憂姫はもくもくと視界を遮る湯気に目を細めた。
後ろでは侍女が笑いながら湯浴みの準備を始めている。
「…一人でできます…だから…」
「いけません。私のお仕事ですから。ね、憂姫様」
にこにこと侍女が笑いながら憂姫の背中を押す。
目の前には貝殻を模した湯船になみなみとお湯が張ってある。
「でも…」
もう既に全裸にされた憂姫は少し恥ずかしそうにしていた。
もじもじと自分の乳房を両手で隠している。
その様子を侍女は嬉しそうに見ていた。
――最初の頃は人前で恥ずかしがるなどしなかった憂姫だが、
最近は恥ずかしがるようになった。
ようやく、この姫は失われた16年の月日をゆっくりと取り戻し始めているのだ。
見た目こそ少女から女性へとなる年齢に見えるが、
実際は生まれたばかりの赤ん坊同然なのだ。
自分の目で物を見、触れ、取り戻し始めたばかり。
その証拠に彼女――憂姫は感情を表に出すようになってきた。
「ささ、折角入れたお湯が冷めてしまいますわ。
憂姫様、どうぞお入りになってください。私が王様に怒られてしまいます。
それとも、今氷月様を呼んできてお風呂に入るように頼みますよ 」
「……」
怒っているような、恥ずかしがっているような…そんな微妙な顔をして
憂姫はゆっくりと湯船に片足を入れた。
熱くもなく、ぬるくもなく――程よい湯加減に安心し、もう片方の足を入れると
湯船からお湯が溢れた。
憂姫と同じように全裸になった侍女も湯船に入ってきた。
また、お湯が溢れた。
柔らかい絹のような憂姫の肌を侍女の指がそっとなぞる。
「美しいですわ…憂姫様」
侍女がタオルに石鹸を付け泡立てると憂姫の体を洗い始める。
憂姫は、どうもこの行為が苦手だった。
最初は特に疑問を持たなかったが、
だんだんと他の人に自分の体を見られ触られるという行為が、
本当はとても恥ずかしい事ではないかと思うようになっていた。
何故かは判らないけど服を脱ぐだけで運動をしている時のように、
体が熱くなり顔が赤くなってくるのが判った。
憂姫は自分の体を洗う侍女に目を向けた。
向かい合わせになりながら、侍女は割れ物を扱うような丁寧な手付きで
憂姫の体を洗っていく。
石鹸を付け、お湯をかけ流す…そんな行為が、憂姫にとっては恥ずかしかった。
目の前で自分の前に全裸でいる侍女に憂姫は聞きたかった。
恥ずかしくないの?と。
形の整った乳房、くびれた腰、そして…股間の茂み、全て『女』として主張している。
それに比べ、と憂姫は自分の体を見た。
自分の体は…ちゃんと女として見てもらえているのかな、と思った。
「次は髪を洗いますから、ゆっくり湯船に浸かってくださいね」
憂は無言でうなずき、腰掛ける。
そしてまた考え事を始めた。
氷月を見ているだけで、憂の胸は苦しくなった。
切ないような、それでいて甘い…そんな想いをずっとしていた。
ある日憂は姉の響古姫に聞いてみた。
これって何?と。響古姫は笑って告げた。
それは『恋』だと。
憂は色々な人に聞いてみた恋って楽しいの?と。
皆楽しいと言うけれど、実際は苦しかった。
憂は、氷月が好きな人を知っていたから。
「…姫様、憂姫様!」
侍女の声で憂姫は我に返った。
顔を上げると侍女が少し心配そうに見ている。
「終わりましたよ」
何時の間にか髪も洗い終わっていた。
「ありがとう…」
そう言って侍女の手を取りゆっくり立ち上がる。
侍女が「まだ洗い残している場所があります」と言って微笑んだ。
「…?」
不安げに憂はまた胸を隠した。
「いいえ、そこじゃありません」
侍女は自分の手に石鹸を付けると良く泡立てた。
「もっと、デリケートな場所です」
侍女の手が先ほどは洗わなかった下腹部へと伸びる。
「憂様、力を抜いてくださいまし」
恐れを含んだ表情で自分を見る姫に侍女が苦笑する。
「恥ずかしい…」
「ここも綺麗にしないと、好きな人に嫌われてしまいますよ」
侍女の言葉に憂姫が目を丸くする。
「どうして?」
「いつか、好きな方と一夜を共に過ごせば、判ります」
にっこりと笑いながら侍女は手を憂姫のぴったりと閉じた両足の隙間に入れる。
そのまま――手を上へと滑らせる。
侍女の細い指が憂姫の太腿を愛撫するかのようになぞっていく。
「は…ふっ!」
ぴく、と憂姫は体を震わせた。
「いや…こわい…」
憂姫が懇願するように侍女を見る。
彼女は困ったような顔をして姫に言い聞かせる。
「いいですか、姫様。ここを不潔にしておくと、病気にかかってしまいます。
その病気によっては子供を授かる事ができなくなるのですよ」
「…そう、なの?」
驚いた顔で侍女をみる憂姫。
「ええ、そうです。ここは清潔にしておかないといけないのですよ」
そう言うと侍女は手を上昇させ――憂姫の最も敏感な場所へと伸ばした。
薄っすらと生えた叢の中の花びらはぴったりと閉じている。
侍女の指は傷つける事がないようにゆっくりと上下に動く。
その丁寧な動きが憂姫の中の何かを揺さぶる。
(何…?いや…からだが…)
「ふ、く…」
石鹸の泡が潤滑油となって良くすべる。
最近になっての変化は、何も表情だけではなかった。
体にもゆっくりとした変化は訪れていた。
それが――特にこの、感覚である。
「は…ぁ…」
侍女の指が、姫の花びらを開いた。
そこに空気が入る感覚に、憂姫が恥ずかしそうに俯いた。
「ぁ…あ…」
開いた花びらの中もゆっくりと、丁寧に泡をつけていく。
明らかに、泡以外の何かが中から溢れ、侍女の指を汚していく。
くちゅ、くちゅと指が動くたびに音がした。
「あ、あ…はぁ…」
どこか――どこか、惚けたような、とろけているような表情で憂姫が侍女にもたれる。
ここ数日の間に憂姫はこの溶けていくような熱い感覚に目覚めた。
「姫様、お湯をかけますよ」
侍女が手桶にお湯を汲み、憂姫の花びらを開いたままかける。
「ああっ!」
憂姫はビクビクと体を痙攣させ、とろんとした表情になった。
もうすっかり脱力した姫の花びらから丁寧に泡をとると
侍女はまた手に石鹸を持ち泡立てた。
すっかり湯の少なくなった湯船へ侍女の方にお尻を向けるように座るように言うと、
とろけている憂姫は恥ずかしそうな顔をしながら、そうした。
お風呂から上がり、着替えを済ませて憂は氷月と共に自室に戻った。
失った16年分の月日を取り戻すように憂は懸命に勉強をした。
マナーや王族としての知識などは姉響古がこの体に居た時に教えられた。
しかし、それはあくまで姉に教えられたものである。
憂姫自身に与えられたものではない――。
一応の知識として知ってはいるものの、憂はまだ完全に自分というものが出来ないでいた。
手元に置いてあるクッキーを食べながら、憂が氷月にもそれを薦める。
「おいしいですから…氷月も食べてみます?」
「いいえ、僕は特にお腹すいてませんから」
「…そう」
残念そうに憂が俯く。今にも泣き出しそうな、そんな様子に
氷月は慌てて「でも一個だけなら」、と一つ手に取った。
笑顔でクッキーを食べる氷月を見ながら、憂は満面の笑みを浮かべた。
「氷月、おいしい?」
「おいしいです、憂姫様」
笑顔で食べかけのクッキーを手に氷月も笑い返す。
ほんのりと氷月の頬が赤らんでいる。
「明日は晴れるそうですから、外へ出かけませんか?」
「いい考えね」
ふふ、と憂が嬉しそうに目を閉じる。
(氷月といっしょ…)
その無防備な表情に氷月はドキッとした。
正直、氷月自身――今自分が誰を好きか、わからなくなっていた。
弟の逆滝と婚約をした響古姫を好きだったはずなのに…。
少しずつ、少しずつ表情が豊かになってきた憂姫の傍にいると
不思議と心が落ち着いてくる。
特に、今のように幸せそうな顔をしているのを見ると、自分も嬉しくなってくる。
もしかしたら――響古姫への想いは、恋とは違う憧れだったのかも知れないと思い始めてもいる。
ただ、だとしたら…この想いは、憂姫への想いも憧れかもしれないのだろうか?
氷月は言いようの無い不安に時折襲われる。
あの日――育ててくれた竜族を滅ぼした時からだったろうか。
自分は本当に、だれかを好きになってもいいのか…と。
本当は愛を知る権利がないのではないかと。
そんな氷月に気づいたのか、憂が不思議そうな顔で話し掛ける。
「氷月…?」
「憂姫さま、なんですか?」
直ぐに笑みで答え、憂の目を見る。
「明日、いっぱい食べるもの持っていきましょうね」
憂もまた笑顔を作って、言いたかった事を隠した。
『氷月の好きな人は、まだお姉ちゃんなの?』
時々、口にしそうになる一言。
憂の心に、時折澱んだ感情が生まれる時がある。
自分の16年間を奪った事への怒りと、憎しみ。
父の地球王ですら姉を自分以上に愛している事。
そして好きになった氷月が好きなのは姉であるという事実。
少しずつ、少しずつ時間を取り戻す内に憂の心に何かが芽生え始めた。
氷月を想う時の苦しみ切なさ…そして、いとしさ。
本当は自分だって姉が好きなのにそれ以上に募る、憎しみ。
考えたって仕方ないのは憂が一番良くわかっている。
今必要なのは失った『何か』を埋めていく時間と言う事も。
失った『何か』は家族の絆であり、愛情であり、
それらを築き上げいくのに必要だった『時間』だ。
勿論、姉も父も自分を愛してくれているのは判っている。
二人が憂を愛しく思ってくれているのも嬉しい。
だからこそ、悲しいのだ。
憂は氷月に着替えるので部屋を出るように言うと、
そっとアルバムを棚から抜き出した。
そこには笑っている子供の頃の響古や氷月、逆滝達の写真がある。
(お姉ちゃん…楽しそう)
とても幸せそうな写真の中には、憂は居ない。
響古の傍には、氷月と逆滝が必ず居る。
(氷月は前からやさしそうな顔をしている…穏やかな…顔)
ぎゅ、と憂はアルバムを抱きしめた。
ほろり、と涙が伝い落ちる。何故泣いているのか、憂は判らなかった。
でも、胸が苦しくて、痛くて、つらくて――涙が溢れた。
「っ…!」
ほろほろと涙を流しながら、憂は声を押し殺した。
氷月に、迷惑をかけたくないから声は出したくなかった。
中の様子がおかしい事に気づいた氷月が、ドアをノックした。
「憂様?憂姫様?」
心配げな声に憂は涙を拭い、わざとそっけない声で大丈夫ですと答えた。
アルバムをしまうと憂は氷月に着替えるのは止めたから…と部屋へ戻す。
氷月は心配そうな顔で入ってきた。
憂は微笑んだ。泣いていた事を、悟られない為に。
しかし――氷月は憂のその笑みを見て悲しそうな顔をした。
そして、そっと憂を抱きしめる。
「…ひ…づき?」
「憂さま、泣いていたでしょう?」
「泣いてなんか…」
「僕の目を見て、言って下さい」
そう言うと氷月は正面から憂の顔を見る。
真剣なその表情に憂は何も言えなくなった。
「僕は、憂様の気持ちが良くわかります。
恐らく響古様が憎いのでしょう?」
憂はドキッとした。
知られたくない事を知られたような――そんな気持ちになる。
「僕も、逆滝が憎かった事があります」
「え?」
(あんなに、仲が良いのに?)
氷月が寂しそうな…悲しそうな顔になる。
「でも、憎しみは何も生みはしませんよ、憂様。
それはきっと憂様が良くわかっていることだと思います」
「氷月…」
真剣なその眼差しが、言葉が、全て心に体に染みてくる。
澱んだ何かが――消えていくのが判った。
「時間が必要かもしれません。
憂様は自分を見つめてみて下さい。
本当は憎むばかりではなく、確実にどこかでその人を愛している自分を、
きっと知るはずです」
氷月はにこりと笑った。
暗い何かを乗り越えた、そんな強さが感じられる。
憂はうなずいた。
「僕も、憂様の事を命に替えても護りますから」
すっと憂の手を取った。
憂の顔から悲痛な笑みは消え――涙が、瞳から溢れた。
「氷月…氷月…」
震える声で名を呼びながら、憂は氷月の腕を握った。
何度も夢で見た、氷月とのキスシーン。
今はまだ夢でしかなくても、こうして傍に居ると誓ってくれるなら。
――それだけでいいと、憂は思った。
氷月は優しく憂の髪の毛を撫でる。
響古に抱いていた想いとは違う、とても穏やかで優しい気持ちになってくる。
「僕の前では、そのままでいいんですよ。姫様の事を嫌いになったりしませんから」
「うん…氷月…ありがとう…」
不意に氷月の顔が憂に近づき――舌で涙を拭い、そのまま頬にくちづけをする。
憂は一瞬、何が起こったのか判らなかった。
「………氷月?」
氷月もどこか照れたような、そんな顔で憂を見る。
「憂様、僕の事が好きですか?」
「うん…すき…」
「そうですか。憂様、僕のする事を否定しないで下さいね」
「?うん…っ!」
氷月の唇が憂の唇に重なった。
柔らかく、とろけるような――夢で見た時のような感覚がした。
それとも、これは――夢の中?
憂が嬉しそうな、驚いているような――そんな顔で氷月を見る。
「僕も、憂様のことが――好きです」
ドレス越しに、憂の乳房を揉み始める。
「でも、ひづ…きはお姉ちゃんのことが…?」
「響古様への恋はもう終わりました。逆滝君が幸せにしてくれるでしょう。
いや、僕は逆滝君だから諦めました…。今は――」
そう言って何かを言いかけた憂の唇を塞ぐ。
「ん…」
唇を塞いだまま、憂の肉付きの良い尻へと手を伸ばした。
(なんか…氷月、こわい…)
(氷月…好きって、言ってくれた…)
嬉しいはずなのに、怖い。憂はどうすればいいか戸惑った。
「ん…ふ!」
憂のドレス越しに氷月がゆっくりと指を滑らせる。
生地の感触を楽しむような――憂の体のラインを確かめるような、
そんな動きで。
(いや…こわい…)
ゾクゾクと、背筋を何かが走り抜けていく。
侍女に体を洗ってもらっている時に感じた、「何か」。
「ん…ん」
憂は氷月から離れようともがくが氷月は強く憂を抱き寄せるだけで、
抵抗にもならない。
(こわい…氷月じゃないみたい…)
「んーんー!」
ぱたぱたと力なく氷月の腕を叩くが氷月のい指は、とまらない。
遠慮なしにドレスの裾をめくりあげると、
憂の普段は決して人目につくことはない白い肌が、
純白の下着がさらされる。ひやりとした空気があたった。
「ぷはぁっ…」
ようやく氷月の唇が離れると、憂は息を吸った。
「は、は…はぁ…」
顔を真っ赤にしながら懸命に息を吸う姿が愛らしい。
氷月は、自分を止めることが出来ないでいた。
(僕は、何をやってるんだ…?こんなことをしてはいけない。
まだ想いを伝えたばかりというのに―――)
しかし、体の奥底から憂を求めている。
自分でも痛いくらいに勃起しているのが判る。
憂に拒否されても――今ここで、抱きたかった。
だがそれをしてしまえば全てが壊れるのも、知っていた。
(憂様――)
ここで抱いてしまえば、憂の笑顔が崩れるかもしれない。
そう思ったら――抱くことなど、出来るはずが無かった。
すっと氷月が離れる。
「ひ…づき?」
「僕は――どうやら、すこしおかしくなっているようです。
頭を冷やしてきます」
苦しそうな顔で氷月が笑う。踵を返し、氷月が早足で出て行こうとする。
「待って…氷月…!」
憂が走って追い掛け――抱きついた。
「憂様!」
ドクン、と氷月の中で何かが蠢く。柔らかい憂の胸が、背中に当たる。
「こわい氷月はいやだけど、悲しい顔をした氷月はもっといや…。
そんな顔をしたまま――一人でどこかに行ってしまわないで。
私を、置いていかないで下さい…」
「憂様…」
氷月は何と言っていいものか迷った。
恐らく――憂は、まだ性に関しての知識は無いだろうし、
かと言ってここで男について理解してほしくて説明するのも気が引ける。
迷う内に、憂の手が――氷月の股間へと伸びた。
「!?」(姫様…!!(  ̄◇ ̄:))
まだ勃起したままの氷月のを撫で始める。
「な、何をするんですか姫様!!!」
慌ててどもる氷月に憂は恥ずかしそうな顔で「教えてもらったの」と答えた。
(憂姫に――誰が、こんな…)
もどかしい動きで上下にしごかれ、氷月は恥ずかしくなってきた。
「ひ、姫!う、う、う、憂姫様!お止め下さい!こ、こ、こここ、こんな…」
(意味を判っているのか??)
「・・・氷月の、大きい…」
その一言に、氷月は暴発しそうになる。
このままではマズイ、と思った。
(何とか止めさせなければ)
まさか、一国の王女である憂がこんな事をするとは思わなかった氷月は動揺が隠せない。
どうする事も出来ず、いや、逆にどうすればいいかわからずなすがままになっている。
「う、う、い…さま…!」
憂は氷月のジッパーを下ろすと苦しそうにしている氷月のを下着から出そうとした。
しかし後ろからなので良く判らないので前にやってきた。
「憂様…!」
慌てて氷月が隠そうとしたがその前に憂は「えいっ!」と氷月を床に押し倒した。
「お姉ちゃんから、教えてもらったの…
こうすれば、男の人は気持ち良くなるって…だから――」
「きょ、響古様が…!?」
「うん、逆滝にいつもしてるって…言ってた」
「……」
憂に馬乗りにされ、氷月は抵抗出来なくなっていた。
自分の股間を、食い入るように憂が見ている。
(恥ずかしいなぁ…)
もぞもぞと氷月のモノをパンツから出すと憂はそれをじーっと見た。
恐らく、見るのは始めてなのだろう。
顔の角度を変えては物珍しげに、見ている。
「憂様、恥ずかしいから…もう止めにしませんか?」
見上げながら氷月が言う。
憂はその言葉が耳に入らなかったのか、今度は直接しごき始めた。
「うっ…」
「お姉ちゃんの話だと…ここを吸えばいいって言ってた…」
ぼそぼそと言いながら憂が氷月の乳首をちゅうちゅうと吸い始める。
「っ…は…っ」
苦しげに見を捩じらせて氷月が息を漏らす。
(これでは…立場が…逆な気が…)
先ほどのたどたどしい動きから、慣れてきたのか早くなってきている。
マズイ、と思った。このままでは―…。
「は、ぅ…」
氷月のをしごく憂の手に汗とは違う液体が付く。
驚いて視線を下げると、氷月の先端から透明な汁が溢れている。
「なんか出てきました…」
まだそれが何であるか知らない憂が??と?を飛ばしている。
氷月はどこか遠くへ逃げたかった。いやむしろ消え入りたかった。
(あ、もしかして…ジュースかな?…美味しいのかな…?)
羞恥で頬は紅潮し、息も乱れる。
憂にはだけさせられた服にじっとりと汗がにじむ。
「もう…やめ…!」
言いかけた氷月のモノを、温かい何かが――包んだ。
ぞくり、ぞくりと悪寒が走る。
「う、あ、ぁぁ…う、う…い…さっ…な、にを」
見ると憂が氷月のを口に咥えていた。
しかし、微妙に顔をしかめている。
「…ひぇんなあじひゅる…(訳:変な味する)」
「ひ、姫、そりゃそうですよ、美味しいわけがなっ…う!」
じゅる、じゅると憂が吸いあげる。もう、氷月は限界だった。
憂の口いっぱいに何とも言えない変な味がした。
でも氷月が気持ち良さそうな顔してるし、もっとしてあげようと思った。
じゅ…じゅる…じゅるるるっ
「う、あ、あ…で、出ますっ…憂さまっ…愛して、ます」
氷月は憂の頭を押さえ、動かし始める。
「う、うぐっ…ふっ…」
温かな口腔の感触と、憂の口に入れていると言う想いが高みへと氷月を導く。
「ふ、ふ…ふぅう!」
苦しそうな表情の憂を見ながら何かが――氷月の中で何かがはじけた。
「う、ぁあっ!」
ずるっと憂の口から出すとぼうっした表情の顔に自分の欲望をぶちまける。
びゅ、びゅるっと勢い良く出されたそれは憂の顔を白く汚した。
「は、はぁ…」
肩で息をしながら憂を見るとまだ惚けた顔をしている。
顔にかかった精液がとろっと伝い落ちた。
「ひ、姫さま…これは…その…」
憂の手が、ようやく動いたかと思うと顔についた精液を拭った。
「?」
くん、と匂いを嗅ぐとそれを口に含んだ。
サーっと氷月の顔から血の気がひく。
「う、うううううう憂さまっ?!」
「美味しくない…」
憂が泣きそうな顔で氷月に言う。
まだ精液がついた顔で見られ、氷月の股間が出したばかりだというのに
また疼いてきた。
「姫、とにかく顔を拭いて」
シャツの裾で自分の出したものを拭くと氷月は立ち上がって服を整えた。
「今顔を洗った方が良いと思います…」
と言うと憂を洗面所へと連れて行く。
着くまで憂は顔が何かパリパリする、と呟いていた。
後日、中庭で憂が響古と話している時にその事を言うと響古は爆笑した。
「憂、ほんとにしたの?!」
驚きと笑いを同時にしながら響古が聞く。
「うん…お姉ちゃんが教えてくれた通りにしたよ」
「そっかー。で、最後までしたんでしょ?当然」
(氷月も中々やるわね)
にやりとした響古の問いに憂が不思議そうな顔で聞き返す。
「…最後?最後って何?」
「は?」
一瞬、響古が凍る。
「だから、氷月としたんでしょ?入れたんでしょ?」
「??そのままで終わったけど…あれで終わりじゃないの??」
「…はー…」
響古がため息をついた。
「だめだこりゃ」
(ある程度まで教えれば自然と最後までいくと思ったんだけどなー)
憂が幸せそうに満面の笑みで呟く。
「氷月が好きって言ってくれただけで、幸せ…」
その笑顔に響古も笑いながらそれはそれでいっかと思った。
氷月になら、憂を安心して任せられるだろうし。
二人の婚約の発表もそう遠い事ではないだろう。
春の風が、優しく吹いている。
二人はその場に座った。
「姫さま、ケーキ焼きあがりましたよ」
氷月がケーキを片手に二人の元へと駆けて来る。
逆滝も手に人数分のグラスとジュースを持ってきた。
氷月は憂の横へ、逆滝は響古の横に腰掛けると空を見上げた。