いつからだろう。私の隣に彼女の姿がなくなったのは…  
 
東大寺都はいつもの四人で行く、朝の通学路でふとそんなことを考えた。  
小さい頃からずっと一緒だった彼女は今はきれいな顔立ちの青年の横を歩く。  
斜め後ろから見える彼女の笑みは愛おしいものだった。  
今は12月。寒さが厳しく栗色の髪をした日下部まろんは鼻の頭まですっぽりとマフラーでかくし寒さに震える。  
「大丈夫か?まろん」  
青い髪をした名古屋稚空が優しい眼差しで聞く。  
「顔のつらの厚いまろんなら大丈夫でしょ」  
つい憎まれ口をたたいてしまう。  
「ひど―い。」  
まろんが喚きながら後ろに回り抱きついてきた。  
シトラスの香りがふわっと鼻につく。  
「なっなにすんのよ」  
寒くて耐えらんなーいと子供のように駄々をこねるまろんの手を握ろうとした瞬間背中が急に寒さを取りもどす。  
 
振り向くと稚空がまろんを片手で包みこんでいた。  
本当はもっと抱きついていて欲しかったな。  
ふと本音が心を駆け巡る。横をみると二人の様子を水無月大和が微笑んで見ていた。  
「仲いいですよねー」  
返事もせずに、稚空の腕の中でくるまっていたまろんのマフラーを引っ張り、遅れる!と一喝する。  
はーいと言って寒さで頬を染めるまろんが笑顔で返した。  
小さい頃までとは違う色っぽい笑顔にどぎまぎしてしまう。  
 
―これは彼の影響だろうか。いつの間にこんなにきれいになったんだろう。―  
 
自分でもわけがわからない感情に押し潰されそうで怖くなり、握っているまろんの手をぎゅっとすると彼女は私以上の強さで握り返してくれた。  
 
 
放課後になり、部活へ向かおうとまろんを探すがみあたらない。  
友人にさっきの授業の資料を戻しに行っていると聞き、べつに待ってることもできたが迎えに行くことにした。  
 
 
めったに使われない空き教室が連なる廊下は人の出入りは全くなかった。  
とある教室から光がもれているのに気付き、まろんと呼ぼうとして開けようとしたドアにそえた手がとまる。  
 
映画でも見ているようだった。机に座ったまろんに、稚空が片膝を机に乗せまろんの顔の高さに顔を持っていきくちづける。顔の角度を変え長く深くキスをかわした二人の唇が離れたとき、銀色に光る糸が光ったのが夕日に照らされたことではっきりわかった。  
 
 
「稚空…私部活行かないと」  
まろんがやんわりと稚空の肩を押しながら言った。  
その間も稚空の手はまろんの制服のリボンを外し前の方をはだけさしていた。  
「稚空ってば…」  
普段の稚空からは考えられないくらい意地悪そうな顔をした稚空がまろんに何かをささやいていた。  
瞬間まろんが悲しそうな顔をして稚空に体を預けた。  
二人の間に何があったかは知らないがこれ以上二人を見ているのははばかれた。というよりもたえられたかった。  
 
ピチャ…クチュ…  
卑劣な音が耳につく。  
 
私は一人部活に向かうことにした。  
部活も後30分で終わるという頃まろんが来た。  
 
先輩に多少嫌味を言われ練習に入る。  
まろんの演技は流石エースだと言われるだけのことはある。すらりとのびる白い脚は風にゆだねられたように動く。私が見とれているとまろんに一人の先輩が近付き細かい演技の指導に入る。  
ためらいもなく触るその手に不快感を覚えた。  
 
部活後、まろんと片付けの当番だった私は体育倉庫で道具をなおしていた。  
薄暗く光りは古びた蛍光灯だけだった。  
「まろん、離れなさいよ」「だってぇ、お化けがでてきそうぢゃん」  
後ろにぴったりとくっついてくる。  
…内心嬉しいが歩きづらい。  
そう思っていると、まろんが何かにつまづき後ろにこけ、巻き添えをくらった。  
ガッターン  
 
私が仰向けのまろんの上に馬乗りの状態になり、レオタードの薄い布地を通して温かみが伝わってくる。  
衝動が抑え切れない。  
「いたた…都どいてよ。どっ…」  
どうしたの?そんな声が聞こえる前にまろんの唇を塞いだ。  
 
 
目の前にいる人物が知らない人のように思えた。  
抑え切つけられた体を必死で動かしたが都の体は鉄のように重く感じられた。  
その間もキスは続き、愛してる人のものではないからか、ねっとり動く舌を気持ち悪く感じた。  
「んっ…ちょっ、都ってば」  
やっと口が離れたときに見た親友の顔は恐ろしかった。  
都がまた口を近付けようとしてきたが、ふいっと顔を横にし避けた。  
「…まろんはそうやってあたしを拒絶するのね」  
あたしのことキライ?そう聞いてくる都になんて答えたらいいのかわからなかった。親友だからといってもやっていいことと悪いことがある。即座にキライと言おうとしたが、言えなかった。とても悲しそうな顔だったから…  
 
何故自分はこんなことをしてしまったんだろう。  
冷静になった頭で今あったことが夢であるようにと願った。  
でもまろんが困った顔をするから余計腹がたつ。優しい親友は私を傷付けまいと必死で言葉を考える。  
 
「お願い、一度でいいからあたしだけのものになって」  
震える声でそう呟いた。  
「なっ、都自分でなにいってるかわかってる」  
いよいよまろんが泣き出した。  
でもあたしの理性を壊すには十分だった。  
シャツを脱がせ上半身のレオタードを下げ、手近にあったリボンでまろんの手ををすばやく縛り上げる。  
白い素肌は同性のあたしの欲情をもかきたてた。寒さで突起はすでに立ち始めていた。  
新体操選手にしては豊満な胸をつかみまわりからなめる。  
「やぁ…みやこ…や…めて」  
必死の思いでまろんが口にした。まろんの体には至る所に所有を示すような赤い斑点があった。まろんの突起を人差し指でなでながら聞く。  
「これ稚空がつけた後でしょ。他の人がまろんに印をつけたらどう思うかしら」まろんの顔が青ざめる。  
「お願い。やめて!」  
ばたつくまろんを抑えつけ、首筋を舐め跡をつけていく。  
「いやぁぁ、やめて」  
必死に抵抗するところを見ると、稚空が好きだと言われてるみたいで、腹がたつ。  
「あたしだけのものなんだから」  
口づけ、レオタードの股布をずらし、指を浅く挿入する。潤うそこはすんなり指を受けいれた。  
「んっ…は…やっ、ちょっ…」  
次第にまろんの声も甘みを帯びてきた。  
指の出し入れを早くし、まろんの突起を重点的にせめる。まろんの中が一際きつくなりいとも簡単に果てた。  
肩で息をするまろんは涙で顔を濡らし頬は赤くほてっていた。  
スティックが目に入り、このまま入れようかとも考えたが、疲れたまろんをみるとその気も失せ、優しく介抱する。  
最後にリボンで赤くなった手首にキスをしこう告げる。  
「今日のこと誰にも知られたくないなら、明日またここに来て」  
携帯の画面を見せながら言う。そこにはまろんの艶っぽいさきほどの行為での表情が写しだされていた。  
いつとったの?と言いたげなまろんを無視し、その場を後にする。  
 
 
もう後には戻れない。前に進むだけ…  
今までの関係すべてを壊し…  
 
 
 
マンションの稚空の部屋のドアの前で立ちすくむまろん。稚空が自分の体の変化に気付かぬわけがない。  
今日はいつも以上に辛いことになるかもしれない…  
そんなことを考える。  
 
神様は不公平だな。と苦笑し、自分にふりかかる二つの災難。一つは以前からのもの、もう一つは今日増えたことについて頭を悩ませた。  
 
 
 
「ただいまー…」  
遠慮がちにまろんが稚空の家のドアを開ける。  
返事がなく、リビングまで行くと、ソファーで寝ている稚空を見つけた。  
当分起きそうにないことを確認し、ほっとため息をつく。  
さっきから体がべたべたして気持ち悪かったので、シャワーを浴びるため浴室へと向かう。  
 
ちゃぽん…  
 
白いお湯をはったバスタブに浸かると落ちついた気分になった。  
そして、さっきのことを思い出す。  
「…私レズぢゃあないよね」  
確認するように呟き、苦笑する。  
自分は稚空が好きだと心で強く思う。  
だが、最近の稚空のことを思うとそれすら怪しく感じる。稚空は束縛が激しい。クラスの男子と話しをしただけで、愛情をめいっぱい押し付けられる。  
正直少し億劫に感じることさえあった。  
「そのくせ他の女子には優しいくせに」  
水をぴちゃっと飛ばすとそれは壁に当たり弾けた。  
「ヤキモチか?」  
不意にかけられた声に驚き、ばっと声がしたほうを見ると、体にタオルだけを巻き付けた稚空が立っていた。  
違うと言おうとする前に稚空の視線が一カ所に注がれていることに気付き、そこを見ると先ほど都に付けられたキスマークがいやらしく散らばっていた。  
 

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