ひた、と素足が濡れた床に落ちた。潮はふと顔を上げて、冷たい真っ暗な夜を見る。
その顔には表情ひとつ浮かばずに、大きな目が瞳を動かさずにじっと空を見ていた。
「はいね、」
泣きそうになりながら潮は呟く。傍にいて、ひとりにしないで、私だけのものになって。
握りしめた両手を唇へと当てて、まるで祈るように呟く。
「灰音には、私以外なんていらないのに」
ふわふわとパニエなしに膨らんだスカートが揺れる。
潮の通り過ぎる後には生徒は皆一度息をひそめてしまう。
潮はもちろんそんなことはわかっていたし、わかって余計なことは口にしない主義だった。
「潮っ」
ブーツの固い底が音を立てる。潮は足を止めて、目を伏せて後ろからの衝撃をやんわりと受けた。
「おはようー!今日も可愛いっ」
ぎゅうっと灰音は潮を抱きしめると、にこにこしながら朝の挨拶を口にした。
胸の前まで回された細い手にそっと自分の手をあてて、「うん」と応えた。
今日も愛しい愛しい大好きなカナリア。
灰音は潮の隣に嬉しそうに回り込んで、「昨日はね」と別れてからの自分を振り返りながら口にする。
まるで灰音の一日を全て共にするようで、潮はこの灰音の言葉が大好きだった。
「閑雅様」
灰音の細い手が閑雅の首に回る。閑雅は唇を薄く開いて、それから戸惑うように閉じた。
くすり、と灰音が可愛らしく微笑んで閑雅を見上げる。
「大好きです」
潤んだ大きい瞳が閑雅を写して揺れる。
閑雅は少し戸惑うように視線を彷徨わせて、それからかっちりと灰音に視線を合わせた。
「俺もだ」
細められた瞳に、灰音は顔を少し赤くしたまま目を伏せた。
閑雅の唇が灰音の額、それからまぶた、そうして唇に落ちた。
ぼんやりと晴れた空を見詰める。潮は胸に落ちた鉛の塊を取り出そうと必死で足掻く、ように。
「灰音には私以外なんて、いらない、のに。」
伸ばした爪で胸を抑える。くつりと閑雅の笑う声が背中のほうでした。
右足を静かにさしだして、顔はその足を追うようにうつむかせて、歩き出すと同時に顔をあげた。
ああだから人間は嫌いなの。私と灰音に誰も寄らなければいいのに。
スカートが風を孕んで揺れる。
両手に資料の挟まれたファイルをいくつも持ち、灰音は急いで廊下を歩いて行く。
走ると転ぶ可能性があるから、ここは「急がばまわれ」という言葉を思い出していた。
しかし急いでいて廻るのは意味がないのではないだろうか。
「灰音」
資料室にファイルを置くと、後ろから低い声がした。
灰音はくるりと振り返ると、愛しい親友の姿にぱあっと顔を明るくした。
「潮!どしたの?お仕事?」
ファイルを置いて、灰音は短い距離を走って詰めた。今日は一度も会っていなかったのだ。
いつも通りの表情のない顔に、灰音はいつも通りににこにこ笑って潮に話しかける。
「珍しいね、こっちに来るのって。頼まれたの?」
何も言わない潮に、灰音は「潮…?」と怪訝そうに尋ねた。
心の中でひとつの疑問が浮き上がる。たとえば、千里先生、とか。田宮君、とか、往光さんとか。
少し灰音が息を引きつらすと、潮は小さく笑った。
桜色をした爪の載った指が、灰音の頬に触れる。
「ききたい?」
灰音は大きな目を少し逸らせて、「男の人?」と囁くように尋ねた。
潮は手を伸ばして、灰音の頬を静かに撫でる。
頬の緩やかなカーブをなぞり、ふくらんだ唇に親指をあてる。
「そうだと言ったら?」
潮の言葉に灰音は少し目を険しくすると、「いや」と小さく、けれどもはっきりと答えた。
「嫌だよ潮。やめてよ」
力を入れると跳ね返る唇。これに何度東宮閑雅は触れたのだろうか。
「灰音」
答えを無視して、潮は愛しい名前にたっぷりと艶を込めて呼んだ。
私と灰音に誰も、誰も寄らなければいいのに。
左手を灰音の首の後ろにまわすと、その唇に噛み付くように口付けた。
「っ!潮、なにっ!」
鋭い言葉に潮は身体を離すと、「嫌なの?」と少し眉を寄せて問う。
「灰音は、私を拒絶するの?」
潮の傷付いたような言葉に、灰音はびくりと身体を揺らした。
「あ、ち、ちがう、潮、」
優しい灰音。潮は伸ばされた手をすいと導いて唇を寄せると、「灰音」と呼ぶ。
灰音は酷く困ったように、今にも泣きそうな顔でふるりと顔を左右に振った。
「嫌じゃないだろう?」
もう一度、今度は柔らかく口付けると、灰音は抵抗もせずに目を伏せた。
中々使われていないところでも、埃一つないのはさすがだと言える。
床に灰音を座らせると、潮は灰音の額に唇を落とした。
忌々しい東宮閑雅のリボンを引っ張って床に投げ捨てると、面倒くさい制服に手をかける。
ワイシャツのボタンを外しながら、唇で柔く肌を噛み、ちゅくと吸い上げた。
「う、潮」
戸惑った声に、潮は顔を上げて灰音の瞳をじっと見た。
緊張感などなくなったのか、灰音が酷く困った顔で潮を見る。
「ほんとに、こういうこと、するの…?」
ワイシャツのボタンを全て外すと、真っ白な肌にピンク色のブラジャーが映えていた。
ふわふわと触り心地の良い乳房に唇を寄せて、「だって」と潮は言う。
「こうでもしないと灰音は奪えないだろう?」
至極当然の言葉に、灰音は顔をぽんと真っ赤にさせた。
場違いなのはわかっているが、こうもはっきりと言われると同性でも照れてしまう。
灰音があわあわしている最中にも、潮は着々と灰音の服を脱がせていた。
ぷちんとフロントホックのブラジャーを外し、淡く色づく突起に唇を寄せた。
「っひゃ、」
びく、と灰音の身体が揺れる。
潮は舌で突起を転がし、ちゅく、と強めに吸う。片方の乳房を包み込むように手でやんわりと包むと、持ち上げて少し強めに揉み、手を離してやわやわと突起を攻める。
「はっ、ん、あ、」
少しもしない内に灰音は自身の手の甲を唇に当てて、必死で声を押し殺すようになっていた。
最初はガードの固かった足も今ではくずおれ、潮の位置からブラジャーとお揃いの下着が見えていた。
唇を離すと唾液が引いて、もう片方の突起に唇をあてがう。ちろ、と舐めると灰音が「んう」と押し殺した声をあげた。
少し唇を離すと灰音は身体を震わせるように、潮へと胸を近付ける。
「灰音?」
意地悪く潮が尋ねると、すっかり潤んだ瞳で「や、」と弱々しく呟いた。
「やめちゃ、いや…」
ふっと潮は微笑んで舌で持ち上げ、唇で緩く食む。
「は、ん、」
片方の乳房を愛撫することも忘れず、潮は灰音の下着へと手を滑らせた。
ふに、と秘所の部分を人差し指で押すと、くちゅりと濡れた感触がする。
「ぁう…ん、」
ぐにぐにと刺激を与えると、灰音の腰がずるりと床を滑って、いっそう下着が指張り付く感触がした。
「あ、う、」
潮は冷静な頭で、スカートはもう脱がさなくていいかと考えながら、手を一度離して下着の縁に指を引っ掛ける。
そうして思い出したかのようにスカートをたくし上げると、乳房から唇を離した。
「灰音…可愛い」
ふるふると震える様がまるで弱々しく、下着がおろされるのを今か今かと待っている。
薄く開いた唇にちゅっと口付けると、少し離して呟いた。
「下着…自分で脱いで?」
ひく、と灰音の瞳が揺れる。しかしすぐに膝で立ち上がると、下着に両手をかけた。
潮はスカートを持ち上げて、「灰音はいい子だ」と追い打ちをかけるように言う。
「うし…お、」
震える自分の名前に、潮は興奮を覚えながらずりおろされる下着を見ていた。
灰音は目を緩く瞑り、湿った下着をずるずるとおろした。
「ここ、」
桜色の爪が、ちょいと薄く生えたアンダーヘアに触れる。灰音はずる、と腰を床に落としてしまうと、潮を泣きそうな目で見上げた。
「そんなに気持ちよくしてほしいのか」
足を折り曲げて、三角に座った股は充血して、とろとろと蜜をこぼす様子がよく見える。
潮は指でクリトリスを軽く押した。
「んっや、あっ!」
じゅく、と一層緩んだ底から蜜がこぼれ落ち、床にぱたりと染みを作った。
潮は下着を片方の足から抜いてしまうと、両足の間に身体を割り入れて、今度は下から押さえるように指を這わせる。
「は、ぅ」
はやく、と灰音は乾いた唇を舐めた。早くそこに指を突っ込んで、ぐちゃぐちゃにかき混ぜてほしい。
潮の指が入り口をやわやわと這い、入るのに入ろうとしないもどかしさに灰音は腰を動かした。
「うしおっ…入れて、ってばあ」
つんと立った胸の突起が誘うように色付き、潮は堪らず乳房の上の皮膚に痕を残す。
指を押し当てた場所からはとろとろと蜜があふれて指に絡み付き、ひくひくと痙攣を繰り返していた。
つぷん、と指を埋め込むと「ぅん!」と灰音の長い髪が跳ねて揺れる。
出し入れをするのは容易で、一本だけでは足りないと懇願するように灰音は甘い喘ぎ越えをこぼした。
「っア、う、んんっ!や、あ、もっと…!」
人差し指を抜いて、中指をそろえてまた埋め込む。灰音のナカは少しキツくなって、潮の指をくわえてきゅうきゅうと締め付けた。
「はんっ、あ、あぁうっ!だ、だめっ、潮っ」
身体を寄せて、潮はとろけた瞳で、揺らぐ灰音の瞳を真っ直ぐ見つめる。
唇から唾液をこぼす痴態は、ひどくそそるものがある。早くなる出し入れに、じゅ、じゅぷ、といやらしい水音が響いた。
「んんっ、あ、や、い、いっちゃ、っ!ア、ああうっ」
びくんっと身体が一度強く跳ねると、潮の指をくわえこんでびくびくと痙攣をした。
どろどろに汚れた指を引く抜くと、潮はその指の蜜をくちゅりと舐めとった。
服を全て着込んでも、灰音はぼんやりとしていた。
「灰音?」
潮が呼びかけると、灰音は身体をびくりと揺らし、泣きそうな目で潮を見上げた。
そのまま何を告げようか、迷って一度唇を湿らすと、微笑んで手を差し出した。
「心配しなくとも皇帝には言わない」
あからさまにほっとした灰音に、潮は目を閉じてそのまま灰音を抱きしめる。
「まだもう少し我慢してあげるから…、いつか私だけの灰音に、なって」
灰音の背中に回った手が震えて、「う、潮」と灰音が潮を呼んだ。
やわらかい、女の子独特の触り心地が身体に触れている。灰音は泣きそうになった。
慣れた空気、ずっと付き合い続けて来た匂い、勝手に離れた自分。
「灰音…好き」
我慢出来なくなり、灰音はぼろぼろと潮の肩に涙をこぼした。馬鹿な頭では、何も言えそうになかった。
end