古ぼけた暗くて肌寒い冥界に佇む、灰色の城に死神は生きている。
初めて死神が神から生を受けたその日から、この冥界は表から見れば変わったことなど何もない。
しかし、その中はここ数年の間にめまぐるしい変化が起きていた。
神山満月という小さな女の子がもたらした変化は、冥界全体を揺るがした。
死神主人が消え、部長が消えた。長を無くした死神たちは慌てふためいた。
そして、何よりその少女に近い存在だったふたりの死神が、自らを天使と呼ぶ運動を始める。
当初は相手にされなかった運動も、次第に広く受け入れられるようになっていく。
ふたりは恋人同士だった。
自殺した人間の罪。永遠に生きる罪とされた死神の、恋。
いずみとめろこに変化が現れたのは、5日前の話だ。
「そろそろいずみくん、帰ってくる頃かな……」
めろこは夜ご飯の仕度をしながらそう呟く。
いつもならいずみが帰ってくるのが待ち遠しくて仕方が無いめろこも今日は少し違う。
めろこは先日、上司に言われたことを思い出す。
元々ベテランだっためろこは、死神主人と部長の穴を埋めるための人事異動でより大きな仕事を任されるようになった。いずみも有能だったため、ミルメイクの名前はあれども個人で活動することも多くなった。
天使運動を始めたとき、批判も多かった。いろいろ言われたけど、めろこたちの意思は強く、天使運動は自由だか強制はしない、という結論でまとまった。
男子寮と女子寮に住んでいたいずみとめろこには、ふたりで住める一室が与えられた。いま二人はそこで一緒に暮らしている。
グツグツと煮込んだクリームシチューを見つめて、めろこは必死に考えていた。
いつまでもどこまでも続く、生の迷路。それは一度諦めて自殺を選んだ私たちへの、罰だ。
現に私は途方も無い年月を、こうして過ごしている。もう二度と鳴らない心臓とともに。
死に触れて死に償え。声亡き声が、そうやって私たちを追いかけて、追い詰める。
満月はこう言ったよね。チャンスなんだって……。
でもね、しばらく満月の顔見てないと、忘れそうになっちゃうんだよ
忙しさにかまけて、自らを天使と呼ぶことさえわずらわしくなってしまう。
おかしいよね、そんなことの無いように、あの運動をやってるっていうのに……。
もしかして、仕方の無いことなの?
だって、もう満月は、私たちのことわからないでしょう?
英知くんを断ち切った満月に、もう死神は見えない。
だから苦しいのかな。この間、上司に嫌味言われて気付いちゃったんだ
愛なんてものを今更信じてもどうしようもない
卵子も精子も無い私たちに、愛する意味なんてない
この恋に続きも終りも、無いんだよ
「めーちゃん、ただいま」
めろこがそんなことを考えてるうちに、いずみが帰ってきた。
いずみはさっそくおでこにちょんとキスをして、着替えはじめる。
めろこはいつものように笑って出迎えるが、自分でも上手く出来ていないことは分かっていた。
「あっ、いずみくん、今日は私休みだったから杏仁豆腐作ってみたんだ」
ちょっと不恰好にさくらんぼの載った杏仁豆腐がテーブルに並ぶ。
「あ、ほんとだ」
いずみはありがとと耳元で呟いてまた軽くキスをする。いつもなら笑みのこぼれる彼の仕草も、今日はなぜだか胸が苦しい
その夜、いずみはいつものようにめろこを抱き寄せる。
めろこも彼を抱きしめようとするのだが、うまくいかない
いずみも様子がいつも違うのに気が付いて一瞬戸惑う。
「めーちゃん……どうしたの?」
そういわれて思わずめろこの瞳から涙がこぼれてしまう。
彼の大きな手も背中も、体を伝う唇も、いつもならあんなに愛しいのに今日は……
問い掛けてもただ泣き続けるだけのめろこを、いずみはぎゅっと抱き寄せる。
「……ごめん……めーちゃんごめん…」
謝るいずみにめろこは返してあげられる言葉が見つけられなかった。
いずみくんが悪いんじゃないよ……
そう一言言いたいだけなのに、口にしてしまえばいらぬ言葉が出てきてしまいそうでめろこは怖かった。
「別れたい」と言ってしまいそうで、怖かった。
初めてめろこに拒まれたいずみは、彼女が寝付いた後起こさぬようにそっと部屋を出た。
本当にいやか、嫌でないかくらい、僕にだって見分けはつく。彼女はあの時……本当に僕を拒否した。
考えても見当たらない理由を、ずっと心の中で探している。だけど分からなくて、またため息がでた。
いずみはそっと柵をのり越えて、人間界へと降りていった。地上の朝焼けが眩しいほどに照らすと、満月と二人で歩いた雨上がりの空を思い出す。
朝帰りのホストや飲み潰れた親父がうろうろしている小汚い街を歩いていると、24時間営業をしているCDショップから歌声が聞こえてきた。
中に入ってすぐ目立つところにポップとともに満月のアルバムが売られていた。
彼女の勢いは留まることを知らず、今でも元気に活動している。
視聴機のヘッドホンを取り、耳を澄ますと満月の歌声が聞こえてくる。
その声は深く澄んでいて、愛しい人へ綴った詩を読んでいる
亡き人に思い馳せながら、そばにいてくれる彼を大切にするとー……
もう5日も帰ってこない彼を待ちつづけた。
もしかしたら自分が仕事に出ている間に部屋に戻っているのかも……とめろこは思ったが、そんな気配は無かった。
めろこはソファに横になる。
段々重くなる瞼を時折パチパチ開きながら、ずっと後悔していた
このままだめになってしまうのかな、と思うと苦しかった。
彼に抱きしめられても苦しいけど、彼がいないのも苦しい……
別れるなんて出来ないけど、一緒にいても苦しい……。
もう無理だ……やっぱり恋愛なんて無理だったんだ。
罪の中でどうして互いを愛し合うことが許されただろう?
永遠の刑罰……自由なんて無い。
どこからか聞き覚えのある美しい声が聞こえて心がふいに温まった。
それだけじゃない……何か暖かな温もりを、めろこは感じた。
その歌はゆっくりと苦しみを溶かして、流れ行く水になる。
そっとめろこは瞳をあける。そこには自分が待ちつづけていた人の顔があった。
「――ーいずみくん…」
いつの間にか、彼はめろこをベッドへと移動させてタオルケットをかけてくれていた。
あどけなく眠るその横顔に、触れようとして手が止まる
もうだめなんだよ……そう言い聞かせて手を避けようとすると、いずみが目を見開いて手を掴んだ
「めーちゃん……」
一瞬切なげに歪んだ瞳が、めろこの心を掻き立てる。
「めーちゃん、嫌ならいいんだ。僕は寮に戻る覚悟……あるから」
「え……」
真っ直ぐにめろこを見つめるいずみの目が、訴えかけてくる。その視線に耐え切れず、思わず涙が溢れた。
彼の一生懸命な視線は、私を弱くさせる。自分は一人では生きられないんだと、思わされるから。
「泣かないで……泣かないでめーちゃん」
落ちてくる雫をペロペロなめてくれる彼が、背筋がゾクゾクするほどに好きだ。でも上手に好きではいられない。だってほんとは……
「いず…っ……んぁ…っ」
「どうして泣いてるの?」
違うでしょ……泣きたいのはいずみくんなんでしょ……
めろこはあふれ出る感情を上手く言葉に出来ずに、もがき苦しんだ。それを感じ取ったいずみは、優しく彼女の背中をさすりながら涙を飲み干す。
「いずみくん……いず…ねぇ…ねぇ…」
「大丈夫、ここにいるから……聞こえてるから…」
「好きなの……ねぇ好き……でも…だめなんだよ…」
抱きしめるほどに切なく呟くめろこに、いずみはじれったさすら感じた。
僕だってすきなんだよ……と、そのまま彼女を羽交い絞めにしてめちゃくちゃにしたかったが、彼女が壊れてしまいそうで怖かった。
「どうしてだめなの?」
「だめだよ……だって……死神だもん…」
いずみが買ってきたCDの、満月の明るいポップチューンから、バラードに変わった。
「私たち…どんなに好きだって未来なんかないんだよ!どれだけいず……いずみくんがあたしに、き、気持ちいいことしたって……意味ないもん」
「意味?」
めろこは弱弱しくも声を張って言う
「あ……あたしだって…生きてたら、好きな人と、子供と一緒に……幸せに……なりたくて……でも死んじゃったから、あの日生きるのに負けて死んじゃったから…」
「自分だけだとおもうなよ!」
え……?いずみがめろこの肩を揺らして叫んだ。その瞳からは涙がボロボロと溢れて、頬を伝いベッドシーツに落ちる
「みんな一緒なんだよ……怖いんだよ、辛いんだよ…。幸せになる方法を見失って、自殺した……僕も、そうなんだよ!意味がなんだよ!
そんなの必要なのか!?希望なんか元から無かったじゃないか!ただ…」
初めて見る彼の涙に、めろこは動揺しながらも彼をぎゅっと抱きしめた。目を伏せて泣き顔を見られないようにするいずみを、めろこは子供をあやすように抱きとめる。
「君が、僕を……好きだと言ってくれるから…僕は君を、傷つけないようにする方法をかんがえていられるんだ……他の誰かを傷つけずにいられるんだ…。
いつかもし、ずっと先に、生まれ変わることがあっても、また誰かを傷つけて、負けることのないようにって……」
自分のありったけの力で、めろこは彼を抱きしめた。
「ごめんねいずみくん…っ……もう……ずっと一緒だから…もう迷わないから…」
二人はすでに涙で濡れた互いの顔をなめあいながら、ベッドに沈んだ。
めろこは彼を自ら抱き寄せて、またがる。兎の耳は彼が彼女を撫でる度にピクピクと揺れた。
服を着たままだというのも忘れて、互いに抱きしめあいながら舐め合う。
涙だか唾液だかにまみれながら、二人は懸命に互いの体を貪り食った。
冥界の夜は深く、静かだ。カーテンの隙間からほんのり射す朱色の街灯が、曲線の輪郭を映す。少し肌寒いはずの部屋なのに、熱くほとばしる体が重なり合うとこれぽっちも孤独ではない。
いずみはめろこの耳をペロペロとなめながら、太ももをつたって彼女のワンピースの裾から手を入れる。彼女の口からため息がもれた。
そのままいずみの手は彼女の体を這いずり回る。彼女の一番大事なところを敢えて避けるように、内腿や背中をゆっくりさする。彼女も彼の着ている服を、朦朧としながらも取ろうとする。
しかし体が敏感に反応してしまい、上手く出来なかった。
涙が出たあとの瞳は疲れていたし、体全部がまるで性感帯なのではないか、と疑うほどにめろこは敏感になっていた。
ついにいずみはワンピースをすべて取り去った。
「めーちゃん……」
めろこの真っ白なワンピースを脱がせると、白とピンクのリボンがついたかわいらしいブラを、そとの街灯がうっすら映し出す。
美白の柔肌がオレンジ色の光に象られ、足に触れればビクンと揺れて、吐息が胸をかすめれば兎の耳が震えた。
めろこの異様な反応に、いずみもまた異様な興奮を覚えた。
背中に手を回し、ブラを取る。めろこの豊満な乳房が、ワイヤーから豪快に溢れた。それをいずみの舌がなぞる。ピンと張った頂点を、円を描くようになめまわして口に含む。左手で足をさすり、右手でもう片方の膨らみをゆっくりといたぶる。
「あっ…はう…っん〜〜…ぁんっ
丁寧に、執拗に、淫靡に、めろこの体に這う手と舌先に、敏感になっためろこの体は否応にも反応する。
唇で頂点をぎゅっと摘み、こりこりと動かしてみると
「…ぁっあんっあっだめっあん〜
首をかくかくと震わせながらめろこが鳴いた。それを見るといずみはもっと意地悪したくなる。
「めーちゃん気持ちよさそうだね……」
と囁くと、いずみは右手で激しく動かしてめろこの左の乳房を揺らしまくる。
指と指の間からはみ出る乳、油断するとこぼしてしまいそうな大きい膨らみ全体を握る。頂点をあま噛みしながら左手でパンツを取る。
「ふぁっあっあんっ!
左手がめろこの双葉に触れる。蜜壺から溢れた蜜がその周辺一帯をぐしょぐしょに濡らしている。
双葉は彼を待っていたかのように熱く、茹であがっているようだ。
「ぐちゃぐちゃだ……濡れてたのは涙のせいだけじゃないみたいだ」
指先でつんつんとつついて見ると、同時に彼女の声も跳ねた。左右に震えさせてみると腰もぐらついた。
手のひら全体でその辺を圧迫しながら擦ったりする。
「うぁっあっあ〜〜っいずっみゃっだめ〜〜っ」
甘い悲鳴は、拒否したいと言いながらハッキリとそれ以上を求めている。
いずみは水音が聞こえるように派手に手を動かす。
「いずっぁっだめっいっちゃ、いっちゃう〜〜」
めろこがそう言うと、いずみは途端に動作を止める。するとめろこは困惑した目でいずみを見つめる。
「まだだめだよ、もっと乱れてくれないと」
いずみはまた先ほどと同じようにゆっくりと双葉をもてあそぶ。
しかしめろこが絶頂に達そうとする前に必ずやめてしまう。それを何度も何度も繰り返した。ついにめろこが降参して
「あっやっやめ、やめちゃやだ〜〜っ」
とお願いしてみても
「だめだよ、もっと鳴いてごらん」
腰がガクガク揺れて、穴がひくひくしているのすらめろこにも理解できた。
めろこはされるがままに、ギリギリのところで何度も寸止めを喰らった。はしたない声が部屋に響いてるのは分かるけど
どうしてもやめられない……もっともっといいことしたい。
「も、だ、だめ〜〜」
めろこはいずみの大きなモノを、口でぱくっと咥えた。
最初は唾で口と馴染ませながら、舌でなめまわし、唇で強く圧迫しながら……
めろこがこんな風に自分から咥えたがるのが珍しくて、いずみはしばらくその様子を見ながら上気分だった。
めろこは上手に丁寧に愛しいソレにご奉仕した。
「めーちゃん、いい……すごいよ。」
べろべろ、じゅるじゅると、音をたてておいしそうにそれを食べるめろこ。
いずみのソレもいつも以上に膨れ上がったところで、めろこを制止する。
「いいこだ、めーちゃん……」
そういうと、いずみは股座に顔を埋めてベロベロと嘗め回す。
「ひくひくしてる……早くいれて欲しいのかな」
壺に指を思い切り入れて中をまさぐった。
「ふあぁっあっあ〜〜っ」
めろこの頭の中が真っ白になり、意識が一点に集中する。いずみの指は出し入れされながら彼女の中を探索しつづける。
めろこの興奮がピークに達したところで、いずみは自分のパンパンになったそれを一気に突きたてた。
悲鳴のようなめろこの声と裏腹に、めろこの中は彼を充分に受け入れた。
自らの穴いっぱいに広がる彼を、めろこは過敏に感じ取る。
いずみも深く突き刺さったそれを、腰全体で馴染ませる。
「んっあ〜っいず…いずみくぅん……」
いずみはゆっくりと腰を上下させ、引き抜いては奥へ奥へと体をすり合わせる。
汗やら唾液やらで乱れきった彼女の顔を撫でて、いずみはなおも逢瀬を繰り返す
唸る二人の喘ぎ声と、ギシギシミシミシと軋むベッドの音、そして一点から溢れ湧き出る蜜がかき混ざる音が、部屋中に満たされた。
「んぁっああっお、おっきぃ…おっきいよう…ふあっああぁんっ」
次第に早くなるいずみの動きに、めろこの声も動物のようにキャンキャンはねる。
じゅぼっじゅぼ…とシーツをびしゃびしゃにしながら二人の体は激しく揺れた。
「あっああ〜っいずっも、だめ〜〜っ」
いずみの動きがピークに達すると、二人は糸がプツンと切れたように力が抜けるのを感じる。
めろこは頭の中が真っ白になったまま、瞼がカクっと落ちてしばらく目を覚まさなかった。
めろこが目を覚ますと、そこにもういずみは居なかった。
時計を見ると、とっくにいずみは仕事に出る時間だった。
一人残ったベッドのシーツを撫でてみても、もう冷め切っていた
一瞬昨日のことがすべて嘘だったかのような気がして、不安が襲ったが、それは杞憂だった。
机の上には彼が人間界から持ち帰ったCDが置いてある。
服が昨夜のものと違うことにめろこは気付いた。
カーテンの隙間から白い太陽光が射す。
いずみは気を失ったように眠るめろこの体を、丁寧にタオルで拭いて綺麗な服を着せた。
めろこがそのことを理解しているかは定かではない。
めろこはプレイヤーを再生して、CDをかけた。
部屋に流れる音楽は、壮大なバラードだ。
歌詞カードをみると、大人になったあの子が海辺で歌う写真が使われている。
ふとその最後をみてみると、スペシャルサンクスの欄に「シニガミーズ」とかかれてあるのをみて少し笑みがこぼれた。
限り有る命を懸命に生きる彼女も、いつかは死ぬ。
そのときは、私といずみくんで迎えにいこう。
そして、きっと「天使」と名乗ろう。
めろこはスタッフ欄に書かれたタクトの名前を眺めながらそう思った。