なんか最近、私、変だ。  
休日の朝、柔らかく光が差し込む窓。その傍らにあるベッドの中で、眠りから覚めたばかりの日下部まろんは  
ここ数日いつも頭の中にあるもやもやとしたものが、またせり上がってきたことに気づいた。  
そのもやもやに気付いたのは、一週間ほど前。  
でもよくよく考えてみると、その感覚自体はもう少し前からあったような気がする。 ごろんと寝返って、隣で眠っている稚空の胸に顔を預けてみる。  
かすかに聞こえる彼の心音と、体の温かさにどこかしらホッとする。  
不意に、もやもやとした気分が少しだけ大きくなったような気がした。  
それを掻き消すように、稚空の首に腕を回して体を擦り付けるようにして抱きつく。  
「ん…?」  
わずかな動きに稚空も眠りから覚めたようで、まろんが自分に抱きついているのを感じると  
その体をあたたかい腕で包み、自分のほうへと引き寄せた。  
「起こしちゃった」  
ごめんなさい、とまろんが小さく呟く。  
「いいよ。…今、何時?」  
寝起きのせいか、いつもよりだるそうな稚空の声に、色っぽいなぁ、と頭の隅で感じた。  
「まだ7時。もう少し寝る?」  
その会話の最中にも稚空はあくびをしていたので、返事は聞かなくてもわかってるけど。  
「ん、そうする…まろんは?」  
「私も、もうちょっとこうしてる」  
 
そういって更に更に稚空のほうへ体を擦り付ける。  
そうしていると、あの目覚めの気分が少し和らぐような気がした。  
ついでに足も絡ませて、もっと傍に行きたい、と考える。  
すでに目の前で稚空は寝息を立てていて、まろんもその規則正しい呼吸音にうとうとしていると  
不意に絡ませた稚空の足が動き、まろんの太ももの内側を擦った。  
「…っあん」  
思わず出てしまった自分の声と、じんわりと熱くなる下半身に  
眠りに落ちかけていた意識が急激に引き戻された。  
今、私声出した?  
寝かけていたせいで夢か現実なのかわからない。  
しかし、熱さがのこる下半身によって認めたくないが現実であることがわかった。  
稚空に聞こえてないよね…?  
寝ているし、こんな小さな声じゃ起きないだろうとは思う。  
けど、稚空はこういうときは妙に勘が良いというか、敏感というか、目ざといからなぁ。  
恐る恐る顔を上げると、彼はまだ眠りの中らしくてほっとした。  
それにしたって私どうしちゃったんだろう。  
あれだけの刺激なのに体が熱い。  
目を閉じて無理やり眠ろうとするが、先程の淡い感覚が忘れられず  
ますます目は冴えてしまった。  
私、やっぱりどこかおかしいのかもしれない…。  
 
いい匂いだ。  
夢の中でそう思ったときにぱちりと目が覚めた。  
カーテンから零れる、先程よりも強い朝日が目をさす。  
「あ、おはよう、稚空」  
まだ重い瞼をこすりながらリビングに行くと、まろんが朝食の用意をしながら微笑みかけてきた。  
「おはよう、いい天気だな」  
答え、なんか新婚夫婦みたいだな、とニヤニヤしながら洗面所に向かう。  
その表情を垣間見てしまったまろんに、稚空も最近調子変なのかなぁ…と不安がよぎったことは露知らず。 「まろんいつ起きたんだ?」  
もうちょっと寝てるって言っただろ?と朝食の最中、稚空がたずねてきた。  
「ん、なんか寝れなかったから、あの後すぐ」  
そうなのか、と納得する稚空にうなずいてみせる。  
声を上げてしまった後、眠ろうとしても無理だったからそっとベッドから抜け出した。  
もやもやとした感覚を振り払うため、熱いシャワーを浴び、洗濯を干した。  
暖かな日差しの中にいると、少しは気がまぎれた。  
そのおかげか、今はあの感覚はほとんどない。  
ちらり、と稚空の顔をのぞくと彼は笑い返してくれる。  
優しい人。  
稚空に愛してもらっているときが一番幸せ。  
 
「まろん、ここついてる」  
そんなことを考えていると、ふっとテーブルの向こう側から顔の横に稚空に手がきて、まろんの唇の下についたご飯粒をとる。  
「…ゃあんっ」  
稚空の指が、まろんの皮膚に触れた瞬間、甘い痺れとともに力の抜けたような声がまろんの口からついて出た。  
「………まろん?」  
全身から血の気が引いていくのがわかる。顔が赤くなってしまうのを止められない。  
聞かれた。どうしてあんな声が出ちゃったんだろう。  
「ぁ、ぁの、びっくり、しちゃって…」  
恥ずかしくて恥ずかしくて、まともに稚空の顔が見れない。  
どうしよう。絶対変に思われた。どうしよう。  
そう思った瞬間、まろんの瞳が潤んで、ぽろぽろと涙が溢れ出す。  
「あ、え、まろん?どうした?」  
おろおろとする稚空を尻目に、涙は全くといっていいほど止まる気配を見せない。  
「と、とにかく、こっちおいで」  
そういって、稚空が手を引いてソファーまで連れて行って、座らせてくれた。  
ほんの少し間を空けて、稚空が横に座る。  
そのときも繋がれた手が熱くて、体に熱がじんわりと広がって、こんなのじゃもう言わずにはいられない、と思った。  
「まろん?どうした、何かあったのか?」  
すぐそばで聞こえる声にさえ、ますます胸の高鳴りが増してゆく。  
 
「……あの、ね、最近私、変なの」  
「…変って?」  
「稚空といるだけで、体が熱くなるの、ちょっと触られるだけで、変なの」  
「恥ずかしいとか、そういうこと?」  
自分一人ではあのもやもやの正体がわからなかったのに、稚空に話しながら考えていると  
ちょっとずつわかってきた気がする。うまく言葉にできないかも知れなけど。  
「恥ずかしいんじゃなくて、えっと、わからなくて…  
なんていうか…さっきみたいに触られるだけで、あの、夜するときみたいな感じになる……」  
そう話すことがひどく恥ずかしいような気がして、最後のほうはとても小さな声になってしまった。  
「夜するとき?…つまり、感じるってこと?」  
自分が言ったことだけど、改めて聞き返されるととても顔を上げることなんてできない。  
稚空のストレートすぎる聞き方にも問題がある気もするが。  
「それであってる?まろん」  
隣にいる稚空がまろんのほうへ近づくように座りなおした。  
それだけで体がぎゅうっと縮じこまってしまう。  
それがさらに恥ずかしくて、首を縦に振って肯定を示すのが精一杯だった。  
「…夜、するでしょ?それなのに朝起きたらすぐにキスしたい、抱きしめてほしいとかって考えちゃうもん」  
前はこんなことなかったのに、とまろんが付け足すようにつぶやいた。  
「なんでなのかな…私、おかしくなっちゃったの?」  
再び潤んだまろんの瞳を見て、稚空はいや、と首を振った。  
「そんなの俺もだよ。俺なんか抱いた後すぐでもそう思う」  
あはは、と笑って稚空が彼女の頬にキスを贈る。  
「初めの何ヶ月かはまろん恥ずかしがってただろ?  
だから、まろんが慣れるまでは軽く軽くって思ってたけど、濃いのもそろそろいい時期かもな」  
何が?と聞き返す暇もなく稚空はまろんを抱きかかえて寝室へと連れて行った。  
 
先程シーツを替えたばかりのベッド。  
その中央にゆっくりと座らされ、稚空の手によってカーテンが閉められた。  
とは言ってもまだまだ部屋の中は明るい。  
こんなに明るくちゃ恥ずかしいな、と思っているうちに稚空が向かい合うように座り  
唇が重なってくる。  
「…ぁ」  
ちゅ、と触れるだけのキスが送られた後、稚空の舌が口内へと侵入してくる。  
あたたかく、湿った感触、そして水の音。  
思わず目を硬くつむる。  
頭の中がクラリと溶ける。  
ねっとりと絡められる舌にまろんが懸命に応えようとしている間に  
稚空に手が彼女の胸にそっと添えられる。  
さらにまろんの身体が赤くなるのが分かった。  
そのまま形を確認するようになぞられ、まろんがくすぐったさに身を捩る。  
「っ、はぁ…」  
長い長いキスがようやく終わり、クタリと力が抜けて座っていられない状態のまろんを稚空が抱きしめ、  
耳たぶや頬、首筋などを唇で愛撫しながら全身をまさぐる。  
稚空の大きく暖かい手が全身を這うその感触に、まろんが心地よさげに身体を預けてくる。  
「気持ちいい?」  
からかうような稚空の声色にまろんが顔をあげ、拗ねたような表情を見せた。  
「…くすぐったいだけだもん」  
「それは残念」  
稚空は苦笑し、まろんに体重をかけてその華奢な身体をベッドに沈めた。  
まろんの胸元に顔を埋め、空いた手で彼女の上着のボタンをひとつずつ外していく。  
 
時折鎖骨にかかるあたたかな息に、まろんの身体は小さく反応を示す。  
まろんの背中を少し持ち上げ、上着と同時に下着も器用に外して取り去る。  
そこには、昨夜、というより毎晩の名残でところどころに赤く痕が残り、  
彼女の白い肌とのコントラストがやけに稚空を昂ぶらせた。  
「あっ…」  
すでに硬くなりかけている胸の蕾を指で挟んで転がしてやると、  
ぴく、とまろんの脚がシーツの上で跳ねた。  
きゅ、きゅ、と柔らかく触れるだけで反応する。  
キスや首筋への愛撫とともにしばらくそうしていたが、まろんのねだるような表情に急かされ  
稚空の手はその白い身体をなぞり、スカートの中へもぐりこんだ。  
とっさにまろんの頭に、恥ずかしいという気持ちがかすめた。  
何度身体を重ねても、そこに触れられるのに慣れることが出来ない。  
稚空がショーツの上からそっと秘所に触れると、そこは既に熱く潤んでいて時折ひくひくと震えている。  
布越しに浅く指を沈め、まわすように揉み解すとそれに合わせまろんの呼吸も熱いものになってくる。  
「ひぁっ」  
唇は胸元をなめ、時々その舌が蕾をかすめてやると彼女から高い嬌声が漏れる。  
もうショーツ越しにも濡れた感覚が伝わっていて、指を動かすごとに水音も聞こえる。  
いやらしい、だけど愛おしい。  
恥らうような伏せた表情から、淫らに快楽を求めようとねだる表情への変化は  
自分が教え込んだものだと自惚れてもいいのだろうか。  
頭の中をそんな考えに徐々に支配され、もっと喘げ、もっと鳴け、と稚空の中に欲求が生まれてくる。  
「やぁ、っぁあ……!」  
胸の蕾に吸い付き、口の中で転がしながら手では少しだけ深く指を埋めてやると  
まろんの身体がビクンとはねて淡い限界を示した。  
 

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