眠い。時刻は十時半。まだ遅い時間ではない。
瞼が重くて、テレビに向けた目がつい細まってしまう。
うとうととまどろんだまま、まろんは稚空に寄りかかり、そのまま
眠りの縁にずるずると引き込まれていった。
「何?寝てるの?」
ぐにゃぐにゃになったまろんの頬に手を当て、稚空が困ったように笑った。
「んー……ねてにゃい」
「うわ、呂律まわってないし。なぁ、寝るのか?」
「うーん、お風呂はいんなきゃ……顔洗ってないし……」
まろんが見るからにだるそうに頭を垂れた。そのまま眠りこけそうなまろんを
稚空が仕方ないな、と首を振り、彼女の上体を起こさせる。
「風呂入るんだろ?ほら、起きろ」
「えー……つれてってぇ?」
とろん、と色っぽく下がったまなじりに稚空がぴくりと反応する。
これは面白い事になるかも知れない。
「……分かった。いいよ」
「ほら、着いたから。いい加減にしろ」
脱衣所にまろんを座らす。しかし、彼女は目を薄く開けただけで動かない。
頬を軽く打ってみても、それは変わらなかった。
「……起きないなら、勝手に入れるぞ。いいな?」
低く囁かれた「いいな?」の声に、まろんは無意識に頷いていた。それを確認すると、
稚空は彼女の服を手早く剥いで、湯がほとばしっているバスタブに放り込んだ。
「任せたのはそっちだからな」
稚空がにやりと口元だけで笑った。
ふと目がさめると、随分と周りの空気が暖かかった。水温と、髪に触れる指の
感触だけがリアルに体にしみこんでいく。
「……んー……なんなの?」
「目、あけないで。シャンプー入るから」
あぁ、シャンプーが目に入るのは痛いから困るなぁ、とぼんやり考えたところで
びくん体がこわばった。シャンプー?
おそるおそる目を開く。伏せた視界に見えたのは剥き出しの手足、下腹の辺りまで
張ってある湯、オフホワイトのバスタブ。
「……なんなの?」
まろんが口の中だけで、もう一度呟いた。
シャワーから落ちてくる湯が髪についた泡を洗い流す。首筋にいくつかの雫が
垂れてくる。
「はい、おしまい。目、開けていいぞ」
背後に聞こえる稚空の声に体をこわばらせながらも、目を開く。
見慣れた浴室。稚空の家の、自分も頻繁に使う、なんでもないバスルーム。
でも状況がなんでもなくない。浴室に、稚空の声?
「なんでいるのっ?!」
振り向きざまに目を見開き、問い詰めてくるまろんに心外だと言う様に
眉をひそめ、稚空が言う。
「まろんが入れて欲しいって言うからそうしてるんだろ?」
「そんなの、知らない!」
「いいな?って訊いた時、頷いたの覚えてない?」
顔を真っ赤にして、自らの体を隠すように抱きしめながらまろんが唇を噛んだ。
そういえば、頷いたような気もする……。
「だったもういいから……自分でできるから……」
消え入りそうに細い声で、まろんが呟いた。しかし、稚空はまろんの体を持ち上げ、
バスタブの縁に座らせる。
「次は体な。力抜いてて」
彼が手にしたスポンジについた柔らかい泡を見たとき、本格的にまろんの背に
悪寒が走った。
「ねー、もういいから……自分で出来るからぁ」
まろんはばつが悪いのか、俯いたままバスタブの中の湯をつま先でかき回す。
「なんで?」
稚空の吐息が耳に当たった。ぞくりと体がこわばり、思わず声が漏れる。
「あっ……」
声を聞かれたかと目を瞑ったが、稚空は特に反応せずに背や腰の辺りにスポンジを
滑らせている。
恥ずかしさが増し、唇をかみ締めたまままろんは俯いた。早くこの時間が
終わればいいと切に願いながら。
両脇から腕を入れられて、白い胸元や胸に泡がすべる。胸の敏感な部分には触れず
柔らかく愛撫するように、掌が両胸を這い回る。
思わず身をよじって嫌がったが、稚空の腕はまろんの体をしっかりと支えているので
抜け出す事は来ない。
「やっ、ちょ、まって!なんでそこ触るのぉっ?!」
まろんが声を上げ、大きく首を振って制止を求めたが、手の動きが止まる事は
なかった。
ぱちゃ、ぱちゃ、とまろんの足が湯船に張った湯を蹴る。
快楽に身を焦がされるたびに、湯が大きくはねる。
「あっ…んっ、やっ……」
細い喘ぎが漏れ、体が震えた。泡でぬめった稚空の手は彼女の柔らかい胸を弄び、
耳元に吐息を落としたりしながら、刺激を与え続けた。
「……感じてるんだ?」
稚空が耳朶を甘噛しながら訊ねてきた。肌にすべる泡の感触に、まろんは思わず体をよじる。
「ちがっ………ぁっ!」
放っておかれていた先端を、きゅうにつままれてしまった。びくん、と体を
震わす彼女を見て、稚空が楽しそうに笑う。
「気持ちいいんだ?」
そのまま指で愛撫され、つい上りつめそうになる。ぬるくなった湯がまた
大きく跳ねた。
「ん、ふ……ぁっあっ!」
もう一度先端をつままれたとき、頭の中がさーっと白くなって、力が抜けた。
「イッたのか?体洗ってただけなのに?」
「……やっ」
「本当に感じ易いんだな。まろんは」
稚空がそういって少し笑うと、まろんの顎を持ち上げて口付けた。
唇を貪られ、舌が入ってくる。ぴちゃ、ぴちゃという水音がいやに耳に付く。
「……こっちむいて?」
言葉に抵抗も出来ず、まろんは大人しく体を反転させて足を床につけた。
「足、開いて」
何をするかはもう分かっていた。しかし、その要求を嚥下する事が出来ずに
まろんは羞恥に顔中を赤らめた。
稚空は掌に泡を取り、腿や足全体を撫でるように泡を滑らす。
「ほら、足開いて。あとそこだけだぞ、洗ってないの」
泣きそうな顔でいやいやするまろんを見、稚空はため息をついた。
固く閉じられた腿の間に手を無理やりすべり込ませ、内腿を洗う。
指が付け根から更に奥に触れた時、まろんの体がびくんと反応した。
「ほら、ここも洗わないと」
稚空の指が割れ目に触れ、そのまま奥まで入り込んでいった。
「あっ!!」
まろんがこの世の終りの様な声を上げ、頭を垂れた。指は置く深くまで入り、
泡が襞に刷り込まれていく。
「すっごい濡れてる……」
稚空が感心したように呟いた。確かに、泡とは違うぬめりが太腿を伝って垂れている。
「も、やめてぇ…っぁ…あ!」
もう一本の指が侵入してきた。好き勝手に動き回るその動きに気が遠くなる。
「も、だめっ……や…っ……!!」
稚空の親指の爪が芽をなで上げた時、またもやまろんが果てた。だらしなく
口をあけ、快楽の余韻に浸りきっている。
「ち、あき……」
すがり付こうとまろんが腕を伸ばす。が、彼はそれをかわし、シャワーを手にとった。
湯は勢いよくまろんの体中に付いた泡を洗い流していく。
秘所についた泡を落とすために、湯が敏感になったそこに当たる。
「んっ!」
肉芽にきつい湯を打ち付けられ、体中に電流が走った。
稚空はだらりと投げ出されたまろんの足を更に開かせ、最大にした湯を秘部に当てる。
快楽にまろんが声を上げるたびに、狭い部屋に響きわたる。
「ゃ、や、やぁっ!!んんっ!」
耐えられなくなったのか、まろんが一度大きく声を上げ、ぐったりと力を抜いた。
倒れかけた彼女を支え、開いた足の間になおも湯を浴びせ掛ける。
「もっ、やめてぇっ!!やっだ、めに、なっちゃうっ……」
体を刺すような快楽に、まろんが悲鳴をあげる。真っ赤に充血した秘部を見て
興奮したのか、稚空は彼女を立たせ、自分が縁に座ってから彼女を自分の上に
乗せた。そそり立ったそれを勢いよく埋め込まれ、まろんが長く尾を引く
悲鳴をあげた。
「あっ、ぁっ、やっぁっん!!ふ、あ、あ」
腰を打ち付けられ、体を揺する。ふと思い出したように稚空がシャワーの湯を
繋がっているそこに当てる。
痛いほどの刺激にまろんが甲高い声を上げた。浴室にある全ての音が響き渡り
こだまする。
「も、だめ………ぁっ…」
細く喘いだあと、まろんが果てた。しかし、稚空は自らを抜き取ろうとはせず、
震えているまろんの腰を支えて深く突く。
「……シャワー、っ…やめ、て……」
蚊の鳴く様な力のない声で、まろんが哀願したが、稚空はそれを聞かずに
手首を動かして湯の当て方を変える。
「だめだ。もう少し我慢しなきゃ」
深く突きながらも、稚空の声が焦りを帯びてきた。限界が近いのだろう。
「イクの……?」
「……まろんは?」
まろんがかすかに頷いた。快楽に蝕まれた体は何度も痙攣し、虜になっている。
「わ……たしっも、だめっ…まっ、た……いっちゃ…ゃあっ!」
白い両胸は宙で揺れ、濡れた髪からは雫が飛び散る。
ぱん、ぱん、と規則正しい体を打ち付けるリズムが浴室中に響く。
「まろん……っ!」
「あ!ああ、やっ!だめええっっ!!」
ごとり、とシャワーヘッドが稚空の手から地に落ちた。行き場を失った湯が
床に広がる。
二人が繋がっている部分から、白濁した液体が伝ってこぼれた。
しばらくの間はぼんやりと呆けていたが、まろんより先に稚空が動いた。
膝の上のまろんを抱え、縁に座らせてからシャワーを拾い、粘液のついた自分の
体と彼女の秘所や足を洗い流す。
「なぁ、大丈夫か?」
真っ青な顔をしているまろんに、稚空がいたわりの言葉をかける。
「……立てなくなっちゃった」
まろんが呆然としたまま呟いた。
「え?」
「力、入んないの」
「そっかぁ……あんなにイッてたしな」
稚空が意地悪く笑って言った。まろんが真っ赤になって視線を下げる。
「どうしてくれるのよっ?」
照れ隠しにまろんが喚くと、ひょいと担ぎ上げられた。
「なっ?!」
「立てないんだろ?だったら運んでやる」
稚空は笑い、まろんは戸惑ったように唇をとがらせながらも抵抗はしなかった。
二人が出て行った浴室は、先ほどまでのことがなかったかの様に静まり返っていた。
ごぽごぽと、最後の水が排水溝に吸い込まれていって、行為の名残が全て流れていった。