ここの所、稚空の様子がおかしい。  
稚空の家のリビングの中央に鎮座してるテーブルの上に数学の参考書を  
広げて、まろんは真剣な顔で問題を解いている恋人を睨んだ。  
そろそろテスト前だし、とここ数日まろんは稚空に勉強を見てもらっている。  
実際はそんな事してもらわなくても一人で勉強できるのだが、  
一緒にいる口実が欲しくて、そう言ってはつい会いにきてしまう。  
そこまではいい。彼は困った顔一つせずに、いつでもまろんを部屋に招き入れる。  
それが例え深夜でも。  
だがそれが問題だ。そんな時間帯に二人きりになると、なんとなく、そういう  
展開を期待してしまう。  
しかし、期待とは裏腹に、ここ最近そういうことが一切ない。  
「まろん、どうしたんだ?」  
稚空がふと顔をあげた。甘くて優しい目。自分ひとり邪なことを  
考えてるのがなんだか恥ずかしくなって、そっぽを向いた。  
 
「まろん?眠いのか?」  
稚空がきょとんと首を傾げた。なぜ苛立っているか、本当にわかってない。  
ぼんやりとあの快楽を求めている自分がバカみたいだ。  
「べつにっっ!!」  
まろんは勢いよく参考書を閉じた。がちゃがちゃと乱雑に  
自分の荷物を片付ける。  
「まろん?」  
「仮眠するの!寝室借りるわよ!少ししたら起こして」  
耳まで真っ赤にして、ほとんどわめきたてるようにまろんが言う。  
「まろん」  
稚空が呼びかけた。何よ、と半泣きの表情で振り返ったまろんの腕を  
つかみ、体を引き寄せて口付けた。  
「…っ!」  
軽く触れるだけの口付け。握手ぐらい軽いスキンシップのような。  
久しぶりに触れた唇はすぐに離れていった。  
「おやすみ」  
稚空が小さく笑った。  
 
何でそんなに鈍いのよ!  
それにいつもは稚空から言ってきてたのに。  
……私、嫌われちゃったのかな…。  
でも稚空はいつもどおり優しいし…。  
まろんは稚空のベッドに潜り、頭の中で彼への文句を言っていたが  
それはどんどん不安となっていく。  
どうして?という疑問で頭の中がいっぱいになって、  
涙が出そうになってくる。  
何か気に触る事、したのかな?  
一番最近、身体を重ねた時の事を思い出してみるが  
まろんとしては、稚空が怒っていた感じもしなかったし  
何か変わった様子もなかったように思う。  
 
なんの問題も無く身体を重ねていた頃の自分達に嫉妬してしまう。  
それどころか、その時の事を思い出して、腰をもぞもぞと動かしてしまう。  
こんなのはいけないと思いながらも、じっとしていられない感覚と、  
興味本位の気持ちからそっと下半身に手が伸びる。  
稚空にされたことを思い出しながら、自分の太股に触れてみる。  
ビクッと身体が震えた。  
だめ、だめ……と頭では考えているものの、まろんの身体は  
さらなる刺激を求めて、手は上の方へ登って行く。  
「はぁっ…」  
その指がショーツ越しに敏感な突起に触れたとき、久々の感覚に  
まろんの口から声が漏れる。  
そのまま突起を指でつまみ、コリコリと揉みこむ。  
「やぁ…!だ、めぇっ…」  
目を閉じると、本当に稚空に触れられているような気分になる。  
 
「ち、あきっ…ん、あぁっ…」  
なんだか熱くて、ぼうっとしたまま  
ショーツ越しにも分かるくらい濡れている秘所へ、触れてみる。  
シーツはくしゃくしゃになり、掛け布団もはだけているが  
もうまろんはそんな事には気づかない位に、次へ次へと快感を求めていた。  
熱く潤む秘所へ指を沈めると、ゆっくりと動かす。  
「…あ、ぁっ……ちぁ、き…!ん、はぁ…」  
その息もどんどん荒くなり、愛する人の名前も甘い声と共に口から出る。  
「…っ!ひあぁ…!!」  
指を動かしたまま、敏感な突起に触れると、まろんは細い身体をビクビク、と  
震わせて達した。  
 
 
息も落ちついた頃、まろんの気持ちは冷静さを無くしていた。  
…やだ…私、何してるんだろ…  
今までこんな事したこと無かったのに、止めようって思ったのに…!  
いやらしい自分への自己嫌悪と、恥ずかしさが急にこみ上げて来て  
自分の身体をぎゅっと抱きしめ、消えてしまいたい衝動にかられる。  
 
「まろん」  
突然のその声に身体がビクッと反応する。  
見られたかもしれない…!  
恥ずかしさと不安とで、声が出ない。  
その声の主がだんだん自分に向かって歩いて来るのが分かる。  
胸がバクバクいって、不安で怖くてつぶれてしまいそうだ。  
「まろん?もう寝たのか?」  
「…え?」  
稚空の言葉に一瞬驚いたが、すぐに見られていなかった事を悟り  
胸をなでおろす。  
 
「あれ?」  
という声と同時にまたビクっとする  
「なにか濡れてないか?」  
よく見ると、自分がさっき寝ていた所に妙なシミがついている  
「しまったーーー」とまろんは心の中で叫んだがもう遅い  
「おかしいな、何かこぼしたかな」  
気づいていないようだ。しかし、そのとてつもない鈍感さと無神経さにまろんは呆れた  
しかしその顔が少しにやにやしてるような気がするのは気のせいだろうか  
 
「まろん、まろん」  
稚空がまろんの肩を掴んで軽く揺らす。内心びくびくしつつも、  
何も知らないフリを心がける。  
「……なぁに……?」  
上半身を起こすと、稚空がシーツの端のシミを指し、「何だかわかる?」  
とでも言うようにまろんを見た。  
「なに、それ?」  
「さぁ。まろん、何かこぼしたのか?」  
ううん、と首を振ると、稚空が黙って考え込んでしまった。  
 
「……稚空?」  
「本当に知らないんだな」  
すぅっと細くなった稚空の双眸に、まろんは嫌な予感を覚えた。  
つい嘘を認めたくなったが、ここまできたら、とシラを切りとおす。  
「知らない。そんなの」  
ふい、と横を向いて答えた途端、肩をきつく掴まれた。  
わずかな痛みに眉をひそめる間もなく、ベッドの上に押し倒されてしまう。  
「ゃ……っ!!な、なに!?」  
覆い被さってきた稚空と目があった。が、稚空は質問には答えず  
まろんの唇を自分のそれで塞ぐ。先ほどの唇を重ねるだけのキスとは違う。  
舌を差し込まれ、念入りに口内を嘗め回されるこの感触。  
 
ぞくぞくと悪寒にも似た快感が全身を走り、頭の中がだんだん霞んでくる。  
ぼんやりとした意識の中、まろんは必死で入り込んできたそれに舌を絡め、  
稚空の背に腕を廻す。  
「ん……っふぁ……ぁ!!」  
唇が離れると、稚空が微笑んだ。瞳の奥が鈍く光る。  
「ねぇ、本当に何も知らないと思ってた?」  
稚空の指がするするとまろんの肢体を撫で廻し、スカートの裾から  
手を入れる。既に湿っている下着越しに、軽く秘所をさわる。  
「ひぁっっ!!」  
まろんの艶を含んだ声を聞き、稚空がにぃぃっと笑う。  
そのまま耳元に口を寄せ、囁く。  
「……まろん、一人でしてただろ?」  
 
「一人で一体何してたのかな?」  
いやらしく尋問する。  
「そんなにいいならまたここでそれやって見せてよ」  
「そ、そんな」  
稚空はまろんの手をその秘所へと導いた。  
「もうこんなに・・・」  
くちゅくちゅと蜜がいやらしい音を立てた。  
後は惰性である「んっ」恋人に見られる快感でまろんはまたすぐに絶頂を迎えた  
「一人で本当に楽しかった?」  
本当に意地悪な質問だとまろんは心の中で思った。  
「どうなの?何か欲しいものがあるんじゃない?正直に言わないと」  
今まろんの中では二人のまろんが格闘していた。理性か本能か。  
しかし今は本能が求める快楽へと傾いていくのがわかった。  
 
そんな自分を封じ込めるかの様に、まろんは顔を真っ赤にして俯き、  
唇を噛み締めているだけだった。  
「ほら、黙ってたらわからないだろ?」  
覆い被さっている稚空に、手首を捕まれているのに気付いた。  
まっすぐ見つめられていて、逃げられない事も。  
「……してない…」  
「え?」  
まろんの呟くような小さな声に気付いた稚空が声をあげる。  
「…一人でなんて、してないもん」  
叱られている小さな子供のように下を向き、必死に声を絞り出す。  
まろんの今更の弁解に、一瞬困惑するが  
圧倒的に不利な立場のまろんをもっと追い詰めたい衝動に駆られる。  
 
「声聞こえてたけど。一人でするのって良かった?」  
詰め寄るような視線から目を逸らす。  
「してないったら、してな…!」  
どうしても認めようとしないまろんの唇を、稚空が乱暴に塞ぐ。  
「ん、ぁ…っ……!」  
「全部見てたよ。俺の名前呼ぶとこも、やらしい顔してたのも。」  
全身がかぁっと熱くなるのが分かった。  
「だ…だって…あ、嫌っ…!」  
「だって、何?」  
言葉に詰まってしまうまろんの耳を舐め、甘噛みする。  
弱い箇所を攻められ、声が震える。  
「もうしてないなんて言えないよな。  
本当は嫌なんかじゃないんだろ?俺がこうするのずっと待ってたんだよな?」  
全てを見透かしたような彼の言葉に、まともに顔が見れない。  
「…違っ…」  
「違わないだろ。まろん、いつも一人であんなことしてたのか?」  
自分を追い詰める言葉の数々に、ついに耐えきれなくなり  
彼女の大きな瞳から涙が零れる。  
 
稚空は自らズボンを下ろし始めると、まろんを脱がせにかかった。  
久しぶりに稚空の「もの」を見る。  
「これが欲しかったんじゃなかったのか?」  
目の前に長きにわたって求め続けたものを出され、狼狽する。  
「ずるいな、一人で先に気持ちよくなって。俺も満足させてくれよ」  
このままでは稚空の負けか。そう思われた矢先、ついにまろんは観念したように  
「稚空の・・・が欲しいの・・」  
か細く、」良く聞こえない声が羞恥を表していた。それが稚空をさらに燃えさせた。  
「聞こえないな」  
勝利をかみ締めながら、さらに冷酷に言った。  
「稚空のを、私のなかに・・」顔はすでに真っ赤である。  
そこでようやく満足した稚空は自分のものをまろんの口の前へと運んだ。  
「まろんはもう2回もイッただろ?だから俺も口と下で満足させてくれよ」  
聞き終わるとまろんはいとおしむように稚空を口に含み始めた  
 
ようやく求めていたものを自分のなかで味わえる。  
長かった道のり、さびし過ぎた過去。それらがいま消えようとしている。  
すべてを、奥までじっくり包み、ピストン運動を繰り返す。  
手を使い、舌を使い、全神経を集中させた。  
そんな奉仕を見守るように、稚空は頭を撫ぜながら身を任せていた。  
「あっ」  
稚空が声をあげた。もうすぐのようだ。  
「んんっ・・」  
二人はほぼ同時に声を上げた。いままで溜まりに溜まった白いものがあふれ出た。  
まろんはそれを丁寧にしゃぶり、吸い尽くして飲み干した。  
しかし、これは二人にとってはまだ前戯でしかなかった。  
 
放たれた熱い液体が喉を滑り降りる。唇を離すと、口の端から一筋  
こぼれ落ちた。それを稚空は見逃さず、指で掬うとまろんの口に  
そっと差し入れた。その指に舌を絡めながら、殆ど本能的にそれを舐めとる。  
「……た?」  
「ん?」  
「気持ち、よかった……?」  
どうしようもない疲労感を感じ、まろんはベッドに崩れ落ちた。  
虚ろな瞳で稚空の顔をみる。彼は微笑むと、彼女の髪を撫でた。  
深く、深く誠実な愛情を体中で感じ、この上ない幸福感で包まれた。  
なのに体は正直に出来ていて、そうしている間にも  
酷く体が疼き、下半身が痙攣した。  
―――欲しくて欲しくて仕方ない―――。  
あの快感が。満たされる感覚が。愛の言葉が。  
「……ちょーだぃ……ねぇ、稚空のが欲しいの……」  
あえぐような浅い呼吸で、まろんが懇願した。  
 
ホシイホシイホシイホシイホシイ。  
さながら駄々をこねる子供のように首を振り、まろんは自ら彼を引き寄せ口付けた。  
「ま、まろ……っ!」  
妙に積極的なまろんに驚き、稚空はすぐに唇を離したが、すぐにつかまり  
また唇をふさがれる。  
「ふ……」  
軽く息を吐くと、引き寄せた稚空のシャツのボタンを  
細い指で滑らすように外す。  
「ちあき、早く……」  
焦れた様子で伸び上がり、稚空の耳朶を甘噛みする。  
「っは、わかったから、まろん、わかったから!」  
頬を真っ赤に染めながらも、稚空はなんとかまろんを制した。  
気を取り直すように頬と首筋にキスすると、くすぐったそうにまろんが  
身をよじった。  
 
「ぁ……やぁ……」  
細い首筋に、白い胸元に、赤いあざが散らされる。  
ひとつ、またひとつとそれが増えていくたびに、まろんが小さく声を上げる。  
肌に直に口付けられる、吐息がかかる。それだけで感じている。  
「……ちぁき、もっと」  
さらなる快感を得ようと、上目遣いで稚空にすがりつき、彼の首筋に吸い付いた。  
赤い、あざ。鬱血して少し痛む。皮膚に歯がかちりと当たって、稚空が  
眉をひそめた。  
「どうしたんだ?今日はやけに」  
「……わかん、ない……」  
熱に浮かされたような顔で、キスをせがむ様に唇を開く。割って入ってくる  
舌に自らの舌を絡ませる。そのまま、腕を伸ばして欲してやまない  
稚空のそれに指をからめ、しごく。  
「まっ……うあっ!」  
訳の解らないまま走り続けるまろんに、一抹の不安を感じ、  
稚空の眉間に入った皺がさらに深くなる。  
「まろん……やめ…」  
低い声で稚空が唸った。  
 
「くっ・・・まろ・・ん・・やめ・・」  
まろんの手を取り、やめさせようとする。  
「いや・・・もっと・・稚空が欲しいの・・・」  
細い腕からは信じられないような力でまろんが抵抗する。  
「・・・まろん!やめろ!」  
稚空は、思わずまろんを突き飛ばした。  
 
稚空はまろんを突き飛ばしてしまってから考えた。  
こんなにもまろんを狂わせたのは自分ではないのか?  
ここまで自分を欲するまで放置した自分が無神経ではないか?  
このように自責の念がわいてきた。  
すると、それまでの償いに自分が今できることはまろんの欲望を満たしてやる  
ことしかないのだと思った。  
 
しかし、あんなにも乱れ本能的なまろんを見て、  
稚空は理性の限界を感じていた。  
このまままろんを抱いて正気でいられる自信がない。  
自分の快楽だけを求め、乱暴な行為になるかもしれないという不安が  
彼女を抱くことにブレーキをかけていた。  
守りたい、傷つけたくないと思っているはずなのに  
一方で全て壊してしまいたいという  
自分勝手な独占欲が稚空を困惑させた。  
 
一方、ベッドに転がっていたまろんも、理性をわずかに取り戻したせいで  
ひどく動揺していた。初めて曝け出した本能の部分。  
貪欲なほどに悦楽を得ようとあがく、いやらしい女の性。  
あんな生々しい部分を見て、稚空はなんて言うだろう。  
嫌われただろうか。失望されただろうか。  
そのどちらも回避できるならきっとなんでもする。  
そう思ったときに、なぜだか涙が溢れた。  
「まろん?」  
少し困ったような顔をして稚空がまろんの涙を指で拭う。  
「……おねがい……に、ならないで……」  
震える腕を伸ばし、稚空の首に腕をまわした。耳元に口を寄せ、囁く。  
「なんでも、するから……お願い、嫌いにならないで……」  
 
そのうるんだ瞳に同様する稚空。  
「嫌いじゃないさ」  
と、いいながら内心かなりどっきりしている。  
「本当になんでもするんだな・・?」  
少し低い声で言う彼にはまた冷酷さが戻ったようだ。  
 
稚空の手がまろんの顔の輪郭をなぞる。  
「…俺が、欲しいの…?」  
まだ涙の浮かぶ瞳が稚空をまっすぐに見つめ、肯定を示す。  
「俺もまろんが欲しいよ。  
……滅茶苦茶にしてしまいたい、俺が満足するまで…。」  
優しい笑顔が険しくなる。  
こんな稚空の欲求は初めてで  
まろんの顔に不安の色が浮かぶ。  
それでも、受け入れたいと思った。  
自分がずっと望んでいたのはそうされる事ではないのかと。  
「…うん。」  
滅茶苦茶にされた自分がどうなってしまうか  
怖さはあったがゆっくりと返事をする。  
 
稚空は俯いたままのまろんに軽く口付けた後、ベッドに半ば押し付けるように  
倒し、体にまとわりついている下着を剥いだ。  
怖い。  
まろんはそのとき恋人の顔を見て確かにそう思った。  
喧嘩したり、怒られている時に感じる怖さとも、彼を失う事を恐れる時に  
溢れだす怖さとも違う。冷たい視線に、自分の中で何かが危険だということを  
必死に伝えようとしている。壊される?  
さすがに下着を抜き取ることにも慣れたもので、彼から焦りは感じられない。  
しかし、いつもはもっと気遣ってくれるのに、今日は急いている感じがする。  
晒された胸に顔を埋め、先端を口に含んだ。動き回る舌の動きに感じすぎて  
だろうか、痛みにも似たものが全身を貫く。  
「ぁっ……乱暴に、しないで……っ!」  
滅茶苦茶にしてしまうだろう、とわざわざ宣言してくれたのは、  
それが嫌ならやめましょう、の意で。それでもかまわないといったのは自分で。  
神経が一点に注がれすぎてしまって虚ろになった目で、  
まろんは静かに空を眺めた。  
 
「や…ん、あっ…く、ぅ…!」  
胸への集中的な愛撫にまろんの口からは  
いつもよりも艶めかしく大きな声が出る。  
そんな声を出している自分に気付き  
まろんは羞恥心の中から恐怖も少し感じていた。  
ーーこれが、壊されるという事だろうか。  
自分で自分をコントロールできない。  
そんなことを考えている間にも稚空は  
胸から口を離しまろんのそれを塞ぐ。  
舌がねじ込まれまろんの口内をなめ回し  
空いた手で両胸の先端を指で転がすようにいじる。  
愛しい人から与えられる強い刺激に合わせ体がビクビクと跳ねる。  
 
もうだめだ。まろんは小さく息を吐いた。  
目の前で何かが弾けた感じがして、頭の中が白く霞む。  
体温の上昇に心がついていけない。羞恥と恐怖が邪魔して、  
快楽がかえって自分を傷つけてるような、そんな錯覚すら覚えた。  
戸惑ったように眉根を寄せ、遠くを見つめるまろんに、稚空は  
妙な怒りを覚えて、触れるだけだった先端部をきつく摘んだ。  
「や…やめ…ぁっ……あ、ぁーーーーーっっ!!」  
涙が溢れる目を固く瞑り、体を大きく反らせ、まろんは大きく  
声をあげて果てた。  
「……だめだな、もうイったのか?」  
「ぁ…ごめ…なさ」  
快楽の余韻に震えながら、まろんが囁いた。確かに残る羞恥の影を  
取り去ろうと、稚空がまだ回復しきってない胸を再び摘む。  
「きゃ……やぁっ!!」  
 
ぴくぴくと体が小刻みに震え、全身から力が抜けた。  
立て続けに与えられた強い快感に、意識が遠のく。  
泣きながら懇願しても、稚空はまろんを攻め立てるのをやめない。  
「あ…ぁ……だ、めぇっ!!」  
白い喉をのけ反らせ、ベッドに力なく倒れこんだ。  
既に隠すものを失った下腹部から太腿にかけて、粘度の高い液体が零れる。  
稚空はそれを目ざとく見つけると、舌を丁寧に這わせた。  
「だっ…めそれいやぁ!!ふぁ…や…めてぇ……っ!!」  
後から後から零れ出すそれに、まろんは泣きながら首を振った。  
精一杯抵抗しようともがくが、逆に押さえつけられてしまう。  
「何言っているんだ?俺が欲しいって言ったのはまろんなのに」  
稚空は一度顔を上げ、まろんを不思議そうに見つめた。  
「それに、こんなに悦んでいるのに。嘘つきだな、まろんは」  
やれやれ、とでも言うように稚空はため息をつき、溢れ出た液体を  
指ですくって舐めとった。  
「ちが……」  
「違わない」  
稚空が妙に強い口調で言い切り、もう一度まろんの口を塞いだ。  
 
抵抗なんて出来ない、稚空にはもう逆らえない。  
そんな恐怖がまろんにまとわりつく。  
挿し込まれた稚空の舌から自身の蜜の味が伝わる。  
柔らかいまろんの唇を貪るように味わうと口を開く。  
「…美味しい?」  
自分でも驚くほど冷たい声だった。  
自分の心の何処かで、これ以上はまろんを傷つけるだけだと感じている。  
でも、それこそが自分の本能が願っていることだと言うのも知っていて。  
自分の乱暴さにやるせなくなる。  
そんな思考を拭い去るように、稚空は彼女の秘所に自身をあてがい  
焦らすかのように、少しずつ腰を進めていく。  
「!あ…っは、やぁ…!」  
長らく離れていた感覚に、思わずまろんは声をあげる。  
稚空は、腰を動かすのと共に徐々に快感に溺れていくまろんの首筋に  
自分の存在を示すかのように、歯をたてる。  
「や…い、たぃっ…」  
激しい快楽に溺れそうになっては、首筋の痛みで引き戻される。  
 
思考がだんだんまとまらなくなり、言葉が出てこない。  
快楽に身を委ねようとすれば、痛覚が刺激されて意識が引き戻される。  
理性がゆらがないままここにあるせいで、羞恥が悪戯に体を蝕む。  
「いたい、よぉっ……」  
泣き声でまろんが弱々しく抵抗した。ずぶずぶと体内に侵入している  
稚空のそれが一度抜き取られ、それからもう一度浅く入れられる。  
「あ…っい!」  
がくがくと全身を震わせながら、まろんが四肢を硬直させた。  
「……どう、欲しいって認める?悦んでるって認める?」  
稚空が意地悪く口の端を持ち上げ、まろんに質問した。  
大してまろんは快楽に耐えるように唇をかみ締めて視線を下げた。  
「強情だな、本当に」  
柔らかく苦笑して、稚空が彼女を深く貫いた。だが息つく間もなく  
全て抜き取ってしまう。  
激しい快楽と驚きに息を呑むまろんに稚空は表情一つ変えず言った。  
「まろんは意地っぱりだから言わないだろうから、先に言う。  
自分から欲しいって言わなきゃ、絶対あげない」  
 
執拗で無茶苦茶な愛撫に快楽に対する耐性が欠けてしまったのか、  
あるいは止めどなく与えられる淡い快楽になのか、まろんが全身を震わす。  
あと一歩、あと一歩高みに登れれば、絶対に楽になる。  
そう考えれば一言「欲しい」と言えばいいだなんて、簡単じゃないか。  
「まろん」  
促すような稚空の声。今がチャンスだ。ほら、がんばれ。  
「………」  
いえなかった。自分からねだるなんて恥ずかしい、と未だに理性が  
しっかり残っているようだ。こんな事なら戻らなければ良かったのに。  
彼にはもうさんざん痴態を見られているんだ。何を今更。  
ぼうっとする頭で考えてみる。今まではずっと与えられるものを  
嚥下してきただけだ。きっと自分の方から繋がりたいと思う日も絶対にあった。  
けれどそんな日さえも求められて仕方がなく、ってかっこつけていただけだ。  
そうすれば自分が汚されない気がしたから。  
どうして?もうこんなに堕ちたくせに。  
いい加減にしなきゃ。また自分を自分で慰めるの?  
はっきりしなさい。ねえ、ねえ、ねえ!  
「…くださ…い……」  
「なに?」  
消え入るような小さな声に稚空が面白そうに目を眇める。  
「ねぇくださ…い………このままじゃ…狂っちゃうよぉ!!」  
まろんが懇願とも哀願とも取れるような声を上げ、  
稚空に縋りついた。  
 
稚空の口元が歪んだ笑みを浮かべる。  
「…何が欲しいのかはっきり言わないとわからない」  
今度は突き放すように冷たく囁く。  
「稚空の、稚空のが…欲しいのぉっ」  
ぽろぽろと止めど無く溢れる大粒の涙。  
自分の身体を稚空の身体にぴたりと密着させ、腰を動かす。  
「お願い、もう、いやなの、欲しいの、稚空のが欲しいのっ…」  
「――何が欲しいんだ?」  
まろんの背中を指でなぞりあげ、低く囁く。  
――ナニガ、ホシイ?  
決まってるそんなの。  
「稚空の太くてかたいの、欲しいのっ…」  
「どこに?」  
じわじわと獲物を追い詰めるように問う。  
焦らすようにそっと耳を噛む。  
「あ、あ、あ…」  
もう、理性も迷いも必要無い。  
このまま全て、思うままに任せていけばそれでいい。  
 
ぐらぐらぐらぐら。思考が揺らぐ、理性が崩れる、快楽が全身を蝕む。  
痛いくらいにキモチイイ。苦しいくらいにキモチイイ。  
稚空の指がずぶずぶと秘所に入り、遠慮なくかきまわす。  
「っゃぁはっ!いっ、ゃ…!っっ!」  
びくびくと全身を痙攣させながらまろんが苦しげに喘ぐ。  
「どこに欲しい?俺に何をして欲しい?」  
稚空がまろんを抱きしめて囁く。首筋に唇を寄せながら、まろんの言葉を待つ。  
「なか、に…いれて…くださ、い」  
何かを諦めたような笑みを浮かべ、まろんが細い声で囁き返した。  
「私、の……まろんのなかに…いれてくださ、ぃ」  
稚空の背中に腕を廻し、胸板に頬を擦りつけながら  
まろんがうっとりと目を伏せ、身を委ねた。 
 
腕の中にいるまろんの細い体越しに体温が透けて感じられた。  
彼女の瞳を覗き込む。世の中の全ての幸福を煮詰めたような瞳だった。  
柔らかな頬に唇を寄せる。鼻に、口に、瞼にキスの雨を降らす。  
「……ぁ……え、あ、やっ!?ぁっあああっ!」  
瞼に稚空の唇が触れたとき、まろんがわずかに体をこわばらせた。  
が、その刹那、膝を割り開かれて体を貫かれる。  
「やっ!なんっ……っは!…ぉ…っねがぃだめぇ!!」  
焦らすでも優しくでもなく、一気に最奥まで突き立てられる。  
強い快感。息苦しいまでの快楽。不安定な律動に体を奪われて  
頭の中がさーっと白くなる。感覚だけが体を支える。  
「……まろん、気持ちいいか?」  
熱っぽい口調で稚空が彼女に囁きかける。声音はあくまでも優しい。  
「ん……ぃぃよぉ……きもちー…」  
壊れたような抑揚のない声でまろんが答える。稚空はおもしろそうに  
視線を緩ませ、つんと尖った肉芽を指で転がす。  
「ああっ!!?やめっ!…っきゃぅっん!!」  
「しっかりしろ、そんなに簡単にイくのか?」  
稚空がくすくす笑う。顔中を赤くしたまろんが押し黙っていると  
今度はきつくつままれてしまう。  
「んっ!くぅっっ……ぁあ!!」  
白いからだがびくびくと震えた。長い髪が跳ねあがって闇に軌跡を描く。  
 
「っあ!!はっ、ん!ふ……」  
突き立てられる。責められる。狂わされる。乱される。  
快楽の波に溺れ、立てた膝が、塞がれた唇が、鷲掴みにされた胸が震える。  
こうして愛される事を嬉しく思う。抱かれる事を夢のように感じる。  
夢中になればもう何も感じない。ただ互いがこの世に存在する。  
こうして繋がる事が出来る。それだけが最大の幸福なのだと肌で実感する。  
「……き…?」  
口付けを終えたとき、荒い呼吸の隙間からまろんの声が聞こえた。  
「す、きって……いって…?」  
言葉の切実な響きに、戸惑ったのか思わず稚空の体の動きが止まる。  
まろんはわずかに微笑み、細い腕をいっそうきつく彼の背に廻す。  
「わたし、は好きだよ……ん…ふ、ぁっ……」  
稚空の目を覗き込み、もう一度笑った後、そろそろと腰を動かす。  
弱々しいが刺激には変わりないためか、まろんが押し殺したような声で喘ぐ。  
その声に煽られたのか稚空がまろんの腰を支え、動き出す。  
「んっ!あっ、ぁっ!……っふう、ん!」  
「……好きだ。ずっとずっと。愛してるよ、まろん」  
耳元を舌先で弄びながら稚空が囁いた。その声を聞き、  
まろんが安心したように口の端を持ち上げた。  
 
「…ほんと…?」  
「…ああ、愛してる。何よりも、一番。  
わかってるだろ…?」  
その言葉には答えず、嬉しそうに笑うまろんを見て、  
自分の態度で不安にさせたかな、と心配になった。  
「ね…もっと稚空を感じさせて…?  
ぎゅって、抱きしめて…」  
儚い声を聞いて、込み上げてくる愛しさを  
彼女を深く貫く事で表す。  
「あっ…、ゃん!…ひぁあ…!」  
そのまま首筋に、胸の突起に、耳元に唇を寄せる。  
それだけで腕の中の恋人は限界を迎える。  
その余韻に震えるまろんの敏感な突起を愛しみながら転がし、  
休む暇を与えず再び腰を動かす。  
「や…あぁ…!ちあ…き、待って…!ん、やぁ…」  
敏感になった身体に対し、  
大きすぎる快感をまろんは受け止めきれない。  
「…言ったろ、俺が満足するまで…滅茶苦茶に、するって…」  
まろんが何度細い身体を反らせ  
限界を迎えても稚空は容赦せず快感を与え続ける。  
「あ、あっ…!も、駄目…っ!ひんっ…ちあきぃ…!」  
その締め付けには稚空もさすがに我慢出来ず  
まろんと共に限界を迎えた。  
頭の中が真っ白になった後、まろんの記憶はそこで途切れた。  
 
 
「稚空……?」  
ふと目をあけると、稚空の腕の中にいた。あたたかくて安心する。  
「大丈夫か?…ごめんな、無理させて」  
稚空が心配した様子で訊ねてきた。重い頭で考え込む。何してたんだっけ?あぁ、私、抱かれていた、愛されていた。そして彼を愛していたんだ。  
そう思うとなんだか幸福で、笑みがこぼれた。  
「……淋しかったんだよ。最近、こういう風に抱きしめてくれなかったから」  
彼の鎖骨の辺りに唇を這わす。自分でつけたキスマーク。赤くなっていて少し痛々しかった。  
「でもさ」  
稚空がまろんの額に口付け、微笑んだ。その柔らかい視線に胸がつまる。  
「こういう風に関係を持つだけが愛し合うことかといえば、そうでもないだろ?今までが悪かったわけじゃないけれど、まろんの事を大事にしたいと思うと  
やっぱり、軽軽しくは抱けないし。な?」  
慎重に、一言一言を考えながら稚空が言葉を紡ぐ。  
「でもね、私」  
まろんが稚空の胸をそっと押した。廻されていた腕がほどける。  
「抱かれるの、嫌じゃないよ。稚空がたくさん好きって言って抱きしめてくれるから。私も、ちゃんと好きって伝えられるから」  
稚空が目を瞠っていると、まろんがなんてね、と照れたように笑い  
ベッドから抜け出した。  
「シャワー浴びてくるよ。先、使っていい?」  
「あ、あぁ」  
 
ぱたぱたと小走りで浴室に向かうまろんを目で追っていると、なんだか  
急に全身が熱を帯び始めた。  
「〜〜〜っ、余裕ねぇ……」  
情けないと思う。たかだか一人の人間の一言で、こんなにも心を動かされている自分を。けれども同時に愛しいとも思う。  
「絶対に、守らないといけないな」  
意地っ張りの彼女のああいう素直な一面に直面できた事、それからあの何物にも変えがたい笑みが自分に向いているという途方もない  
自分の運のよさに、この夜だけは感謝してもいい気がした。  
「愛してるよ、まろん」  
 
 

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