どうしよう。正直に話すべきだろうか。いや、でも。
あんまり正直に言いすぎるとまろんに泣かれる?それとも怒るだろうか?
かといって少し控えめにいうってのもなぁ…。ばれたらばれたで最悪な結果になるかもしれないし。
ああ、困った。
名古屋稚空は、最愛の恋人を目の前にして次に発する言葉を何にしようか迷っていた。
何故こんな事に、と思いながら。
ことの始まりは、ほんの少し前。
ある温かい春の午後。
マンションの一室に、恋人たちの姿が見てとれた。
端整な顔立ちでソファーに座り、テレビの画面に目を向ける青年、名古屋稚空。
そのとなりで、彼にもたれて同じくテレビに目を向ける少女はもちろん日下部まろんである。
そんな二人が今見ているのは、たまたまテレビで放映されている、少し古い映画。
まろんが悲しい作品、怖い作品、ホラー作品をあまり好まないため、
映画やビデオを見る時は、自然と甘ったるい純愛系になることも少なくはない。
展開はちょうどラストシーンで、恋人たちがキスをし、抱き合って映画は終わった。
「うーん、思ったより面白かったねぇ」
大きく伸びをしながらまろんが口を開いた。二人とも幸せになれたし、と付け加えて。
言葉を返そうとまろんの方をむいた稚空の眼に飛び込んできたのは、まろんの唇。
「ああ、そうだな。な、まろん」
「なに?」
こっちこっち、と手で呼ばれ、まろんが稚空の顔をのぞきこむ。
少しだけ香る香水の匂いが色っぽい。稚空って良い匂い。
「キスしよっか」
まろんの頬が稚空の手で包まれ、くい、と引き寄せられる。
そっと重ねられた唇は、初めは甘くついばむようなものだったのが、稚空がまろんの下唇にゆるく噛みついた。
「ん」
小さく声を漏らした拍子に、わずかに開いた唇の隙間に舌が入り込んだ。
舌を探りあて、絡ませる。歯列を舐める。互いの唾液が混じりあう。
今まで知らなかったキス。ギュって抱きしめられることの次に好き。頭の奥が熱く蕩ける。
しばらくその状態を楽しんだ後、稚空が唇を離し、まろんがぷは、と息を吐いた。
ここで、いつもであれば恥ずかしそうに眼をふせるまろんの大きな瞳が、稚空をじっと見つめた。
「?何?まろん」
「ん…んー、稚空、今まで何人位の女の子と付き合ったの?」
まろんのその言葉に稚空は頭の中が真っ白になる。
直球。そして果てしなく答えにくい。何故だ。何故そんな事を聞くんだ。
「い、い、い、いきなり、どうしたんだ?」
その上ずった声から彼の動揺が手に取ったようにわかる。
「稚空、キス上手だなぁって思って」
まろんを気持ち良くさせるため、よかれと思ってしてきたキスが
まさかこんな形で自分に帰ってくるとは。
そして今の気まずすぎる状態があるのだった。