戦火の中で水貴とその男は出会った。  
 切欠となった戦闘がどういう戦いであったか勝敗がどう決したのか二人は長い時間の中でそれを忘れてしまったが、激しい喧騒の中で視線が重なり合った瞬間息さえ忘れて見詰め合った事だけは覚えている。  
 それは二人にとってかけがえのない宝物と呼べる記憶だった。  
 雷撃の恋。水貴と天神は永遠に続いていく関係の、その始まりの瞬間にいる。  
 
「……やはり来たか」  
 火の軍が最前線に設置した天幕。男はその中心で水貴に背を向けて姿勢良く端坐していた。  
 優れた暗殺者としての素養を持ち、また実際にそうして生きてきた水貴にとって単独で敵陣に乗り込む事など何ら難しくはない。  
 だから、疑問点は忍び込んだ事にではなく、何故男がここにいるとわかったかという所にある。呆れた事に、水貴にもそれはわからない。  
 ここにいると思ったから来た、としか水貴には言いようがない。そして、この得体が知れないままに彼女を突き動かす感情は目の前の男を求めている。ならば動くしかないではないか。  
 
「その手並み、刺客としての技のようだな。……殺したいというのなら構わずそうすると良い。お前になら本望だ」  
 それはそれできっと満足できるんだろうなとほんの少しだけ残っていた水貴の冷静さが告げる。  
 しかし、そんな事のために来たのではない。むしろこの男を自分が殺すくらいなら、逆にこの男の手で殺される方が遥かにましだった。  
 驚くほどに強い感情が先程の彼の発言で生まれ、水貴を高ぶらせる。冷静になる余裕など、とっくに無くなっていた。  
「違う! 私はそんな事の為に来たんじゃない! 私は、私は……」  
 すーっと水貴の頬を涙が伝う。この時は気付かなかったが、これは彼女にとって初めて流す涙であった。  
「……そうか」  
 叫びだした時から始っていた水貴の震えが、不意に振り向いた男に腕を取られ、引かれ抱きしめられた事で止まる。何をするのかと潤んだ瞳で男を見れば、その瞳に射抜かれた。  
 やがて彼の顔が近付いていく中で、自然と水貴が瞼を閉じる。これも初めての、唇と唇が合わさる感触。水貴には未知の行為であったが、二人は貪るように何度も何度も口づけを交し合った。  
 
 気がつけば、いつの間にか裸に剥かれ組み伏せられていた。割られた両脚の中に彼を迎え入れている。  
 衣服は自分で脱いだのか、それとも男に脱がされたのか、まるで思い出せなかった。見れば、既に男も一糸纏わぬ姿である。  
「……私を……抱くのか」  
 既に息が荒くなってしまっている事に、誰よりも水貴自身が驚いた。人並み程度の戦闘であれば息を乱すことは決してないというのに。  
 この興奮。過去に彼女の体を貪ったどの男でさえ、ただ組み伏せただけでこれほどの動悸を生ませてはいない。  
 問い掛けてはいるが、この男に少しでも早く抱かれたくて仕方がなかった。  
「あぁ……お前を抱く。……少し荒くなってしまうかもしれないが、許せ」  
 そう言ったくせに男の声は涼やかでさえある。しかしその瞳の光には確かな興奮が感じられて、それは水貴を安心させた。  
 ああ、この男も自分と同じ感情なのだな……と。  
「好きに……しろ。お前になら、構わない……」  
 だから、水貴の顔には柔らかい微笑が生まれていた。  
 
(これで、この男には荒いというのか……)  
 ゆるゆると乳房を回すように捏ねられて、その感覚に酔いながらも水貴は呆れに似たような感情を覚える。これが荒いと言うのであれば、今までの男達との性交は全くの暴力行為に過ぎない。  
 それ程に、彼の触れ方は優しい。水貴はふっと泣きたくなる位の歓喜の中にあった。  
 
 掴む事さえせず、まるで尊重するかのように水貴の程良く隆起した膨らみを持ち上げて躍らせる彼の手。時折はその指が柔肉の頂点を叩くように刺激する。  
「ふぁっ……」  
 息が抜けるようなその声が水貴の快感を示していた。自分の胸がこうした感覚を生む事にただただ驚くばかりである。だから、こう思った。  
 もっと、もっと、と。或いは口にしていたかもしれなかったが、そんな事さえ分らない位に水貴は彼の愛撫に乱されている。  
 
「やぁっ……!」  
 まるで男を知らぬ少女のような水貴の声。突起を男に含まれた為だった。これまでを上回るであろう快楽の予感に、じゅんと彼女の中心が潤みを増す。  
 果たして、彼が唇で乳首を甘噛みしだした瞬間、水貴は奔流の中に放り込まれた。舐められて、吸われて、摘まれて、擦られる。尖りへの全ての責めが泣きたくなる位に気持ち良かった。  
 
「……っ!」  
 蕾を味わわれている中で不意に水貴の思考が弾け飛んだ。軽く達したのであるが、ぴくぴくとした心地良い痙攣はやはりこれも未知の体験であった。  
「なに、これ……」  
 熱に浮かされたまま水貴が呟く。ほんのりと紅潮した乳首から口を離して彼女の顔を覗き込んだ男の顔には少し戸惑いがあった。  
「そうか、果てを知らないのか」  
 彼の言葉の意味はよくわからなかった。何となく先程の激しい感覚に関係する事だけは察したが、果てと言う以上はそれを上回るのであろうか。  
 再び沸き起こった期待感に水貴がぞくりと震える。それだけで彼女に再び火が灯ったのを知ったのだろう。男はにやりと笑った。  
「いいだろう、お前を果てまで連れて行く。覚悟はいいな……嫌だといってももう止まれんが」  
 同じ様ににこりと笑んで、水貴は答えを紡いだ。  
「あぁ……連れて行ってくれ」  
 
 男が乳房へと顔を伏せた。そして、乳首を咥えられる。逆の方の膨らみは手で揉まれているが、ここに来て初めてその動きが荒い調子に変わっていた。  
「うっ!」  
 突起に当てられた舌の動きも激しく、面積を充分に使って舐め擦られる。ざらざらとした感触は全くもって心地良い。  
 時折乳首が歯で挟まれてはかりかりと噛まれ、乳房は力強く鷲掴みされてぴりっとした痛みが彼女の神経を走る。  
 それは確かに痛覚だというのに、それさえも今の水貴には快感であった。  
 
 すーっと男の舌が水貴の裸体を舐め下がっていく。その速度は常に一定だったが、彼女の髪と同じように炎の赤みを持つ茂みに辿り着くとぴたりと止まった。  
「何を……するんだ?」  
 これまでも秘所に触れられた事はあったが、ここまで間近に男に見られたのは初めてだった。  
 自分はとっくに男を知っていると思っていたのに、いま水貴を快楽に狂わせている彼の愛撫はどれも新鮮な物である。  
 これまでの性交を悔いる気持ちは全く無いが、この瞬間の喜びはそれらを忘れ去る事に躊躇いを覚えないほどに強い。  
 
 男の顔が更に深みへと下がる。茂みだけでなく、秘所の形だけでなく、如何に濡れそぼっているかまでもが彼に見られてしまった。全てを見せてしまった事が彼女の体を震わせる。  
「あぁ……」  
 その声は羞恥からの物だったろうか。いや、きっと解放感に似た歓喜からに違いなかった。それの証拠に、秘所から粘液がとろりと伝い落ちる。  
 ふっと微笑むと、男はそこへと口を付けた。  
「あっ!?」  
 彼の上の唇と水貴の下の唇が交わす異質の接吻。柔らかい物に柔らかい物が押し当てられる。その粘膜が伝えてくる感覚に水貴がますます身を震わせた。  
 次の瞬間、彼の口から別種の粘膜、舌が姿を見せる。先程まで水貴の乳房を味わっていたそれが今度は秘所を味わおうと、粘液をすくうかの様にぺろりと蠢いた。  
「……ひっ!」  
 更に水貴を乱そうというのか。彼の指が水貴の秘唇を優しく開く。自分でさえどうなっているか知らない箇所に、男の舌がぴたりと当てられた。動きは、無い。  
 動いていないというのに、水貴は快感に犯されている。今のままでも恐ろしいほどに気持ちが良いのに、その舌が動き出したらどうなってしまうのか。  
 そう思うと、待てなかった。  
「お願い……動いて……」  
 水貴は最早声さえも濡れている。肌だってどこもかしこも汗で湿っていることだろう。なのに不快ではなく、全てが心地良い。  
 本当の性交とはこういう物だったのか、と彼女は何度目か知れない驚きの中にあった。  
 
 本当に急に、男の舌が動き出した。ざらりとそこを舐め擦られて、その鮮烈な電流に水貴の上体が反り返る。  
「きゃっ!?」  
 恐らくは発した水貴にも意外であったろう可愛らしい喘ぎ声に気を良くしたのか、男の舌は止まりはせずに秘所で踊り蠢いていた。  
 掃かれるだけでなく、時折は粘液を吸われて嚥下される。  
(あぁ、そんな物まで味わわれてしまった)  
 という感想さえ水貴をよがらせた。呑まれても呑まれても液は彼女の奥から染み出して、その度に男が舐め取っていく。  
 
「あ……あっ……」  
 定期的に拍を刻むように、水貴の口が息を吐いていた。秘所を舐められる快感にも慣れてきて、楽しむようにそこからの感覚に酔いしれている。  
 奔流の中にあったのに、いつか流れが穏やかになっている事に彼女は気付いていない。それが男の企みであった事にも。  
 泉の周囲のみを責めていた舌がしゅっと上へと移動する。そこに何処よりも鋭敏で強烈な快感を生む器官が在る事を水貴は知らなかった。  
 一切の戸惑いも見せず、男の舌が肉の核をつるりと舐め上げる。同時に、彼の指が泉の中へと埋められた。  
「……っ!? あぁぁっ!」  
 彼の巧緻に満ちた不意討ちに、水貴は二度目の絶頂へと至った。  
 
「はぁっ……はぁっ……」  
 胸で感じた絶頂よりも先程のそれはあまりにも凄絶で、水貴の息は中々静まりを見せない。  
 下腹部に張り付いていた男が急に体を摺り上げてきて、彼女を見詰め出す。これまでに彼が見せた事が無い切迫した様子に水貴は驚く。  
「……挿れるぞ」  
 男も既に追い詰められていたのだ。やっぱり自分と彼とはどこかしら繋がっているのだと水貴は感じる事が出来て、嬉しい。だから、体でも一つに繋がりたかった。  
 
「ちょっと、待って……」  
 早く早く、と気も体も急いていたが、水貴には二つほど確かめたい事があった。その一つ目を確認する為に、両肘を立てて状態を起こす。  
 そうして、男の物を眺め見る。そこはまさに彼に相応しいしなやかな力強さを水貴へ印象させた。その先は濡れ光っている。  
「どうした? ……ここで止めるのはいささか辛いのだが」  
 少し、笑いたくなった。ここに来て初めて彼ががっついている事に。  
 早く迎え入れてやりたくも思うが、その前に二つ目の、重要な事を確認しなければいけない。  
「……名前」  
「ん?」  
「あんたの名前、まだ知らない。だから、教えて」  
 非常に呆れた話だが、実はそうなのである。  
 水貴はこれまで敵の名前など覚える必要が無かった。名前を知る必要がある時はその相手を殺す時だけ、暗殺する時だけである。  
 だから、戦場で知り合った彼の名前や特徴はもしかしたら軍議で聞いた事はあったのかもしれないが、全く記憶に無い。  
 今まさに一つになる直前にあって、相手の名前を知らないでは済まされないだろう。何より、早くその名前をも自らに刻み付けたかった。  
「……そう言えば、そうだったな。天神、だ」  
「天神、か。……私は、水貴」  
 名乗りあった事で、二人の距離がまた近付いた事をお互いが感じる。生涯、一瞬たりともその名を忘れないという確信も。  
「そうか。では、抱くぞ……水貴」  
 初めて彼に、天神に名前を呼ばれて、水貴は泣きたくなるような感慨に捉われた。実際に自分が落涙している事を彼女は知らない。  
「来て……天神」  
 床を突いていた片方の腕を、心から水貴は天神を受け入れたいと招くように伸ばした。  
 
 くちゅり、と互いの敏感な物同士が触れ合う。先端の何割かだけを侵入させると、天神の掌が水貴の腰をがっしりと掴んで潜り始めた。  
「あぁっ……」  
 気の遠くなるような遅い速度で天神の物が入ってくる。早く最後まで満たしたくて水貴が腰を上げようとするが、それは彼の強固な意思を持った掌に阻まれて全く効果を為さない。  
 どれほどの時間が過ぎたか知れないが、未だ彼は半分しか埋め込んでいない。わなわなと秘所を震わしながら、ようやくこれが彼の手管なのだと水貴は気付く。  
 そう、わかっていた。なのに、急激に最後まで天神が侵入を果たし、奥を叩かれる。それだけで、またも水貴は達した。  
 
「水貴」  
 ぼんやりと霞みがかかったような感覚の中、生まれて初めて思いを通じさせた恋人の声が水貴を覚まさせる。  
「天神……」  
 自分が達した事を知り、同時に今も自分の中にある硬直が彼はまだなのだと知らせた。申し訳なくもあったが、まだまだこの悦楽が続くのだという事が嬉しい。  
「うん、して……天神」  
 彼女がそう答えると、ゆっくりと天神は律動を始めた。  
 
「はぁっ……!」  
 最早自分が幾度達したのか、水貴にはもうわからない。天神の強弱剛柔を巧みに操っての動きは容易く彼女を狂わせる。  
 尽きる事を知らない快感に恐怖すら覚えて、確かに天神はそこにいるのだと感じたくて、水貴は何回も何回も襞で彼を喰い絞めた。  
 水貴の動きは自然と天神への攻めと変じている。その成長に満足するような彼の笑みが彼女を喜ばせた。  
 次第に天神の律動に乱れが生まれ、その動きが水貴を大きく貪るだけの物へとなっていく。その事と膣肉を犯し続けている物の固さが一際増した事が終わりが来たのだと告げる。  
 天神が弾ける瞬間が予知できたから、水貴はぎゅっとその背中に腕を回した。次の侵入は彼女をも最大の高みへと至らせる。  
 その予感通り、時機を全く違わずに二人は同時に上り詰めた。  
 
「これからどうする」  
 水貴に体を預けて天神が問い掛ける。ゆっくりと彼女の髪を撫でながら。その感触と彼の体の重みが遠ざかっていく行為の余韻の速度を遅くさせたように水貴には思えた。  
「私はあんたの物だ。だから……ずっとあんたの傍にいる」  
「……そうか。辛くなるぞ」  
 姉達や、親とも言うべき悪神の事が水貴の脳裏に浮かぶ。一度として好意を覚えたことの無い連中ではあったが、だからと言って裏切る事を申し訳なく思っているのは事実である。  
「構わない。天神から離れることの方がきっと辛いから」  
 それでも、水貴はきっぱりとそう答えた。その強い意思を伝えるように、自分から天神へ口付けをして。  
 律動が再び始まり、二人一緒に今この瞬間の悦楽へと溺れていった。  
 
 その宣言の通りに、水貴は常に天神の隣に在り続けた。  
 地獄の軍と戦う痛みに、今は味方である筈の火の一族に罵られる痛みに、それらに耐えられたのは一人ではなく二人だったからだ。  
 しかし、水貴と天神への天運の報いは余りに残酷であったと言える。  
 地獄の軍と火の一族の戦いが終結する頃、二人の距離は固定化された。  
 限りなく遠く、極めて近い。そのどれだけ努力しても変わることのない距離は、二人をゆっくりと狂わせた。  
 
 永い、本当に永い時間を過ごした後、天神は一組の少年と少女に出会う。その出会いがまず彼を癒し、次に水貴を癒す事になる。  
 そして、ほんの数瞬ではあるが、二人は想いを交わす機会を得る。変わらなかった感情がきちんと残っていた事を恋人達は喜んだ。  
「愛している、水貴」  
「天神……」  
 いつかこの二人が合わせ鏡の見せる幻影の中ではなく、真実に手を取り合う事が出来たであろうと信じたいのは筆者の甘さだろうか。  
 

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