多聞〜Mの場合〜
「あ、うっ!」
多聞は声を上げてこちらを見た。
相変わらず、判るようで分からない顔つきをしている。
けれど、その頬は明らかに紅潮していて、
身体に与えられる痛みを苦痛と感じているとは到底思えないものだった。
痛いのかどうか尋ねてやると、多聞は、
「叩かれたら、痛いに決まっているのだす」
と、普段どおりの口調で、けれどどこか掠れた声で答えた。
痛いなら可哀想だ。
やめようか、と問うと、僅かではあったが困惑の色が浮かんだ。
見逃さずに言い分を聞くため、耳を寄せてやる。
「だども……」
いつもと違って、歯切れが良くない。
ちゃんと言ってくれないと分からないと告げると、
多聞は困惑しながらも、紅潮し始めた顔で、
「あんたにされるんなら、痛いだけではないのだす」
と、教えてくれた。
多聞〜Sの場合〜
木刀が背中に飛んできた。
痛みに思わず声をあげてしまうと、淡々とした口調で、
「痛いのだすか?」
と、尋ねられた。
いたわりがあるのかないのか分からない問いかけに
ただ頷くと、また木刀が飛んできた。
「だども、それが好きだから、もっとと言ったのはあんたなのだす。
嫌ならそう言ってくれれば、すぐにやめるのだす」
口調はあくまで淡々としている。
どんな顔でこんなことを言うのだろう。
ふとそう思って見上げたけれど、何を考えているのかは
いつもと同じで分からない。
答えを迷っていると、多聞はまた聞いてきた。
「やめるのだすか?」
その口調は淡々としていたけれど、
こちらがやめて欲しくないのを分かった上での質問であることは明白だった。