「や…ひあ、ひ…も、…っああぁぁあ!」
「っ、く…」
マンションの一室、電気は消えているものの、窓から射し込む月光の光に映し出され、
淫らに絡み合う男女が一組。
女の方が限界を迎えると、続けて男も快楽の波に流された。
いつもであれば、女――日下部まろんは達する時は、稚空に抱きついたり、シーツを握り締めたりして
襲いくる快感に意識を飛ばされないようにするのだが、今日はどうも様子が違った。
彼女の両腕は一つに束ねられ、ベッドの枕もとにしっかりと繋がれていた。
そしてその目元には布が巻かれ、彼女の視界を闇に落としている。
更には口にはタオルで猿轡が噛まされ、言葉の自由さえも奪っていたのだ。
「むぅ…」
快感の余韻に浸っていた稚空に、不自由な言葉が耳に入る。
はっとして起き上がると、自分の下でもどかしそうに身じろぐまろん。
「ああ、ごめんな、今外してやるから」
そう言って、目元や口のタオルを取ってやり、最後に腕の戒めも慎重に解いてやる。
そしてベッドサイドのスタンドをつけ、先程戒めていた所に跡が残ってないか確かめる。
「あー…、ちょっと赤くなっちゃってるな、痛いか?」
「……」
「まろん?」
「…嘘つき」
声から察すると、彼女は相当に不機嫌だ。
「ばか、ばかぁ…この前こういう風にしたばっかりじゃない!それに、腕だけって言ったのに…」
どうやら今回の交わりの趣向の事で不満があるようだ。
――つまりはこういう事だ。
2日前、まろんが稚空に愛されている時に彼は彼女の腕を縛った。
まろんは酷く動揺し、やめて、と懇願したが稚空はやめるどころか
まろんのその姿にいつも以上の興奮を覚えた。
しかし行為が終わった後、まろんは「もう嫌、もう嫌だからね!」と半泣きの様子だったので
稚空はまろんにはまだ早かったかなと思い、当分はしないよ、と言ったのが先日。
「当分はしない」と言った割に、稚空はわずか2日で行為を再開したのだ。
それが彼女の不機嫌の理由らしかった。
「ごめんなって、でも仕方ないだろ、まろんが可愛いんだから」
まろんはしばらく稚空を睨むとぷい、と稚空のいない方へ寝がえりをうった。。
「まろん」
稚空が声を掛けてもまろんは背中を向けたまま無反応だ。
「まろん、こっち向けって」
頬を膨らませ、やっと振り向いた彼女を抱きしめて稚空はことさら甘く囁いた。
「ごめんな?怖かったか?」
そう言って稚空がまろんの髪にキスし、大切そうにその体を抱きしめる。
そのまま頬に、額に、耳にと、あらゆるところに甘いキスの雨を贈る。
「もう俺の事嫌い?」
キスの合間に稚空が耳許で囁いた。掛かる吐息が柔らかで心地よい。
押し黙っているまろんに、なぁ、と返事を促すと小さな声で好き、と答えるのが聞こえた。
「俺も好きだよ。誰よりも」
そう言って、稚空はまろんのそれと口付けを交わす。
柔らかく幾度も繰り返される、ついばむだけのキスにまろんが安心したように力を抜き、稚空に身体を預けてくる。
その身体を自分の胸にもたれさせ、背中や髪を撫でてやりながら
時折愛してるよ、と囁く。すると、まろんの方も稚空の背中に腕をまわしてきた。
そのまままろんが眠るまで、稚空はその行為を繰り返していた。
まろんがこういう風にされるのが好きなことを稚空は知っていた。
だから最近は、あえて触れるだけにキスも、言葉で伝えることも控えていた。
それらをご褒美、として与える為に。
稚空だって、優しく抱くことが嫌いな訳じゃない。
優しくしている時のまろんは本当に幸せそうで可愛いし、別にそのときに不満だったわけでもない。
こんなの言い訳かもしれない。
だけど、まろんは虐めたくなる――稚空のサディスティックな部分を刺激する――雰囲気があるのだ。
事実、目隠しをされ声も出せないまろんは、稚空にぞくぞくとした興奮を与えた。
稚空は縛られている時のまろんを思い出していた。いつも異常に艶かしい反応だった。
そんな普段とは違うまろんをもう一度見たくなった。
「もう一度、縛ってもいいか・・?」
「えっ・・・?」
稚空の突然の申し出にまろんは一瞬戸惑っているようだった。このまま愛撫されていたいようでもあった。
確かに最初は恐怖感もあったのだが、最近の稚空のプレイ後の態度は好きだった。
自分もちょっとずつ、あの動けない状態が好きになるのがわかった。
「いいよ」
と、小さな声で言ったのは決断に時間がかかった証拠だった。
まろんは自ら手を後ろへもっていった。
稚空はその手を受け止め、用意しておいた縄で後ろ手に縛った。
少しずつ、体を愛撫するように全身に縄をかけていった。
まろんが縄をかけるたびに甘い息を漏らす。
縛りが完成すると稚空はいつものように優しく愛撫し始めた。
まろんはこの感触が好きになっていた。
動くこともできず、ただ稚空に身を任せとろけた様になるのが。
この状態で身を任せていると、稚空に抱かれているような満足感があった。
稚空の愛撫は全身から一巡すると、局部に廻っていく。
まず恥丘の頂をゆっくりつまみ、次に突起してきた乳首を愛撫する。
じっくり、確実に秘所をとらえていく。
「んっ・・」
まろんがたまらなさそうに喘いでいる。
稚空はまろんが快楽に溺れ、気づいていない間に奥へと消えた。
そして道具箱のようなものを持って帰ってきた。
その中から一本のバイブを取り出した。まろんも気が付いているようだ。
「それ、どうするの?」
まろんが怯えた表情で聞いた。この手の物は前から使ってはいたが、あまり評判はよくないようだ。
「どうするかなんて、見てれば分かるさ」
と冷たいように稚空は言い放った。
言い終わると稚空まろんの恥部にそれをあてがった。
スイッチを入れる、途端に室内に振動音と喘ぎ声とがひろがった。
「なんで・・っこんなものを・・」
まろんはすこし恨めしそうに稚空を見上げたがどうすることもできない。
抗することもできず、哀願するような目で見上げられ、稚空はかえって満足そうである。
スイッチを持ったまま「さて、また用意があるから」
と、言い残して稚空はまた奥へ引っ込んでいった。
まろんはただ一人で悦楽に浸るよりなかった。
そのときだった、玄関の方で音がした。
今入ってこられたら誰であろうと言い逃れの出来ない状態である。
まろんは快感も忘れ、息を必死でこらえていた。