(ご服用になる前の注意・・この文には原作ではその場に居るはずなしの  
「矛盾」が多く含まれております ご服用の際には「読み合わせ」に注意して  
正しい読解力をもってお臨み下さい)  
 
・・無限の闇に飲み込まれた筈だった・・  
・・だが闇に底があった  
 
「・・・・ですか?先生?・・・・」  
「・・・・いや・・・・2日も・・・・もつかどうかじゃが・・・・」  
周囲の雑音が意味を持つ言葉になり始め   
最後うす絹の覆いを払うように 彼は眼を開いた  
 
「あ、先生!」  
「む?・・おぉ、気がついたか」  
焦点が定まらず 頭もまだくらくらする  
幾人か見知らぬ者の中で   
大層小柄な老人がにこにこと話しかけてきた  
「よかったのう なぁに若いし見たとこ体力もありそうじゃ  
傷は完治する 養生せぇよ」  
 
「あぁほっとしたぜ 今度からケンカするなら  
 じべたでやってくれんか?夜郎組?」  
続いてひときわ眼を引く金髪の大男   
「息があるのも放っておけんしな  
あの状況で2人運ぶのは 骨おったぜ」  
・・では この男が・・オレを地獄から引き戻したのか?  
 
納得できぬ方ごめん編の2  
「あとはヤツだけだな」雷蔵は不安げに奥の寝台をみやる  
「うむ・・こやつとは比較にならん深手じゃ  
この一昼夜に意識が戻らねば 正直きびしいのぅ」  
寝台の上には 死人のような土気色の肌の男が一人  
その整った美貌をひと目見て 蜂矢はあっと息を呑む  
・・大猿!!  
 
「どうした?何も口にせんそうじゃが」  
「京の味付けは薄口と聞くがの   
病人食なら代わり映えないじゃろが ん?」  
芭蕉の問いかけにも 蜂矢は能面の表情を崩さない  
「・・心が折れてしまっておる  
 体の傷は直せても こればかりはのう・・」  
さすがの芭蕉も渋面を刻み 考え込んでしまった  
 
揚羽の容態は何も変わらず その夜は更けた  
監視用にともされた揺らめく炎に映えて ぞっとするほど美しい  
未だ目覚めぬその横顔を眺めながら 蜂矢は自問する  
・・大猿よ・・  
やつのおかげで多くの同胞が斃れた ・・密も・・  
だがどうしたことか何も感じない   
あれ程たぎった憎悪の炎は消え去り くすぶりも残っていない  
・・オレはどうしたいのだ?  
 
 
時間(とき)はこぼれる砂のように過ぎていく  
翌日の太陽も既に地平の下に隠れてしまった  
 
「そろそろ目覚めちゃどうだ?揚羽よ・・」  
毎日様子を見に来ては 雷蔵は語りかける  
「お前はオレの弟みたいなもんだ  
 お前が辛い生き方をしていると知っていながら  
 オレには何も出来なかった・・  
 本当に来るんだぜ 新しい時代がよ  
・・今度こそ ゆっくり話が出来ると思ってたのにな・・」  
横たわる「弟」の手を握りしめる 雷蔵の肩が震えている  
大猿よ・・お前はこの男に応えぬのか?  
 
「さぁ 少しどいてね 包帯を替えますからね」  
ユウナがてきぱきと手を動かす 寝巻きの合わせを整えながら  
「それにしてもキレイねぇ・・なんていうの、「妖艶」ていうか」  
「あぁ・・蒼の王の宴で踊ったこいつは そりゃ凄かったぜ  
 花のようにたおやかで 触れなば落ちんとみえて  
 時に冷ややかで 挑発的でな ざくりと艶をだす  
 こうして眠っている姿をみてもな ・・なんかこう・・」  
 
「オレはホモの兄貴はいらんぞ」  
え?  
一瞬2人は理解できない だが次の瞬間  
「あぁぁ・・揚羽!あげはぁ!!」  
「よかった 本当に ・・先生!揚羽が!先生!」  
 
重苦しかった病室の空気が いっぺんに和む  
雷蔵は男泣きに泣いている  
「なんじゃ 更紗にはまだ知らせてないのか?」  
「えぇ 助かるかも微妙でしたし 期待をもたせてもと」  
「そんなら あす一番に伝えるがええ   
 きちんと直してやるから安心せぇとな」  
 
「タタラになら会ったさ」眼を伏せて揚羽がいう  
「きちんと礼もいっといた・・借りも返してもらったってな・・  
・・あぁそうだ たろーちゃんも見かけたな  
川岸で恨めしげに手招きしてやがったぜ ははは・・」  
乾いた笑いをした途端 少しむせ始める  
「こらこら まだあまりしゃべっちゃいかんぞ  
 これを飲んで休むんじゃ」  
和気藹々のやりとりに 蜂矢は背をむける  
 
深夜 皆が寝静まった頃・・  
「飯くってねぇそうじゃないか」揚羽の言葉に蜂矢は振り返る  
いつから気がついていたんだ こいつ?  
「今朝から起きてはいたんだが しゃべる気力がなくってな  
 頭がはっきりしたのはいいが あちこち痛くってしょうがねぇ  
 流石の揚羽さんもまいったぜ・・」  
「ま 芭蕉先生は名医だ 任せときゃいいが  
 食わなきゃすぐにお陀仏だぜ」  
 
蜂矢は答えずにただ見つめる 揚羽はそちらを見ようともせず  
「・・なぁ 何が正義かとか 大儀だとか 難しい話は抜きだ  
時代に逆らって生きるのもそろそろ疲れたろ  
 自分自身で道をひらいちゃどうだ?」  
 
蜂矢は答えない  
「・・流石の石頭だな 王家と共に滅ぶも本望か  
 ならいっそ死んじまいな  
 死んだヤツをどう扱っても 拾ったもんの勝手だろ  
 そうして いいやつにでも 拾ってもらうんだな」  
 
蜂矢は答えない  
いつのまにか隣の男は 安らかな寝息をたてていた  
蜂矢の意識も 暗い闇に飲み込まれる・・  
 
 
「・・朱理ダメだよ きっとまだ眠ってるよ」  
「構わん 言わねばならん礼がたまっている  
 用がすめばすぐに帰る」  
どすどすと傍若無人な来訪に 蜂矢は目を覚ました  
「あ ごめん 起こしちゃって えっと貴方は・・」  
目の前には年端も行かぬ少女 それに・・  
「揚羽!どこだ?」  
朱理は蜂矢に目もくれず 奥に進んでいく  
「どこだ?どこにもおらんじゃないか?」  
 
「無茶じゃ!あの体で抜け出すなど」  
芭蕉は憤慨していたが やがてため息をつき  
「全く 困ったやつじゃ ひと時も同じ場所におらん」  
 
ユウナは気の毒そうに  
「更紗ごめんなさい もっと早くに知らせればよかったね  
 貴女のことも話してたし あたしてっきり・・」  
「ううん いいの もう会ったから」  
蜂矢は耳を疑った 皆もあっけにとられる  
その言葉は昨夜の揚羽と同じ・・  
更紗はにっこりと続ける  
「あの時来てくれたの・・  
・・生きていてくれたら もういい」  
 
「おーー 蜂矢じゃないか」  
たった今気付いたと 朱理が近寄ってくる  
「随分と頬がこけたな ますますふけたんじゃないか?  
 飯くってないんだろ?」  
「赤の王 よくぞご無事で」  
「その名はもう捨てた 今はただの名無しの朱理だ  
 そうだ そなたも名など捨てろ!  
 オレの下で新しいことをさせてやる」  
 
 
何年かの後・・  
砂漠を渡る商隊(キャラバン)が 蒼い民とすれ違うという  
時に華麗に 時に優雅な舞を披露しては  
砂の原を渡っていくという・・  
 

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