体を重ねるたび、彼女は花開いてゆく。
「ひぅっ、ンっ……はぁッ、……ぁぁああ……っ!」
円ちゃんが、のけぞりながら体をビクビクッと震わせる。
雨に濡れたスカートは捲り上げられ、白いショーツもとうに足首まで下ろされて、
彼女の秘部は、僕の目の前にあらわに晒されている。
「や……そんなに見な、あ、んっ!」
つつましく、申し訳程度に生えた淡い恥毛の奥に、サーモンピンクの秘裂が色づいていた。
挿入した二本の指を、肉襞が幾度も締めつけてくる。
その指で、中をやや荒くかき回すと、ジュプジュプッといやらしい音がした。
「…………はぁ、はぁッ……!」
――雨粒が窓を叩く。
いつも僕らは雨の日に、濡れた服のまま交わる。
空いた方の手で、よく見えるようにソコを広げてみた。
「――――っ!」
なおも多量の愛液が溢れ出してくるた。
陰唇は赤く充血して、僕の指を咥え込んだままヒクつく。誘うように口を開いて震える
それは、熱く指に絡みついて、また彼女の容姿との不釣合いさが、より一層の卑猥な光景
を生み出している。
奥からとろとろと女蜜が、次から次へと湧き出てくる。
もう、半ば洪水だ。
ゆっくりと肉裂に顔を近づけ、それを吸い上げた。
「ちょッ、待っ、そんな――――ひぁ、ぁぁあッ!」
彼女の腰が跳ね上がる。
それでも僕は口を離さない。淫らな音が部屋に響く。
吸っても、吸っても出てくる。
狭いところを下で這い回り、隅々まで舐め尽くす。
膣口に舌を挿し入れると、収縮しながら更に愛液を溢れさせた。
「あはぁッ!あ、ひッ、ぁぁあっ……!」
幾度ものけぞり、彼女が悶える。
苦しげな響きが入り混じるのを聞いて、僕はラストスパートをかけることにした。
包皮に隠れた陰核を、舌先でほじくり出す。
それはすっかり充血して、芯まで硬くなっていた。
「ぁあっ!? な、なにこれ……ッ!」
ガクガクと彼女の腰が動く。両腕でそれを押さえつけながら、さらに続ける。
唇で挟むようにして、むき出しの肉芽を吸い上げる。
「だ、だめッ、なんか――――ッ」
舌先でぐりぐりと押しつぶし、激しく擦り上げる。
体の震えの間隔が狭まってきた。
「や、あッ、イ…………ぁあああっ――――――ッ!!」
最後に、彼女はひときわ大きくのけぞり、ぶるぶると痙攣した。
「えーと、……うん? どう言ったらいいのかな」
ぽかぽかと陽気が眠気を誘う。
疾うに花の散った桜の木の下には、いくつか机が寄せ集められている。その上に座って、
僕はぼんやりと空を眺めていた。ちぎれちぎれの薄い雲が、晴天をわずかに流れていく。
「わかる?このきもち…………こんなのって――」
ジャージ姿の僕に対して例によってフリフリな服の円ちゃんは、僕のすぐ隣で野良猫に
話しかけていた。
膝を抱えて座った彼女の前でその猫は、ちらりと円ちゃんを見て、すぐに目をそらすと
うーんと伸びをしたりしている。挙句の果てに、しばらくするとそこに座り込んで、後ろ
足で耳の裏を掻きはじめた。
「うーん、やっぱそうだよね」
さっぱり分からない。
「円ちゃん、今のって、なに?」
そう尋ねると、彼女はこちらに顔を向けた。
「……聞きたい?」
「え? うん、教えてよ」
柔らかい風が、僕らの髪を揺らす。
あのねー、と話を始めつつ、彼女はもぞもぞと動いて机の上に腹ばいになった。
「うまく言えないんだけど、」
「うん」
少し間が空いたので、僕は円ちゃんに目を向けた。その顔からは、何の感情も窺えない。
どこか遠くを見たまま、考えているように見えた彼女は、少しして首を横に振った。
「――――ごめんなさい。……やっぱり何でもない」
「……………………」
その時の彼女の顔は、複雑に過ぎていて、どう言ったらいいのかわからなかった。
いつも“あの人”についての話になると、彼女はこんな表情になる。
それが彼女の心に影を落としていることには気付いている。
でも、僕にはかける言葉が見付からない。
円ちゃんは腕を組んだ上にあごを乗せて、何だか少し眠そうな目をしている。
再び空を見上げると、さらに雲は減って、上方は真っ青な空ばかり。
しばらくの沈黙のあと、彼女はまた口を開く。
「あったかいね」
「うん」
「………………」
「………………」
「……………………」
また、沈黙。
とはいっても、穏やかな陽気のためか、決してそれは重苦しいものではない。
どこか遠く、鳥のさえずる声が聞こえる。まるで嘘のようだ――それがこの瞬間を指す
のか、僕らが戦いの中にある現実のことなのか、或いは別のものであるのかは、僕にも
わからないけれど。
「………………………………円ちゃん?」
「………………」
「…………?」
返事がないので、不審に思って視線を戻すと。
いつの間にか彼女は、静かな寝息をたてていた。
横向きになって少し背を丸め、その呼吸にあわせて、小さな肩はゆっくりと上下する。
すぐ隣で先ほどの猫も丸まって寝ているのが微笑ましい。
彼女の瞼は軽く閉じられて、その睫毛の長さに僕の目は奪われた。
肩にかかった真っ直ぐな髪が、微風に吹かれてさらさらと滑り落ちていく。
――――――…………。
僕はその様子をただ眺めていた。
しばらくしてからやっと思いついて、ジャージの上着を脱ぐ。
起こさないように、そーっとそれを円ちゃんの体にかけると、彼女の口が少し微笑った。
少なくとも僕には、そう見えた。。
青一面を割って、白い飛行機雲がずっと伸びていく。
「――――――は?」
「ですから、」
暮井先輩の言葉を、ク……菅先輩が横から割り込んで続けた。
「お前はロリコンだったんだなぁと」
「ええぇ?」
広い道場は、先輩たちが集まってもやっぱり空間が余っている。
その隅っこの壁にもたれて、筋トレをやめた菅先輩が悠々とポ○リスエットを飲んでいた。
「いや、だってホラ」
そこに至って初めて僕は、彼の意図するものを悟った。
「……あぁ、円ちゃんのことですか? やだなぁもう、そんなんじゃないですよ」
途端に菅先輩、そして暮井先輩までもが変な表情でこちらを見てきた。
「高柳、おま、まさかまだ気付――――」
「お主ら」
後ろから、何やら不穏な調子の声が。
「何だか知らぬが、余裕じゃのう」
「……! 姐さん、何をそんなに怒って……」
「ぶちょっ!? いや僕は」
というか、菅先輩が怒られるのはわかる。さっきから休憩時間の方が長いし。
でも僕は違うんじゃ……
怒声と悲鳴、歪みなどない笑い声が響く。
そんなやりとりの中で、雨の日の情景が甦ってくることはない。
普段の僕とあちらの僕と、一体どちらが本物なのだろうか。或いはどちらも本物なのか。
「日常」が屈託のないものであればる程、その裏で僕は沈みこんでいく。
その明るさが闇を深めていくのか、逆にその暗さが穢れなく見える日々を浮かび上がら
せているのか。
二つの自分の間で、歪みが広がっていく。
状況は違えど、亜夜ちゃんや――円ちゃんも、そうなんじゃないだろうか?
断面に魅せられる。
そう彼女は言った。剣を振るったときの、あのぱっくりと現れる切断面が好きだと。
僕はちらりと、ボブと戦ってきたときの彼女を思い出した。
「でも、その向こうに“あの人”を思い出すから……今は嫌い」
「――――……」
微妙な沈黙を読み取って、円ちゃんは目を伏せてしまう。
こういうとき、いつも僕は、かけるべき言葉を見つけられない。
「はっ、はっ、はっ、……………………」
腰を叩きつける、その乾いた音が壁にはね返る。
汗の飛沫が、砕け散る。
布団に膝をついた彼女の細い背中を見下ろし、後ろから突き上げる。
はじめ、ひたすらに狭かったソコは、体を重ねるうちにみるみる花開いていった。
まるで僕のモノに合わせて変化でもしたかのような。
「お……奥、まで…………んんッ!」
円ちゃんの上半身が、布団にしがみついたままブルブルッと震えた。
ずちゅ、ずちゅっ、じゅぷっ、じゅぷっ、じゅぷ、――――……。
粘液が弾け、結合部からは卑猥な音が耳に響く。
彼女の腰を掴んで、僕は一心に快楽を貪った。
何も、何も考えたくない。回数を重ねれば重ねるほど、最初に僕が彼女にした行為は
薄れるような気がした。だってこれは、彼女の方から訪れて来るのだから。
その理由も、円ちゃんの気持ちも、考えることを避けていた。
「ぅ――――――あっ」
つい、声が漏れた。
ぞくぞくぞくと快感が背筋を駆け上がる。
「ひ、あ、ッ、んっ……!」
揺られるたびに、円ちゃんも声をあげる。
濡れそぼったソコが、ヒクヒクと締め付けてくる。
少しでも気を抜くと、すぐにでも達してしまいそうだ。
「はっ、はッ、はぁっ、」
息が混じりあって、どちらのものかわからなくなる。
ああ、何か変だ。何かの気持ちが溢れ出してしまいそうだ。
胸が詰まる。それなのに、一皮剥けたように、昂ぶりは増していく。
切っ羽詰まって、ガクガクと突き動かす。
「う、あ、…………俺、もう――――――」
凄まじい快感に、腰が崩れてしまいそうだ。
「あ、っ、もぉ、だ、あ、…………」
円ちゃんの愛液が、僕の太股までびしょびしょに濡らしている。
おかげで素肌がぶつかり合うたび、ぬるっと少し滑って、不思議な気持ち良さも覚える。
頭の中が溶けてしまいそう。いや、溶けてしまいたい。
彼女の膣中が、容赦なく絡みつき、締めつけ、絞り出そうと蟲く。
一気にそれは込み上げてきた。
「ぐっ………………で、るっ!」
引き抜くと同時に、欲望が弾けた。
びゅく、びゅくっ、…………どく、どくん、どくん………………。
白い粘液が、円ちゃんの背を汚す。
「はぁっ、はぁっ、はぁ、はっ、…………」
興奮から醒めていく。
このとき、僕はいつも、やりきれない気持ちに襲われる。
僕が円ちゃんとの行為に溺れようとしたのは、或いは自分自身の暗いところをのぞき込
むのが怖かったからかもしれない。
亜夜ちゃんや凪、兄さん、他にも――――……
気付きたくなかった。僕の気持ちがねじれていく、そのことに。
ある雨の午後、僕は歩道を歩いていた。
こんな天気の日特有の薄暗い空、傘のせいで視界が狭い。車道の水を撥ね上げる音が幾度
も繰り返され、ガードレールの内側を、絶え間なく自動車が通りすぎていく。
そこで、ふと気が付いた。
「――――あれっ」
片側一車線の道路の反対側に、交通標識にもたれかかって
「円ちゃん?」
彼女は傘もささず、雨に打たれていた。
ぼんやりと、空のむこう、雨を降らす雲のむこうを彼女は見上げている。
頬を伝い落ちるのは、雨の雫か。
――――――どくん。
心臓が、不吉にはねた。
あの日、桜の木の下でも彼女はあんな目をしていた。
だめだ、そっちは。
車が行き交い、僕らの間を明確に分け隔てる。
僕の傘は傍らに放り出された。
……彼女の目は、僕を見ない。
何故だかわからない。彼女をこちらに連れ戻さなければ、と思った。
彼女は僕に、なにを訴えようとしたのか。“あの人”の何がここまで彼女の心を蝕むのか。
あの時、もっとちゃんと、聞いてあげれば良かった。
得体の知れない焦りが背筋を伝う。
この、たった二車線分の距離が、どうしても届かない。
僕の声は、雨にかき消されて散っていった。
雨は夜更けを過ぎても降り続いた。
その日、円ちゃんが僕の家を訪れることはなかった。
やっぱり円ちゃんは、学校で会うと何も変わらなかった。
前日の様子がずっと心配だった僕としては、何だか少し拍子抜けというか、それが逆に
不安でもあった。
とはいっても、時間が経つにつれてそれも薄れていったのだけれど。
二時間ほど前。
「一緒に行ってもいい?」
「え? いいけど……夕飯の買い出しだよ?」
僕らはこんな会話を交わした。
まだ雨上がりの匂いのする街を歩く。ところどころで雨粒の名残に陽光がはね返って、
まぶしく輝いて目に映る。
そう、父さんと二人暮らしの僕は、時々買い出しに行かなければならなかった。
「いいの、どうせヒマだから」
円ちゃんはそう言って、そんな僕について来た。正直、キャベツや大根を買うのを見ても
面白くも何ともないと思うけど、その辺がよくわからない。
既に買い物をすませた僕は、片手に白いビニール袋をさげて歩く。
実はその中には、円ちゃんがさりげなく買い物カゴに入れたお菓子類が大量に混ざってい
たりする。
「円ちゃん――…………この中のお菓子さ、どうするの?」
「えーと、明日、学校でみんなで食べればいいんじゃない?」
まぁいいか……。
だんだんと、道は人通りの少ないものになる。
線路の脇の道を行くと、ある場所が見えてきた。
ボブを見舞った日、亜夜ちゃんと雨宿りした、線路の下の。
遠く聞こえたあの音、カエルの番人、盗難防止の看板。
「――――円ちゃん」
口が、勝手に言葉を紡ぎはじめた。
「もしかして円ちゃん、俺のこ」
そこでハッと、自分が何を口走ろうとしたか気が付いた。
「ぁ!? い、いや、ごめん、俺――」
「うん」
「え?」
思わず円ちゃんを振り返って、足を止めた。
それに合わせて彼女も立ち止まる。
ふわっと彼女の髪が風に浮いて、直後、轟音と共に電車がそこにさしかかった。
それが通過するまでの間、僕たちは言葉もなく、互いの顔を見ていた。
あっという間に音は走り去り、余韻の中、電線から落ちた雨の残りが風に舞った。
それはさながら、涙の残滓のような。
「――――――――そうなの?」
その水の粒子は、僕らの間を通り抜けて、細かく四方に散らばっていった。
つづく。