特別疲れ果ててベッドに入った夜、決まって似たような夢を見るようになった。  
安居と一緒に風邪をひいた、あの日から。  
 
茂は、のろのろと二段ベットのはしごを登る。  
「早く寝なきゃ、明日起きられないぞ」  
安居はすでに自分のベッドに横たわった状態で、茂に声をかける。  
「うん、わかってるよ。おやすみ。練習に付き合ってくれてありがと」  
身体能力にあまり自信のない茂は、よく課題をこなせず、安居に特訓してもらうことがある。  
今日も散々体を動かした後だった。茂ははしごを登っただけで疲れ切ってベッドに倒れこむ。  
 
ああ、今日も…  
 
寝がえりをうって、仰向けになる。  
 
ちんちんが、おかしいよ安居  
初めてこうなったときは、安居にそう言って相談した。  
自分の局部にすべての感覚が集中したかのように熱かった。  
恐る恐る触ってみると、いつもとは全く違う硬さ。  
白いねばねばしたものが先から出て、精通した。  
性教育の授業で習っていたとはいえ、ひどく驚いた。安居に相談しなければ、思い悩んでいたかもしれない。  
 
(今日も、ちんちんがおかしい…)  
最近、法則を見出した。風邪のとき以外にも、疲れたときにこうなってしまう。  
少しだけ息があがる。意識が股間に集中する。鼓動が早まる。  
でもこれにどう対処すればいいのかはわからない。  
茂は息を整え、眠るように努力した。  
 
…  
源五郎の声。  
「ああ、交尾なら今動物たちがやってるけど」  
茂は、動物小屋のそばにいる。隣には安居。  
小屋には、すごい声を上げて動き回る豚。  
「すごいな、興奮してるんだな…」  
安居の言葉。豚を指す言葉なのに、なぜか茂の頬が熱くなる。  
(僕も、興奮してるんだ…)  
いつのまにか、雌の豚の上に乗っているのは茂だった。  
体全体を動かすように激しく動く。  
興奮する。  
興奮する…  
 
 
「ふぁっ」  
はっと目を覚ました。寝汗をかいていた。股間がしびれている。  
恐る恐る体を起こし、ズボンとパンツを一緒にめくる。  
白い液体がパンツと腹にべったりとついていた。  
(また、でちゃった…)  
夢精するのはこれで二度目だ。  
以前も、同じように動物の交尾の夢を見て夢精してしまった。  
しかし、今回の夢では、豚に代わって交尾していたのは茂だった。  
(僕、おかしいのかな…)  
自己嫌悪で涙が滲む。  
外はまだ薄暗い。安居はこんな夢を見たりしないんだろうかと、そっと眠っている安居のベッドを覗く。  
 
 
この日は授業の後、特別することもなかった。  
安居と2人の男子と、茂たちの部屋で4人で一緒に宿題を片付けたあと、雑談にうつった。  
「なあ、安居」  
1人が安居に話しかける。  
「あのさ、…」  
安居にそっと耳打ちする。もう1人もしたり顔でにやにやと笑っている。  
「なに? 僕には教えてくれないの?」  
「茂はなぁ…」  
二人はにやついて茂を見る。安居は照れたような憮然としたような顔で尋ねる。  
「お前ら、そんなもんどこで手に入れたんだよ」  
「卯浪の部屋だよ。あいつすげーいっぱい持ってたから一冊くらいばれねえぜ」  
ちょっと待ってろよ、そう言って1人が自分の部屋に戻った。  
数分後、こそこそと手に持ったものを隠しながらまた茂たちの部屋に戻ってきた。  
 
「これだよ」  
「えっ」  
茂には、それがなにかわからなかった。表紙には胸の谷間を強調したポーズできれいな女性が笑っている。  
安居が顔を赤くしている。  
「エロ雑誌。結構すげえんだよ」  
「え、エロ雑誌?」  
茂が赤くなる。安居と茂にその雑誌が渡された。  
安居が平然と(茂にはそう見えた)表紙を開く。  
「うわぁ…」  
「…すげー」  
最初のページには女性が裸で横たわっていた。安居の指がページをめくる。  
次のページには、仰向けに寝た女性が、足を大きく開き、濡れて光る性器を見せつけている。  
声もなく見つめる安居と茂に、1人が声をかける。  
「な、すげーだろ。卯浪の部屋には、そこんとこが隠れてる写真ばっかりの雑誌もあったんだけどさ、これは違うんだぜ」  
得意げに言うその声は茂には届いていなかった。  
初めてみる女性の性器。グロテスクで、淫靡だった。  
ページがめくられる。そのたびに興奮が高まっていくようだった。  
無意識に、息が浅くなるのを隠す。  
興奮する…  
 
「茂ー。そんな真剣に見んなよ」  
声を掛けられて気づくと、全員がこちらに注目していた。思わず真っ赤になる。  
雑誌の1ページが破かれ、茂に渡される。  
「そんなに気に入ったんならこれ、やるよ。オナニーのときに使えば」  
「お、オナニー?」  
戸惑う茂を笑い、1人が指を筒型にして縦に動かす。  
「オナニー、知らねぇの? 自分でちんちん触ってさー射精させんだよ。気持ちいいぞ」  
「そ、そんなこと…みんなしてるの?」  
2人はためらいなく頷く。安居は、少し赤くなって「ああ」と言った。  
「安居まで…」  
「今日、やってみろよ。ちょっとこの雑誌は茂には刺激が強すぎたなー。今夜は眠れねぇぞ」  
雑誌をすべて読み終わる前に時間が来て、その場はお開きになった。  
 
 
寝がえりを打つ。  
もう安居は寝ただろうか。そっと下のベッドを覗く。安居は壁のほうを向き、よく寝ているようだった。  
そっと枕の下から、折りたたんだ雑誌の1ページをとりだす。  
卑猥なポーズをした裸の女性。これを見るまでもなく、もうずっと『ちんちんが変』だった。  
(今日は疲れてるわけじゃないのに、やっぱり僕変だ)  
鼓動が早まる。やってみようか、と考えて、またためらう。  
 
そっと起き上って、ズボンを下ろした。いつの間にか鼻息が激しくなっている。  
先が少し濡れている。触ってみる。  
(あ…)  
不思議な感覚だった。性器を揉むように触る。  
しびれるような、こそばゆいような感覚。どんどん息が荒くなるが、これが快感なのだとはまだ茂は気づいていない。  
手を、友人がやっていたように筒型にして性器に添わせ、縦に動かしてみる。  
「あっ」  
思わず声が出て、あわてて手を止める。  
(安居が起きちゃう…)  
もう一度手を動かす。しびれるような感覚がどんどん強まっていく。  
裸の女性の写真を見ると、その感覚は一層強まった。  
声を出すことは我慢できたが、はぁはぁ、という息遣いだけは隠すことができなかった。  
(これがオナニー…)  
快感に目を細める。夢中で手を動かす。  
突然、さらにしびれたような感覚に変わった。怖くなる。手を止めようとする。止められない。  
なにかが突き抜けるようだった。  
(だめ、なんか…おしっこがでちゃいそう…)  
そう思っても擦り上げるのを止められなかった。頭の中が真っ白になる。  
性器の先から、白い精液が放出された。  
 
 
終わった瞬間、自分の鼓動の早さと息の荒さを自覚した。  
ベッドに仰向けに寝転がる。  
(射精、しちゃった…オナニーしちゃった…)  
大きく息をつく。  
出したものの処理をしなければ、と思いながらも、茂はいつのまにか眠りについてしまった。  
 
 

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