また、雨が降っていた。
夕方にもならない時刻なのに窓の外も、そしてこの部屋の中もいやに暗い。
細かい粒の音、雨がアスファルトを叩く音、屋根をつたい落ちる音、或いは雨粒どうしが
ぶつかり合う音、――それらに紛れるように、僕らの乱れた息が耳の裏に響く。
わずかな明るみが、彼女の顔を浮かび上がらせている。僕の体の下に組み敷かれた彼女
のその表情は驚いているのか、怯えているのか、怒っているのか。
リイィィイインと、どこか遠く耳鳴りのような音が聞こえる。
――俺は何をしているんだ? 中学生の女の子を部屋に連れ込んで、押し倒して。
頭のどこか片隅で、六畳の薄暗い部屋で朝から敷いたままの布団の上、女の子に馬乗り
になっているこの状況が許されざるものであることは意識していた。悪夢……まるで悪夢
のような。それなのに、そのときの僕にとってそれは歯止めにも何にもならなかった。
今朝の、亜夜ちゃんの顔が浮かぶ。凪を想うその目が甦る。何をいまさら――それでも、
思い出すたびに赤黒い狂気は燃え上がる。リィィ……ンと再びあの音が聞こえる。これは
悪い、夢だ。わるい――
すでに僕の思考は真っ赤な熱に浮かされていた。
湿った服がぴったりと張り付いて、彼女の透けた肌と、体の線が浮き彫りになっている。
ごくり、と喉が鳴る。
最後の理性は押しやられてしまっていた。僕は彼女の濡れたブラウスに指をかけ、それ
を思い切り引き裂いた。
すっきりと晴れているのに、突然に雨は降り始めた。
帰宅途中の僕の身体にぽつぽつと落ちてきたそれは、やがて本降りとなって僕の制服を
濡らしていく。一粒一粒に体温を奪われる。それでも僕は、家路を急ぐ気になれなかった。
立ち止まって空を見上げると、雨粒が目に入って、青空がぐにゃりと歪む。
「亜夜ちゃん――……」
その名前をつぶやくと、心の奥が黒くざわついた。
まれにある、気分の晴れない日だった。漠然とした不愉快さは、放課後の部活がなかっ
たために発散されることもなく、ひたすらに心中で渦を巻く。例えばこの狐雨。肌に張り
つく制服の感触、空を取り巻くように垂れ込めた、暗く重たい雨雲。何を思っても陰鬱な
気分になってくる。
細い裏通りには人影もなく、ブロック塀に挟まれた黒い地面に雨がはねる音だけが響く。
僕は目を閉じて、雨粒が顔を叩くのを感じながら、そこに立ちつくしていた。
やっと家に帰ったとき、それでも時間はまだ早かった。普段どれだけの時間を柔剣部に
費やしているかを実感して、何だか投げやりな笑みが浮かんでくる。
とりあえず着替えよう。シャツを脱いで洗濯機に放り込むと、ズシャッと重い音がした。
ピンポーンと誰かが訪れたのは、学生ズボンに手を掛けたときだった。
「はーい」
仕方がないので濡れたズボンのまま、上にTシャツを着て玄関に向かう。用心のため覗き
穴から外を見ると、そこには意外な人物がいた。
「あれ? 円ちゃん?」
ドアを開けると彼女はずぶぬれで立っていた。細い手足が心なしか震えている。
彼女は目を伏せて、おずおずと口を開いた。
「あ、あのね? き、急に雨が降ってきちゃって……」
そこで偶然僕を見かけて、後を追ってきたのだという。
「とりあえず入って、――……カゼひいちゃう前に」
とにかく上がってもらおうと肩に手を置いて、気が付いた。彼女の身体は冷え切っている。
そのときの僕はそちらに気を取られて、僕のTシャツの裾に縋るようにしがみついた彼女
の手も、大して気に留めなかった。
それが、どうしてこんな事になったのか。自分でもわからない。
薄手のブラウスは、ビイィィと音を立てて簡単に裂けてしまった。
「――――ひッ……!」
怯えた声とともに円ちゃんの身体が硬直する。
大人へと変化する最中の少女の素肌が空気に晒された。質素な白のブラジャーが、彼女
がまだ中学生であることを改めて思い起こさせる。どうして女の子って、こんなに華奢な
んだろう? ……そんなことを考えながら、ブラジャーに指をかけた。
円ちゃんの顔からは血の気が引いていた。まるで気持ちを裏切られたような……いや、
実際に裏切られているのか。
暴れられるかと思ったが、これなら都合がいい。
ブラジャーを外して脇に放り捨てる。
「や、め………………」
やっと絞り出された彼女の声はひどくか細く、震えていた。
しかし、それに答える言葉など、僕は初めから持ち合わせていない。
「――――――……」
真っ白な肌が、目に眩しい。
亜夜ちゃんとは対照的にまだ肉付きの薄い、それでも少女らしさをもって丸みをおびた
体のラインに、しばし目を奪われる。体温が二、三度上昇したような感覚をおぼえながら、
そのまだ小ぶりの胸に手を伸ばした。
「んっ……」
円ちゃんの体がぴくりと反応する。
柔らかい……僕の手に合わせて形を変え、それでいて一定の弾力で押し返してくる。
――亜夜ちゃんのあの大きな胸はどんな感触だっただろう? 不意に胸の奥で、微かな
嫉妬と、欲求が叶わない苛立ちが膨れ上がる。
知らないうちに、手に力がこもっていた。
「いたっ――――い、いたいよぉ」
彼女の声で気が付く。……円ちゃんはもうほとんど泣き顔だ。
それを見て、かろうじてどこかに引っ掛かった僕の心はきりりと痛んでいるのに、それ
と同時に、なにか濁った劣情が燃え上がるのを抑えられない。
彼女の体は雨の余韻が残って、まだひんやりとしていた。
暖めてあげないと――二つの膨らみから手を離し、思考が麻痺したままで、そこに顔を
近付けた。
雨の残り香と、女の子の甘いにおいがする。
「――――ぁ……!」
彼女の口から漏れる息が、少し甘いものに変わる。
少なくとも僕の耳にはそう聞こえた。弧を描くように舌を這わせ、頂上にある突起を口
に含む。欲望のままにしゃぶりついて、軽く吸い上げたり、舌先で転がしたりしていると、
やがて先っぽが固くしこりとなって立ち上がってくるのがわかった。
「ちょっと待っ――――ッ、……んっ……」
円ちゃんの体はピクピクと反応する。
まだまだ大人にならないローティーンの少女が、だんだんと快感を示し、発情していく
のが見えた。そのアンバランスさは劣情を誘い、何かを期待させる。
何かに憑かれたように、僕はひたすらに彼女の乳首を舐め、しゃぶり続けた。
雨はザアザアと激しさを増し、部屋にこもった湿気と熱気がねっとりと絡み付いてくる。
「はあ、はぁっ、はあッ…………」
薄暗い中に、上気した彼女の肌が悶える。はじめの嗚咽にも似た呼気は、今では熱を帯び、
明らかに、艶めかしく色づき始めていた。
「や、あ、こんな……んひィッ……ッ!」
一方の手で空いた方の突起をつまんでコリコリとこねくり回すと、それに応えて細い肩
はビクビクと震える。冷えきっていた体は十分な熱さを持って、うっすらと汗ばんでいる。
胸から口を離し、顔を上げると、うるんだ瞳と目が合った。
円ちゃんの顔には、悔しいような恥ずかしがっているような、怒っているようで、また
泣いてもいるような、ぐちゃぐちゃに入り混じった表情が浮かんでいた。口元は震えて、
やわらかそうなほっぺたは桃色に染まっている。
その表情に、心臓をぎゅっと握られたような苦しさを覚え……しかしその直後、僕は急に
笑い出したくなった。哄笑の発作が腹の奥底から一度に沸き上がってくる。
「――ひっ!?」
円ちゃんの目が、怯えを色濃く映して見開かれた。
駄目だ、ここで笑い出したら、僕は……無理矢理に、衝動を押さえつける。ざわざわと、
全身に鳥肌が立つのを感じた。ああ、僕は今、どんな顔をしてるんだろうか――自分でも
顔面が奇妙に引き攣っているのがわかる。それを見られるのか何だか不快で、僕は目を伏
せると、左手を彼女の下半身に滑り込ませた。
「やッ、待って……!」
その意図に気付いた円ちゃんは、僕の腕から逃れようとする。
しかし、羞恥と快楽に躰を染めて、モゾモゾと悩ましげに腰をくねらせるその動作は、
より一層の情欲を煽るものにしかならない。
ショーツの中に手を入れる。
薄いヘアーをかき分け、指先が秘裂に到達すると、円ちゃんは背筋を震わせた。
割れ目を指でなぞると、ヌルヌルとしたものが絡み付いてくる。
「こ、こんなの……やだよぉ……」
その涙声には耳も貸さず、またも動こうとする彼女を右手で押さえつける。
同時に左手で彼女の秘部を開き、溢れてくる液体を塗り広げた。
くちゅくちゅと、いやらしい音がする。
その音が聞こえたのか、円ちゃんの顔がかあっと紅潮した。
再度顔を下げて、僕は彼女の胸を味わう。その先端は固く立ち上がって、舌で少し弾く
だけでも彼女はビクビクと身体を震わせる。声を抑えようとしてみても、口を押さえた指
の隙間から、甘い息が漏れてしまうようだった。
ぬめる愛液が僕の左手を濡らし、陰唇がヒクヒクと何かを求めて動く。
「ひ、あ、あぁっ…………」
彼女の喘ぎと、熱に浮かされた僕らの荒い息が交じり合う。
愛液がしたたり落ちて、シーツに淫らな染みを作っている。……濃厚な雌の匂いに、頭
がクラクラする。僕の荒々しい本能が猛烈に膨れ上がっていた。
僕は上体を起こし、円ちゃんと体が離れた。そして、ぼんやりとこちらに視線を投げる
彼女の前で、ズボンとトランクスを一気にずり下ろした。
「っ!?」
ぎょっとしたように、ソレを見た円ちゃんの息が一瞬止まる。
……普段は、か、皮を被っているかもしれないが、戦闘状態のときは話が別だ。
硬く勃起して、臍につきそうなぐらいに反り返ったソレから遠ざかるように、円ちゃん
は後退しようとする。
もちろん、僕はそれを許さない。両手で細い肩を押さえつけて彼女の上にのしかかって、
無理矢理にショーツの布を引きちぎると、膣口に先端を押し当てて、一気に挿入した。
「ひッ――ああぁぁぁぁッ」
「ううっ……きつ……」
狭い。
ずりゅ、ずりゅっと強引に腰を進める。
十分にぬめっているものの、彼女の中はひどく狭かった。
肉襞がぎゅうぎゅうと締め付けてくる――こんなに、気持ちいいものなのか。
強烈な快感に耐えながら、僕は腰を動かし始めた。
「い、いたいっ……――――――ッ」
円ちゃんの真っ白い頬を、涙がぽろぽろと滑り落ちる。
もう、彼女は抵抗しようとはしなかった。ただ、寂しそうに見えた気もする。
僕はそんな彼女の様子には構わず、ただ欲望のままに突き上げた。
自棄に似た悦楽が背筋を駆け抜け、脳髄が痺れる。
――――――限界まで、そう長くはなかった。
僕らの日常は何も変わらない。少なくとも表面上は。
その後も、円ちゃんは相変わらずだった。
あの日のことを誰かに言うこともなく、僕に対する態度も以前とそのまま。
どう謝ろうかと考えていたのに、彼女があまりに無邪気に笑うので、何だかアレは、僕が
勝手に見た後味の悪い淫夢だったのではないか、とさえ思えてくる。
「……? 何かあったんですか、センパイ」
サンドバッグを前に、僕は考え込んでしまっていたらしい。
素振りに打ち込んでいた亜夜ちゃんが手を止め、こちらを見ていた。
「え、あ? いや、な、何でもないよ」
……亜夜ちゃんの顔を、まっすぐ見ることができない。
部長も厳しい目をこちらに向けてくる。
「……。どーせ、ろくでもない妄想にうつつを抜かしておったのじゃろ」
「え!? そ、そんなぁ」
変わらないように見える日常。ジリジリと、背筋が焼けるような焦燥感。
円ちゃんは、猫のようにふらりと現れる。一瞬視線が交錯して、僕はすぐに目を逸らした。
もちろん、アレは夢でも幻覚でも、妄想でもなかった。
周りからは見えないところで、日常には変化が起きていた。
どういう訳かあの日から、夕立に降られるたび円ちゃんは僕の家を訪れるようになった。
傘を持っていないのか、いつもずぶ濡れの姿で玄関のチャイムを鳴らす。それなのに僕が
ドアを開くと、彼女は何故かいつも目を伏せてしまう。
濡れた髪がはり付いて、白いうなじが扇情的だ。
……そして例によって僕は、そんな彼女を招きいれる。
「――――カゼひくよ。とりあえず上がって」
足を踏み入れることが何を意味するのか知った上で、円ちゃんはその一歩を踏み出す。
その細い肩を見下ろす僕のねじれた気持ちは、まだ収まることはない。
ガチャン、とドアは重く閉じられた。
つづく?