慣れてる、のだろう。女の扱いにも、こういう行為にも。
生徒達よりもしっかりとした大人の身体で、それでも優しく柔らかく触れてくる。
肌をそっと滑る指。
「……ん…」
吐息が溢れる。汗がじっとりとシーツを濡らす。
温い快楽が確実な快楽に変わってゆく。今更挿入の痛みもないから、熱ばかりに支配される。
いろいろなしがらみを頭から振り払うには、これが一番丁度いい。
「あ、…ぁ…ん」
「…可愛いですよ」
微笑むその顔に、僅かだって愛しさなんて感じないのに、切なさは生まれるのだから、肉体とは便利なものだと思う。
舌が肌を形に沿って這い、汗を舐めとる。
その感覚に溜息を吐けば、揺らされる腰。擦られる内側。
うねり、くねりが激しくなるにつれ、口からは息遣いではなく、獣の様な喘ぎ、だけが。
開放の瞬間、涙腺が熱くなり、一筋伝った。
はあ…と深く息をつくと、保健医が顔を、さっきよりも更に優しい微笑みのまま寄せて来る。
男が目を閉じた事で、次に来るであろうあの行為を嫌って顔を背けた。
「……ぁ、…ぃ…ゃ、…だ」
「…判ってますよ。…心配しないで」
口付けは頬に降ってきて、涙を舐めた。そのまま、耳を舐めて、その裏、首筋、顎の下。それは残された快楽を貪る口付け。
拒絶した直後、男が一瞬だけ困った顔を見せた気がした。
言葉の伴わない約束は、守られている。
…キスは、絶対にしない。
この、想いを紡ぐ為の唇は、誰にも渡す気になれない。
一人を除く事は出来たとしても、これからもずっと。
それを全て判った上で、私を抱き締める事を止めずに、甘い優しさばかりを与えてくるこの男は、多分本当に優しいのだろう。
「どうぞ。疲れたでしょう」
「………砂糖」
「はいはい」
渡されるそれは暖かい珈琲。
あれだけの熱の渦中にいて、直ぐに澄ました顔に戻れるこいつが恨めしくて我儘を言っても、柳に風。
「それ飲んで暖まったら、ちゃんと着替えて授業に行くんですよ」
子供に言い聞かす様な、少しも棘の無い声色。
私はそれが、堪らなく気に喰わないのに、だ。
角砂糖が2つ入った珈琲を、ひとくち飲む。
優しいのではない。甘いのだ。