ずっと一緒に居た。 それが当たり前だと思っていた。
だけど、それは段々切なさに代わっていって
何時の間にか一緒に居ることが苦痛に感じられるようになっていた。
最近真栗の様子が可笑しい事に、まおらは気がついていた。
話しかけても上の空。しかも最近では生徒会会議にもあまり参加せず
帰りは兄である征光と何処かへ出かけている様子である。
まおらが何処に行っているのか尋ねても、何時も誤魔化され
本当の事を教えてくれないのが現状だ・・・。
「怪しい・・・」
そんなある日の事だった。
何時ものように会議に参加せず早めに帰路を急ぐ真栗と征光の姿を見つけ、まおらは二人に駆け寄った。まおらの姿に気がついた真栗たちは、慌てるように階段まで走るが、まおらに追いつかれ捕まってしまった。
「捕まえた!!」
まおらは征光の腕を掴んだが、驚いた征光はまおらの腕を振り払った。その瞬間、バランスを崩したまおらは階段の一番上から身を投げてしまった。宙に浮かぶまおらに手を伸ばしたのは・・・
どすん
大きな音が辺りに響き渡り、征光の悲鳴が鳴り響く。
騒ぎを聞きつけた数名の生徒が倒れたまおらに駆け寄った。
痛みを感じない体に不信感を抱き、まおらはそっと瞳を開けた。
「・・・あれ・・・?」
まおらの下には、彼を守るように何かが横たわっていた。
ゆっくりそれを見つめるまおらの瞳には、それが誰なのかゆっくり認識されていった。真っ白な包帯が、真っ赤に染まり、地には血で出来た模様が出来上がっていた。太陽のような金色の髪は、血の色をさらに際立てていた。
「・・・ま・・・くり・・・?」
まおらを庇う様に横たわる真栗からは、返事は無く、血の気の引いた顔は真っ青に染まっていた。階段の最上階から駆け下りる征光は真栗の頭に自分のハンカチを抑えつけ、出血を止めようとしている。まおらは真栗の体を揺さぶろうとしたが、それを征光の腕が止めた。
「頭を打っているんだぞ!体を動かすな!!」
普段からは考えられない征光の冷静な言葉に、まおらは狂ったように声を張り上げた。その痛みにも近い叫びは校内に木霊した。
***
「古傷が開いただけだね・・・」
保健室ではベッドに寝かされた真栗の診断をしていた千里が、診断を終え征光を話をしていた。真栗の頭には新しい包帯が巻かれ、顔色も先ほどよりも良くなっている様子であった。
「古傷・・・ですか?」
「ん、幼いころの古傷みたいなものが開いちゃっただけ。あとは脳震盪。ま、暫くして目を覚まさなかったら、救急車呼ぶから安心なさい、お兄ちゃん」
軽率な千里の言葉に対し、征光は一瞬だけ眉間に皺を寄せた。彼にとって、自分を失脚まで追い込んだ憎い男相手に、大切な弟を診断(助け)られたのは、少なからず悔しいものらしい。
その後詳しい説明が聞きたいと申し出る真栗の担任に呼ばれ、征光は渋々真栗の側から離れた。そんな征光の後姿を見つめ、千里は小さくため息をついた。
「・・・過保護だね〜、お兄ちゃんは」
ふと真栗の方を見れば、まだ目覚める気配はなく、何処と無く落ち着いた表情で安眠していた。襟元が血で汚れていることに気がつき、千里は親切心から真栗の上半身を脱がし、新しい服に着替えさせようとした。
「・・・ん?」
シャツまで脱がした時、真栗の体の異変に気がついた。胸元が包帯のようなサラシでぎゅうぎゅうに巻かれているのだ。これでは苦しかろうと、サラシを取ろうとした瞬間サラシから出てきた小さめだけど形の良い乳を見て、千里は我が目を疑った。
「・・・この子、確か男の子だよな・・・何でおっぱいがあるんだよ」
それは確かに女性のシンボルといえるものだった。
千里が硬直していると、用事を済ませた征光が保健室に帰ってきた。どうやら用事ついでに真栗の教室へ行き、荷物も一緒に取って来たらしい。
「まぐ、起きているか?」
ベッドの周りを囲むようなカーテンを開け、中に入ろうとした征光は、真栗の服を掴んでいる千里を見て硬直した。そして次の瞬間、千里に殴りかかろうとした。咄嗟の所で、それを交わした千里だったが、征光は気が上昇しているのか、千里に怒鳴り散った。
「貴様!人の妹に何をさらす!!」
「い、妹?!」
征光の言葉に千里は我が耳を疑った。