自分の名を呼んでくれる。  
もはや自分を制御できず、市松は菊音の身体を抱きしめ、喉元に食いつき、ひたすら攻め続けた。  
「ひぁあッ!……あんっ!ふ、うッ!」  
菊音も小さな身体で市松にしがみつき、市松の動きに合わせて噛み殺す余裕のなくなった嬌声を上げ、蠢く肉壁が市松に絡み付き、きつく締め付ける。  
華奢な身体全てで抱きしめられ、市松は菊音の中で果てた。  
 
市松は菊音の荒い息遣いを耳にして、慌てて身体を起こした。  
意識が途切れていたのはほんの僅かの時間だったらしく、菊音はまだ小さな胸を喘がせていた。  
菊音の真隣に横たわり、袖を通したままになっていた浴衣を菊音にかけてやると、菊音の細い身体はすっぽりとそれで覆うことができた。  
菊音の顔は上気した顔をしばらく眺めていると、菊音が目を開けた。  
「よ。だいじょぶか?」  
その問いを聞いてから少しの間、菊音はぼうっとした顔で市松を見ていたが、何を言われているのか認識すると、菊音は市松の寝巻きで顔を半分ほど隠して小さく頷いた。  
酔いがだいぶ醒めたのか、先ほどまでの大胆さはなくなっている。  
「寒くないか?」  
首が横に動く。  
それを見てから、市松は菊音の頭を撫で、ふと思いついたことを口にした。  
「なーなー、菊音もさー、寝るとき浴衣にしろよ」  
疑問符の浮かんだ目がこちらを見てくる。  
「その方がすぐに脱がせられるじゃん」  
市松がそう言うと、菊音は落ち着き始めていた顔をまた赤くして、  
「お市さんのすけべっ!」  
と、こちらに背を向けた。  
上半身を起こして顔を覗き込む。  
「いいじゃん、いいじゃん。お互い楽だしさ」  
「しーらーなーいー」  
「ちぇー」  
「せっかく、帰ってきたのに、そんな事ばっかり」  
菊音の頬がぷくっと膨れ、市松はその言葉に胸の辺りがくすぐったくなって、更に身を乗り出した。  
「えっ!なになに?なんだー。菊音も俺に会いたかったんじゃーん」  
こちらに背が向いているのをいい事に、その頬にちゅ、と軽いキスをすると、菊音はその頬に手を当てて、小さな声で、それでも市松の耳に届くように、  
「もー。好きな人に二ヶ月も会わないでいて、寂しくない女の子がいる訳ないでしょ」  
と、言って頭まで市松の浴衣に潜り込んだ。  
 
(了)  

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