思えば、その部屋に入った時から戦国卍丸の運命は決していた。  
 下品にならない程度に桃色を主とした装飾。ほんの微かに焚かれた香。息遣いがはっきりと聞こえる静謐さ。  
 彼の人生の中で、こうした空間に足を入れたのは初めての事である。  
 四分の余裕、六分の関心で表情を彩りながら嫣然として柔らかげな寝台に横たわる女性、弁天の美しさもまた未知の物だった。  
 
 ……もっとも、弁天の美しさはあらゆる男性にとって必ず「最も美しく女性」として写るという、  
あらゆる女性にとって面憎い異能力の賜物であるのだが。  
 かと言ってそんな天賦の才能に調子に乗るような人物ではなかった。己の美貌の維持や更なる向上心から、日々の努力や研鑚を欠かさない。  
 男性だけでなく女性にも彼女の信者がいるのはこうした理由にある。  
 多少言いすぎではあるが、弁天塔が奇跡的に様々な権力者から独立を保っていたのも弁天の努力の副産物であったろう。「摘み取ってはならない花」という大衆の潜在的意識が何よりの防壁となっているわけだ。  
 
 閑話休題。  
 弁天は傾城傾国の美女であるが、俗説のような男狂いの毒婦では断じてない。  
 成る程気に入った男にはあっさりと体を開きはする。ただし、気に入らなければ金を積まれようが宝物を贈られようが、絶対に一夜を共にしない。  
 判断基準は「女の勘」、である。巷の女性のそれでさえ、時に男の心臓を抉るような鋭さを持つものだが、弁天ほどの女ともなれば、それは強固な信頼を寄せるに値する。  
 
 その弁天の勘が目の前の少年は至高の存在である事を告げていた。  
 ここしばらく膝枕で耳をかいてやるくらいしか許してやれない男ばかりであったのに、よりにもよってこんな田舎くさい子供に体が疼くなんて。  
 
 弁天の脳裏から迷いは去り、どんどんと卍丸への興味が渦巻いていく。  
 
(おれは何でこんなとこにいるんだっけ)  
 
 と、戦国卍丸はぼんやりと考えていた。ほんのつい先ほどまで、生死定かならない死闘をキバ王とかいう根の一族と交わしたばかりである。  
 その殺伐とした瞬間と、何だか浮つくような今この瞬間がどうしても連続して繋がらない。  
 緊迫感こそ一緒ではあるが、それも種類がどうやら違う事くらいは卍丸にもわかった。  
 目的だった浄土の琵琶は快く譲ってもらえたが、帰途につく事が出来ずに目の前の弁天をただただ見つめている。  
 
 卍丸に女性経験はない。  
 火多のガキ大将などと呼ばれる悪タレではあるが、後に旅を共にするカブキ団十郎とは違い、性方面に関しては全くの無知である。  
 初恋さえ、あやしい。  
 そんな彼に、弁天の美しさはかえって毒である。  
 だが悲しいかな、無知であるが故に危険や躊躇いを感じられず、ふわふわした好奇心だけを感じている。  
「あ、あの……」  
 何かに駆られて、搾り出すように渇いた喉から声を卍丸は出した。  
 
 勿論、弁天は卍丸が女を知らないであろう事を見抜いている。  
 二十にも届かない男と寝るのは好みではなく(男にも、熟れ時はある)、わざわざ手ほどきをしてやる趣味もない。  
 だが、気に入ってしまった。心も体も疼き、目の前の少年を求めている。  
 一か八かの冒険だが、既に弁天は歩みを始めだしていた。  
 仮に自分が楽しめなくともせめて相手だけは蕩かしてやろうと、全くらしくないことを思いながら。  
 
「ふふ、どうしたの?」  
 先ほどまでの弁天とは明らかに違う、ひどく潤んだ声。柔らかに微笑みながら、しっかりと自分と捉えている表情。ますます少年は狼狽する。  
「え、えっと」  
 薄手の夜着から見え隠れする胸の谷間。優美な曲線で折り曲げられた太股。  
 ばくばくと存在感を主張する自分の心臓の脈動と本能に駆られて、卍丸は一歩だけ弁天の方へと足を進めた。  
 
 手を伸ばせば届きそうな距離。先にそうしたのは弁天の方だった。触れた指はひんやりと冷たかったがとても柔らかだ。  
 きゅっと引かれて膝を折り、顔と顔が近付く。見れば、弁天の唇が潤んでいた。  
「こういう事は初めてなのかしら?」  
「こういう事?」  
 真顔で問い返す卍丸に、弁天がくすくすと笑う。子供らしい自尊心からむっとした少年の顔を見て、声を出して笑う事は止まったものの、なお弁天は優しく微笑んでいる。  
 どうやらからかわれているわけではないと卍丸は知った。だが弁天の笑みに母を思い重ねるあたりやはり子供であり、このままではどうにも埒があかない。  
「男と女には……そうね、夜の営みというものがあるの。睦み事なんて呼ばれる場合もあるわ」  
「?」  
 小首を傾げる随分と可愛らしい様が、弁天の胸を突く。  
「どういうものなのか、知りたい?」  
 湿っぽい目線に、今度は少年の胸が貫かれた。仮に卍丸でなくともこんな瞳で射られてはたまらない。  
「えっと……う、うん、お願い」  
 言い終えると同時に卍丸の後頭部に弁天の腕が回され、優しくも抗えない力で引き寄せられる。  
 次第次第に顔が近付き、二人の唇は合わさった。  
 
「んん!?」  
 自分の口にあてがわれた物の柔らかさに卍丸は目を見開いた。思わず顔を引こうとするが、離れられない。本能が心地良さを感じ取っていたせいなのだが、そこに気付かなかった。  
 弁天の唇が、何度も何度も離れては合わせられる。始ってからずっと開いていた卍丸の瞼は回数を重ねる毎に細められていき、やがて彼女と同じように真一文字に閉じられた。  
 
「ん……んぅ……」  
 ただ擦り合わせられるだけの、淡い口づけ。それなのに少年の脳髄は酔わされていく。目を閉じたせいで、お互いのはあはあという息が強く耳を刺す。  
「……あ」  
 一際強く押し当てられた弁天の唇はこれが最後という意味だったのか、ゆっくりと離れていった。そのまま合わせられようとされない事に思わず卍丸の唇から声が漏れた。  
「ふふ、どうかしら?」  
 薄く朱色がささった弁天の表情は例えようもなく美しい。荒い息を必死に整えようとするが、とてもそれが出来なかった。  
「な、なんでこんな事するのかわからないけど……気持ちよかった、と思う」  
「そう。でも、これで終わりじゃないの。先に……進んでみる?」  
「先?」  
 唇を重ねるという体験は、卍丸のこれまでの人生にない初めての、とても快いものだった。なのに、まだ取っ掛かりでしかないとは。  
 生来の強い好奇心は迷いや逡巡を脳裏に生ませなかった。  
「うん、知ってみたい。どうすればいいの?」  
 
(こういうのも悪くないわね)  
 と、弁天は思う。虜にしない程度に酔わせるつもりではあったが、気付けば自分も随分と怪しいものだ。  
 これが極上の体験となる事であろうと、早くも彼女は感じ取っていた。  
 
「まずは……そうね、服を全部脱いで」  
「……えっ!?」  
 弁天の申し出は、何故か卍丸を戸惑わせた。  
 川で遊ぶ時などに全裸になる事はある。暑ければ上だけでも脱ぐ事も。村の人々の中ではその事に羞恥を覚えなかったというのに、未知の存在にそうする事へ卍丸は赤面した。  
「出来ないのなら、教えてあげられないわ」  
「うっ……」  
 無論、嘘である。着たままなら着たままで若者らしい荒々しさを感じられそうだが、手ほどきをするつもりなのだし正しく手順を踏ませてやろうという思惑だった。  
「どうするのかしら?」  
 挑むような弁天の表情に、卍丸は決心した。今この瞬間を逃すのはあまりにも勿体無い気がしたのだ。  
「ぬ、脱ぐよ」  
 
 かちゃかちゃと肩当てや手甲を外し、しゅるしゅると陣羽織や着衣を落とす。それはゆっくりと躊躇いがちで、男のくせに何だか艶かしい。やがてようやく、卍丸を覆うのは下帯だけとなった。  
 現れた卍丸の裸身はしなやかで、汗ばんだ肌が光を跳ね返している。所々に傷跡があるものの、この年頃の瑞々しさを何ら妨げる物ではなかった。戦士になりつつある筋肉は頼もしくさえある。  
 傷の中には生々しい物もあり、殆ど唯一最初から露出していた顔には埃が付いている。そう言えばつい先程扉を喧しく叩いていた根の一族とこの少年は戦っていたのだった。  
 あの根の一族を相手に生傷が殆ど掠った程度の物な辺り、やはり火の一族とは大したものだと弁天は思った。  
 
「こっちにいらっしゃい。体を拭ってあげる」  
 おどおどと近寄った卍丸の体を、寝台の横の箱に置いてあった着綿で拭ってやる。それはひんやりとこそばゆくて、時折卍丸はくっと声を立てた。  
 涼しい筈なのに、下帯の中のそれだけが熱っぽい。しばらく前から膨張の域にあったが、肌を伝う着綿の感触に一層の固さを増す。  
 いい加減押さえつけられて苦しくさえ感じ始めた頃、弁天が褌を解き、凝固したそれが開放されてゆらりと揺れ出でた。  
 
「あっ……」  
 固くなった男を初めて他人に見られて、卍丸は羞恥から再び声を立てた。着綿でそれを拭うために弁天が優しくそれを掴む。  
 腹を打つかのように硬くなり、脈打つ卍丸自身。力を強くは込めずにさわさわと伝う綿と指に、腰が抜けるような快感を覚えていた。放たなかったのは奇跡的だろう。  
 
「今度は私の紐を解いて」  
 殆ど何も考えられずに、それでもしっかりとした様子で卍丸は弁天の夜着の紐に触れた。しゅるりと解かれ、僅かに前が開く。  
 これまで以上に露出を増した双乳の谷間に少年は見入った。離れられない。そのぎらつくような視線から逃れるように、弁天は寝台へと横たわった。  
「次は、ゆっくりと覆い被さるの。さぁ……来て」  
 初めて、はにかんだ様な笑顔を弁天が見せる。逸る心を必死に抑えて、卍丸は体を傾けていった。  
 
 弁天の吐息が卍丸の顔にかかる。甘いような感じがするのは、気のせいだったろうか。  
「さっきみたいに唇を合わせて」  
 囁く声に喜びを覚えながら、顔を近づける。しばらく間隔があいたせいか、今度の方が心地いいように卍丸は感じていた。  
 その事に慣れ始めるに合わせて生まれ始めた余裕が一気に掻き消える。弁天の舌が不意に現れたのだ。  
 唇をぬぬっと舐め擦られ、割って入られる。硬く閉じた両の歯列を舐められ驚愕に開いた隙に舌を絡め取られた。ぬめぬめとした感触に脳が焼かれる様だった。  
 流し込まれる唾液も、甘い。殆ど貪るように飲み干す。と同時に弁天の舌が離れ戻っていった。唇も一旦離される。  
 もう言葉は必要なかった。卍丸は追いかけるように唇を重ね、啄むように舌で突付いた。やがて開かれた口内に喜ぶように踊り入る。  
歯茎を舐め、舌と舌が絡み付き合った。  
 くちゅくちゅという、今まで聞いたことのないような音が卍丸の耳に入る。  
 朱色が一層増した表情。ぴくぴくと顰められる眉間。ますます荒くなる息。弁天の全てが少年の鼓動を早ませた。  
 
 どれほどの時間弁天の唇を味わっていただろう。ほんの少し生まれた落ち着きが卍丸の目を走らせた。見れば、弁天の顔のあちこちに汗が照り輝いている。  
 思わず舐め取ったそれは流石に塩っぽかったものの全くきつさはなく、その行為で更に高まった彼女の吐息と合わせて、卍丸の舌を愉しませた。  
 こうすれば喜んでくれるのかもしれないと思い至り、弁天の顔中に舌と唇を這わせる。この思いつきは成功したようで、度々弁天は切なげな声をあげた。  
 そうして細い顎へと辿り着く。ここから下に進めばどうなるのだろうと卍丸は思った。すらりとした喉が彼を誘っているような気がした。自分の胸板に押し当てられた、やわやわとした膨らみも。  
 思考したのは刹那の瞬間で、喉へと口を進ませる。軽く頭を振る弁天に苦しいのだろうかと考えたが、制止させられたわけではないので、構わず鎖骨まで這い降りた。  
 鎖骨を唇で軽く挟み、線に合わせて外から内へすっと進ませる。舌を合わせるのも忘れていない。  
「あぁっ……」  
 今までで一番強い声が、弁天の唇を割った。  
 
 気が付けば、弁天の夜着が横たわった時から更に分け開いている。卍丸はそれを肌で感じ取っていたが更に、僅かにこりこりとした物が胸に当たっていた。  
「胸、どうなってるか見てもいい?」  
 声を出してみて驚く。自分も随分息を荒げていた。  
 好奇心に包まれた少年の問いかけに、弁天はいとしげに微笑む。  
「えぇ、いいわよ……」  
 喜色を満面に表した卍丸の表情は、それだけで彼女を潤ませるようだった。  
 
 申し訳程度に弁天の肌を隠していた夜着を震える手でそっとずらすと、形よい膨らみが完全に姿を現す。  
 見ただけで柔らかな感触が伝わってくるようだった。中ほどで愛らしく屹立している先端だけが異質である。  
 呼吸と共に上下するそこから目を離せなくて、卍丸はごくりとほとんど溜まっていない唾を呑んだ。  
 駆られるように、それでも恐る恐ると腕を乳房に近づけるが、すんでのところで止めて尋ねる。  
 
「触っても……?」  
 本当は思いのままに突き進みたいだろうに、それでも必死に彼女を尊重しようとする卍丸。年頃を思えば、それはどれだけ苦しい自制であったろう。  
 ここまでの掘り出し物だとは、さしもの弁天も思わなかった。  
「優しく……ね」  
 洩らすように、許しの声を与えてやる。  
 自分もいい加減焦れているが、ここまでくればとことんまで付き合うのが卍丸への何よりのお返しとなるように思えた。  
 
 弁天の応えを聞いてすぐに、膨らみに掌を置いてみた。  
「うわ……」  
 柔らかい。吸い付くような手触りで、置かれた手が軽く沈んでいる。包んでいるのはこちらなのに、柔らかさと体温で逆に包まれているような錯覚を覚えた。  
 とくんとくんと指先に鼓動を感じる。それをもっと感じようと掌を這わせると、先程胸板で感じたのと同じこりっとした物が倒れて擦れた。  
「あっ」  
 鋭く弁天の声があがる。と同時に体が震えた。ますます心地良さそうである。そのまま手で形を確かめるように、卍丸は胸を弄び始めた。  
 
 優しくと言われた事を忘れずにやわやわと乳房を揉んでみる。どこまでも柔らかいのにほんの少し張りもある感触がたまらない。指を動かす度に形を変えるが、どう動かしてみても綺麗だった。  
 右の胸に頬擦りをし、左は手で愉しむ。唇を谷間に進ませ、両手で顔を挟んでみた。柔らかさに溺れてしまいそうだ。  
 飽きる事無くいつまでも触っていれそうだが、ますます硬く尖っていく乳首に関心が移る。指で摘んでみると、弁天の体が益々震えた。  
「っ…あ」  
 摘んだままこりこりと擦り、弾き、押し込んでみる。その都度吐かれる弁天の声が高まり、気のせいかそこもなお固まっていくようであった。  
 桃色の乳首は、卍丸を誘うように存在を誇示している。  
 
 今度は尋ねずに、思いのままそこを卍丸は口に含んでみた。唇で擦ってみると、やはり固いが僅かに柔らかい。不思議な感触だった。  
「うっ」  
 声と震えた体で、弁天が期待しているらしい事に気付く。よくわからないままに舌を当て、舐め転がしてみた。ほんの少し、甘い味がする。なぜか懐かしい気がした。  
 
「あぁ!」  
 ざらざらとした感触に先端を擦られ、弁天は歓喜に身を浸す。ひとしきり転がされた後、舌で押され、歯で軽くあま噛みされて思いの様味わわれた。  
 女の体は初めての少年にここまで酔わされるなんて、と驚く。  
 
 むしろ未知の体験のせいだったろう。奇妙に卍丸は落ち着きを残している。  
 こうすればどうなるだろう、ああすればどうなるだろうという思いつきが楽しくて、実際に行動に移してみるとやはり楽しい。果てを知らないからこその、蛮勇だった。  
 今度は乳首の根元の上側に歯を当て、逆側に舌を当て舐め擦ってみる。試みは成功したようで、激しく顔を振って弁天は喘いでいた。  
 
(……あれ?)  
 少年の腹に、ぬめぬめとした液体がからみついている。  
 いささか名残惜しい気がしたが乳首から顔を離し、彼女の下半身に目をやってみた。  
 自分と同じ固い固いそれがない事に滑稽にも驚いたが、てらてらと濡れ光っている弁天の陰部に胸が高鳴りただ見入る。  
 誘っているように思われて手をあてがうと、ぎゅっと太股が閉じられて挟まれた。やや窮屈ながら、柔らかい太股の肌触りもこれはこれで心地いい。  
 ぎりぎり届いていたようで、指の先が湿った感触を得ている。そして、熱い。  
「濡れてる……」  
 卍丸の呟きで、太股がますます閉じられた。  
 
「女はね……男に愛されると……濡れて、くるの」  
 荒い息の合間合間に、弁天が言葉を紡ぐ。何だか追い詰められているように感じられた。  
「ふ、ふぅん。……え!?」  
 感心したように弁天を眺めていると、不意にそれを掴まれた。  
「これを、私のそこに迎え入れるのが男と女の昔からの営み。濡れるのはその準備のせい。そうじゃないと、どっちにも辛いの。……わかった?」  
「う、うん」  
 弁天の指に優しく包まれたそれが熱く脈打つ。期待に震えているようだった。  
「じゃ、じゃあ、入れてみても……いい?」  
 声まで震えて問い掛ける。弁天がにっこりと微笑んだので許可が出たのかと思ったが、答えは正反対の物だった。  
「まだ駄目……」  
 これ以上なくしょんぼりとした様で卍丸は項垂れた。が、彼の男を掴んでいた柔らかい指にきゅっと力を込められ、はっと顔を眺めやる。  
「もう少しだけ、私を濡らせてみて。それに……」  
「っ!」  
 しゅるしゅるとそこを撫で擦っていた指が止まった。もっとして欲しいのに、少しほっとした気もしている。  
「我慢すればするほど、楽しいものなの。わかるかしら?」  
「うん、そんな気がしてた」  
 どことなく頼もしげに答えた少年に、弁天はくすくすと笑い出した。つられて、卍丸も笑い始める。知らずに溜まっていた緊張が少し解されたようだった。  
 
 ひとしきり笑いあった後、ゆっくりと弁天の太股から力が抜け、開かれる。  
 そこに体ごと割って入り、卍丸は顔をゆっくりと下がらせた。  
 
 弁天の秘所を囲む茂みはそれほど濃くなく、むしろ薄い。おかげでそこの形がはっきりと視認出来る。  
「きれい……」  
 醜悪に感じてもおかしくないのに造型なのに、卍丸はそう感想を洩らした。本心である。  
 濡れ光った陰唇を食い入るように見つめていると、そこがひくりとわななく。びっくりして目を見開いた後、幽かに指を宛がってみた。そして擦ってみる。  
「うっ……」  
 弁天の声に驚いて一旦動きを止めた。拙かったのだろうか。  
「……続けていいわよ。でも、ゆっくり優しく……ね」  
「わかった……」  
 何となく、荒々しく扱えない場所である事は本能でわかっていた。なので、そこを開くのに細心の注意を払いながら行なう。  
 
 開かれ現れたのは、濃い桃色の世界だった。  
 その中で、やや淡い色使いで顔を見せている上部の突起と、潤いが生まれてきている場所らしい穴状の箇所が目を引く。  
 しばらく眺めていると、弁天の指が降りてきてそこに当てられた。突起が指差される。  
「ここは、女が一番気持ち良く感じる所。その分弱い所でもあるから、決して爪を立てたり力を込めすぎちゃ駄目」  
「ん」  
 卍丸が頷くと、弁天の指が更に下に走り、泉に到達する。  
「ここが、貴方のそれを迎え入れる所。こういう感じで……」  
 指がぐぐっとそこに押し入る。根元まで入って引き抜かれた指が、濡れて光沢を得ていた。  
「わかったよ……」  
 涸れたような卍丸の声。視線の先にある物は、こんなにも潤っているのに。  
 
 もう少しだけ、触ったりして確認してみて。  
 
 という弁天の声に促されて、卍丸はゆっくりと触れてみた。ここも、やっぱり柔らかい。  
 ぬるっとした感触のせいで力加減が難しいが、それでも力を入れすぎないよう秘所を撫でてみる。熱い。  
 すっ、すっと、何度もそこを撫で上げる。よほど心地良いのか、ぴくりぴくりと弁天の腰が跳ね上がった。少し、嬉しい。  
 
 見れば、更に突起が顔を出している。濡れた指先で、米粒状のそこを摘んでみた。  
「ひっ……!」  
 鮮烈な快感に、これまで以上に反り上がる弁天の裸身。それが嬉しくて、楽しくて、夢中でそこをいとおしむ。  
「ぅ……あっ、はぁはぁっ」  
 彼女の嬌声の激しさに、卍丸は音でも愉しんでいた。  
 
 突起から指を離す。弁天の腰がとすんと落ちてきた。  
 呼吸が少し収まるのを待って、泉に指を埋めてみる。入口と中程がきゅっと指を締め付け、ざわざわと舐め尽された。驚くしかない、魅惑的な質感だった。  
 そっと指を抜き差しする。一本だけでは物足りなく思えて、もう一本差し入れてみた。二本をぴったり合わせるのではなく踊るように中を擦ると、潤いと締め付けが増した。  
 
 ふやけるのではというほどに、そこを指で愛撫する。引き抜くと、開かれた穴がひどくゆっくりと閉まりだす。閉じきる前に、誘われるように卍丸はそこへむしゃぶりついた。  
「ああっ!」  
 唇で感じてみても、やはり熱い。  
 卍丸は無心で舌を突き出した。  
 
(甘酸っぱい……かな)  
 彼女の秘所に溢れる液を味わってみる。美味とは言えないが奇妙な味わいで、何より弁天の様子は気持ちよさげであったから、構わず啜り貪ってみた。  
「はぁっ……はぁっ……」  
 吸っても吸っても、それは溢れてくる。すでに潤いの正体は卍丸の唾液なのか、弁天の愛液なのか、判別定かではない。  
 思うままに味わい尽くした頃、卍丸は限界に達した。  
 
「もう……入れても、いい……?」  
 からからに渇いた喉から声を絞り出す。  
 そこは涎の様に先走りを洩らし、早く早くと脈打ち震えていた。急かされながら腰を近づけ、濡れた物同士を合わせる。  
 ほんの少し腰を進めるだけで、包まれる事が叶う。  
 
「……えぇ、いいわよ……あっ」  
「……うぅっ」  
 弁天がこくりと頷いたのを見てとって、間断なく卍丸自身が柔らかく絡み付くそこに入りだした。凄まじい快感に、卍丸はうめく。  
 生まれて初めての包まれる快感。ざわざわと舐められる感触が指で感じた以上に気持ち良くて、奥に届くと同時に少年は精を放った。  
「あぁっ!」  
「くぅっ!」  
 放っている間中も絞られるように絡み付かれ、激しい放出感に腰が震える。ようやく吐き出し終えると卍丸は崩れ落ちるように弁天の胸へ顔を落とした。  
 即席の枕はとても柔らかく、頭を置いているだけで心安らぐ。気が付けば弁天の指が卍丸の髪に絡み撫でてくれている。  
 初めての快感からゆっくりと頭が覚めてきた。と同時に、得体の知れない申し訳なさが胸を突く。  
 
「……ごめんなさい」  
 なぜ謝っているのか、卍丸自身にもわからない。けれど、そうしなければならない気がした。  
 
「ふふ、いいのよ。初めてなんだものすぐに出ちゃったのはおかしいことじゃないわ」  
 本当に優しげに話す弁天の言葉で、卍丸にも見当はつきだした。そう言えば、我慢が大事と彼女は言っていた。  
「それに……」  
 次があるなら心せねばなどと健気に考えていると、萎んでいたそこに弁天の秘所が絡んでくる。  
「う、うわ……!」  
 びっくるするくらいの勢いで卍丸の男は蘇り、弁天の中で膨張の極みに達した。入れる前と遜色のない状態で、彼女の膣内を満たす。  
「やっぱり若いから、復活するのが早いわね。嬉しいわ」  
 言葉と同時にそこを締め上げられ、思わず卍丸は声にならないうめきを上げた。気持ちの良さは相変わらず凄まじいが、今度は耐えられそうだった。  
 一度出した事で感度がやや鈍っていたのだが、初めてづくしの卍丸にはそれがわからない。ただ、今度こそ弁天を喜ばせる事が出来そうなのが何より嬉しかった。  
 
「どうすればいいの?」  
 卍丸の問いかけに若干弁天は呆れる。けれど、言われてみればやり方を教えたのは挿入するという一事だけだった。  
 ここまで来れば本能でどうにかなりそうなものだと思ったが、それでももどかしがる頭を抑えて卍丸に教授する。  
「貴方のそれを抜き差しするの。抜くって言っても外にまで出さなくてもいいし、差す時も一々奥まで突く必要はないわ。思うように……してみて」  
「わかった、やってみるよ……」  
 
 期待に震えるような思いで、卍丸は動き出した。  
 
「あっ」  
「うっ」  
 腰を引いた際の感触に、二人同時に喘ぐ。  
 入れた時の快感も素晴らしい物だったが、今回の、膨らんだ男の傘が擦られる快感もたまらない物だった。  
 
 押し入る時にはぬめぬめと絡みつかれ、引き出す時にはざわざわと舐め上げられる。  
 謳うように、弁天がうめき喘いでいた。卍丸が動く度に裸身がゆらゆらと揺れ、とりわけ扇情的な乳房の動きに目が行き、気がつけばそこを自分の手が揉んでいる。  
 体を倒し、胸の先端に吸い付き舐め転がす。そのせいで腰の動きが弱くなってしまったが、もう少しで放ってしまいそうだったので丁度いい按配で卍丸は心を落ち着かせた。  
 
 先程の吐き出した時の快感を忘れたわけではないが、今度はぎりぎりの所まで我慢をするつもりだった。  
 実際どうだったかはうまく思い出せないが、さっきだって少しは耐えられたのかもしれない。  
 そう思うと口惜しさが増す。ならばこそ今回は、限界まで踏ん張ってみたいと固く心に決めた。  
 そんな決心は抜きにしても、出来るだけ長く楽しんでみたいと思ったのも事実なのだが。  
 
 卍丸のそれは程よい大きさでしかないが、さすがに若いだけあって張り詰めた固さがなんとも頼もしい。全力で締め上げても平気で押し入ってくる雄々しさが弁天の心を溶かす。  
 反対に優しく、胸を揉み乳首を吸われる感覚も気持ちが良い。  
 それが余裕がなくなったせいだと気付いてはいたが、心配りを忘れない少年の懸命さが嬉しかった。  
 意外に追い詰められていたので早く達する快感に開放されたかったが、卍丸が耐えるつもりであるならとことんまで付き合ってやろうと考え直す。  
 
 二人とも、熱く激しく律動に酔っていた。肌と肌が生む乾いた音と、激しく摩擦しあう秘部同士のくちゅくちゅという水温が、ますます酔いを加速させる。  
 
「あっ……あっ……ぅうっ!」  
 弁天の喘ぎ声が定期的な調子を刻みだす。先程までは合わせるように蠢いていた腰も止まり、ただ卍丸の動きを受け止めているだけである。  
 長くしなやかに伸びた両足のみはいまだ絡みついていたが、それもだんだんと力がなくなりつつある。  
 
 それに合わせるように、秘所の襞のざわめきも定期的になってきていた。もっとも締め上げる柔らかな強さは健在で、むしろ強まってきているほどだ。  
「くっ……!」  
 押し込むだけで激しい快感を得る。卍丸の先端は痺れてきているようだった。限界は明らかにすぐそこだ。  
 もう少し愉しんでいたかったけれど、どうやらここまでだった。  
 それでもぎりぎりと歯を食いしばり、果ての果てまで進む為に弁天の細い腰回りを掴んで最後の律動を開始する。  
 ほんの数度だけでも往復できれば、それでいい。  
 
 卍丸の手が腰に当てられた事で、その意思を弁天は理解した。慣れているから持ち応えられたものの、それももう難しかったところだ。  
 何度突かれるかわからないが、二桁には届かないだろう。暴れ馬のように頭を跳ね回る快感を必死で抑えつけ、最後の瞬間を待った。  
 
 一突き一突きに全精神を集中させながら、卍丸が動く。これまで以上に激しく包まれ放ちたくなる。それを必死で堪えて引き抜き、また押し入る。  
 更に上回ったざらつきに、声をあげそうになる。いや、あげていたのかもしれない。自分がどうなっているのか、弁天と繋がっているそこ以外の感覚がなかった。  
 その唯一の感覚が爆発的に高まっていき、ついに開放を迎える。  
「ああああぁぁぁっっ! くうぅっ!」  
「っ!!」  
 互いの思考が同時に白く爆ぜ、一つに染まった。  
 
「あぁ……。はぁっ……はぁっ……!」  
 二回目の放出は、一度目よりも長く強い。叩くような精の勢いに膣内が収縮し、卍丸を何度もぎゅっと喰い締めた。  
「うぁっ……」  
 前回などまるで比較にならない解放感。腰が無くなったかと思うほどだった激しい快感が終わると、吸い出されるようにざわめく弁天の秘芯が緩やかな快感を与えてくる。それは全てを出し終えるまで続いた。  
 
「……ふーっ」  
 先にそれなりと息が整ったのは弁天の方だった。自分の体の上の少年は、まだ呼吸も鼓動も荒いままである。  
 随分と頑張ってくれたものだと思う。ここまで満足できるとは全く予想していなかった。珍味的な前菜くらいに楽しめればいいと思っていたくらいだが、立派に主菜としてつとまっている。  
 
 出し尽くして萎んだそれを引き抜いて、卍丸は弁天の横にごろりと体を横たえた。とても満足だった。こんな快い事を教えてくれた弁天に強い感謝を覚える。  
「弁天さん」  
「なぁに?」  
「その…ありがとう」  
「……ふふ、どういたしまして」  
 
 それから何度か、二人は貪るように行為を重ねた。合間合間に弁天に男女しきたりを教えられ、卍丸はそれらを心に刻む。  
 以後一年弱の旅において戦国卍丸が浮名を全く流さなかったのはこの時の弁天の教えのおかげだったろう。心の底から愛しく思う相手とだけ体を重ねろという言葉に深い共感を覚えたせいである。  
 やがて絹という生涯の伴侶となる女性を得、婚儀を結びいざ初夜という段にあまりに手馴れて落ち着いた卍丸は、妬心を起こした花嫁を泣かせてしまうのだが。  
 
 それはまた、別の話……。  
 

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