「……で、どうしてお前がここにいるんだ?」
実家の広い廊下を歩きながら、名古屋稚空は右腕にまとわりつくそれに
訊ねた。
「それはもちろん、私が稚空さんの婚約者だからに決まってるからですわ♪」
右腕にまとわりついた少女―――山茶花弥白はにこにこと答えた。
「弥白、お前は神楽と上手くいってる筈じゃないのか?」
「いいえ。昨日別れましたの」
サラリと言い切った弥白に、稚空の左腕に腕を絡めている日下部まろんが目を瞠る。
「どう、して?」
「だって……あの人は私に無礼を働いたのですもの!」
「な、弥白お前なにされたんだ?!殴らたれのか?」
稚空もさすがに動揺して、語気を荒らげる。
「いいえ。でもあれは婚前の男女のする事ではありません!」
「まさか……襲われた、の?」
まろんが眉をひそめ、おっとりと首をかしげた。今日は妙に大人しい。
「いいえ。あの人は嫌がる私にむりやり……」
「むりやり?」
弥白ががっくりと肩を落とし、顔を真っ赤にして呟いた。
「接吻してきましたの!!!あぁ、私もうお嫁にいけませんっ!!」
一瞬にして二人の顔が固まった。そのまま弥白を置いて歩き出す。
「ちょ、稚空さん!どこにいかれますの?!」
「弥白。悪い事は言わないから早く神楽の所に戻れ」
稚空の言葉にまろんもうんうんと頷く。そんな二人に弥白がわめきちらす。
「いやです!私にはやはり稚空さんしかいません!!」
「弥白、お前には悪いけど、俺はまろんが好きだ。だからお前は大人しく帰れ」
稚空の言葉にまろんが耳まで赤くなる。その態度に弥白がさらにわめく。
「ならば壊すまでです!私はあなた方から離れませんわよ!!」
瞬間、稚空の瞳が楽しそうに細まる。その微妙な変化を感じたまろんが青ざめる。
「ふぅん。それじゃあ、一緒に来るか?」
泣きそうに俯いたまろんをみて、弥白は勝利を確信し、微笑んだ。
「もちろん」
連れて来られたのは大きなベッドが一つと、革張りのソファが一つ、
それから古いチェストが一つしか置いてない、がらんとした部屋だった。
「初めて入りましたわ、こんな部屋。……これからなにをなさるの?」
弥白が興味津々、といった様子で部屋を眺め回す。
「……ちょっとした遊びを、ね。まあそのうち分かるよ」
稚空がベッドに腰掛けながら楽しそうに答えた。まろんは今にも泣き出しそうな
顔でベッドの中央にぺたりと座り込んだ。
「そうだ。少し、聞きたい事がある、いいか?」
「もちろん?」
「弥白は俺の事好きなのか?」
「もちろんですわ」
よどみのない答えに稚空が悪戯っぽく笑う。
「じゃあ、俺がどんな奴でも?俺は弥白の思うような奴じゃないかもしれない」
「それでも」
弥白が凛として微笑んだ。強い瞳が稚空を射抜く。
「それでも私はあなたが好きですわ」
それを聞いた稚空がふぅん、と呟き笑った。後ろにいるまろんを振り返る。
「それじゃあ始めようか。な、まろん?」
まろんがかすかに頷くと、自分の服を脱ぎ始めた。いきなりの行動に弥白が
目をひん剥く。
「な、な、な、何をなさってるの!?ちょ、日下部さん?!」
まろんは無言で服を脱ぎ、髪をほどいた。顔を上げたときには
白い肌に良く映える黒いレースのキャミソールと揃いのショーツ姿で
弥白を見つめている。
「何って、これが遊びだろ?」
稚空が喜々として答えた時、まろんは稚空のシャツの前をはだけさせ、
彼の身体に口付けていた。