それは、ある日の放課後−
その日に限ってQクラスの面子は帰るのが早かった。
チャイムと同時に、あっという間にリュウ1人を残して。
キンタはバイト、カズマは新しいゲームの開発が修羅場。
メグはキュウの家にお呼ばれしている。キュウはリュウに一緒に帰ろうと声をかけたが、リュウは2人の楽しい時間を邪魔しても悪いと思い断った。
キュウもメグも、リュウが気を利かせたと思って遠慮していたが。
リュウは1人、教室の椅子に座っていた。
(しかし、こうして1人、この教室に残るのも悪くない。
普段の賑やかな教室もまた違った場所に見えてくる。
何か新しい発見をした新鮮な気持ちになるな。)
そんなことを考えながら、リュウがふと窓を見やると、窓枠に手が掛かっていた。
(あれは…遠矢さんの手だな。)
姫百合学院の事件以来、リュウと遠矢は普通にしゃべるようになったが、まだ彼女からリュウに話かけることはない。
また、いつものように窓からリュウを見ては隠れている。
遠慮せずに話しかけてくればいいのに、と思いながらリュウは窓枠へ歩み寄った。
「遠矢さん?」
窓から下を覗くと、いつものようにしゃがんでもじもじしている遠矢がいた。
遠矢を見下ろす視線とリュウを見上げる視線がぶつかると彼女は目を逸らし逃げ出そうとした。
「待って。」
思わずリュウは彼女を呼び止めていた。
「リュウ…くん?」
立ち止まりおそるおそる振り返る。
「今、誰もいないんだ。少し話でもしないかい?」
リュウの言葉に彼女は驚き竦み上がっている。
「それとも…イヤかい?」
「とっ、とんでもない!!イヤだなんて、私、そんな…」
遠矢は真っ赤な顔で慌てふためく。
「じゃあ、入ってきなよ。」
リュウがそう言うと、遠矢はおずおずと教室へ入っていった。
「あの…どうして今日はリュウくん1人なんですか?」
「いつもならこの時間はみんないるんだけどね、今日はみんな用事があるってチャイムと同時に帰ったんだ。」
「そうだったんですか。なんだか、すみません。1人の時間を邪魔してしまって…」
「そんなことないよ。1人の時間ならいつでも取れるから。」
そんな話をしながら2人はDDSのことを話題に話した。
姫百合学院の話になったとき、遠矢はあの時聞けなかったことを口にした。
「あの…ひとつ、聞きたいことがあるんですけど…」
「なに?」
「リ、リュウくんには…大切な人っているんですか?」
「え?」
急な質問にリュウは少しハッとした。その表情を見て、遠矢は慌てて両手を振る。
「…すっ、すみません。私ったら変なこと聞いて!忘れてください!!」
(大切な人…か)
リュウは慌てる遠矢を制するように呟いた。
「…いるよ…」
「!?」
「大切な人…大切な人達、かな。僕にとってかけがえのない仲間−いや、親友だよ。Qクラスのみんなは。」
遠矢はリュウの答えが余りに現実的なものだったことに少しホッとした。
(そ、そうよね。リュウくんが女性を好きになるなんてちょっと考えられないし…)
「そう…ですよね。Qクラスの人達が一番大切な…」
「それと…」
遠矢の言葉を遮り、リュウは続けて口を開いた。遠矢は思わず後ずさりする。
「え…」
「いつも僕を見守ってくれているキミも、僕には…」
(え?わ…私?)
リュウの意外な言葉に遠矢は呆けるしかできなかった。
「リュ…」
「僕は、こんなに人からの愛情をもらったのは初めてなんだ。
僕に近づいてくる奴等はみんな僕を利用しようとしたり…
Qクラスのみんなやキミのように本当に僕を大切に思ってくれる人はいなかった。」
「…」
「愛情が欲しいと思ったことはなかった。自分はいつでも1人だ、って、そう思って生きていた。
僕を理解してくれる人なんていないんだ、ってね。
だけど僕は、本当はそういう愛情に飢えていたのかもしれない。そう、無意識に心のどこかで…。」
深刻な顔つきで自分のことを語るリュウに遠矢は釘付けとなり見とれている。
リュウは我に返り、遠矢の方を向くとどこか寂しそうな微笑を浮かべた。
「少ししゃべりすぎた。変なこと聞かせちゃってごめん。」
自分に向けられた天才美少年の微笑に、遠矢は完全にノックアウトされた。
(リュウくんが私に自分のことを話してくれるなんて、感激!!
もう、思い残すことは何もないです!!)
「リュウくんは素敵な人だから、リュウくんを信頼している人は沢山いると思います。」
遠矢の言葉にリュウは少しあたたかい気持ちになった。
(犯罪者の血が流れている僕を、信頼、か…。生まれながらの運命を変えるのは僕自身なのかもしれない。)
「リュウくんははじめ私がDDSに編入したとき、歓迎の言葉をかけてくださいましたよね。」
遠矢は手を口元に当て、いつものようにもじもじしながら俯く。
「私、すごく嬉しかったんです。自分を帰るためにDDSに入学したはいいけど、やっていけるか少し不安だったから。
でも、リュウくんに声をかけていただいて、不安がおさまったんです。すごく、心の優しい人なんだな、って。」
(優しい、か。この僕が。今までそんなこと言われたこともなかったな。)
不意にリュウはもじもじしながらも、強い想いを伝えてくる遠矢が愛しく思えた。
「遠矢さん…」
先ほどの寂しそうな微笑とは違い、今度は優しい微笑を遠矢へ向ける。
「は、はい…」
リュウの笑顔に遠矢の心臓は破裂するほどの勢いで打ち始める。
そんな遠矢の頬にリュウの右手が添えられる。遠矢の体が驚きにビクっと跳ねるとリュウはクスリと一笑し、優しく囁いた。
「キスして…いいかい?」
「え…!!」
(リュ、リュ、リュ、リュウくんが私にキスだなんて、邦子、これは夢よ!夢に違いないわ!)
火を噴出すほどに顔を赤らめ、目の前の美少年に見とれている少女に、リュウは追い討ちをかけた。もっとも、リュウ自身は追い討ちだとは思っていないのだが。
「なんとか言ってくれないか。意外と恥ずかしいんだ。こういうことには慣れていないから。」
リュウの言葉で完全に理性を絶たれた遠矢は真っ赤な顔で小さく頷き、目を硬く閉じた。
心臓は経験したことのない高鳴りを続けている。
遠矢の行動を了解の合図と受け取ったリュウは、遠矢の頬に添えた手を引き寄せ唇を軽く重ねた。
短い時間だったが遠矢には長く感じられた。
(本当にリュウくんとキスするなんて!後でほっぺたつねってみよう…
でも、何でリュウくんが私なんかと…)
「どうして…」
思っていたことが不覚にも漏れてしまった。
「アメリカではね、普通に挨拶として使われているんだ。特別なことじゃない。」
(あ、あいさつ?)
遠矢の体から力が抜けた。すれもそのはず、大好きな人とのキス、しかも初めての体験を、『あいさつ』と割り切られたのだ。遠矢でなくても愕然とするだろう。
(…だから、潜入捜査のとき、女の子にキスされても平然としてたのね…
考えてみればそうよね。リュウくんが私なんかに…)
ガクリと肩を落とし、残念そうな表情でもじもじする遠矢にリュウはもう一度笑顔を向けた。
「表情豊かだよね。キミはいつも百面相してる。」
「そうですか…?」
もう、完全にいつもの遠矢に戻っている。リュウは軽くため息を吐き、真っ直ぐに遠矢を見つめた。
「でも、さっきのは挨拶じゃない…」
遠矢がリュウの言葉にビックリして顔を上げると、瞬きをする間もなく、彼女の唇は再びリュウのそれで塞がれた。
リュウが舌を歯列に割り入れると熱い吐息が漏れる。それを楽しむようにリュウは深く浅く激しく緩やかに遠矢を刺激した。リュウが遠矢の頭を固定していた右手を離すと、遠矢の唇はリュウから離れた。
「ぷはっ。リュ…どうして…」
目には涙を浮かべ、顔を真っ赤にしている。いくら好きなリュウでも、いきなりあんなに濃厚なキスをされたら体の震えが止まらなくなってしまう。
リュウは鋭く遠矢の心情を読み取った。
「ゴメン。キミを傷つけるつもりはなかった。僕はなんてことを…すまない。」
いきなり理不尽なことをされたとはいえ、大好きなリュウである。
こういう風になることを望んでなかったわけではない。ただ少し、突然すぎて驚いてしまった。
それなのにリュウは遠矢を傷つけたと思って頭を下げている。遠矢の良心は深く傷ついた。
「謝らないで下さい。ちょっとビックリしただけです。」
「ムリしなくていいよ。悪いのは僕なんだ。」
「リュウくんは悪くありません。せっかくリュウくんが私なんかの事を気に掛けてくれたのに、私ったらこんな態度を…悪いのは私なんです。やっぱり私って…」
一生懸命リュウをフォローする遠矢を、リュウは両腕で軽く包んだ。
「ありがとう。もしキミが嫌じゃなければ、もう少しこのままで居させてくれないか。」
リュウの言動にもはや魂を抜かれてしまった遠矢は黙って頷きリュウの胸に体を預けた。
(なかなかのテクニックを持っているじゃないか。さて、どうする?天草流。据え膳食わぬは男の恥だってな?)
教室の外の人の気配にまだ2人は気付いていない。
(ついさっきまで話し声の聞こえていたQクラスの教室は、この数分間、沈黙を保ったままだ。
ああ、言っておくがオレは覗きをしてるわけじゃない。
団先生からQクラスのベビーちゃんたちのお守りを言い渡されている身としては、生徒の行動もチェックしないとな。
オレの勘ではQクラスのヤローどもは全員経験なしと見ている。
だが、天草のヤツは天性の才能がありそうだ。ここは指導者としてちゃんと見守ってやらないとな。
そんなことを言っている間に2人に動きが!!)
リュウは遠矢の背中を包んだ両腕を腰へ落とし、そのまま引き寄せると俯いてもじもじしている遠矢の耳元で呟いた。
「すまない。だけど、とまらなくて…」
リュウの吐息を耳元に感じ、遠矢は身も心も蕩ける感触を覚えながらリュウを見上げた。
(もう、何も考えられない…)
一方、遠矢の潤んだ瞳に触発されたリュウは、遠矢の頬へそっと口づけ、耳朶を甘噛みする。
遠矢の体から力が抜けるのを確認し、唇を首筋へと落とす。
「…ん…」
遠矢が声を漏らすとリュウは反射的に唇を離した。
「ゴ、ゴメン…苦しかったかい?」
まだ相手を気遣う余裕のあるリュウとは相対して、遠矢はもう、理性が吹き飛んでいた。
その上気した顔をあげ、リュウに向かって囁いた。
「いいんです。リュウくんの好きなように…」
少女の媚態と言葉は、ギリギリのところで保っていたリュウの理性を崩壊するには十分だった。
次の瞬間、リュウの唇は再び遠矢の首筋を捉えた。
そのままゆっくりと遠矢を机の上に倒すと、胸元へキスを落としていく。
そして、開いた両手で両肩のキャミソールの肩紐を剥ぎ取った。
服の下から現れた白い肌にリュウの鼓動は高まってゆく。
そのままそっと下着を剥ぎ取るとまだ成熟しきっていない少女の胸が夕日に曝された。
その小さな膨らみを優しく撫でる。
「…あんっ…」
それだけで刺激なのか、遠矢の口から声が漏れる。リュウが頂点の突起を刺激するとさらに快感が体を支配する。
「はぁっ…リュ…」
トーンの上がりかけた声をリュウは唇を塞ぐことによって防いだ。
リュウが舌をゆっくりと差し入れると遠矢もおずおずと絡める。
次第に激しく、クチュクチュと音を立てて絡み合う。
乳房を撫で回していたリュウの手は徐々に下降していき、スカートの中に滑り込んだ。
「!!」
遠矢の体がピクッと反応したが、それに怯まずショーツの上から秘所をまさぐる。
そこは既にリュウの愛撫で愛液が溢れ出していた。
「こんなになるんだ…」
リュウの言葉に我に返った遠矢は恥ずかしくなり、足を閉じようとしたが、リュウの足に阻まれた。
そのままリュウの指はショーツを掻き分け、表面を刺激した。
「…っ!!」
初めての感触に遠矢はどうしていいか分からずうろたえる。
そんな遠矢の表情をリュウは素早く読み取り、空いている左手で優しく頬を撫でた。
「怖がらないで…」
見つめながら呟き、唇を重ねる。今まで行き場がなく伸ばしていた遠矢の手がリュウの首筋に遠慮がちに伸び、例の紋章を捉えた。
「!!」
瞬間、リュウの中で何かが弾けた。今までの柔らかい目つきは一変して鋭くなる。
遠矢の秘部をまさぐる指は激しさを増した。遠矢が驚いて目を開くと、リュウの唇が離れ、突き刺さるような視線が降り注いだ。
「さあ、どうして欲しい?」
リュウの表情に遠矢は背筋に寒気を覚えたが、すぐに指を突き立てられ快感へと変わる。
遠矢の表情を満足そうに眺めながら、中を掻き回しながら親指で突起を刺激する。
「どうしたんだい?言ってくれなきゃわからないじゃないか…」
言いながら、胸の突起を口に含み、コロコロと舌で転がしてゆく。
「…リュ、リュウくん…どうして…」
リュウの変貌振りを不思議に思いながらも、快感に支配され意識が薄れてゆく。
「言わないんだったらやめようか?」
もちろん、ここまで来てさらさら止めるつもりなんてない。
が、リュウの愛撫で疼いた体は、引き抜くリュウの指を名残惜しそうに締め付けた。
「…リュウくん…おねがい…」
その言葉を聞くとリュウはニヤリと口元を吊り上げ、いきり立ったそれを蜜壷にあてがった。
ゆっくり先端を入れると締め付けを感じる。
リュウはすぐにでも突き上げたい衝動を抑え、ゆっくりと体を沈めた。
「…っ!!」
股間に痛みを感じ、声を上げかけると、リュウの唇で塞がれる。
そのままリュウの剛直は狭い遠矢の中へと侵入する。
根元まで突き入れるとリュウは唇を離した。
「すごい…締め付けてくる…」
余裕を持ってはいたが、やはり初めての体験にリュウの感情は昂ぶってゆく。
ゆっくり腰を引き、再び入ると遠矢に苦痛の表情が浮かんだ。
「痛いのかい?」
リュウが尋ねると、遠矢は潤んだ瞳で小さく頷いた。
なんとか痛みを紛らわそうと、リュウは首筋に舌を這わせ、きつく吸い上げる。
それと同時にゆっくり腰を動かし始めた。
「あ!……っぁ」
遠矢の表情に苦痛以外のものが混じり始め、結合部の動きもスムーズになってくる。
とうとうリュウもがまんできなくなり、激しく腰を打ちつけた。
「はぁっ…リュ、ウくん…」
リュウの背中に手をまわし、リュウの動きにあわせて体を揺らす。
ぐちゅぐちゅと卑猥な音をさせながら密着した部分はさらに激しさを増していった。
「クッ…!」
限界が近くなってきたときリュウは思わず声を漏らす。
一層激しく突き上げ、一旦腰を引き、奥深くまで突き入れると遠矢の体が硬直し、リュウの剛直をこれ以上ないぐらいに締め付けた。
「うっ…」
その瞬間、リュウは欲望の塊を遠矢の中に吐き出す。
どくん、どくんと放たれる感触でリュウは我に返った。
「やさしくできなくて…ゴメン…」
謝るリュウを止めるように遠矢は軽く首を振り、リュウの首に腕を回した。
(やれやれ、あれで初めてかよ。恐るべきは天草だな。)
いつの間にか教室の外の影は消えていた。
オマケ
七海は授業の最後に思い出したように言った。
「あ、最後にひとつ。」
俯き加減でボウシのツバに人差し指を突きたてる七海に生徒たちが注目する。
「探偵ってヤツは自分がどういう立場にいようとも、観察を怠っちゃイケナイ。」
なぜそんなことをいきなり言われるのか分からず、5人は唖然と七海を見る。
泳いでいた七海の視線がリュウのそれとぶつかると七海はニヤリと笑った。
「昨日はご苦労だったな、天草(はぁと)」
とたんにリュウの顔が火を噴いたように真っ赤に変色した。
「でもな、まだ観察力がたりないぜ、天才くん♪」
そう言い捨てると七海は軽く手をあげて教室を後にした。
「リュウ、昨日オレたち帰った後、何かあったの?」
「なっ、何もないよ、別に…」
「でもなんか顔が赤いぜ、リュウ。」
「だから!なんでもないって言ってるだろ!!」
(よりによってあの人に見つかるとは不覚だった…)
リュウは親友たちの質問攻めを受けながら、昨日の出来事がバレないことをひたすら心の中で願っていた。