坂東の雄、武田愚呂主起つ。その一報は瞬く間にジパング全土に知れ渡った。  
 この頃大門教を皮切りに各地で起こった動乱がジパングに残した傷跡もようやく癒え、人々の顔にも笑顔が戻りだしたという時期である。あえて平穏を乱す愚呂主の心境はどういった物であったろうか。  
 ただ誰もが、これが一つの時代の終焉を意味する事を感じ取っていた。  
 
 筑波山中。  
 その日自来也はガマ仙人の庵にて一人瞑想を行なっていた。  
 十数年この山で暮らし、それから先の数年ジパングを駆け回った日々。その一つ一つの出来事に思いを馳せながら、自分という物の在り方を再確認する。  
 
 愚呂主の挙兵はまさしく愚挙である。だがその本心を自来也は見抜いていた。  
 今やジパング最大の火種は武田愚呂主その人の存在である。生きているだけで幕府の不審を招き、またその下に幕府に二心を抱く者達が集いもする。  
 時間が経てば経つほど武田は勢いを増すであろう。それが最大に達した時に叛乱を起こせば、或いは倒幕もなるかもしれない。だが、愚呂主はもう若くはない。  
 仮に勝てたとしても荒廃したジパングを新たな政で纏め上げる時間は恐らく無い。倅では自慢の息子ではあったが、ジパングを背負わせるには余りに若い。  
 だからと言って今タイクーンと戦っても一割も勝機はあるまい。それでも愚呂主が討たれればジパングに一事でも平和が訪れるだろう。そう考えた時、愚呂主の考えは決まったのだろう。  
 馬鹿と言えばこれ以上馬鹿な男はいない。誰にも望まれない、しかも負け戦を挑むのである。しかしほんの少しの華々しさがそこにはある。  
 十中八九の負け戦。剣林矢雨の只中で、軍馬を駆るは老愚呂主。  
 それを想像すると自来也は身震いする様な感覚に捉われた。男として天下を相手に馬鹿な喧嘩を吹っ掛ける、何と贅沢な事だろうか。  
 どんなに英雄的な功績を挙げてきたといっても結局影働きの域を出る事のない自来也にとって、今の愚呂主の姿は羨望と映る。愚呂主一人にそんな至福を味わわせるのは我慢ならない。  
 
 ようやく思索を終え、きっと目を見開く。  
 既に自来也の表情は生死の狭間を掻い潜る時のそれへと変わっていた。  
 
「自来也……」  
 ふっと影が点し、誰かが背後に立ったのを知る。声には聞き覚えがあり、すぐさまそれが誰かがわかった。  
「綱手か。どうした?」  
 振り返った自来也の表情はとてもとても清々しいもので、綱手はそれだけで全てを察した。  
 愚呂主の一件を聞いた時、瞬時に血に染まる自来也の姿が思い浮かんだ。それは胸が張り裂けるような激しい恐怖で、気が付けば綱手は筑波山へと駆け出していた。  
 
「やっぱり……愚呂主さんのこと助けに行くの?」  
 わかりきった質問でもせずにはいられなかった。否定してくれるのではないかというほんの少しの期待を抱いて。けれど、やっぱり自来也は晴れた顔のままで頷いた。ますます胸が痛む。  
「あぁ、放っとけないしな。愚呂主の爺さんもいい年なんだから、俺が面倒みてやらないと。それにあいつらだってきっと来るだろうしな。何たって、天下の十手持ちだ」  
 そう言ってにかりと笑う。こんなにも自分が心配しているのに、どうしてこの男は笑えるのか。少しばかりの苛立ちと、胸一杯の寂しさが綱手を押し包む。  
「……かせない」  
「ん?」  
「行かせないんだから!」  
「うわっ」  
 綱手が突き飛ばすように駆け寄って、勢いのまま自来也は押し倒される。軽く頭を打ってしまって目を閉じた。  
 庵に現れたときから責められるのは覚悟していたので罵倒の言葉を自来也は待ったが、中々それは訪れない。代わりに彼の胸へと落ちたのは熱い水滴だった。  
「……泣いてるのか、綱手」  
 恐る恐る瞼を開くと、目の前の綱手はぽろぽろと涙を零しながら自来也を見ていた。そうして自来也の胸をぽくぽくと力なく叩きだす。  
「そりゃあ、泣くわよ。あんたが、自来也がいなくなるかもしれないのに、そんなの、泣くに決まってるじゃない」  
 言いながらもすんすんと綱手は泣いて、胸を叩くのを止めない。やがて手は動かなくなったが、顔を自来也の胸へ押し当て声をあげて泣き出す。  
 
 いつまでも止もうとしない綱手の泣き声。それを労わるかの如く、いつしか自来也の手が綱手の髪を梳かすように撫ぜていた。  
 とくんとくんという自来也の心音も染み入るように彼女を落ち着かせていく。  
「……あのな、綱手」  
「……」  
 声まで優しくて、かえって綱手はどきりとする。聞いてしまうのがほんの少しだけ、怖い。  
 
「俺は何も、死ぬつもりは無いよ。精一杯愚呂主の爺さんや、芭蕉のじっちゃんの事を手伝う。それだけさ。それに……」  
 ゆっくりと、しかし確実に、自来也の鼓動が早まりだす。  
「お前を残して死んだりしない。約束する。だから、お前は俺の帰るのを待っててくれ。そしたら俺、きっと頑張れるし」  
「……ほんと?」  
 顔を起こし、涙でぼんやりとした目で自来也の表情を見る。頼もしいんだか頼りになるのかわからないけど、とてもきっぱりとしたいつもの笑顔がそこにはあった。  
「俺が嘘ついたことなんてないだろ?」  
「……うん、嘘は言わない。けど、いっつも冗談は言うよ」  
 そう返すと自来也は困ったような顔をした。それが何だか可笑しくて、悲しかったはずなのにくすくすと綱手は笑い出した。  
 
 ひとしきり笑い終えると二人の間にとても静かで心地の良い時間が訪れる。そのままでも酔ってしまいそうなほどの充足感だったが、何かに駆られるように綱手は言葉を紡ぎだした。  
「……あのね、自来也」  
「ん?」  
 綱手を見る自来也の表情はやっぱり柔らかい。それを失いたくないと言う気持ちが、少しの怯えがある綱手の背中を優しく押した。  
「生きて帰ってくるっていう自来也のこと、信じる。だから、信じ続けられるような証、あたしに頂戴……?」  
 
「え、証? それって?」  
 ぴんとこないのか、なんとも珍妙な顔を自来也はしている。とても格好悪いのに、さっきまでよりもよほど彼らしくて綱手は安心した。  
「馬鹿……最後まで言わせる気?」  
 口をキッと結んだりしてわざと拗ねたような顔をしてやる。それでほんの少しは理解したというような表情になったが、すぐに自来也は悩んだような様子に戻った。少し、じれったい。  
「お前、その、俺じゃなくてさ、大蛇丸のこと好きなんじゃないのか? ……いてっ!」  
 あんまり馬鹿な事を言い出すものだから、思わず引っ叩いてしまった。それくらいしたって良いほど、野暮だ。年上のくせに、いつも自分が世話を焼いてやらないといけない。  
「大蛇丸のことは好き。あんたのことも、好き。どっちが一番なのかずっとわからなかったけど、今はわかるよ。ずっと一緒にいたいのは……自来也」  
 筑波山まで走ってきておきながら、自来也を押し倒していながら、その胸で泣いておきながら、今初めて綱手は自分の想いを自覚した。  
 自身でも思いがけない告白に一気に頬が赤らむ。だと言うのに、それを受けた側の反応が無い。恐る恐る眺めやると、さっきまでの呆けた感じではない、真剣に悩んだ顔の自来也がいた。  
「どう、したの?」  
 拒絶されるのかという恐怖がありながらも、訊ねる。  
「俺も、綱手とはずっと一緒にいたい、と、思う。けど……」  
 自来也は一層喰いしばるような表情になった。  
「俺はガマで、お前はナメクジだろ? 俺の気持ちにはひょっとしたらそれのせいって部分があるかもしれない。それが怖いんだ。そんな俺にお前の気持ちに応える資格、あるのか?」  
 それは理解できる苦悩だった。何年も大蛇丸に対して同じ様に悩んできている。  
 確かに種族の違いが二人の想いの距離に違いを生じてしまっているかもしれない。それでも自分は自来也を好きなのだし、だから。彼の胸へともう一度頭を伏せる。  
「好きっていう気持ちがおんなじじゃなくても、いい。でも自来也もあたしのこと好きだっていう気持ち、ちゃんと伝わってくるよ。  
だって、こんなにとくんとくんって鳴ってるもん……」  
 そう言って、顔を上げて見つめあう。胸に置いていた手を広く頼もしい背中に回しきゅっと抱きしめると、自来也の手も自分を抱きしめ返してきた。  
 誘われるように顔と顔が近付き、想いだけでなく体同士でも、二人は初めて一つに重なった。  
 
 最初は押し当てるだけだった口づけ。  
 それに飽いたのか、どちらからともなく唇を擦り合わせるようなものへと変わる。上に乗っているせいもあるだろうが、やや綱手の方が積極的に口づけを愉しんでいるようだった。  
 粘膜と粘膜が重なり合う音が静かな室内に響き、時に水音のような音が立つ。その度に二人はきつく抱きしめあい息を荒げた。  
「……すごいね」  
「え?」  
 瞳が潤み頬に朱を差した綱手の表情は初めて見る強烈に女を感じさせるもので、囁くような声も艶かしく自来也の胸に突き刺さる。  
「口づけってこんなにすごいんだ。たったこれだけなのに、今までよりずっと自来也のこと好きになってる。なんか不思議……あっ」  
 背中を抱きしめていた手を上へとまわし、そのまま綱手の頭を引き寄せて唇を奪う。急に荒々しくなった自来也に驚いた綱手を更に困惑させるように、勢い強く舌が差し入ってきた。  
 びっくりして縮こまった綱手を誘うように自来也の舌が突付く。恐る恐るゆっくりと舌を伸ばすと待っていたかのようにざらざらと自来也が舐めてきた。  
 唇を合わせるだけでも心地良かったというのに、舌同士が擦れ合う感触はそれを遥かに上回る。もう何も考えられなかった。ただただ自来也への愛しさが募る。  
 
 自来也からすれば今無我夢中に綱手の唇を貪っている自分の状況は埒外の事で、やや腹立たしい。  
 綱手は恐らく初めてだろうから優しくしてやらなければならないと頭でわかっていながら、甘い言葉に簡単に酔わされてしまっている。いつもこうだ。  
 年下のくせに、いつも姉貴ぶるように自分を手玉に取る。それは不快なんてものでは全くなかったけれど、こんな時にまでそれでは男の沽券に関わるというものだ。  
 我ながら馬鹿馬鹿しく子供っぽい自尊だと心の中で苦笑したものの、おかげでほんの少しだけ落ち着けた。当初の腹積もり通り優しく接してやる事を、今度は見失わないよう心中で一本の柱と据える。  
 
 舌と舌の責め合いも大いに気に入ったらしく、唇を合わせるだけだった時同様に綱手は懸命に自来也の舌を貪り続けていた。  
 落ち着いたからこそ更に蕩ける様な感覚を自来也は得ていたが、放っておけばいつまでもこのままかもしれない。  
 焦ってるわけじゃないからな、と頭で言い訳しながらごろりと体の上下を入れ替える。突然の事でびっくりしたのか、綱手は目をぱちくりとしていた。  
 そして、腰帯に手をかける。  
 
「自来也……?」  
 思考はまだぼんやりとしているのか、綱手の声はとろんとしている。その様はとても愛しく、我慢できずもう一度だけちゅっと唇を合わせると、帯をしゅるりと解き軽く放り投げる。  
「え? えっ?」  
 衿にかけた手がそのまま綱手の衣服を剥ぎ取ろうとするのを懸命に抑え、優しく囁いた。  
「脱がすぞ」  
「う……」  
 すっと僅かばかりずらすと綱手の手が自来也の腕を掴んで止める。その顔は益々紅い。  
「ちょ、ちょっとだけ……待って。その、脱がされるのって恥ずかしいから、じ、自分で脱ぐ。ちょっと他の所向いてて。……自来也も脱ぎなよ」  
「あ、あぁ」  
 自分で剥いだ方が風情があるというもので、自来也は綱手の申し入れを名残惜しく思った。けれど、何だかたどたどしくの方が自分達には相応しいようにも感じる。  
 苦笑しながら立ち上がって背を向け服を脱ぎだすと、背後でしゅるしゅると衣擦れの音がする。笑みが固まって耳に精神が集中した。  
「……いいよ、こっち向いても」  
「……」  
 振り向いた先の一糸纏わぬ姿の綱手の裸身に一瞬で思考が吹っ飛ぶ。こんなにも自分の胸を激しく鳴り騒がせるなんて。  
 女体として綱手のそれは柔らかさと丸みの醸し出す極致といった裸体にはやや足りない。しかしそれを補うような輝かんばかりの張りの肌と、すらりとしなやかに伸びた細い体の線。  
 出会った頃の幼さが充分に残る姿から見事に成長した、まず間違いなく一つの究極と言って良い女性がそこにはいた。  
 今でさえそうなのに、一方が両胸を隠し、もう一方で秘部を遮る腕が払われたならどうなるのか。自来也は情けなくもごくりと喉を鳴らした。  
「そんなにじっと見ないでよ。恥ずかしいし……」  
 声と同時に僅かばかり身を縮こまらせる綱手。そのせいで腕に抑えられた膨らみが形を柔らかく変える。  
 綱手の一挙一動が堪らなく愛しく、ますます焦れていく感覚と高まる期待にそれが震えた。  
 
「わっ」  
 動いた事でようやくそれに気付いたのか、綱手が自来也の固くなった物をまじまじと見ている。少し、いや、かなり恥ずかしい。  
「それ、そんなふうになるんだね。ナメクジ仙人のと全然違う……。爺ちゃんのはしょぼんとしてたもん」  
「……そりゃ今の俺と同じみたいになってたらおかしいだろ」  
「そうなの? どうして?」  
 首を傾げて訊ねてくる仕草は昔からのままだ。裸になって以来別人のように感じられていた綱手をようやくいつものような身近に感じられた気がして自来也はほっと安心する。  
 だからと言って気持ちが萎えたわけではない。  
「あっ」  
 肩を引き寄せ綱手を抱きしめる。力を込めすぎず、しかし逃さない為に両腕で背中を絡めとって。  
「興奮したからこうなるんだ。……お前のせいなんだぞ」  
「……」  
 がちがちに固くなっていた体から力が徐々に抜け、おずおずと胸同士の間に挟まれていた綱手の腕が自来也の背中へと回った。  
 柔らかい膨らみが潰すように押し当てられ、今度は自来也の方が身を固くする。  
「……そっか、自来也もやっとあたしの魅力に気付いたってことだね」  
 にこりと綱手が満面で笑んだ。それだけでもくらくらとくるのに、よく見れば頬は朱に染まり、そこに照れが垣間見える。たまらなくなってしっとりと潤んだ唇を奪った。  
 
 何も着ていないというのに、寒さなんて感じないほどに二人の気持ちは高まっていく。そのせいか、息もどんどんと荒くなっていく。  
 お互い無心で舌を貪りあい続け、どれほどの時間が流れても飽きない。もっともっととせがむような綱手が嬉しくて、自来也もそれについつい応えてしまう。  
 舌と舌が複雑に踊り合う快感。他の誰でも、綱手ほどの感覚は得られないと自来也は確信する。こんなにも酔いしれているのだから。  
 それでも先に進みたくて、もっと酔ってみたくて、唇を離す。二人の舌を繋いでいた細い唾液の一筋が自来也の強い意思でぴっと切れた。  
 
 口づけだけで荒くなった息を二人一緒に整える。整いきる事はないだろうが、お互い次に進む為の一つの儀式のように思えて、少しずつ少しずつ気を落ち着かせる。  
 綱手の額に汗で張り付いていた前髪をすっと除けてやると、それだけで本当に嬉しそうに微笑んだ。その咲き誇るような笑顔が凍りつき、急に顔を下に向ける。  
「自来也の熱いんだね。それに、固い……ぴくっぴくってしてて、なんだか辛そうだよ」  
 余程興味深いのか、再びそれを凝視される。このままではまた同じ事を繰り返しそうで、それはそれで悪くないのだが、埒が開かない。  
「早く綱手と一つに繋がりたいって震えてるんだ」  
「うっ……そんなに大きいの、その、入る、のかな? ちょっとだけ怖い、かも」  
 怖いのか、怯えたような表情になるが、そんな綱手の顔もたまらない。それでも安心させるために努力して笑顔を作って囁いた。  
「大丈夫、優しくするから。痛くしないっていう約束は出来ないけど、綱手のことちゃんと大事にする。……俺の事、信じられない?」  
 ちょっと卑怯だったかなという思いが、ぶんぶんと頭を振る綱手の仕草でやや募る。それでも、  
「……ううん。自来也、いつもはちょっと意地悪だけど肝心な時はちゃんと優しいから、信じる。でも、その、本当に優しく、ね?」  
という言葉が胸の中に生まれた棘を抜いてくれた。嬉しくて嬉しくてたまらない。  
「わかってる……じゃあ、横になろう」  
「……やっ」  
 身を横たえる為に離れようとしたら、かえってきゅっとしがみ付かれる。  
「嫌、なのか?」  
「そうじゃないの。そうじゃないけど……恥ずかしいから離れないで」  
「……わかった」  
 抱き合ったままで体を横にするのは少し難しかったが、さすがに非力ではないのでゆっくりと床に綱手を寝かせた。そのほんの少し前に、しゅっと手近の衣服を間に敷くのを忘れない。  
 そうして見つめると、まだ綱手の顔に怯えが見える。それを解すように口づけをしてやるときゅうきゅうと体を押し付けてきた。  
 ひとしきり今までのおさらいのように舌を絡めあい、もう一度綱手をじっと見つめる。  
 
「じゃあ、始めるぞ……」  
 自来也の強い眼光に刺されたのか、とろんとした綱手の顔に怯えが戻った。だがそれも一瞬の事で、少し母性が感じられるような柔らかい笑みが浮かぶ。  
「うん、いいよ、してみて。あたしに……教えて」  
「……あぁ」  
 生娘だろうと女は女。許しを与えるのはいつだって女の方だ。男は喜んで奉仕するしかない。それが癪でもあり、嬉しくもある。  
 絶対にこいつだけは壊しちゃいけないという思いを強くして、自来也は綱手の体を味わいだした。  
 
「……ふふっ、くすぐったいよ」  
 顔中の至る所に唇を当てて擦るとそんな風にくすくすと綱手が笑い出す。黙らせる様に時折はその唇をこちらの口で塞ぎながら、柔らかい頬などを舐めてやった。  
 細い首筋を舌が這うとぴくりと震える。少しは感じてくれているのか、息に艶かしさが加わっているように思えた。  
「……ぁ」  
 依然重なり合ったままだった胸同士の間に自来也は両手を差し入れる。まだ揉んだりはしない。形を確かめるように、上から下へ、下から上へ、何度も何度も柔らかい膨らみを擦った。  
「はぁ……はぁっ……う」  
 綱手の喘ぐ声に激しさはなく、どこかうっとりとしているようにも見える。本当に優しくしてくれている自来也の腕の動きをじっくりと感じ取っているようだった。  
 ふっと顔を横に倒した際何かが気になったのか、いつの間にか閉じていた瞼を開いて自来也に問い掛ける。  
「あたしって……あたしってその、筋肉ごつごつだから……触っても楽しくないでしょ……?」  
 馬鹿馬鹿しい質問ではあったが、綱手はそれを気にしているのかもしれない。考えてみれば、いつも怪力女だの何だのとからかっていたのは自来也である。  
 成る程自業自得ではあったが、罪滅ぼしなどではない、心からの言葉を返してやる。  
「柔らかい、素敵だ」  
 自分らしくない台詞に自来也は思わず顔が赤くなった。しかしその気障さに気付かず、綱手は安心した様子である。  
 
「嬉しい……」  
 本当にほっとした様で荒い息のままに微笑む綱手。続く言葉は自来也を駆り立てた。  
「あたしなんかの体で自来也喜んでくれるのかなって心配だったけど、そうじゃないんなら嬉しい……」  
「……馬鹿」  
 懲らしめるかのように、綱手の乳房を包んでいた指にきゅっと力を入れる。あっ、という制止めいた声があがるが、聞いてやらない。  
「だって、あたし、胸だって小っちゃいし……」  
「……うるさい、この馬鹿」  
 確かに、自来也の掌の中の膨らみはお世辞にも大きいとは言えない。けれど程よくぴったりと収まる程度の大きさはあるのだし、それにちゃんと柔らかい。  
 ただ柔らかいだけでなく、若々しい弾力さで指を押し返す乳房の膨らみ。それが綱手らしさを表してるようで、何一つ文句なんて無い。  
「綱手の胸だから、大きさなんて関係ない。触ってるだけでこっちはどうにかなりそうなんだからな」  
「……ほんと?」  
 まだ疑うのかと、ほんの少し腹が立つ。ならばと指の間で屹立している固くしこった物をきゅっと挟んでやった。  
「ぅっ」  
 走った感覚が鋭敏だったのか、綱手がぴくりと震える。  
 もう言葉で答えるのは面倒臭くて、何より手の中の柔らかさが気持ち良くて、それからは夢中に乳房を揉みしだいた。  
 少し汗がにじんできたのか手触りにしっとりとしたものが混じってきている。裏付けるように谷間には汗の雫が浮き出してきていて、それを逃さないようにぺろりと舐め取る。  
「あぁっ」  
 心臓に程近い所だったおかげで、舐めた時の綱手のどきりという脈動が強く感じられた。それが嬉しくて、穏やかに膨らんだ丘をいっそう可愛がってやる。  
 掴むように揉んだり、丸い形のまま持ち上げるように包んでやると、ゆるやかな快感が綱手の体を電流のように駆け巡っているようだ。  
 この程度で満足してもらっちゃ困るとばかりに自来也は次の標的、柔らかさの中で唯一固くなったそこに標的を移した。  
 
「うぁっ……」  
 鴇色の蕾が一瞬だけ摘まれた。  
 綱手を襲う今までと違った鮮烈な感覚に上半身が激しく、下半身が僅かに揺れる。ぴんと可愛らしく立った乳首が齎す快感はそれほど強いらしい。  
 小ぶりに色づく乳輪をなぞるように自来也が指でそろりと掃く。ひどくゆっくりと、丹念に。しかし尖った場所には触れようとしない。  
 先程の快感が忘れられなくて、待ち遠しくて、焦れるように綱手の眉が顰められた。  
「お願い……自来也……」  
 何をせがむのか、そうさせたのは他ならぬ自分だったから、目論見通りと自来也は嬉しそうに微笑む。綱手を、好いた女を翻弄する喜び。この瞬間の為に男は生きている。  
 
 抱かれるのは初めての綱手を荒々しく貪りたくはないという思いを、張り詰めたそこを触る前にもう一度再確認する。  
 花芯のような乳首にそっと指を当てた。もう少しだけ焦らしてやっても良かったが、つんとした感触を得た瞬間このまま愛でてやろうと決める。  
「ひっ」  
 裂くような綱手の吐息。自来也の指にくりくりと転がされて、待ち望んだ快感に頭が白くなる。  
 爪で優しく掻かれ、指先が乳首の先端に当てられてきゅっと押し込まれた。一つ一つの行為がどれも気持ち良くて、綱手は泣きそうになる。  
 
 初めてだから怖いというのは勿論ある。それより遥かに大きいのが、やっと自来也が自分を見てくれたという嬉しさだった。  
 月姫を忘れるように、これまで自来也は何度も恋をしてきている。ほとんどがごく短期的なもので、中には一夜限りの事だってあった。  
 別れる度に傷付いて落ち込む自来也を慰める綱手だったが、その都度ちくりと心が痛んだ。あたしはいつだってあんたの傍にいるのに、と。  
「彼の重さを受け止め切れない」などと、別れた女達に尋ねると大体そういったような言葉が返ってきた。何を馬鹿なと綱手は思う。  
 自分だったらちゃんと受け止められると考え出したのはいつからだったろうか。自来也への想いが大蛇丸へのそれを上回ってきたのも、きっと同じ時期だ。  
 ずっと心配だったけれど、今までの女に劣ってはいないかと怖かったけれど、自分に夢中になってくれている。自来也に、惚れた男に翻弄される喜び。きっとこの瞬間の為に女も生きている。  
 
 不意に小さく尖った乳首が湿った感触に包まれて、吸われる。  
「やぁっ……!」  
 拒絶するような声なのに、反するように綱手の腕が自来也の頭に優しく回って抱えてくる。柔らかい膨らみに押さえつけられてやや苦しさはあるものの、それ以上に心地良い。  
「あっ、あっ……!」  
 舌先でちろちろと舐めてやると、指の時以上に歓喜の吐息が耳に入ってくる。それをもっと聞きたくて、今度はざらついた部分でころころと転がすと、更に切羽詰ったような喘ぎを綱手が洩らした。  
 色が付いた部分ほどしか含んでいなかった口を広げて、欲深く乳房も一杯に頬張る。唇の範囲の中を自分の物だと主張するように荒々しく舌で蹂躙すると、もっともっとと頭を抱えた腕に力が篭った。  
 もう片方も優しく揉んで、時折口と腕で場所を交換して極上の果実のような胸を味わいつくす。  
 
「はぁ……あっ、ん……っ!」  
 両の乳房に張り付く自来也が愛しくて、その髪にきゅっと指を絡める。擦るように頭を愛撫していると、不意に限界まで屹立したそこを吸われた。  
 恥ずかしさでどうにかなりそうだったが、自来也の行為が何だか子供っぽくて、それを口に出す。  
「ふふ、なんか自来也、赤ちゃんみたい……」  
「……なっ!」  
 自来也の顔がぱっと赤くなった。きっと自分もそうなのだろうけれど。  
 からかわれたようで気に喰わなかったのか、優しく乳首が噛まれた。  
「つっ」  
 ぴりぴりとした痛みの後に、噛んだ箇所をちろちろと舌が労わるように擦ってくる。  
「赤ん坊がこんなことするかよ……」  
 何となく負け惜しみみたいに聞こえて、やっぱり愛しくて、綱手の顔にぱっと喜色が浮かんだ。  
 そうしてまた膨らみを弄びだした自来也の動きに身を任せ、快感だけに集中する。  
 
 乳房を触っていた手が綱手の背中へ回り、ゆっくりゆっくりと擦りながら下へと向かっていく。その先にあるもう一つの柔らかい膨らみに辿り着くときゅっとそれを掴む。  
 胸同様豊満とは言えない感触だったが、柔らかくもきゅっと引き締まっていて、やはり自来也の掌にすっぽりと収まっている。  
 乳首を口で愉しんだまま尻を揉んでいるのだが、胸よりも大事な場所に近付いたせいか綱手の体に緊張の色が見えた。それを溶かして無くしてやるように優しく優しく指を動かす。  
 無くなりきらない緊張。仕方がないので手を太股へと動かす。すべすべした肌を擦ってやるとようやく安心したのか、固さが抜けたようだった。  
 困ったなと自来也は思う。そろそろ下半身を愛撫しようと思っているのに、綱手の緊張に戸惑ってしまう。  
 まだ余裕はあるから荒々しくしたりなんて事はないが、もし秘所に指を這わせば今以上に固くなるのは明らかで、それでも無理を通したものか、と。  
 そんな自来也の苦悩が伝わったのか、綱手は無理をして微笑みを作って、小さく囁いた。  
「大丈夫、大丈夫だから……」  
 こんな時まで自分を気遣う綱手の優しさがたまらなくて、無心で唇を合わせる。じっくりと舌を絡めあった後に囁き返した。  
「痛くなったらちゃんと言えよ。綱手を壊したりなんてしたくないんだからな」  
「……うん」  
 にっこりと微笑む綱手は今までの誰よりも綺麗で美しい。  
 
 太股の内側を撫でていた手をそっと翳りへと移動させる。歳相応に薄っすらと生い茂ったそこのじょりじょりとした感触を少しの間愉しむと、さらに下の、縦に割れた箇所に合わせる様に中指を当てる。  
 そこはちゃんと湿っていて、ちゃんと出来ている事に自来也は安心した。  
「あっ」  
 まだ初めてなのだから、期待ではなく不安が綱手の声を生む。  
 その不安を恐怖になんて変えないように、優しく、本当に優しく、すっすっと指に粘液をまぶす様に隠唇を擦る。  
「はーっ……はーっ……」  
 次第に安心してきたのか、下半身からの快感を綱手は味わい出したようだった。  
 
 湿り気がどんどんと潤みに変わっていく。同時に女の匂いも強くなってきて、渇くような感覚が自来也の頭に走った。  
 それをぐっと我慢するように、綱手の下の唇を人指し指と薬指でぴっと開く。  
「あっ!」  
 とろりと流れ出してきた液が会隠を伝って床に落ちる感覚が綱手の身を震わせた。その隙に自来也は中指の先で入口を塞ぐ。  
「慣らす為に指入れるけど……痛かったら言えよ」  
 くすぐる様に指を細かく躍らせながら、綱手の意思を確認する。  
「……ぅ」  
 恥ずかしくて恥ずかしくてたまらないのだろう。綱手は中々返事を口にしない。いや、出来ない。怖さだってあるはずなのだから。  
 それでも許可の意思を伝えたくて、どうにかこくりと頷いてみせる。その仕草が可愛くて、自来也の使命感はますます募っていく。  
 
 中指を第一関節まで入れてみる。だが幸い綱手の表情を顰めさせているのは緊張だけらしく、まだ痛さは無いようだった。  
 それでも安心をせず細心の注意で入口付近をくちゅくちゅとくすぐってやる。どの瞬間でか必ず痛みが来るのだから、せめて今くらいは気持ち良くさせねばならない。  
「ぁ……」  
 第二関節まで入れてみてもまだ痛みを見せない。時折体の震えと時期を同じくに指が締め付けられて、早く奥へ奥へと気持ちが急く。  
 まだ我慢できると気を落ち着かせて、緩やかな速度のまま中指を進め、限界まで差し入った。  
「……大丈夫か」  
 気が付けば綱手の腕が背中に回ってきゅっと抱き締めている。一層険しい表情になっていたが、緊張とも痛みともとれない。  
「ちょっと、苦しいけど……大丈夫、かも……」  
「そっか……」  
 気が緩んでしまって、またそこの熱さと潤みや締め付けが気持ち良くて、思わず埋めていた中指を動かしてしまう。  
 
「痛っ!」  
 うめく綱手の姿にしまったと後悔で身が焼かれた。  
「わ、悪ぃ! ……ごめんな。優しくするって言ったのに」  
 責められた方がいっそ気楽だというのに、綱手はそれでも自来也を安心させようと笑顔を作る。大した女だった。  
「自来也だったら痛くしていい、から、その……続けても、いいよ……」  
 途切れ途切れの言葉に無理が見える。自来也は少しの間ぎゅっと目を閉じて悔恨を払った。  
「……じゃあ続けるぞ」  
 せめて一つになる瞬間までは痛くさせてはいけないと強く強く決心しながら、中指を出し入れしだす。  
 折り曲げたりせず、また広げないようにゆっくりと慎重に動かすと、少しずつだが綱手の体から極まっていた緊張が抜けていった。  
 ゆっくりと指を回転させると喘ぐような吐息も漏れてくる。快感とまでは行かないのだろうが、痛みとは違う感覚が流れているのは間違いないようだ。  
 指を回すという行為は副産物を生んでいて、掌の腹の肉厚な部分が綱手の可愛く顔を覗かせた突起を擦っている。こっちははっきりとした快感で、余程気持ちいいのか綱手が大きく胸を反らした。  
「やっ、そこっ……」  
 震えるような綱手の声。一旦中指を抜くと、濡れそぼったそれを押し当ててやる。指先でこりこりと転がしてやると綱手の体が大きく揺れ出した。  
「んっ!」  
 自来也の体を押し上げるように、再び上体が反りあがる。もっともっととせがむように思えて、より丹念に秘所の核を愛撫し続けた。  
 どんどん息が荒くなり、肌を桃色に染める綱手。果てが近いようだったが、未知ゆえにぽろぽろと涙を零している。  
「自来也、怖いよ……あたしの頭の中、みんななくなっちゃいそう」  
 安心させるようにちゅっと頬に口づけして囁いてやる。  
「大丈夫、俺がいてやるから、それに集中して……」  
 そして突起から連なる筋を摘んで一気に擦る。我慢なんて微塵も出来ずに綱手の快感は極みまで突き抜けた。  
 
「……手……綱手!」  
 達した事で軽く失神したのか綱手は自来也の声に応えずただはあはあと息を吐いている。心配になってきて頬をぺちぺちと叩いてみるとようやくゆっくりと瞼を開けて、潤んだ瞳で自来也を捉えようとする。  
「自来也……?」  
「ああ、ここにいる。……大丈夫か?」  
 声でも姿でも自来也を確認して、綱手はえへへと微笑んだ。それから恥ずかしげに話し出す。  
「……なんかね、気持ち良いのか怖いのかだんだんわからなくなっちゃって、でも自来也が付いててくれるんだって思ったらふわーってなって、そしたら気持ち良いのが爆発したみたい」  
 息を整えながら、考え考え話す綱手。その言葉を聞いて自来也は今までに味わったことの無い満足感を得ていた。  
 いい加減立ちっぱなしのそこは痛いくらいに張り詰めて綱手の柔らかい場所に入る事を望んでいたが、心は既に満ち足りている。  
 今日は、今回はここまでで良いだろうと身を離そうとすると、直感か何かで察したのか、綱手の腕が自来也を抱えて放さない。  
「あのね、えっと……その……」  
 綱手は今まで以上に頬を紅潮させて恥ずかしそうにしている。何を言うつもりなのだろう。  
「……あたしはもう充分、その、き、気持ち良くしてもらったから、今度は自来也が、ね? そうじゃなきゃ嫌だよ……」  
「綱手……」  
 その言葉は自来也にとって嬉しくてたまらないものだったが、だからと言ってすぐさま甘えるわけにはいかなかった。  
「……ここからはもう、綱手は多分痛いだけだと思う。だから……」  
「大丈夫。大丈夫だよ」  
 いつものような笑顔を綱手が見せる。ああ自分はこいつのこの表情に惚れたんだなと自来也は思った。  
「さっきも言ったと思うけど、自来也だったら痛くたって、いい。……ううん。どうせ痛いんだったら、自来也じゃなきゃ嫌。だから、お願い……」  
「……わかった、俺の負けだ」  
 決心するように、綱手と唇を重ねる。これがきっと最後の心地良い瞬間なのだからと丹念に丁寧に舌を絡めあい、そうして口を離すと二人嬉しそうに微笑んだ。  
 
「じゃあ……」  
「……」  
 秘所を触っていた時程度に開かれていたが、それは到底体を割り入れるには狭すぎて、僅かに立てられた膝の上に置いた手で足を広げる意思を伝える。  
 一瞬だけ見せた力が入って拒む素振りが消えると、両脚はやがてゆっくりと開きだした。これも初めてのことで恥ずかしいのだろう、ふるふると震えてながら。  
 その様に喜悦を覚えながら少しの間太股を撫でて感触を楽しむ。ずっとそうしていたい手触りだったが視線を奥に下にとずらしていくと濡れ光る場所が目に入って、目的を思い出した。  
 綱手の中に入りたい。一つになりたい。そうした想いが体を支配して、ゆっくりと自来也の腰が綱手の腰に近付いていく。  
 やがて自来也の固いそれと、綱手の柔らかいそこがくちゅりと触れ合った。先端をほんの少しだけ潜らせてから最後の確認を囁きかける。  
「……行くぞ」  
「……ん」  
 緊張のあまりかうめき声のようなものをあげて綱手が頷く。と同時に自来也の物が綱手の内にゆっくりと侵入しだした。  
 気持ち良い。まだ先端の膨らんだ部分だけが入っただけなのに、もう放ってしまいそうだった。体の快感よりも、心のそれの方が遥かに強い。  
 けれど、そんな中途半端に出してしまうのは我慢ならなかった。綱手の為にも最後までしっかりと続けてやらねばならない。  
 
 綱手はひたすらに痛みを耐えている。  
 指の圧迫感も充分きつい物だったけれど、あれはすぐに消え去ってくれた。だが今自分の中にどんどんと入って来るそれは指なんて比べ物にならない程に太く固く、引き裂かれるような痛みに悲鳴をあげそうになる。  
 だが自分の上で目を閉じて集中している自来也は本当に気持ちが良さそうで、それを見ているとじんわりと胸が熱くなった。  
 少女から女へと変わる儀式。それを自来也と行なえる幸せ。痛みごときでは今の綱手の至福を阻む事は出来ない。  
 
 やがて自来也のそれが狭く閉じたような部分へと至る。生娘の証だ。  
 二人の一つになりたいという強い意思に負けて、遂にそこがぷつっと破れた。  
 
「っっ!」  
 七割の痛みと三割の喜びが綱手を小さく唸らせる。人生でたった一度っきりしかない破瓜の体験。その衝撃が体と心を走り抜けた。  
 
 破った後はそれまでよりはすんなりと自来也の男が奥へ奥へと進み入る。液は充分に浸されているというのに、きつい。  
 慣れた女の絡みつく柔らかさはそこにはなく、押し出すような狭さで自来也を包んでくる。だが痛みとは感じないぎりぎりの固さだったから、これまでとは違う至高の感覚が男を酔わせた。  
 ようやく根元までを綱手の内部に収めて一息つく。締め付けは相変わらず凄まじく、動いていないのに責められる快感を得ていた。自分も初めてだったなら、きっととっくに出してしまっていただろう。  
 ふっと綱手の顔を見てみるとぎゅっと閉じた瞼が震えている。それ程の痛みを与えてしまった事の責任と、綱手を女にしたのだという嗜虐的な暗い満足感が自来也の精神を満たす。  
 その闇が自来也に早く動け早く動けと囁きかける。男も綱手の中でぴくりぴくりと震えては、生娘の肉を存分に味わいたいと意思表示をしているようだった。  
 そんな暗雲のような誘いを払ってくれたのは、やっぱり綱手だった。  
「自来也ぁ……」  
「……どうした、大丈夫か、綱手?」  
 必死に綱手は微笑もうとしている。そんな無理はしなくていいのに、自来也を安心させようとでもしているのか。  
「あたし……ちゃんと……できた、の? 自来也は……気持ち、良い……?」  
 小刻みに震えながら、途切れ途切れにそれだけを訊ねかける。  
 何だか泣けそうになって、精一杯自来也は頷いて応えてやった。  
「あぁ、ちゃんと出来てるし、気持ち良い。最高だ」  
 にぱぁっと綱手が笑む。もしも勝手に動いてしまっていたなら、ひょっとしたら泣かせるだけだったかもしれない。  
 例え偶然だとしても、動かなくて良かったと自来也は思った。  
 痛さをほんの少しでも飛ばしてやりたくて、何より自分がそうしたくて、もう何度目かわからない口づけをする。  
 お互いの背中をきつく抱き合い、しばらく二人は体の二箇所で繋がる感覚に浸り続けた。  
 
「……自来也」  
「ん?」  
 長い長い口づけを終えて、綱手の決心が固まる。  
「もう、動いても良いよ……」  
 精一杯我慢してくれた自来也に許しを与える。何度も何度も幸せな気持ちにしてもらったのだから。  
「大丈夫、だから。……それって、あの、出し入れしないと、気持ち良くないんでしょ? きっと我慢できるから、その……ね?」  
「……わかった……痛かったら痛いって、ちゃんと言うんだぞ。それだけでも随分違うと思うから」  
「……うん」  
 もう一度だけちゅっと口を合わせてから、自来也はそこに意識をやった。  
 
「つっ……!」  
 自来也が引き抜かれる時に破れた箇所を掠ったのか、綱手が短く悲鳴をあげる。一旦動きを止めて見つめてみるが、促す様な視線が返された。  
 気遣いに胸が痛みながら、男をぎりぎりまで秘所から露出させた。それは粘液と破瓜の血に塗れていて、胸だけでなく心も痛む。  
 だが躊躇すればするだけ余計綱手を苦しめるのであり、きっと心を強く固めて再び肉を割るように奥へと入っていく。  
「あっ!」  
 ぎゅっとしがみつかれて綱手の痛みをほんの少しだけ理解したような気がするが、自分が得ているのは快感だけだったのが悔しくさえあった。  
 実際綱手の膣肉の感触は凄まじい物だった。柔らかさはないものの、健やかに鍛え上げられた全身の筋肉はそこも鍛え上げていたようで、程良い狭さで自来也を包んでくる。  
 呼吸を合わせるなんていう考えなんて無い筈なのに、天性の才能なのか、入る時には膣襞は緩やかに押し開かれ、抜く時には離さないとばかりにきゅっとしがみ付いて来た。  
 気持ち良いなんて言葉では足りないほどの快感。綱手の処女肉を味わう喜びに身が震えそうになる。  
 それを必死で押し殺して、体や記憶に叩き込むように、忘れないようにと、ゆっくりゆっくりと自来也は腰を振った。  
 
 早く放ってしまいたかった。そうすれば綱手は苦しみから解放されるのだから。  
 それでも。  
(これが最後かもしれないんだ……)  
 と思うと放出に身を委ねる事が出来ない。  
 生きて帰ると言った言葉に嘘偽りはない。それでも戦場に赴くのだから生死を賭ける事にも間違いはない。  
 もしも死んでしまえば、もう綱手を抱く事は出来ない。いや、咲くような笑顔を見ることさえ出来なくなるのだ。そう考えると、剛直からの快感が頭に届かなくなる。  
 悔しさとも惜しさともつかない感情が胸を打って。自来也の瞳から涙が一滴綱手の胸へと落ちた。  
 
「……自来也?」  
 汗よりもやや冷たい水の感触に気がついて、そっと綱手は目を開けた。  
 さっきまでの気持ち良さそうな顔が嘘のように、自来也は苦しそうである。  
 何も言わなくても、綱手にも伝わってきた。これは最初で最後なのかもしれないという恐れをきっと感じているに違いない、と。  
 背中に回していた両手を自来也の頬に優しく当てる。それからその手を頭に回して、きゅっと胸へと抱え込んで柔らかい声で囁いてやる。  
「いい子いい子……」  
「……」  
 乳房に押し当てられた自来也の肌が熱さを増したのを感じた。一気に目が覚めたのだろう。  
 野暮に言い訳などしてこなかったから、気を落ち着かせるようにそよそよと自来也の頭を撫で続ける。図らずも痛みで痺れていた秘所も随分楽になっていた。  
「……自来也」  
「……あぁ」  
 言葉も最小限に、二人は動きへ専念しだす。もう迷い無く、ただ最後の瞬間へと向かって。  
 
 次第次第に自来也が動きを速めていった。それだけ快感が増してすぐにも堰が開きそうになる。  
「あぁっ! 自来也ぁ……!」  
 まだ痛いだけだろうに精神の充足がそれを凌駕したのか、綱手の声にほんのりと甘みが混じっている。  
 例え錯覚でも本当に嬉しくて、自来也の男がますます張り詰める。  
 
「綱手……」  
 体の上でいやらしい動きを続けられたまま吐息のように自分の名前を囁かれて、じゅんとそこが更に潤ったような気がする。  
 本当はそんな訳が無い。ただただ痛いだけなのだから。けれど、それが間違いじゃないと体ではなく心が知らせている。  
 痛いのに嬉しい。一見被虐的な喜びに見えるが、そうではない。  
 唯一人の本当に愛した相手だからこそ、痛みだってかけがえのない感覚となり得る。  
 思考ではなく直感で綱手はそこに至って、歓喜で女になったばかりの襞で何度も何度も自来也を喰い締めた。  
 
 もう自来也の頭にはそこの感覚しかない。律動も限界まで早まっているのに、済まないという気持ちさえ湧き上がらなかった。  
 驚いた事に綱手の膣襞に柔らかさが生まれ出している。その絡みつきが新たな快感を呼んで、もっともっとと貪り尽くすように腰を振り続ける。  
 ぽたぽたと汗が綱手の体に落ちるが、彼女だって汗まみれで体を揺らし続けている。胸も、脚も。  
 綱手しか見えない。綱手しか感じられない。その至福。限界が神経を伝い、子種がゆっくりと装填され、放出の瞬間を待っている。  
「綱手、出すぞ……」  
「うん……うんっ……!」  
 頷いているのか喘ぎ声なのか、わからない。そんな事にも気を止めず、ひたすらに自来也は綱手の中で動き続けた。  
 そして限界が決裂して、熱い奔流が自来也から綱手へと流れ出す。自来也は白濁を吐き出す解放感に、綱手は白濁が染み入ってくる充足感に、二人の声にならない叫びが重なった。  
 
「……ん。……?」  
 しゅるしゅるという物音に目が覚める。どうやら気を失うように眠ってしまっていたらしい。自来也が被せてくれたのであろう掛け布団がするりと床に崩れる。  
「起こしちまったか」  
 既に自来也は服を着終え、防具などを装着し始めている。  
 それを見て慌てず急いで綱手は追う様に身繕いをした。いくら何でも裸での見送りというのはちょっと恥ずかしい。  
 綱手を、最も愛しい女を抱いた事で心体共に万全に漲った清々しい男振り。哀しさも沸いていたがそれをふっと忘れてしまいそうに、ただただうっとりと自来也を見つめ続けた。  
 こんないい男に女にしてもらったんだなと、なんて自分は幸せなんだろうと綱手は思う。  
「ははっ、なんだよ。とろんとした目して。……そんなに格好良いか?」  
「うん、ジパング一格好良いよ。惚れ直した」  
「……そうか」  
 照れて叩いた冗談なのに綱手は真剣に答える。顔を真っ赤にした自来也は格好いいというよりは、可愛い部類に属したが。  
 生気に充ち満ちた自来也の姿を見ていると、とても戦場で命を落とすとは思えない力強さを感じられて綱手は大きく安心する。これなら多分、いや、きっと大丈夫と。  
「さて、あいつらも待ってるだろうし……行ってくるよ」  
「……ん、行ってらっしゃい」  
 それでも惜別の想いは心のも胸にも容赦なく刺さってきて涙を溢れさせようとした。だがそこをぐっと我慢して、今出来る最高の笑顔で最愛の男を、自来也を励ます。  
 同じ様に笑み返して、くるりと背中を向けて自来也は歩き出した。振り返りはしない。帰ってくると約束したのだから。  
 もう一度、いやこれから先何度でも最高の宝物のような笑顔を見るためだと思えば。  
 自来也の心にもう戦いへの恐怖は無い。  
 
 小さくなっていく姿がとうとう消えた瞬間、綱手はひっそりと泣き出した。聞こえる訳がないのに、声をひたすらに押し殺して。  
 
 それから三ヶ月。武田勢とタイクーン勢の直接対峙までに流れた時間である。  
 前哨戦のような小競り合いや、互いの腹を探る外交手管がその間に無数に交わされ、異様な気がジパングに充満していた。  
 影老の元で働いているためか自来也の名前が噂の中に上がる事はなかったが、武田の勢い益々盛んである事を思えば、報せが無いのは元気の証拠とでもいったところだったろう。  
 
 いつ帰ってくるのだか分らないのだし、それだったら一つ所にいた方が自来也の為だろうと思って綱手は戸隠山に戻っていた。  
 信濃の慌しさにあってそこだけは依然穏やかで、ナメクジ仙人も大喜びで迎え入れてくれて、癒されるような思いに綱手は浸る。  
 その体に赤子が出来た印、つわりの兆候が出てきた時、彼女の心中に大きな波が立った。  
 時を同じくして長篠の地で愚呂主敗れるとの報が流れ、綱手を益々混乱させる。  
 赤子が出来た事は嬉しかったが、何だかそれが自来也に不幸があっても我慢できるこじ付けが出来たようで、腹の中の子に悪いと思いながらも震える恐怖を綱手は抑える事が出来なかった。  
 
 更に二ヶ月ほどが過ぎた。  
 戦後交渉の結果、武田愚呂主は生き延びている。これに尽力したのは客将の軍師の青年で、タイクーン及び並み居る諸将の前にて激しく雄弁を奮い勝ち得た結果であった。  
 青年の事は綱手も知っていたからその活躍も愚呂主の生存も嬉しくはあったが、やはり喜びきれない。  
 依然自来也は帰ってこないのだ。  
 倅に家督を譲って隠居の身になった愚呂主を直接訪ねれば良さそうなものだが、怖くて決心がつかない。ナメクジ仙人が自分が行っても良いという申し出すら、ふるふると首を振って拒否している。  
 
 その日綱手は畑の草むしりに精を出していた。この畑を耕したのはナメクジ仙人である。  
 孫が出来たと大喜びのナメクジ仙人は老体に鞭打って野良仕事やら近隣住民の相談事にのったりして、綱手とその子の為に懸命に働いている。  
 そのせいで手持ち無沙汰の日々が続く綱手であったが、少しは体を動かさないとかえって差し障る気がして、ならばと草むしりをしているわけだ。  
 お腹も少し膨らんできているし、そのうちこの程度の作業も出来なくなる。甘えてばかりもいられなかいというのもあったが、何より僅かでも気を紛れさせたくて、久しぶりに額に汗を流した。  
 
「……ふーっ」  
 一息つく為に近くにあった切り株に腰をおろし、手拭で汗を拭く。やはり日光の下にいる方が気持ち良いな、などとぼんやりとした物思いに耽りながら綱手は空を見上げた。  
 視線の先にあるのは青の世界でとても清々しい。心が洗われるような感覚が綱手の中に沸き起こる。けれど、雲一つ無いこの空のようには晴れきってくれない。  
 綱手の心の空の中にある、絶対に消えない雲。自来也。間抜けだけど肝心な時にはちゃんと格好良く決めるあの男。不意に生まれた寂寥感が綱手の瞳に涙を溜まらせる。  
 気晴らしなんてしなければ良かった。忘れたくなんてないし、忘れられない。  
 その顔を見るまでは絶対にもう泣かないと決めていたけど、もう駄目だった。自来也がいない寂しさに耐えられない。  
 お腹の中の赤子に弱いお母さんでごめんねと心の中で謝りながら、綱手は顔を手で覆って泣きだした。  
 
「……何泣いてるんだ、綱手」  
 誰かが背後に立って、その優しい声が綱手に降りかかる。聞き間違える筈が、無い。  
「……っ! 泣いてない、泣いてないよ……!」  
 咄嗟の事で混乱の極みにあったが、見送って以来ずっと頭の中で練習していた事を実行する為必死で涙を拭う。  
 一回だけ深呼吸をして心を落ち着かせて、それから振り返ってみる。意外にこざっぱりとしていて、足だってちゃんとある。幽霊なんかではない。  
 綱手にとってジパング一馬鹿で、でもとてもとても大好きな男が、自来也が、そこに立っている。いつもの様な頭の後ろで手を合わせて、いたずらっ子っぽい笑顔と共に。  
 
「ただいま、綱手」  
 やっぱり幻でもなんでもなく、目の前の自来也は紛れもなく本物だった。  
 弾けるような嬉しさが駆け寄って抱きついて大声で泣く事を望んでいたが、そんなのすぐに出来るんだからと精一杯我慢する。  
 そして綱手は涙で潤んだ瞳のまま、自来也だけが見る事の出来る最高の笑顔で、ちゃんと言うんだと決めていた言葉で出迎えた。  
「おかえりなさい……自来也!」  
 

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