「…そんなことも、ありましたね。」  
小十郎が、懐かしそうに苦笑する。  
楠色の寝着を着た小十郎は、自分の隣でふくれている姫の頭をゆっくりと撫でる。  
二人は同じ布団の中だ。  
今日は久々に小十郎の仕事が早く終わったため、二人でゆっくりと夕餉の時間を過ごした後、少々早めの就寝についたのだった。  
「『軽い気持ちで自分を安くするな』だなんて、小十郎、ちっとも乙女心を分かってなかったわ。」  
当時の事を思い出しながらむくれる姫に、  
「姫様の事を本当に大切に思っていたから故の事です。」  
「?」  
「大切だからこそ、抱けなかったのでございます。姫様は某の葛藤を知らないでしょう。」  
「葛藤って?」  
「こんな可愛らしい姫様を前にして、何も感じないわけないじゃないですか。姫様に口付ける度に、何度抱きたい衝動にかられたか。」  
小十郎はそう言って、姫の顎をくいっと上に持ち上げる。  
「だから…」  
小鳥が啄ばむような、軽い口付け。そして、  
「このように、姫様を某だけのものにできるようになって、本当に嬉しいのですよ。」  
そう言うと、小十郎は布団の中で姫の腰を抱き寄せ、姫の寝着の隙間からするりと自分の手を差し入れた。  
「あ…」  
突然太ももを弄られた姫は、思わず色気のあるため息を漏らす。  
そんな姫の表情を見て、小十郎は満足そうに微笑む。  
指はそのまま太ももを撫で上げ、つつ…と腰まで着物を捲り上げる。  
「んっ…」  
再び、指は脚に降りて、内腿へ。  
ふにっと柔らかな感触を確かめると、カリ…と爪を立てて、優しく引っ掻いた。  
「あんっ…」  
堪らず、布団の中で、姫がもぞもぞと動く。  
そんな姫に追い討ちをかけるように、小十郎はするすると姫の帯をほどき、寝着の胸元を引っ張った。  
 
衣擦れの音とともに、胸元がはだける。  
全て布団の中での行為であるため、小十郎の目には見えなかったが、手の感覚だけで、起用に姫の胸元を探っていく。  
「んん…こ、小十郎…何だか今日、やらしい…」  
潤んだ瞳を耐えるように細めて、切なそうな顔で見つめてくる姫。  
あどけなくも美しいその顔に、小十郎は愛しさと共に男としてのさらなる嗜虐心が芽生える。  
「いやらしいのは、姫様じゃないですか。」  
そう言って、起き上がると布団をがばっと捲りあげる。  
蝋燭の灯りに照らされて、寝乱れた寝着をまとった姫の白い体が露になった。  
胸元からのぞく豊満な乳房。白くて柔らかな太ももには、長い姫の髪がふわりと広がって、妖艶にひかる。  
「あ…」  
灯りの下で自分の体を小十郎に見られていることに恥ずかしさを覚えた姫が、寝着の裾を直そうと起き上がると、  
「そうはさせませんよ。」  
そう言って、小十郎が姫の腕をぎゅっと掴む。  
そのまま、耳元に口を寄せると、  
「極楽に、連れていって差し上げます。」  
低い声で、静かに囁いた。  
甘く優しいその声に、姫の背中はぞくりと痺れる。  
 
小十郎の愛撫は的確だ。  
姫の感じる部分を、優しく、順序立って責めていく。  
押さえつけられたり、丸められたり、伸ばされたり。  
全身を小十郎に好きなように弄ばれる姫は、段々と心地よくなり、頭がぽぅっとしてくる。  
果実や、餡蜜よりも甘い、甘い感覚。  
(このまま溶けてしまうのではないかしら…)  
蕩けそうな頭で、姫は思う。  
 
 
 
 
心身共に甘くほころび、十分に男の体を受け入れられる状態になった姫の様子を見て、小十郎は愛しさのあまり、ふと笑みがこぼれる。  
 
 
 
そして、  
「…じゃぁ、今日はここでやめておきましょうか。」  
そう言って、突然愛撫を止めた。  
 
「えっ…」  
ほわんとした顔で小十郎に抱きついていた姫は、驚いたように目を開いて愛する男を見つめる。  
小十郎は意地悪そうに笑うと、  
「本日は、ここで終了です。」  
そう言って、姫の頭を撫でて、再び軽い口付けをする。  
 
「そんな…」  
小十郎を受け入れる準備がすっかり整っていた姫の体は、小十郎の言葉に行き場をなくして疼いた。体は、早く、早くと小十郎の男を欲しているのだ。  
「小十郎の…いぢわる…」  
もじもじしながら、続きをねだるように、ぎゅっと小十郎に抱きつく姫。  
そんな姫の様子を見て、小十郎はにやりと笑うと、  
「…続きが欲しいですか?」  
と、尋ねた。  
 
えっ?という顔で、小十郎を見上げる姫。  
「………。」  
みるみるうちに姫の頬が赤く染まっていく。  
そして、視線を落とすと、恥ずかしそうに、こくり、と頷いた。  
 
その表情が可愛くて可愛くて、小十郎は思わず姫を抱きしめたくなるのをぐっと堪える。  
そして、既に乱れている自分の寝着の帯を解くと、  
「それでは、たまには、姫様から乱れてくださいませ。」  
そう言って、寝着を肌蹴させ、褌を解く。  
 
え?という顔で不安そうに小十郎を見つめる姫の手をぐいっと引っ張り、胡坐をかいた自分の腰をまたがせて座らせると、  
「某は今日は何もしませんよ。欲しいのであれば、姫様自身で挿れてください。」  
と言って、にっこりと笑った。  
 
 

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