幻夢城崩壊より数日後。戦国卍丸は京への帰路にあった。新年を迎えるのに都ほど相応しい場所はない、というわけでもないがともあれ、痛んだ武具などを一新するには丁度良い頃合ではあろう。  
 もっとも、痛んだのは何も武具ばかりではない。精神の消耗たるやこれまでとは比べ物にならないかもしれなかった。原因は幻夢城の城主はまぐり姫にある。  
 これまで鬼か獣かと思い込んでいた根の一族だったのに、卍丸ははまぐり姫の中に初めて隠し切れない人間性を確かに垣間見た。彼女を倒した時の疲労感はそのせいかいつもより酷かったように思える。  
 以後果たして自分は根の一族を斬れるのか。年の瀬にあって、戦国卍丸は思い悩んでいる。  
 
 旅のごく初期に弁天で女を知ったのは今となっては幸いかもしれない。  
 何故なら多感な少年の時期に生きるか死ぬかの殺伐な世界でだけ過ごしていたのなら、いずれ卍丸の理性は磨耗して敵を斬り倒すことのみに快楽を見出す人間になっていたかもしれないからだ。  
 人の世も捨てたものではない、と確かにそう思わせるだけの経験を卍丸は弁天塔で経験した。結局それから一度も女を抱いた事はないけれど、微笑ましい期待感は彼を大いに助けている。  
 ただ、惚れた女しか抱かないと決めた卍丸にとって害悪となる存在がいた。根の一族ではない。それは仲間の筈のカブキ団十郎である。  
 
 カブキという男はとにかく女に目がない。ほぼ毎日のように一夜の相手を求めに宿や忍の庵を飛び出していく。恐るべき体力だ、とそこだけは褒めるべきかもしれないが。  
 派手好きだったり根本的に馬鹿(決して非難の意味ではない)なカブキの性格は卍丸に好影響をもたらしてはいたが、女好きなところだけは苦々しく感じていた。  
 反面羨望もあったのだが、これは卍丸は決して認めない事だろう。  
 他方、極楽太郎がこの方面に関して意外にも淡白であったのは幸いでもあり、辛くもあった。  
 豪放磊落な性格の男だけあって猥談くらいは宴席などで平気で話すが(また、結構もてる)、だからといって女を求めるといった事は知り合って以降一度としてない。  
 酸いも甘いも噛み分けた理想的な男の姿が極楽の中にはある。それに憧憬を覚えつつも、自分の卑小さを卍丸は自覚してしまうのだった。  
 もっとも極楽が卍丸の内心の苦悩を知れば一笑して好きにすれば良いなどと喝破して背中を叩いてやっただろう。若い頃は突っ走ったり蹴躓いて転んでみるのも後の礎となるのだから。  
 いや、実際極楽は卍丸の悩みについて感付いてはいた。なのに諭してやらないのは、結局は上記のような考えによる。有り難くも意地悪な大人と言えよう。  
 
 弁天を抱いてから数ヶ月。少年の妄念はいよいよ高まっていた。  
 
「ふーっ……」  
 庵を出て深く息を吐いては吸う。冬の夜の空気は冷たくて、それが体に染み入っていく感じが心地良く、頭の中まで澄んでいくように卍丸は思えた。  
 
 今夜はいささか手持ちが心許ない為(京で散財する為無駄遣いは禁物)忍の庵にて宿を取っている。きちんとした宿屋に比べれば随分格は落ちるのだが、それでも野宿に比べればましだった。  
 困るのは食事量くらいなもので、とかく尋常じゃない程に食べる火の勇者(極楽は当然のこと、卍丸もカブキも人一倍喰らう)にとって必要最低限の機能・備蓄量しかない忍の庵はやや辛い。  
 それでも三越地方の危険度が幻夢城崩壊で下がった事もあってか、今夜はそれなりに豪勢な食事を伊賀忍が用意してくれていた。大した事に、猪を数頭捕らえてきてもいる。  
 冷えた体に猪鍋は何よりの馳走だった。食満ちれば身心もまた満ちる。はまぐり姫の残した傷は消えはしないが、それに健全に向かい合える精神力を卍丸と極楽はようやく取り戻した。  
 これは致し方ない事だが、精力まで満ちてしまったのは困り事であろう。酒を浴びるようにかっくらってさっさと寝てしまった極楽は流石に処し方を知っていたわけだが卍丸はそうはいかない。  
 悶々として結局寝入る事が出来ず、身も心も冷ます為に外に出て星の一つでも見ようと庵を飛び出したわけである。  
 
「どうかなさいましたか、卍丸様」  
 雪を踏む音すら殆ど立てずに卍丸の前に現れたのは百々地三太夫が長姉、花火だった。  
 彼女に限らず自分たちが眠っている間伊賀の忍者たちが周辺を見張ってくれているのは知っていたから驚きはないが、それも今夜ばかりは事情が異なる。  
 寒中にあっても火の勇者である卍丸達同様に伊賀忍達は防寒具が殆ど無い軽装である。つまりは、今も花火は素足を露出した開放的な出で立ちだった。流石に見ている卍丸の方が寒くなる。  
「いや、その……寒くないの、花火さん」  
 元々花火の方が背が高く、また卍丸が屈んでいた事で今の彼女は上半身を傾けて話し掛けてきている。まともに見てしまえば胸の谷間が目に入ってしまう為不自然な方を向きながらの返事しか出来ない。  
 ちらちらと花火の顔を見るのが精一杯だった。  
「私は大丈夫です。気遣って頂きありがとうございます」  
 にっこりと本当に嬉しそうに微笑まれて、困ったななどと卍丸は思ってしまう。おかげで少しは澄んでいた心の平静はとっくにかき乱れていた。  
 ……それは言い訳のような物で、花火が現れた時からとっくに乱れていたのだが。  
 
 これまで殆どそういった目で見なかっただけ感心だが、それにしても目の前の花火の美しさに今更のように卍丸はどぎまぎしていた。  
 彼女の妹であるまつりやみこしも容姿を充分に誇って良いだけの美貌を持つが、卍丸の好みという点で花火は一段格上になる。  
 後に絹に恋焦がれる辺りから判る様に、綺麗な長髪でおとなしめの性格の女性が彼の好みだった。もっとも、花火も絹も単におとなしいでは済まない内心の激しさを持っているのだが。  
 とにかく、身近にこれほどの女性がいるとは、と卍丸の自制心はますます揺らいでいく。ここまで根の一族を相手に斬った張ったで鍛え抜いた精神力があればこそ、何とか耐えていられた。  
「大丈夫ですか? 何か辛そうでございますが」  
 眉根を顰めて花火が問い掛ける。吐息が掛ってその一瞬の暖かさが心地良くあるが、かぐわしさが毒でもあった。  
「……えーと、その、寝付けないから少し外の空気吸おうと思って。それだけだよ、うん」  
 全くの真実なのだが、不自然極まりない。案の定花火の不審げな表情は全然晴れてはいない。  
 ここで卍丸が取るべき行動でもっとも最適なものはすぐさま寝床に戻る、であったろう。どうせ寝られはしないのが明白だが、獣欲に身を任せるよりはいくらかましな選択なのは間違いない。  
 それでもそこに思い至らない、いや、思い至ってもそれを選択できないのは果たして卍丸の未練なのか、花火の(彼女が自覚しているかどうかわからないが)魅惑故か。  
 ある意味でこの旅屈指の苦悩に卍丸は陥っているが、理性がなんとか勝ってようやく少年は決意した。やはり軽々しく快楽に傾くべきではない、と。  
「ちょっと体が火照ってたんだけど、おかげで結構冷めたからもう寝るよ。……おやすみなさい、花火さん」  
 言わでもがなの事を言っていることに卍丸は気付かない。若さゆえの過ちだが、それを責めるのは酷であったろう。  
「体が火照る……そう言えば、猪鍋は精がつくと聞きまするが、もしや……夜伽がご所望でしょうか?」  
「うぇっ!?」  
 的確に痛い所を突かれて、咄嗟に言い訳が思いつかない。  
 乱れまくった頭が落ち着く前に放たれた花火の言葉はますます卍丸を戸惑わせる。  
「私でよろしければ、お相手を務めさせて頂きますが……」  
 
 戦国卍丸の人生において大きな比率を占める、生涯ただ二人の女の一方である花火。その初めての秘め事は、このように滑稽で幼稚な状況で始ったのだった。  
 
「え、いいの?」  
 言ってしまってから何て馬鹿な事を口にしたのかと卍丸は激しく後悔した。後々までこの点だけは悔いても悔いきれない恥部として彼の中に残り続ける(この後の結果自体は何も悔いてない)。  
「って、ごめん! なに馬鹿な事言ってるんだ、おれ。まるでカブキみたいだ……」  
 あたふたと慌てる様はなんとも可愛らしくて、花火でなくても思わず微笑んでしまう仕種だった。  
「ふふっ。良いも悪いもございません。卍丸様に抱かれるのも我ら伊賀の者の務めでございますれば」  
 これはかえって卍丸を醒めさせる言葉となった。情の全く伴わない状況で女を抱くのは失礼極まりないと、少年は固く信じている。  
「……務めだとか、そんなこと言わないでよ。義理だとかで女の人抱くなんて、おれには出来ないし……ごめん、気使ってくれてるのに」  
 謝ってはいるものの、卍丸の顔には隠し切れない憤懣が滲み出ていた。何も花火への怒りばかりではない。  
 自身の軽々しい性欲(これまで全く発揮していないのだから実際の罪は無いにせよ)こそが憎かった。  
 花火を色欲の目で見た事。うっかりでも、夜伽の申し出に喜色を示してしまった事。情けなさに腸が煮えくり返るようだった。  
 卍丸がすぐさま怒りに凝り固まった自分に気付いたのは、これも旅の成果と言えるだろうか。  
 自在の念無くしては人を超えた力を持つ根の一族に勝つ事は難しく、火が決して固まらないように卍丸の精神は熱くなろうとも一つの意識に長時間留まる事は無い。  
 とにかく、相手の気を悪くしたのではないかという少年らしい心配から、俯いていた顔を上げる。と、その瞬間卍丸は射抜かれた。  
 柔らかく微笑んだ花火の表情。それにただただ見惚れてしまう。やはり心は平静に戻ろうとするのだけれど、目を離せない。  
「……おれ、結構酷い事言ったと思うのに、どうして笑えるの?」  
 殆ど無心で問い掛ける。その少年らしい率直さにますます花火の笑みが増し、まさに喜色満面を表したような輝かんばかりの表情になった。  
 人の表情とはこれほどまでに複雑で、そして美しいものなのかと感じる。花火の笑顔は確かに喜色ではあったが、悲しみめいた色が一刺し混じっているようにも見えた。  
 花火から目を離せない。  
 根の一族の怒りの顔、憎しみの顔。ジパングの民の悲しみの顔、喜びの顔。強烈な感情、即ち生の発露であるこれらの表情を見る、見れるのが卍丸という人間に与えられた最大の特権であろう。  
 その、まさに天に愛されたような少年が今たった一人の表情に心を奪われている。  
 
「嬉しかったのです、とても」  
 寒空が空気を澄ませているのか、花火の声はそれほど大きくないのによく通って聞こえてくる。  
「我ら伊賀は卍丸様に頭領を救って頂きました。その恩を返す事は我らの宿願であり、そしてジパングを救おうとなさっている卍丸様の役に立てるのは我らの誇り。  
 ならばこそ夜伽と言えど何ら苦にはなりませぬ……と、これまでならそう思っておりました」  
「……」  
 伊賀忍にどれほど助けられているか。それがわからない卍丸ではないが、有り難迷惑のように思う事も何度かはあった。  
 任務や仕事と割り切っていると強烈に感じさせる冷たさが忍者達の寡黙さに表れているようで、最初の頃はどうにも居心地が悪かったものである。  
 卍丸とカブキの訴えかけでどうにか気さくに接してくれるようにはなってきていたが、そもそもが無愛想さが求められるような職業で長年生きてきた彼らなのでちぐはぐさが付きまとっていた。  
 そうした歯車がぎりぎりで噛み合わない様な感覚を、花火の言葉が突いている。  
「我らは忍。生きてはおりますがまるで人形のような物でもございます。そんな我らを卍丸様達は人として扱って下さり、その事がどれほど皆を救い励ましていることか、一言では言い表せません。  
 ……そして今も」  
 花火の目がゆっくりと細められる。その瞳がきらりと光ったのは気のせいだったろうか。  
「卍丸様は私に真剣に怒ってくださいました。それが嬉しいのです」  
 にっこりと笑んだその仕種の美しさ。たったそれだけで鼓動が早まっていくようだった。  
「心が通わぬ女など抱きたくないという卍丸様の言葉はわかります。ですが決して、私は義理や任務だからと口にしたのではございません。私は卍丸様を確かに……好いておりますれば。  
 これまで私は人らしい暮らしをしてこなかった為に、この想いが本当のものなのかはわかりませぬが……」  
 かっと赤らんだ花火の頬に、卍丸まで赤面しそうな気恥ずかしさを覚える。  
 変に説明されるよりは余程花火の真摯な想いが伝わってくるようで。  
「もう一度だけ、恥を捨てお願い致します。  
 ……抱いて下さりませ、卍丸様」  
 
 その言葉は甘く柔らかで、否定し難い強さだった。理性や葛藤をかなぐり捨てたくなってしまう。  
 それでも、回ってくれようとしない思考をどうにか操って花火の言葉を反芻する。本当に良いのか、嘘は無いのか、と。  
 卍丸の直感は当代最高の正確無比な代物である。その直感が「大丈夫だろう」と告げていた。十割の確信でないあたり、これは結果的にやはり正確無比であった。  
「……わかった」  
 しばらく時を置いてどうにか呟いた卍丸の言葉に花火の顔に安堵の火が灯る。しかし、よく見れば少年の眉は顰められたままだった。  
「おれも花火さんのこと嫌いじゃないから、抱くよ。けど、少しでも嫌だって思ったんならちゃんと言って欲しい。それだけは、お願い」  
 きっと義務だろうと真意だろうとこう答えるんだろうなと思いながら宣告する。既に自分は敗北しているのだと卍丸は気付いていた。  
「……はい」  
 予想通りの答を、潤んだ瞳で、やや朱の注した頬で、くらくらするような笑顔で返されて、逡巡は消え去った。  
 この時の決心は、根の魔城に踏み入る時のそれに似ていた。どうなるかわからないのなら踏み込んで埒をあけるまで、と。  
 
 女には色々準備があるのです、と花火は近くの別の庵の場所を卍丸に教えた後、少し時間を置いてから来て欲しいと告げて去っていった。  
 そういう物らしいとは知っていたのだが、やはりこれからの事を思うとそわそわとしてしまう。時間の過ごしようが難しい。  
 特に意味も無く、極楽が寝入っているかなどと確認してみる。いつも通りの豪快な鼾に半分安心して、演技なんじゃないかと(何だか後ろめたいからだろうか)半分不安になる。  
 決心してしまった時の卍丸は無敵で、それまでの迷いが嘘のように待つ時間を楽しんでいた。  
 
 四半刻ほどをどぎまぎと、わくわくとどうにか過ごして、花火が待つ庵の前に卍丸は立った。  
 結局ずっと寒空の下にいたものだから随分と体が冷えている筈なのだが、気の持ちようとでも言うのか、むしろ上せた様な感覚に陥っている。一番浮ついているのが頭なのは言うまでもない。  
「入るよ」  
 一声かけてから、がらがらと戸を開ける。迎え入れるように室内のほんのりとした暖かい空気が卍丸の体に絡みついてきて心地良い。  
 
 この庵もやはり質素な造りの物で、調度品の類すら数少ない。それでもこの短時間にどう準備したのか、そこそこに質の良さそうな布団だけが異彩を放っている。  
 だが、卍丸には庵の中がどうなっているかなどという事は最初から頭にも目にも入っていなかった。  
 布団の上できちんと三つ指をついて正座している花火の姿しか見えない。  
「お待ちしておりました」  
 すっと花火が僅かばかり頭を下げる。本来が農村の子供でしかない卍丸でも何やら形式に従った所作なのだろうとわかっているのだが、どう応じたものやらわからない。  
 ただ無心で花火の前に立ち、そうして膝を折って端坐する。只の十五の小僧であったなら滑稽な物が混じった動作だったろうが、多くの意味で卍丸は只の小僧ではない。  
 
 何も話す事無く、卍丸はただ花火をじっと見つめ続ける。焦れる気持ちは当然自覚していたが、つまりは既に始っているのだという事も理解していた。  
「不束者ではございますが……宜しくお願い致します」  
「うん」  
 深々と頭を下げる花火にただ頷く。下手に喋れば色々と台無しになるような気がして。その直感はきっと正しい。  
 花火がすっと立ち上がり、白い肌着の紐を解き、それを脱いでいく。早々と現れた肩が月の光を見事に捉えて輝いた。  
 やがて肌着が全て床に崩れ落ちる。完全に裸身となった花火の姿に卍丸は飛び掛ろうとする獣心を懸命に抑え、紛らわすようにただ見入った。  
 見事、としか言いようがない。あちこちに傷跡らしき物があったが、それすらも花火の美しさを引き立てているように思える。共に戦う仲間だという何よりの証拠だからだろうか。  
 
 この年頃の少年は殆どがそうであろうが、卍丸も女の乳房への関心が強い。視界には花火の裸体全てが捉えられているものの、注視しているのはやはり彼女の胸の膨らみであった。  
 「完璧な女体」であるはずの弁天のそれに、或いは花火は勝っているかもしれない。少なくともその豊かさでは花火のほうがやや上回るだろう。  
 呆れた事に、卍丸の頭はすでに吹っ飛びそうだった。心中密かに憧れてさえいた花火の胸を見ただけで。その事を今更にして自覚する。  
 少年の、本当に肌で感じ取れそうなほどの視線を感じながら花火が布団へその体を潜り込ませていく。一見落ち着いた所作に見えたが、その瞼がやや震えていた事に卍丸は気付けたかどうか。  
 室内の艶めいた気は二人共にわずかの重苦しさを感じさせるほどに高まってきている。  
 
 自身も褌一丁になって、頭と体が連結していないような不思議な感覚のまま布団の中に身を潜らせ、そして花火の上へと覆い被さる。接触はまだしない。  
「花火さん」  
 しっかりと見つめると、花火の瞳が随分と潤んでいる事に気付く。それが歓喜からのものだと卍丸は信じたかったが、事ここに至って彼女の体が隠しきれない程に緊張で固くなっている。  
 見れば、肩もやや震えていた。合点がいかず、戸惑いも生まれているが、もう卍丸には自分の欲を抑えきる事が出来ない。  
「始めるよ」  
 と、ややがっついた精神状態のまま、一度だけと花火に問い掛ける。  
「……はい」  
 返ってきた返事はやはりか細い。それでも許諾は許諾。この瞬間からしばらく、卍丸は我を見失っていた。  
 
 首筋に唇を、舌を這わせる。はっ、という息を呑むような声が花火の口から漏れ、ぴくりぴくりと体が僅かな痙攣を見せた。  
(ここが弱い……のかな)  
 そんな事を考えながら、卍丸は花火の体に徐々に没頭していく。  
 
 弁天は卍丸と同程度の背丈だったが花火の体は彼より半尺ほど高いために、覆い被さるというよりは乗っかるという感じで卍丸は彼女の上にいた。  
 男として自分の方が背が低い事に若干の情けなさは感じるものの、見方を変えれば一つ一つの部位に攻め甲斐があると言える。  
 記憶に残る弁天への愛撫では、例えばすっと体の端まで舐め滑ったつもりでもやや足りなかった、などと花火相手で食い違いが生まれる事が卍丸を楽しませた。  
 
 違いと言えば、やはりその最たる物は迫力すらある乳房の膨らみだったろう。寄り添う前や胸板に当てられていた時にも凄いとは感じていたが、目前とすれば認識を大いに上方修正せざるをえない。  
 ぴたりと手を当ててみると卍丸の掌にやや余る大きさだった。鍛えられた胸筋が押し上げているのか、伏しているというのにその隆起は重力への敗北による崩れを然程見せずに形を誇り続けている。  
 瑞々しく柔らかい弾力に陶然としながら、卍丸は己の指に優しく力を込めた。  
 
「……っ」  
 花火の呼気に乱れが生じる。快楽の色というよりは緊張の方が強いように見えたため、ぴたりと動きを止めてその表情を窺っていると卍丸が気遣った事を察したのか落ち着いた……ように見えた。  
 
 行為が始まった時から、花火のぎこちなさには気付いている。  
 そのせいで好んで溺れたいというのに溺れきれないもどかしさを卍丸は感じていた。  
 反面、結果として愛撫が荒々しい物にならなかったのは幸いだったのだが、  
 
 少し身を捩らせるだけでふるふると震える膨らみをゆっくりとゆっくりと捏ね、その感触を楽しむ。触れてみてもやはり、花火の乳房は素晴らしい代物だった。  
 とくんとくんと伝わる鼓動。ふっと幼い頃に戻ったような感覚に至る優しい手触りと体温。そのどれもが卍丸の心に強く激しく染み入っていく。  
 柔肉を揉みながら同時に指でその頂点を不意に擦っては摘み上げる事を忘れない。年齢を思えば卍丸の性技はひどく巧みで、酔いながらも冷静に花火の体を攻めている。  
 ゆっくりと固く尖っていく乳首にむしゃぶりつきたくなる獣欲を見事に乗りこなしながら、二歩近付いては一歩遠ざかるように蕾へと彼は近寄っていく。  
「ぁ!」  
 尖りを敬愛する少年の唇に含まれて、驚きに花火が声をあげた。それは舐めて転がされては強くなり、吸われて擦られては高くなる。  
 余程感覚が鮮烈であるのか何度も何度も首を振る花火の様を見ながら、決して口内から逃さないように留意し、逃げる事など忘れさせるとばかりに彼女に快楽の焔を灯した。  
「はぁ……はぁっ……」  
 まるで煙のように花火の口から湧き続けている吐息はかぐわしい。暗い室内にあってもどこからか照り入る月や星の明かりが彼女の汗に跳ね返ってきらりと輝いた。  
 麓から頂までを舌で昇っていくとその充実感が達成感は卍丸を大いに満たす。自分が踏破した山だと誇示するように乳首や乳輪でくるくると指を躍らせれば、尽きる事無い征服欲が彼に湧き上がる。  
 
 唇で、舌で。掌で、指で。  
 自らの意思を繊細に遂行できる部分で、次の欲望に囚われるまで卍丸は花火の膨らみを堪能し続けた。  
 
 咥えていた乳首から唇を離し、つーっと舌を下半身へと舐め滑らせていく。程良く引き締まった腹部に到達し、小さく穿った臍を緩く舐って、更に下へ、下へ。  
 そのままほんのりと湿った様子の秘所へ……ではなく、脚へと卍丸は下がっていった。  
 そして、いい加減閉じ込められてきつかった自身を曝け出す為、下帯を解いて布団の横へと放り出す。  
 
 花火の乳房は十二分以上に魅力的な物だったが、彼がそれに次いで憧れていたのがしなやかに伸びた両脚だった。  
 同程度の背丈なら男よりも女の方が脚が長いものだが、そういう事を差し引いても花火のそれはすらりと美しい線を描いて伸び育っている(ちなみに彼女の妹達も中々のものである)。  
 要は百々地三太夫はジパング人離れした体型であるわけなのだが、異人は生憎珍妙な話し方をする宣教師しか知らない卍丸は当然そういう感想には至れない。  
 後年、異国を幾つか訪れて回ったカブキ団十郎は帰国した際その域に至るのだが、それは措く。  
 
 その太股には筋肉の存在をひた隠すのに最低限の柔らかみしかついていないが、絹糸のような肌触りと共に優しく押し返してくる張りが卍丸の唇と舌を愉しませる。  
 掌でも慈しむように何度となくしゅるしゅると撫で擦ってやると、その度にぴくりぴくりと花火の裸身が震えた。  
 やはり目測どおり、いやそれ以上の感触である事に卍丸は喜びを覚える。彼女の様も心地良さそうに見えたからこそそれはひとしおだったのだが、どうやらそれは違っていたらしい。  
「お止め……下さいませ……」  
 と、花火のか細く制止する声がが脚に張り付いた少年の耳に届く。  
「? 嫌、だった?」  
 名残惜しそうに体を起こしながら尋ねると、花火は顔を横に背けた。嫌がってというよりは恥ずかしがってのように見える。  
「いえ、その……はい、嫌なのかもしれません」  
「どうして?」  
 本当にわからないといった風に小首を傾げる卍丸。子供と大人の境目にいる年頃だから許される仕種だが、これを卍丸がすると全くもって困った武器になる。  
 果たして、おずおずとではあるが花火は理由を話し始めた。  
 
「女らしくなくて、嫌いなのです……」  
「?」  
 よくわからない。卍丸からすれば、全く問題なく愉しんでいるというのに。  
「固い、でしょう? 他はまだしも、そこだけは誤魔化しが効かないのです。ですから、触れていただいても満足していただけないのではないかと……」  
 ああ、成る程、と納得したように卍丸は感じた。  
 忍者というものは走るのが仕事のようなもので、自然、足の筋肉がどうしても発達してしまう。上半身とても常人よりは鍛え上がるだろうが、恐らく運動の絶対量は随分と違うだろう。  
 脚の固さが、そもそも日の下を歩けないような職業で生きている事の何よりの証のように花火は感じているのかもしれない。  
 誤魔化しが効かないというのは所詮男である卍丸には依然よくわからないが。  
 
 もっとも、そういう花火の悩みは彼にとっては大して問題が無い。  
「そんな事、ないんだけどね。……よっと」  
「きゃっ!?」  
 ぐいっと花火の体を引き上げて起こす。そうしてその手を取って、自分の脚へと宛がった。  
「おれの脚も、固いでしょ? って言うか、おれの方がやっぱり男だし固いと思う」  
「え? は、はい、そうですね」  
「それに比べれば……」  
「あっ……」  
 今度は、卍丸が花火の脚をさわさわと撫でる。やっぱり心地が良くて、少しだけうっとりとした。  
「うん、やっぱり柔らかい。それに触ってて気持ち良いんだし、そんなに悩む事ないと思うよ。おれは好きだしね」  
「卍丸、様……」  
 
「って、何だかカブキとか極楽みたいな事言ってたかも。ごめんね」  
 こういう事を言うあたりはまさに子供ならではだろう。それでも卍丸の言葉が花火は随分嬉しかったようで、頬の染まりが一層増していた。  
 じっと少年を見つめていた潤んだ瞳がふっと我に返る。それが何気なく下を向いた時、花火の体が固まった。  
 卍丸はその原因に自分でも目で追ってみて気がついて苦笑した。  
「あはは、えらそうな事言ってたのに、台無しだね。……ちょっとだけ、ごめん」  
 隆々と漲り、時折脈動で揺れる卍丸自身。自分が興奮していると証明する何よりの証拠であるから、さすがに気恥ずかしい。  
 痛みのような感覚すら持ち主に訴えかけて張り詰めているそれを、花火は怯えたように、驚いたようにじっと見続けている。  
「その、ご立派……なのです、ね」  
 途切れ途切れの言葉が彼女の内心の動揺を何より示していた。弁天は当然のように見ては触れてきたものだから、こうした反応は卍丸にとって新鮮である。  
「うーん、他の人のは見たことないけど、普通らしいよ」  
 少しの情けなさと共に卍丸はそう応える。おかげでその返答の声が小さかったのか、花火はあいも変わらずそれをじっと見詰めるのみだ。  
「お辛そうに、見えまするが……」  
「……うん、まぁね」  
 実際、辛い。本当はこんな何だかよくわからない応答をしている暇があったらさっさと花火の中に己を埋め込みたいと、卍丸の心の何割かがずっと訴えていた。  
「花火さんって、その、凄く綺麗だから、本当は我慢するの結構大変なんだ。もっと楽しみたいし、楽しませてあげたいけど……正直言うと、早く花火さんの中に入りたい」  
「……」  
 一瞬訪れた沈黙の時間に耐えられなくて、益々艶めいた雰囲気を自分で薄めている事が情けなくて、卍丸は何となしに頭を掻く。  
 どうにか調子を取り戻そうと言葉を紡ごうとして、でも何も出来なくてただ少年の口だけが開いたその時、花火が震える声で呟いた。  
「……入れて下さいませ」  
「花火、さん……?」  
 
 意を決したかのような花火の態度に、卍丸は魅せられている。  
 何を決心したのかは到底思いつかないが、彼女のたった一言で霧散しつつあった艶がまた濃密に室内を満たし始めた事だけは間違いなかった。  
「もう少しなら我慢できるけど、良いの?」  
「……はい」  
 こくりと頷く様は、やはり決意を感じさせる。ならば迷う事はないし、ここで他意を口にすればまたどうでもいい時間を過ごす事になるだろう。  
「……わかった」  
「あっ……」  
 花火の体を引き寄せてきゅっと抱き締めた。自分の胸板に押し当てられた膨らみの柔らかさを一瞬だけ堪能して、今度はゆっくりと彼女の上体を倒していく。  
「脚、開いて」  
「……は、い」  
 おずおずと花火の脚が開くと、卍丸はゆっくりと体を移動させてその間に分け入った。その際彼女の秘唇がきらりと光を跳ね返すのを見たが、弁天との時と比べればそれはか細く頼りない。  
 気になって指を宛がってみる。やはり潤んでいると言うには遠く及ばず、湿るという程度でしかなかった。  
(大丈夫かな?)  
 途端に心配になる、が、そう言えば弁天の場合は入ってからの方がさらに潤みを増した事を思い出す。都合の良い記憶の改竄だったかもしれないが、卍丸はもう止まれなかった。  
 
 片手を花火の脇について上体を支え、もう片方で反り返る自身を秘所に宛がう。先端が柔らかい物に触れている感触が、ただそれだけで心地良い。  
「じゃあ、入れるよ」  
「はい……」  
 心配が杞憂だったかのように、一際膨らんだ部分が花火の中にするりと潜っていく。潤滑油の如き粘液が足りていた事に気を良くした卍丸は、そのままそれを押し入れていった。  
 無事に奥まで埋め込み終わると、気を落ち着けるようにふーっと息を吐く。  
 
(やっぱり、すごくいい)  
 そんな感想が少年の頭の中によぎった。久しぶりの女の体は、我慢していただけに期待通り、いや、それ以上の快感を齎してくれている。  
 再確認するかのように何度かゆっくりと自身を注挿すれば、その一挙動ごとに頭が真っ白になるかのようだった。  
 禁欲生活が長かったせいか先端から脳へと走る性感は鋭敏に過ぎて、少しでも気を抜けば吐き出してしまいそうである。  
 花火を抱くのは今日はこれ一回のみといつの間にかそう決め込んでいた為に、すぐに放つのは勿体無いとばかりに卍丸は常に緩慢に腰を使い続けた。  
 
 それにしても、固い。  
 花火の膣肉のことである。  
 固いというのは勿論比喩であるが、そう感じるほどにそこは卍丸をきつく締め付けていた。弁天の締め付けも確かにきつい時はあったが、矛盾したような感想ではあるがもっと柔らかかったように思える。  
 最初の快感から落ち着きを取り戻しつつある卍丸が違和感の正体を探るように花火の胎内を往復するうち、やがてある事に気がついた。  
 要は、花火の中はずっときついままなのである。  
 それが何を示すのかわからなくて、卍丸は繋がっている箇所に目を落とした。その目の先で月明かりを受けて濡れ光る己自身を浸している粘液が、薄っすらと赤い。  
「……え?」  
 と、思わず口に出す。同時に頭の中を色んな言葉が駆け巡った。それはカブキや極楽の艶談であったり、弁天との寝物語が主である。  
 やがて、混乱は一つの結果に収束していく。それは無視が出来ない事だと卍丸は思い、即座に口にした。  
「もしかして初めて、だったの?」  
 無粋極まりない質問である。しかし、気付かなかったり故意に無視していいものではないという少年の価値観は正しい物である事は間違いない。  
 事ここに至って、これまでにぽつぽつと湧き上がる様に感じていた疑念もこれが正体だったかと卍丸は気付いた。花火が生娘である事は最早確信に変わりつつあったが、  
「……はい、恥ずかしながら、これが初めての契りにございます」  
と、ふるふると眉を震わせながら返された言葉が決定打を彼に与える。衝撃に少年の体はぐらりと揺れたが、それ以上に精神は揺れに揺れた。  
 
「うっ……ご、ごめん! ほんっとうに、ごめん!」  
 情けなさに身を焼かれながら、卍丸はただただ謝る。その様に花火は驚いたようで、恐る恐ると問い掛けてきた。  
「卍丸、様? あの……ご迷惑、だったでしょうか」  
「いやいやいや、そんな事あるわけないじゃないか!」  
「では何故謝られているのですか?」  
 卍丸の珍妙な反応に破瓜の痛みを忘れたのか、花火の態度には普段通りの落ち着いたものが戻っている。そもそもが母性に弱い卍丸はそれを見て自分もほんの少しだけ落ち着けた。  
「だって、その、初めてだったら痛い、んでしょ? だったら、もっともっと優しくしなきゃいけなかったし……気付かなきゃいけなかった」  
「……」  
 少々落ち着いたとはいっても、情けなさだけは卍丸に留まり続けている。  
 
 漠然と、自分の妻となる女性との初夜はこうするんだと微笑ましい妄想を少年は度々抱いていた。  
 その相手が生娘かどうかなどという事に拘りはなかったが、もしそうであったなら務めて優しくしなきゃいけない、などとも。  
 別に花火は彼の妻になったわけではないのだが、それにしたって失敗に近い感覚に卍丸が陥るのはそうした理由からによる。  
「だからその……ごめん」  
 少年の心からの謝罪に、花火がふっと微笑む。が、それも一瞬の事で、卍丸を凌ぐ悔いの表情が彼女の顔を覆った。  
「花火さん?」  
 微笑は、自分を許してくれたんだとわかった。しかし、今花火が見せる悔恨の色は卍丸を不安にさせる。その沈黙が何だか怖くなって、彼女の言葉を待てずに問い掛けた。  
「やっぱり、おれが初めてじゃ、嫌だった?」  
「……いえ、その様な事は決して。むしろ誇らしく思いたい程に嬉しゅうございます」  
 そう言うと、花火の目端から涙が一筋すーっと流れ落ちていった。  
 
「謝らなければいけないのは私の方なのです……」  
「?」  
 よくわからなかった。どう考えても落ち度は卍丸の方にこそ圧倒的に多い。  
「なんで? 花火さんはおれの無茶を聞いてくれただけじゃないか。そうでしょ?」  
 そんな卍丸の言葉が更に花火を苛ませたのか閉じていた瞼に更にぎゅっと力が篭り、悔恨に震える声と共に彼女の感情が溢れ出す。  
「……いえ、いえ、そうではないのです。私は伊賀の為、自分の為にと卍丸様を騙したのですから……!」  
「へ?」  
 唐突な展開に卍丸は頭がついていかない。彼は決して愚鈍ではないが、状況が状況なだけに冷静に思考出来ないのは仕方がなかった。  
 だから呆然とするしかなく、花火の次の言葉を待つ。  
 
「ご存知の通り、私は伊賀の頭領の血族です。そして長子ですので、いずれは婿をとって百々地を次代に繋ぐのが私の使命なのです。この事は生まれてからずっと、私には自然な事でした」  
 つい最近までガキ大将だった卍丸でもそうした家督問題の事は何とはなしに知っていた。今は真実味を感じるのは難しいが、それが当人達にとってどれだけ重要な事かも、わかる。  
「……ですが卍丸様達をお手伝いするようになって、人らしさが少しずつ戻ってくるようになって、好きでもない殿御と夫婦になる事がたまらなく怖くなったのです。  
 そんな方に抱かれるくらいなら、初めて好いた方に、卍丸様に抱いていただきたかった!」  
 腕を瞼に押し当てて泣きじゃくる花火に、卍丸は何も言ってやる事が出来ない。ただ彼女の涙が止まるのを願い待つのみだった。  
「卍丸様に抱かれれば、そして子種を授かれば、誰とも夫婦にならなくて済むでしょう。けれど、それは卍丸様を利用し名分を作った、つまりは騙したようなものです。  
 私は……私は、ずるい女なのです……」  
「……」  
 後はもう泣き続けるだけの花火の上で、卍丸は首を傾げて考える。考えても考えても頭の中はまとまらなかったけれど、それでも自信を持って言える事は見つかった。  
 だからそれを伝える為に再び花火の体を引き起こし、優しく抱き締める。  
 
 本当は自分の胸にかき抱いてやりたかったが、体格の関係でそれは無理だった。今夜は何度も情けない思いをしているが、今回のそれが一番強い。  
 まぁそれは置いといてと内心で下らない劣等感を端っこに移動させて、ぽんぽんとあやすように花火の背を軽く叩いてやる。  
 
「卍丸様……?」  
 急に引き起こされて、また優しく抱きとめられた事で花火の泣き声は止まっていた。涙は変わらず流れ続けているが、今は彼女の美しさを引き立てる化粧になっている。  
 
「あのね、おれはまだまだ子供だから難しい事はよくわからないけど」  
「……はい」  
 しばらく抱き合う間に二人の鼓動はゆったりしたものになっていた。声音も自然と優しくなって、染み入るようにお互いへと伝う。  
「おれの事が好きだって言うのは嘘じゃないんでしょ? だったら問題ないんじゃないかな、きっと」  
「……」  
「前に言ったけど、おれが花火さんのこと好きなのは本当だよ。だから、本当は赤ちゃんとかって言われてもぴんと来ないけど、出来たら嬉しいと思う……うん、これも本当」  
「卍丸様……」  
「だから、一人で悩まなくて良いよ。おれが一緒に背負うからさ」  
「はい……!」  
 花火の腕にぎゅっと力が篭り、強く抱き締められる。それが離れてしばらく見詰め合うと二人の顔が近付いていき、やがて唇が合わさった。  
 初めての接吻に、今度は歓喜から花火の頬を涙が伝う。  
 
 本当の意味で一つになったかのように二人はお互いの唇を、舌を貪り続けた。  
 その中で、今も自分の体に卍丸が収まったままだった事に気付いた花火は、彼の耳に口を寄せて囁く。  
 
「……動いてくださいませ、卍丸様」  
「うん、そうだね。でも……」  
 ちょっとだけ迷ってみせて、卍丸が囁き返す。いかにもガキ大将らしい、意地悪な表情で。  
「花火さんが動いてみて。その方が楽なんじゃないかと思うし」  
「ですが、それでは、その、卍丸様が……」  
 気持ち良くないのでは、と続けたいのだろうが、羞恥からか言葉が続かない。本当は無理にでも言わせたい所だったが、それはまたの機会にしておこうと卍丸は考えた。  
「大丈夫、おれもそんなに保たないから。だから、ね?」  
「……はい」  
 卍丸の優しくも力強い目の光に根負けして、花火がゆっくりと動き始める。  
 
「ぅ……痛っ……」  
 どう動こうとも痛みが花火を襲っていた。自分で覚悟出来る分、確かに卍丸が主導権を持って攻めるよりは幾らかましではあったが。  
 抱き締めあったままなので大きな動きがそもそも出来ないのも幸いだったが、それよりも彼女の痛みを緩和させて、もっと頑張ろうという気持ちにさせたのは卍丸のうっとりとした表情だった。  
「くっ……」  
 と彼の口から堪えきれない喘ぎが起こる度に花火の心に悦びが沸き起こる。年下の少年を攻めている事による背徳じみた征服感も、その中に或いはあったのかもしれない。  
 
 卍丸が少し上体を離す。こりこりと自分の胸を擦っていた突起に気付いたからだ。視界に揺れ弾む花火の乳房が入る。  
 我慢する事など微塵も考えずそこを存分に揉みしだけば、汗でしっとりした感触に酔いしれた。掌の中で存在を主張し続けている乳首にも、吸い付いて舐め転がす。  
「はぁっ……!」  
 胸への愛撫は突き刺さり続けている物とは違って純粋に心地良いのだろう。花火の吐息は艶かしい。  
 
 座位で攻め合う卍丸と花火。  
 対等な形での性行為は二人を大いに酔わせたが、少年の方はもどかしさを覚え始めていた。  
 それに負けて、ついに花火の体を押し倒す。  
「……あっ。卍丸様?」  
「ごめん、もう我慢できない」  
 両手を彼女の脇について、卍丸がそう宣告した。受け止めると応えるように花火は微笑む。  
「はい……下さいませ、卍丸様」  
 
「あっ、あっ……あぁ!」  
 相手を愉しませるのではなく自分が愉しむ為の卍丸の律動。一つ一つの動きに律儀に花火の声があがる。  
 激しくはあったが荒々しいとまではいかない動きに少年の気遣いが感じられた。  
 
 いつか、花火の膣肉に柔らかさが生まれている。自分の意思で蠢かせる事はまだ出来ないようだったが、それはそれで予測できない悦びを卍丸に与えていた。  
 また、最奥あたりの天井部の感触も素晴らしい。そこのざらつきは舐め擦るというよりは優しく引っ掻くかのように卍丸の先端を責めてくる。  
 何度めかの奥を叩いた時の花火の凄絶なまでの締め上げに、卍丸は堰が決壊するのを予感した。  
「出すよ……」  
「はっ、はい……うっ!」  
 もうすぐそこに差し迫った吐精に少しでも快感を上乗せする為に少年は動く。速く、激しく。  
 痛みからか花火が首を大きく左右に振るのも、悲鳴に近い声も聞こえてはいたが、もう止まれはしない。せめてとばかりにぎゅっと力強く抱き締める事だけをして。  
 急速に染まっていく感覚の中最後に限界まで自身を押し込んだ瞬間、卍丸の意識は白く爆ぜた。  
 
「く……!」  
 びくびくと少年が体を震わしながら、精の最後の一滴までが花火の中に注がれていく。確かな重みと柔らかさい暖かさが流れ込んでくる事に、花火は女の悦びを知った。  
 脱力して息を荒げて自分の上に乗りかかっている重みも嬉しくて、卍丸の呼気が整うまでの短い時間、優しくその背中をかき抱き続けた。  
 
「うー……ごめん」  
 お互いの体液に塗れた花火の秘所を懐紙で拭いながら卍丸が謝る。何度目だろうか。  
「もっと優しくしなきゃいけなかったよなぁ、やっぱり。情けないったらありゃしないよ……」  
 破瓜の血を見た事でそういう風に思ったのであろう。どうしたって痛々しさからは離れられないのだから。もっとも、痛いから辛いという事もなく花火にとっては嬉しい痛みだったわけだが。  
 けれどほんの少しだけは恨めしい所もあったから、ほんの少しだけ意地悪してやろうと花火は考える。それくらいの甘えは許されるはずだ。  
 だってやっぱり、痛くて痛くて仕方なかったのだから。  
「えぇ、本当に痛かったです。卍丸様ったら獣のように私を責めるんですもの」  
「うぅ……」  
 心底痛い所を突かれたのだろう、卍丸の体がぎくりと跳ねる。それが可愛くて、もう許してやる事にした。  
「冗談ですわ。卍丸様に抱かれた事が嬉しくて、痛みなんて簡単に我慢できました」  
 ほっとした卍丸の表情に愛しさが募って、はしたないかなと思いつつもたまらなくなって、ふっくらと柔らかさの残った頬に口づけした。  
「これからも私を思う存分可愛がってくださいましね、卍丸様」  
 
 二人の関係は絹という少女の出現によって大きく揺らぐ。  
 結果的に戦国卍丸はどちらかを選ぶ事は出来ずどちらをも選ぶという答を選択し、それを貫いた。自分を、彼女達を、そして世間をも納得させる為に堂々と胸を張って。  
 我が道に敵無し。この言葉に体現されるように、戦国卍丸とは生涯を通して痛快な男だったと言える。  
 

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