朝。  
ざあざあという雨音で目が覚める。  
今日は日曜だし、昨夜結構遅くまで起きていたからゆっくり寝ていようと思ったのに。  
閉め忘れたブラインドから覗く外の様子は激しい雨。  
ああ、鬱陶しい。  
雨が嫌いな訳ではなかったけど、稚空は滅入るような気分を覚えた。  
もう一度眠ろうと瞼を閉じるが。  
………………ざああああああああ  
うるさい。  
そこまで大きな音ではなかったが一度耳につくと離れない。  
仕方なく起き上がり、のろのろと浴室に向かう。  
 
風呂から上がってもまだ雨は降り続けていて、止みそうな気配はなかった。  
それどころか先程より激しさを増しているようだ。  
明け方は晴れていたのに、一体いつから降っているんだろう。  
熱いシャワーを浴びて目が覚めた筈なのに、何だかすっきりしない。  
頭が痛い気がする。  
…………まろんに会いたい。  
そうだ、そうしよう。まろんに会えば、滅入った気分も持ちなおすだろう。  
心なしか、そう思ったら頭痛も消えてきた………ような。  
早速身支度を整えて、自分の家のドアノブに手をかける。  
と、ドアの外で微かにまろんの話し声が聞こえた。  
まろん?  
でも1人じゃない、誰といるんだ?  
そのままドアを開けると、予想通りまろんが立っていて、  
その隣にはまろんに笑顔を向けた、……ノイン。  
 
「ぇっ…あっ…稚空」  
俺の視線に気づいたまろんが声をあげる。  
「おや、名古屋君。おはようございます」  
ノインの奴は余裕ぶった笑みで  
「それでは、今日は失礼しますね。まろん」  
とかなんとかまろんに告げ、一度俺の方を見るとエレベーターの方へ去っていった。  
ムカつく。  
ノインの姿が消えると、稚空は無言でまろんの手を引いて自分の家に連れて入る。  
「や、稚空、引っ張らないで…っ」  
強い力で手を引かれ、まろんが稚空に話しかける。  
 
寝室につくと、ベッドに乱暴に投げ出される。  
「きゃっ…!」  
シーツにまろんの重みでたくさんの皺が現れる。  
何するの、と起き上がろうとするまろんを背中越しに抱きしめ、押し倒す。  
「ちょ…!稚空、何怒ってるの?」  
「そんなの、自分で考えろよ」  
そっけなくそう呟くと稚空はまろんの首筋に唇を寄せ、印を付け始めた。  
まろんの問いがひどく能天気なものに思えて、苛々する。  
なんで分からないんだよ。  
「待ってよ、ちょっと…稚空、ねぇ!」  
こういう風なやり方は嫌い。気持ちが全然通じてなくて、身体だけを求められているみたいで。  
稚空はそれを知ってるはずなのに。  
「っぁ…!」  
舌で耳をいじられると、ゾクゾクと何かが身体を這い上がってくる。  
こんなやり方ででも身体が反応してしまうのが悔しい。  
「強引なの嫌いじゃなかったのか?」  
冷たい笑いで稚空が尋ねる。  
知ってるくせに。  
 
薄いセーターが捲り上げられ、そこから手を差し入れる。  
窮屈そうに胸を抑える下着を押し上げ、柔らかな感触と温かな体温を楽しむ。  
きちんと脱がせてもらえないのは全て脱ぐより恥ずかしい気がして。  
「や、稚空…するならちゃんと脱ぎたい…」  
首だけ振り返って稚空の方を見るが、稚空はまろんの顔を見ようとしない。  
骨ばった大きな手で胸を掴むように愛撫される。  
「ぃ…った、や、強い…」  
その荒いやり方はまろんに痛みしか与えなかった。  
 
拒むまろんを見ていると、朝から感じていた、もやもやとした気分が大きくなる。  
……壊したい。  
まろんを泣かせたい。  
泣かせて、俺だけの事を考えさせて、俺だけのものにして、俺で満たして。  
胸を荒く揉んでいた稚空の手が標的を突起に変え、親指と人指し指でクリクリと転がす。  
「あぅっ…は、やぁ…っ」  
急速に与えられる甘い痺れにまろんが高い声をあげる。  
いつも最初はキスとか抱きしめてくれたりして、身体が快感を受け入れられる状態にしてからなのに。  
でも今日の稚空は身体だけを求めているような気がして嫌だった。  
稚空はまろんのスカートを捲り、ショーツを乱暴に下ろす。  
「!や…、やだぁ…っ」  
いきなりの事に驚き、慌ててスカートを下げようとするまろんの手を退ける。  
直接割れ目をなぞるとすぐに奥の方から液体がじんわりと溢れ出す。  
「んっ、ちあ…っ」  
しばらくクチュクチュとやらしく音をたてるそこを閉じたり開いたりしていた。  
 
「あっ…」  
まろん自身の蜜でトロトロになったそこに指を浅く入れると、まろんが身体を小さく震わせ声をあげた。  
その指を引き抜き、絡みついた蜜を敏感な突起に塗りたくる。  
「やぁ!稚空、そこダメ…っ」  
まろんが必死にシーツを掴んで声を耐える。  
「ぃ、や!ん、あ、ぁぁぁあ…!」  
きゅ、と摘んでやるとまろんはいとも簡単に限界を迎えた。  
ひくひくと震えるまろんの入り口に自分のものを押し当てる。  
前に後ろから挿入しようとしたとき、まろんは嫌がった。  
顔が見えないのは気持ちが付いていかず、身体だけの気がする、と。  
実際稚空も顔が見えない体位は好きじゃない。  
だが、今日の稚空はそんなことお構いなしにまろんの腰を支える。  
ぐったりとしていたまろんがその行動に顔をあげた。  
「や、稚空!後ろの…やだっ…」  
抵抗しようとするまろんの腕を抑えつける。  
また頭痛がぶりかえしてきたようだった。  
 
 
稚空の心が見えない。  
どうして?  
昨日はいつも通りだったのに。  
困惑するまろんの背中に稚空が覆い被さってくる。  
嫌。怖い。  
「稚空…やだよぉ…」  
弱々しくまろんが懇願する。  
稚空はこんなやり方で満たされるの?  
私の気持ちなんてどうでも良かったの?  
考えていると稚空のものがまろんの中を押し広げて侵入してくる。  
その瞬間、まろんの不安が溢れだした。  
「嫌っ、いやぁ!離して…っ」  
怖いよ、私を抱いているのは誰なの?  
心を置いていかないで……  
稚空の態度と顔が見えない不安からまろんの目に涙が浮かぶ。  
抵抗してもすぐに身体を抑えつけられて、恐怖が増すばかりだ。  
どうしてこうなっちゃったの?  
稚空、今どんな顔をしてるの?  
涙がぽろぽろと流れてシーツに落ちていく。  
乱暴に腰を動かされ、焦点が定まらない。  
「…ゃ、ちあき…も、やぁ…」  
心がどんなに痛くても、身体は稚空の動きに敏感に反応してまろんの口からあまったるい声を出させる。  
まろんの「身体」が限界を迎えると、同じように稚空も果てた。  
二人の身体がベッドに崩れ落ちる。  
 
 
熱い身体に、ひんやりとした感触。  
ああ、冷たくて気持ちいい。  
目を開けると、まろんが俺の額に濡らしたタオルを置いてくれていた。  
「稚空…気分、どう?」  
まろんが遠慮気味に俺の顔を覗きこんでくる。  
気分って、俺はどうしたんだ?  
なんだか記憶が曖昧で、ぼんやりとする。  
「稚空、熱があったみたい。自分で気付かなかった?」  
稚空の心中を察したのかまろんが声を掛けた。  
熱?そう言えば、頭が痛かったような。  
でも、いつまろんが家に来たんだ?思い出せない。  
「39℃近くもあったんだよ。…あの後、なんか稚空の身体がすごいあつかったから」  
「そうなのか?でも今は結構気分いいよ」  
でも、薬ここにおいておくから飲んでね、とまろんが水と薬を枕もとに置いた。  
「ああ、ありがとな」  
稚空が笑ってそう言うと、まろんも戸惑いながら笑みを返す。  
なんだか、まろん元気がないみたいだ。  
その目も赤くなっている。…泣いたあと?  
「…まろん?お前、泣いたのか?」  
そう言い、稚空がまろんの頬に触れようとしたが、近づいて来る手にまろんがびくりと怯えた。  
「え…」  
「ぁ…ちが、違うの……ごめ…なさ…」  
小さな声でそう呟いたまろんの目からは涙が溢れ、我慢しようとするまろんとは逆に次から次へと零れ落ちる。  
その首もとには痛々しいほど鬱血している、赤い痕。  
まろんを見つめたまま、放心状態の稚空の頭に先程のまろんの言葉が甦る。  
【あの後、稚空の身体がすごくあつかったから】  
……あの後?  
ゆっくりと記憶を辿っていくと、フラッシュバックのように最悪の記憶が浮かび出す。  
 
――――俺は、まろんを抱いた。  
嫌がって、怖くて泣いて抵抗するまろんを押さえつけ…この手で、犯した。  
まろんの心を無視して、自分のためだけに力づくで身体を求めた。  
完全に思い出すと後悔が押し寄せる。  
最低だ。  
その時のまろんの気持ちを考えると胸が抉られるようだった。  
実際まろんはそうだったんだろう。  
俺が眠ったあとも、ショックで眠れるわけなくて、一人で泣いて。  
口ではあれだけ守りたいなんて言っておいて、一番傷つけたくなかったのに  
この手で深く傷つけて、信頼を壊して、気持ちを踏み躙って。  
「ごめん…まろん、本当に、ごめんな…」  
目の前が真っ暗になって、自分がどんな顔をしているのかわからない。  
ただ、ごめん、と無意識に呟き続けているのは分かった。  
しばらくたって、頬が暖かいものに包まれた。  
顔を上げるとまろんが俺の頬を手で包み、優しい瞳で覗き込んでいる。  
そのまま、まろんの唇と俺のそれが触れた。  
「やっと稚空、顔見せてくれた」  
無理して笑っているんだろう、痛々しそうな顔でまろんが微笑む。  
「私、大丈夫だよ。稚空は、熱で自分じゃなくなってたんだよ。仕方ないことだったの。  
だから自分を責めなくたっていいんだから、ね?」  
俺の震えを取り除くかのように、まろんの温かな身体が俺を抱きしめる。  
それだけ告げると、まろんは張り詰めていた気持ちが解けたのか、そのまま寝息をたてはじめた。  
まろんをベッドに寝かすと、稚空はまろんの髪を撫で続ける。  
まろんを見つめるその眼には、絶望と後悔が入り混じっているように見えた。  
 

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