群青の空に星の光が降り注ぐ。  
木々の緑が光り、星たちが震える夜。  
 
****  
天神と水貴は敵として出会い、幾度となく剣を交え、いつしか水貴は  
火の一族の、天神の強く優しい心に触れ覚醒し、彼と行動を共にするようになった。  
天神は水貴の、自分に対する想いを知っていた。そして天神も水貴を愛していた。  
しかし、2人は決して想いを口にすることなくお互いに芽生えた感情を押し殺し  
戦の同士として常に隣にいた。  
 
―たとえ命を引き換えにしても、地獄の軍団を倒す。自分が、やるべきこと。  
高天原を捨てた天神には、それがすべてだった。  
水貴も、そんな天神の決意を知っていた。自分の天神に対する感情は、決して口にしてはいけないこと。  
 
 
雲ひとつない、星の美しい、静かな夜。  
牛の刻に近づいているというのに、水貴は眠る気になれなかった。  
天神は眠っているだろうか…。自然と水貴の足は、天神の姿を求め彼の部屋へと向いていた。  
部屋の前まで行くと、窓の傍でたたずんでいた天神が水貴の気配に気付いた。  
 
「どうした水貴、眠れないのか。」  
思いがけない来訪者に天神は少し驚いて言った。  
「天神と…、少し話がしたくて。眠っていると思ったんだけど、なんとなく…。」  
水貴の、少し頼りな気な表情に天神は気付いていた。  
「水貴…、樹里はお前の姉だ。明日はいよいよ樹里を倒さねばならない。やはり、お前はここに残ったほうがいい。」  
「もう、覚悟はできてるわ。だから天神、私はあなたと一緒にいるのよ。」  
「水貴…。」  
やんわりとした口調で、続けて水貴は言う。  
「私は何があってもあなたのそばを離れたりはしない。私は…、あなたと共にありたい。あなたの隣で生きていきたい…。」  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「天神、あなたを愛してるの…。」  
自然に涙が頬を伝う。  
水貴は自分でも戸惑っていた。絶対に言ってはいけないことだと思っていたが、  
もはや理性などでは止めることができない程に、天神への想いはつのっていたのだった。  
天神もまた、おどろいていた。水貴の、自分への想いはなんとなく気付いていた。  
気付かぬ振りをしていた、心の底に封印していたはずの感情が湧きあがってくる。  
 
「水貴、…お前の気持ちは知っていた。知りながらも、気付かぬ振りをし、自分を偽り、お前を苦しめてきた。  
水貴よ…。それでも、こんな私でも尚、お前は愛するというのか…。」  
 
互いの心が震える。  
 
「愛しているわ…、天神…。」  
 
もう、何も迷うことはなかった。  
 
天神は水貴を抱きしめ、どちらからともなく唇をあわせた。  
 
天神が水貴をそっと絹の海に横たえる。  
灯されていた灯りを吹き消すと、室内は窓から差し込む微かな月明かりに照らされるだけになった。  
水貴の意思を確認するように、天神はそっと口接けを開始する。初めはゆっくりと、  
唇を触れ合わせるだけの口接け。徐々に長く、深く、彼女の口内に舌を差し入れ、舌を絡めあう。  
緊張し、石の様に固くなっている彼女の身体をほぐすように、何度も何度も口接けを交わした。  
互いの息が上がり、頬を上気させる頃になって、天神はようやく口接けを止めた。うっすらとかきはじめた汗で  
額に纏わりついている彼女の前髪を分け、そのまま愛しそうに手で梳いた。  
天神は一度身体を離すと、自分の上衣に手を掛け、上半身を晒す。  
月明かりに照らし出された男のたくましい身体に、水貴は見とれた。  
再び水貴に覆いかぶさると、今度は彼女の着衣を脱がし始めた。  
露わにされた白い肌は、小ぶりながら形の良いふくらみといい、細く括れた体躯といい、天神の視線を釘付けにするに充分だった。  
「…そんなに見つめては恥ずかしい…。」  
恥じ入って消え入りそうな声でそう訴える水貴に、天神は愛おしさを感じた。  
「水貴、お前は美しい。」  
言うと、水貴は真っ赤になって口をつぐんでしまった。  
天神は苦笑いした。機嫌を損ねたのか、水貴は口を尖らせてそっぽを向いてしまった。  
そんな様子を愛しく思いながら、天神は水貴の頬に唇を落とす。  
「怒るな…。」  
「だって…。」  
まだ拗ねたようにふくれている水貴を、無理やりに自分の方へ向けて、今度は少々強引に唇を奪った。  
「んっ……ふっ……」  
音を立てて強く貪ると、水貴の唇から甘い声が零れ落ちる。  
「お前の全てが知りたい。」  
唇を離してそう囁くと、水貴は耳まで赤くなった。  
 
そっとやわらかなふくらみに手を掛ける。手のひらで包み込むようにすると、手に吸い付いてくるような感触がした。  
天神は水貴の胸を揉みしだく。  
柔らかな身体に天神がそっと触れるたびに、水貴は身体をビクリと震わせる。  
 
初めてのことに緊張しているのだろう。緊張しているのは天神も同じだったが、彼にはまだ水貴を気遣う余裕があった。  
天神は、胸に這わせていた手を一度離すと、水貴に身体を寄せ、そっと彼女を抱きしめた。  
先程とは違い、今度は直に素肌と素肌が触れ合う。互いの高鳴りつつある鼓動も聴き取れそうなほど身体を密着させると、  
天神は水貴の腰の辺りまで伸びた紅の髪を、片手で梳くように弄びだした。  
そのままじっと彼女を抱きしめていると、次第に彼女の肩から力が抜けていくのを感じた。  
固くこわばっていた表情も、まだ不安な様子を見せながらも、少しずつほぐれてゆく。  
 
改めて彼女の胸に触れ、やわらかな感触を確認するように愛撫する。  
ほんのりと桜色に色づいた頂に指先で触れ、突起を指の腹で捏ねるようにしてやると、ピクリと彼女の身体が震えた。  
「あっ、ん…っ」  
水貴の唇から切ない声が漏れる。  
自分がそんな声をあげたことに驚いたのか、水貴は自分の手で口を押さえた。  
「我慢するな…」  
言って、今度はもう片方の突起を口に含んだ。  
「あっ……んっ、て、天神……」  
初めて与えられる刺激に、堪えきれなくなった声が零れる。  
 
戦うことしか知らなかった自分の中に、こんな、女の自分が存在することに水貴は驚いていた。  
 
天神に触れられた部分が熱くなり、その熱が全身に広がっていくような気がした。  
「あっ……ああっ……」  
水貴の唇から零れ落ちる甘く切ない鳴き声に、天神は自分の中の獣の心が首をもたげるのを感じた。  
 
やさしく、けれども熱く加えられる愛撫に、水貴は抗う術も無く、ただただ翻弄されるのみ。  
愛撫の手はやがて下腹部まで降りてゆく。  
 
指先で充分に潤っているのを確認し、先端を蜜壷にあてがい、ゆっくりと腰を沈める。  
自分の中に進入してくる熱い質感が、水貴を圧倒した。  
天神が腰を進める度に、引き攣れる様な痛みが彼女を襲い、水貴は天神の背にまわしていた手に力を込めた。  
「うっ、んんっ…!」  
自分が壊れてしまうのではないかというほどの痛みに、水貴は縋るような気持ちで天神の背につかまる。  
水貴の爪が、天神の背に食い込んだ。背に感じるむず痒い様な痛みと、自身を締め付ける強い刺激に天神は目を細めた。  
初めて男性を受け入れる水貴の内部を一気に進むのはきつかった。  
その圧迫に、天神は一瞬、自分が水貴に拒絶されているような気がした。  
「っ……、水貴……力を抜け……」  
「んっ…、あぁっ……」  
身体の奥底から湧き上がる、獣の心に突き動かされ、一気に貫いてしまいたい衝動に駆られるが、  
なんとか堪え、ゆっくりと自身を沈めていく。  
 
時間をかけて最奥まで辿りつくと、二人は互いに深く息を吐いた。  
荒くなっていた息を整え、水貴が多少落ち着くのを待ってから、堪えきれず  
天神は律動を開始した。途端、ジンジンと疼くようだった痛みが再び水貴を襲い、彼女は再度身体を仰け反らせた。  
初めての行為に痛みを感じる彼女に、心中で詫びながらも、天神は動きを止められなかった。  
吹き出すように湧き上がってくる欲望に、突き動かされるままに腰を動かす。  
悲鳴のような、か細い水貴の鳴き声すら、聞こえていないかの様に。  
 
欲望に突き動かされ、天神はただひたすら水貴を貪るように求めた。  
その様があまりに普段の冷静で物静かな彼とは違っていて、水貴は怖くなった。  
恐怖に押し流されてしまいそうになった時、天神が彼女を呼ぶ声を発した。  
「水貴っ……」  
声はなぜだかとても切なく聴こえた。  
天神は、何かに追われているような、追い詰められた表情をしていた。  
その表情が水貴にはひどく苦しげに見えて、なぜだか泣きたくなってきた。  
 
自分を襲う怖さの源が、天神が自分を想ってくれている事とわかり、徐々に怖さが薄れてきた。  
逆に、天神を愛しく想う気持ちがどんどん強まってくる。  
水貴は、天神の背にまわしていた手を外すと、その手を彼の頬にあてようと、天神の眼前に手をかざした。  
 
いつの間にか、水貴の手が背から外され、自分の眼前に有ることに天神は気づいた。  
先ほどまで痛みを訴えていた彼女の唇も、今は別な形に震えている。  
水貴が何と言っているのか聞き取れなくて、天神は動きを止めて顔を彼女に近づける。  
すると、眼前に差し出されていた彼女の手が、そっと天神の頬を包みこんだ。  
やわらかな指先が、天神の頬をなぞる。その感触が天神の火照った身体に心地良かった。  
 
「天…神…」  
くすぐったくて、心地良い感触に身をゆだねていると、水貴が自分を呼んでいることに気づいた。  
「水貴……?」  
呼びかけに答えるように、彼女を呼ぶと、それに気づいたのか水貴は微かに微笑んだ。  
 
「天神…」  
「なんだ?」  
未だ接合部は疼くような痛みを彼女に伝えてくる。  
その痛みに顔を歪めながら、それでも微笑んで水貴は言った。  
「愛…してる…」  
天神が自分を想ってくれていると知って、水貴は例えようもないほどの喜びを感じた。  
彼が望むのなら、彼の想いと身体を精一杯受け入れたいと思った。  
 
天神はその言葉に目を見開いた。そして、ただひたすら自身の欲望を発散しようとするような、先ほどまでの己の行動を恥じた。  
天神は目を閉じ、少しの間考えるようにしていたが、やがて目を明けた時には、先ほどまでの激しさが表情から消えていた。  
頬を包んでいた彼女の手を、指と指を絡めるようにして握りしめる。  
そっと握り返してくる力に、愛しさを感じて、天神は水貴に口接けた。  
「水貴…」  
涙を浮かべる彼女の目尻にそっと唇を寄せて、その涙を嘗め取る。  
それでもぬぐい取れなかった涙が、彼女の頬に痕を作った。  
 
片手を繋ぎあったまま、天神が突き上げる。  
痛みが徐々にやわらいで来たのであろう、水貴の唇からは甘く切ない声が漏れるようになっていった。  
「あっ、…あん、天、神…」  
「くっ…みずき…」  
突き上げる度に繋がり合った場所から淫らな音があがる。その音が二人の気持ちをさらに昂らせた。  
一際強く突き上げた時、水貴の身体が弓のように大きく仰け反った。  
「あぁっんっ……あ――!」  
同時に彼女の中が激しく収縮し、天神を強く締め付ける。  
「水貴……!」  
収縮する胎内に搾り取られる様に、天神は己のすべてを吐き出した。  
 
 
静寂の中に、二人の荒い呼吸が吸い込まれる。  
心地よい疲労感とともにまどろみにつつまれた。  
 
天神が水貴を抱き寄せる。  
まだ熱を帯びたからだに触れられ、水貴は身体を震わせた。  
水貴の頭を自身の腕にのせ、片方の手で優しく撫でる。  
 
「水貴。もう私はお前を離さないぞ。お前は本当に、それでいいのか…。」  
いつもの、穏やかな口調で天神が問い掛けた。その問いに静かに水貴がこたえる。  
「ずっと一緒よ…天神、たとえ死んでも、あなたを愛しているわ…」  
 
「この戦いが終ったら、祝言だ。だから、死ぬなどと言うな。愛している、水貴…」  
天神は再び水貴を組み敷いた。  
 
祝福するように星たちが瞬き、月の光が二人を照らした。  
 
 
 
 
 
 

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