雲一つない、夏にしては澄んだ夜。満月と星の光が名も知れぬ山中の川へ穏やかに照りかかっていた。
その川の中ほどで一人の女が水浴びをしている。幻想的ですらある風景の中で、その女こそが最も美しかった。
女の名は、水貴という。
実の所、水貴を女と決め付けるべきなのかという事に疑問点はある。彼女、と便宜上呼称するが、はニニギという神によって造られた存在であり、分類上は神獣に属しているからだ。
要は水貴とは「人間の女としての機能を備えた神獣」という何ともややこしい存在であった。
彼女を造りだすにあたってニニギは本来不必要である美という点に過度なまでに拘っている。元々が神にしては幼稚な所があり、それ故に歪な自尊心を持つ故の事であろう。
後代のヨミという神も美と醜を同時に極めた存在を造りだした辺り困った諧謔性を持っており、単にこのニニギとヨミだけを見てもジパングの神は人間とさして変わらない性質を持っていると言える。
これも後の時代、異国間の交流が密になっていくにつれてこの国の人間臭さに満ちた神話は他国の研究家達を大いに驚かせた。
ともあれ、結果、容貌に優れ戦闘能力も高い十二番目の神獣、水貴はそうして生まれた。
皮肉にも地獄の軍団の戦力としての稼働期間は短く、それに倍する時間を生涯の伴侶と決めた男と共にニニギに歯向かう事になるのだが。
親が親なら子も子、というのは神であっても同じなのであろう。
「……またか」
背面に気配をほのかに感じて行水中の水貴はちっと小さく舌打ちをした。覗き見られている。
しかし気取ったという仕種を見せずにしなやかな肢体を川の水で拭い続けている辺り、何とも堂々としたものだった。
別に己の体に誇りを持っているわけではない(持つに値するのだが)ので見せないならそれに越した事はないが、だからと言って見られて恥じる事もないのは生来の気風のよさからだろう。
それに、全く動じていないのはこうした事がこれまでにも何回もあったという事からに拠る。更には、犯人にも目処がとっくについていたからだ。
犯人とは、旅を共にする少年、火眼である。
火眼。この時代のジパングの主人公とも言うべき人物である。
不思議な事に彼には流浪の英雄として生涯を送ったというものと統一王としての一生を生きたという二つの説があった。まだまだ記録媒体が未成熟な時代であった為にどちらが真実であったかは知れない。
とは言えこの頃の火眼は少年としか形容できない年であり、まだまだその人生には無限の可能性に満ちた道が拓けていたことだろう。
水貴はこの火眼という少年を大いに気に入っている。勿論恋の相手などではなく、戦友や弟分として。
戦友としての火眼は若干の危うさを感じさせるものの、今後の成長性をも考慮すれば彼女の知り得た中でも一、二を争うであろう程に頼りになる。殊に剣才では既に水貴を凌駕しつつあった。
弟分としては、勝気で生意気だがそれらをひっくるめて好ましく思い、やはり妹のように可愛がっている昴と合わせて「姉であるというのはこうした感覚か」と彼女を楽しませている。
そうしたものだから、裸体を覗き見られようとも大して腹が立たないわけなのであった。女の体に興味がある年になっていたのか、とその点については若干驚いていたのだが。
この事を水貴はあまり知らないのだが、彼女や天神と知り合う前に、火眼は翡翠という女性を亡くしている。
火眼にとって初恋の相手だった。恋を恋と認識する前に彼女は死んでしまったが、その忘れ形見とも言える昴を見る度に翡翠の事を少年は胸の痛みと共に思い出す。
そんな綺麗な感傷を嘲笑うように、恋を知ってしまったが為に性欲も生まれ育ち始めてしまっていた。この得体の知れない生理的欲求は火眼を無意識に悩ませている。
水貴という美しい同行者を得た事は少年にとってむしろ毒だったのかもしれない。
「火眼、いるんだろう。出ておいで」
と水貴が呼びかける。特に深い意味があっての事ではない。……この時は。強いて言えば姉の立場としての発言であったろうか。
しばらくの沈黙の後に、おずおずと火眼が現れる。叱られるとでも思ったのか身を縮こまらせていた。こういう姿は、彼には似合わない。
「……ごめん、水貴」
情けない表情のまま少年が謝る。ますます気に入らなくなって、ふっと思いついた事を水貴は実行する事にした。
「あんたも脱いで、こっち来な。……体を拭ってあげるよ」
うっ、という表情で火眼が固まった。意味がわからなくて戸惑ったりしているのか、一瞬逃げ出そうという仕種を見せる。
しかし、水貴のきっとした視線に逃げる事が適わないというのを感じたのか諦めたように服を脱ぎ始める。髪を無造作に留めた紐も解くと、おずおずと水貴の方へと水面を割って歩み寄る。
股間を隠しながらというのがやや滑稽だった。今どういう状態になっているかを示しているようなものだったからだ。堂々とすればいいのに、と水貴は思う。
「ほら、背中向けて」
「うん」
ちゃんと言葉通りに、川の水で湿らせた手拭で火眼の背中をごしごしと拭ってやる。
その思ったよりもがっしりと育った後背の筋肉の質感に水貴は感心を覚えると共に、この瞬間初めて火眼に男を感じた。
肩や腕の筋肉も大した物で、成る程、身の丈ほどもある大剣を振り続ければこうなるだろう。その逞しさは大人の男に決して劣る物ではない。
「よし、と。ほら、今度は前向いて」
「えっ? う、うん」
背中を向けていた時は火眼の状態は落ち着いた物だったが、今度は向き合わなければいけないと気付いてからは再びぎこちない物になった。しょうがないガキだと水貴は内心で苦笑する。
「腕上げて」
「……」
どことなく無機質的に火眼の腕が上げられて、水貴はその脇を拭ってやった。股間を隠す物が無くなる事にも気づいていない位、感情が少年から失せている。
やはり逞しさを感じさせる胸板を拭い始めた頃から、少年は水貴の乳房を凝視し続けていた。彼女が動くのに合わせて形良い膨らみの揺れる様が彼の興味を引くのだろう。
まぁ男なんだししょうがないんだろうな、と水貴に咎める気持ちはこれっぽっちもない。自分にとっては然程必要ではない邪魔な代物なのだが、男にとっては魅力的な物であるらしい。
と、ふっと視界の隅に火眼の隠茎が映る。それは皮を被っていないのが幸いだったが、色合いには幼さを感じさせた。茂みも全く存在していない。
しかし、水貴の心に性欲の火が灯ったのはおそらくこの瞬間である。
「……こらっ」
と軽く叱るような声を掛けてから、それをきゅっと握る。火眼がぎょっと体を揺らしたが、そうしてみて初めてその固さにこちらも驚かされた。
あまり手でそれに触れてみた事はないが、その中でも間違いなく火眼の物が一番固かった。若いから当然の事なのだが、そういう事を知らない程度には水貴も経験は少ない。
生まれてすぐに戦場に投入され、その中で感情がささくれだった男達の気をいくらかでも鎮まらせてやる為に体を開いたのが最初からしばらくの回数の水貴の性体験だった。
男達は荒々しく彼女を貪っては勝手に事を終わらせ、体は痛みから脱却して少しは心地良く感じるようになったというのに一度として満足を覚えた事は無い。
そんな水貴を生まれ変わらせたのが天神である。
疾風怒濤のように惹かれあい、そして結ばれた。その時の身心を満たしに満たした悦びを、今も水貴は覚えている。
主導権を男が握るという点は天神の場合でも同じであったが、その満足感は地獄の軍団時代の男達とはまるで比べ物にならなかった。
要は、自分で思っているよりは水貴はこの方面に初心なのである。男の物を触る事なんて、無理やりのように握らせられた時くらいだった。
それでも我に返ったのは流石に水貴のほうが早かった。もっとも、火眼はただ握られているだけで正体不明になる程に動揺していたのでこれは仕方がない。
「うぅ……」
という呻き声が、少年の心が如何にかき乱れているかを水貴に伝えた。思わず優しい笑みが彼女に浮かんだ。
「……ふっ」
身を屈めて、視点を火眼の腰ほどまでに下げる。そうしてから一旦離していた手を改めて火眼自身に添えた。水貴の大部分が漬かった水のひんやりとした冷たさに反するように、そこは熱い。
「水、貴?」
彼女を見下ろす火眼の表情は実に怪訝だ。当たり前である。何が起こるのか、過程も結果も知らないのだから。
刹那の後、少年は強烈なまでの衝撃に犯された。
(確か、こうするんだったかな)
優しく手で包んだ火眼のそれをこしゅこしゅと扱いてやる。既に少年は思考が吹っ飛んでしまっているようで、水貴が送り込んでくる感覚に身を振るわせ続けた。
そう保たないだろうな、と始めた瞬間から水貴は予感していたが、本当に唐突に火眼のそれが一際膨らむと吐精が始り、激しい勢いで彼女の顔を叩く。
慌てて目を閉じて少年が吐き出し終えるまでを水貴は待った。内心でその量に驚きながら。
「はぁっ……はぁっ……」
火眼の息が荒い。快楽による疲労感だけからの物ではない様で、どこか怯えてすらいる。いや、ふるふると震えている様子は、既に恐怖にとりつかれているかのようだった。
「……どうしたの」
顔に纏わり付いた白濁が水貴の美しさを妖しい物へと変貌させている。普段とあまりにも違うがそれでもなお美しいままの彼女に見惚れる事で幾らかは落ち着けたのか、ぽつりぽつりと火眼が言葉を零し始めた。
「水貴……何、これ……? 俺のそこ、病気……なのかな。気が付いたら固くなってたり、膿みたいなので水貴の顔汚しちゃったし」
吹き出したくなる様な感情を水貴はどうにかやり過ごす。ここで笑ってしまえば少年に大きな傷を残しかねないからだ。
反面、罪悪感も若干沸いてきた。何も知らない少年を性の坩堝に引き込んでしまった事に。
「あー、何て言えば良いんだろうね。……まぁ病気じゃないし、これが普通だから気に病む事はないよ、うん」
元々がさっぱりした性格で男らしくすらある水貴のこと、優しく諭すなどという事は出来ずにぶっきらぼうに火眼を慰める。
「……普通?」
「そうだよ。男のそれはさ、気持ち良くなったらあんたが言う膿みたいなのが出るのが自然なんだ。子種、とか言ったっけ」
「子種?」
「ん、そう。本当は女の体の中に出す物で、そうしたら子供が出来る。……さっきはあたしの顔に出したから、やり方が違ったけどね。それはあたしが悪い事なんだし、あんたは心配しなくて良いよ」
何とも滑稽で幼稚な性教育で、当の本人達が真剣なものだからそれは尚の事珍妙な光景であったろう。
ふと、自分の顔に火眼の精液がこびり付いたままだった事を水貴が思い出した。つんとした匂いの強さも同時に知覚される。
異臭ではあるのだが、戦場の耐え難い匂いに比べれば可愛いものだ。とは言えそのままにしておくのも変なので水で清めようとした水貴に火眼が話し掛けてくる。
「あの、水貴」
「ん、どうした?」
少年の瞳に強い意思が灯っていた。それは好奇心と情欲がまざりあった色彩で。
「今度は俺が水貴の体拭うよ」
「……ま、いいか。じゃ、お願いするよ」
そもそも火眼に気付くまでに水浴びをしていたので必要性は少ないだろうが、折角の厚意(とばかりも言い切れないのは承知している)を断るのは可哀相に思えて、水貴は応じる事にした。
「ふーっ……」
真っ先に顔を湿らせた手拭で清めてもらって、そのひんやりとした感触と相まってさっぱりとしたことに水貴は溜息をつく。
「じゃ……後ろ向いて」
(……へぇ)
てっきり前からだと思っていたので、少しだけ感心にも似た驚きを覚えた。どれだけ少年の自制心がもつのだろうかと意地悪めいた感情も覚えながら。
ごしごしと火眼が素晴らしい曲線を描いている水貴の背中を拭う。その力強さと切羽詰ったようなぎこちない動きに、彼が今どんな表情をしているかが水貴には感じ取れる気がした。
「今度は前……向いて」
と掠れた声からも、火眼がいかに切迫しているかがわかる。果たして、向かい合った少年の表情は真剣ではあったが眼光などのぎらつきが激しい。
手拭が水貴の腕や肩を洗い清めていく。込められた力はますます強くなっていて、拭い終わった箇所はじんわりと熱をもち始めているほどだ。
この頃には、水貴の性感は緩やかに高まりつつあった。
火眼が掴んだ手拭が恐る恐ると水貴の胸へと近付いている。一瞬だけ迷った素振りを見せたが、次の瞬間に腕が乳房へと降りかかった。
「ぅわっ……」
柔らかに、逃げるように形を変えて弾む膨らみの感覚に火眼が驚きの声をあげる。それでも体を拭うという行為を続けようと懸命に意識して、最早がくがくと震えている彼を水貴は可愛く思った。
「水貴……俺、俺……!」
またも火眼が泣き出しそうな顔になる。もうここで許してしまったなら自分も止まらないだろうなと水貴は思った。今なら我慢は容易である。しかし、
(……まぁ、いいか)
とこのまま火眼を男にしてやろうと考え、許しの声を授けてやる。
「……いいよ、触りな」
その声と同時に手拭をかなぐり捨て、火眼が水貴の両胸へと飛び付いた。
水貴と火眼に天神を裏切っているという思いは、無い。これが誰と誰であっても同じだっただろう。
勿論天神に抱かれるのが一番に決まっているが、気に入った相手に体を開く事に躊躇いは無い。その気に入るという点において、火眼は全く問題のない相手であった。
ならば、後は互いに行為を楽しむだけである。
ジパングに「貞節」という概念はこの先産まれ育っていくが、この時代にその概念は存在していない。好ましく思う相手と同衾するという点のみが男女ともに重視され、禁忌の数は驚くほどに少なかった。
動物と何ら変わりのない、と後代の人間は笑うかもしれないが、そこには闊達に人生を楽しむ人々の姿がある。
築き上げられた倫理観と、思いのままに生きる混沌。どちらが優れているかなどという議論は結果が出ないだろう。
ともあれ、この時水貴が天神に申し訳ないなと思ったとすれば、自分だけが楽しんでしまうという事くらいだった。
無心で自分の乳房を揉みしだく火眼の頭に腕を回しながら、水貴は久々に灯っていく性の快感にはぁっと大きく息を吐いた。
「痛っ……」
「えっ? ご、ごめん!」
柔肉を掴む力の強さに水貴が苦痛の声をあげる。思わず動きを止めて謝る火眼に大丈夫だと伝えるように、続けてくれというように、微笑んでやった。
「力、入れすぎだよ。ゆっくり、優しく触って。……こんな感じに、ね」
「う、うん」
自分の胸に当てられた火眼の掌に自分の掌を重ねて、操るように乳房への愛撫の仕方を教える。やがて指を離しても、火眼の動きにきつさは無くなっていた。
「あっ……そう、いい感じ……」
じんわりと揉まれて湧き上がる快感に、水貴は膨らみの先端が固くなっている事を悟っていた。そうなれば、早くそこに触れてもらいたくて仕方がなくなる。
「……先の方も、擦って」
「……ここ?」
ゆっくりと、尖った乳首が火眼の指に摘まれた。ただそれだけでも気持ちが良い。
「そう、そこ……う!」
言われたとおりに火眼が先端をくすぐり始める。ぴくぴくと体を震わせている水貴が心地良く思っている事を理解したのか、触り方に変化が生まれ始めていた。
摘むだけでなく、指の腹で転がしてみたり、時には弾いてみる。その度に吐息や体の震えという水貴の反応が少年を喜ばせた。
男として女の体に溺れ、或いは翻弄する楽しみ。着実に火眼は男へとなりつつある。
「吸ってみてもいい?」
問いかけながら、乳首をきゅっと摘まれた。そのぴりっとした感覚に思考の一部が白く染まって、水貴はうっとりとする。そのせいか、声には酔ったような調子があった。
「いいよ……唇だけじゃなくて、舌も使うんだ」
「うん、わかった……」
突起がしっとりとした粘膜に挟まれて、吸われる。今まで以上の快感に、水貴は喘ぐ事を止められなかった。
「あぁっ!」
火眼の頭をぎゅっと抱え込み、乳房へとぎゅっと押し付ける。まるで苦しいと伝えるかのように、膨らみの先端へ火眼の舌が激しい動きを始めた。
唇とは違う今度はざらついた粘膜に擦られて、ますます水貴の性感が高まっていく。
「はぁっ……」
一際激しく舐め転がされた後にじんわりと乳首を吸われ、陶然とした溜息が彼女から漏れた。片方の腕を火眼の背中へと下ろし、ゆっくりとそこを愛撫する。
既に下腹にも熱が生まれ、きっとそこは濡れそぼっているに違いない事に水貴は気付いていた。その一瞬の彼女の気の紛れを突く様に、火眼が乳首を甘噛みする。
「うっ……!」
不意の一撃に思わず火眼の背中に回していた腕に力がこもり、乳房だけでなく全身を火眼に押し付ける事になった。水貴の引き締まった腹部に少年の固い物が当たっている。
「うぁっ!」
女体の柔らかい肌の質感に擦られて、今度は火眼が喘いだ。そのまま何度も何度もそれを水貴へと押し当て続ける。どこかそれは性行為の律動にも似ていた。本能がそうさせるのだろう。
そのままでも火眼は果ててしまっていたかもしれない。それは、もう充分に火が灯ってしまっている水貴には許せない事だった。
「……待って、火眼」
と、腕を二人の間に差し入れて、少年を引き離す。あまりにも残念さに満ちた火眼の表情は少し微笑ましかった。
「水貴……?」
そわそわと火眼が問い掛ける。もっと水貴の体を触りたいのだろう。或いは、自身を触って欲しかったのかもしれない。そこは川の水とは違う液体を先端から洩らしている。
それらを理解しながらあえて無視して、逆に水貴は問い返した。
「火眼。あんた、男になりたい?」
と。
「えっ? 男って、俺は元々男だよ?」
やはり火眼は水貴の言葉の意味を理解できなかったようだった。少しもどかしく思いながらも、優しく少年を諭す。
「そう、あんたは男だよ。けど、子供だ。男の子だ」
「……うん」
内心で大人の男と自身を照らし合わせているのだろうか、火眼の表情は頼りない。そんな顔は見たくなかったから、これから先の行動に水貴は正当性を得たように思った。
「あんたが望むのなら、火眼、あたしが女を教えてあげる。そうすれば……あんたは一人前の男になる」
「えっ……」
戸惑ったような火眼の仕種。何もかもが未知の体験の中で彼が頼りとし、縋り得るのは目の前の水貴だけである。だから、火眼の答は一つしかなかった。
それを知りながら敢えて問うたのは水貴の優しさであり、狡さである。火眼が女の真実を見抜くにはあまりに幼すぎた。
「……うん、男に……なりたい」
真っ直ぐとした瞳で答えた火眼に、水貴はほんの少しだけ心苦しさを覚えた。
水貴に促されて、川からそれ程離れていない場所にあった大きな岩へと火眼が横たわる。
「痛くないかい?」
「うん、大丈夫」
少し身を捩じらせて岩肌の感触を確かめ、火眼は答えた。川の水に負けず劣らずひんやりとした感覚が、少年の火照った肌には心地良い。
「そう……じゃ」
頭一つほども自分より低い火眼の体を水貴が跨いで上に覆い被さった。そしてゆっくりと体を下げながら、火眼の腹へと固く反り返っているそれを掴んで、熱く潤う秘所へとその先端を押し当てる。
「あんたの初めて、貰うよ……入れてあげる」
そう宣告してから水貴はすとんと腰を下ろし、一番の深みまで火眼を迎え入れた
(……随分と久しぶり、だもんねぇ)
埋め込んでみて初めて、水貴は自分の秘所が強張っている事に気付いた。痛みこそ感じなかったが、伝わってくる感触はぎこちない。
火眼のそれは水貴の奥まで届いていなかったが、力強く反り返って秘所を押し広げるかのようにびくびくと震えていた。それだけは感じられて、少しの間これを幸いと慣らす為に動かずに待つ。
「あぁっ……!」
ふるふると身を震わせながら火眼が喘いでいる。その姿に微笑みながら、初めて女を知った少年相手に水貴は攻める悦びを完全に自覚した。
天神との交わりでもこうして上になる事はあったが、それでも常に彼の方が優位のまま水貴は翻弄されていた。火眼とは違う意味で、
初めての経験に水貴もぞくりと体を震わせる。
「どう、男になった感想は?」
ゆるゆると絞めながら、問い掛ける。頼もしいまでの若々しい固さがなんとも素晴らしい。
「み、水貴ぃ……」
分身の逞しさとは裏腹に、火眼は泣き出しそうな顔になっていた。これまではそれが気に入らなかったというのに、今は泣かしてやりたいとさえ水貴は感じている。
今の彼女は、まさに獲物を捕らえた女郎蜘蛛であった。
「動くよ……」
「ひっ!?」
強張りがなくなった事を感じるともう待てなくなって、たまらずに水貴は腰を振り始める。止まったままの絞められる快感ですら息も絶え絶えだった火眼はただ悲鳴をあげるのみだった。
ほんの数度往復しただけで、自分が想像以上に昂ぶっていた事を水貴は感じる。久しぶりだったから長く楽しみたかったけれど、達する事への期待感が彼女の体を灼いていく。
腰を引き上げる時にぎゅっと火眼を喰い絞めて秘所を擦って生まれる快感を強まらせ、下ろす時には少年の固さに襞が掃かれて犯されていく感覚に水貴は酔いしれた。
くちゅりくちゅりという粘液の立てる淫らな音も心地良く彼女を追い詰める。もうすぐそこに絶えの頂きが見えてきていた。
「み、水貴っ、水貴ぃ……」
あまりにも差し迫った危機感を伴った火眼の呼びかけに、水貴は腰の振りを止める。放出の予感が火眼を襲っているのは間違いなかった。
少し前ならそのまま吐き出させてやっても良かったが、自分も達しそうな今はそれが惜しい。再び筋肉の動きだけで火眼を穏やかに責めながら優しく、本当に優しく火眼の耳元で囁く。
「もう少しだけ我慢して……出来る?」
妖しい輝きをした水貴の瞳に浮かされて少年はこくりと頷いた。褒美とばかりに一度だけ口づけをして離した唇を下でぺろりと湿らせる。その艶かしさ。火眼が記憶するどの瞬間よりも今の水貴は美しい。
少年の腕を取って己の乳房へと宛がってやる。これで気を紛らせろという彼女の意思を察したのだろう、やんわりとそこが揉まれ始めた。その快感に、水貴の心の火に油が注がれた。秘所も潤いを増す。
「さ、いくよ……」
くるりと腰を回してから、水貴は最後の責めへと取り掛かった。
「あっ、あ……はぁっ!」
堪えきれない喘ぎが水貴の口から吐かれる。たまらなく気持ちがいい。ぎりぎりと火眼を締め上げると、連動するかのように膨らみを掴んだ手にぎゅっと力が入った。
「うぅ……っ」
懸命に射精を堪える火眼の表情は水貴をぞくぞくとさせる。可愛くて可愛くて、もっと虐めてやりたくなった。自分にそんな趣味があったなんてと驚きもし、呆れもする。
余裕があれば絞めては緩ませと少年を弄んだ事だろう。だがそうするには彼女は昂ぶりすぎていた。丁度良い按配に火眼と時期を合わせて達しそうで、今回はそうする事に決める。
(今回……? これからもこの子とこういう事をしようっていうのか、あたしは)
またも天神に申し訳なくなったが、誰よりも恋人の事を知る水貴は彼が彼女に思いのまま生きる事を望んでいると、誰にも理解は出来ないだろうが確かに存在する二人の絆で感じている。
その、天神を意識した事が更に一段彼女を昂ぶらせた。
「水貴っ、俺、俺……!」
もう自制が利かないのだろう、火眼が泣いたような声をあげて水貴の両の乳房の谷間にぎゅっと顔を押し付ける。背中を抱き締めている掌はわなわなと震えていた。
自分も次の一仕種で果てる事を確信しながら、水貴はこれが最後と腰を力一杯振り下ろす。気付けば自分も火眼を抱き締めていたが、次の瞬間その背中が大きく反り返った。
「はあぁっ!」
「ぐっ……!」
二人の声にならない呻き声が重なり合う。先に達したのは火眼の方で、その精の奔流を体の奥で受け止める事で水貴は続いて達した。
顔にかけられた時もその量に驚いたが、ぱしぱしと快楽の閃光が走る思考の中で自分の胎内に注ぎ込まれていく火眼の精の勢いにぼんやりとした驚きを水貴は覚えていた。
残さず吐き出させてやるために膣肉が勝手に収縮し絞り上げているというのに、全てを受け止めきれてやれずに繋がっている合間からとろりと白濁が溢れてきている。
そんな事を感じ取っている自分が少し可笑しくて、絶え絶えの息の合間を縫って水貴は微笑んだ。
「どう、女を知った感想は?」
入れてやった時も似たような事を訊ねたが、改めて水貴が問い掛ける。今は二人して行為で生まれた汗と体液の汚れを川の水で落としていた。
「う……あの、その」
先程までの強烈な体験を思い出したのだろう。火眼がまたももじもじとしだした。もう、股間を隠してはいなかったが。
「……ふーん?」
再びそそり立っていたそれが微笑ましくて、水貴が顔を近づけていく。また触れられるのかと火眼は期待しているようだったが、彼女の指はそれを包むのではなく、ぴんと軽く弾いた。
「このスケベめ!」
そして、川の水を勢い良く火眼へと浴びせ掛ける。
「うわっ! ……水貴ぃ!」
それからは子供のように二人して水遊びを続けて、いつの間にか水貴と火眼の距離感は姉弟のそれに戻っていた。
その後も、火眼がどうしても我慢できなくなった時だけ水貴は体を開いている。意外にもそれは片手では数え切れないが両手では余るという少ない回数であったが。
火眼の後、彼女が誰かに抱かれたのか、生涯唯一人の恋人に抱かれる事はあったのか、歴史は沈黙している。