「す・・・隙あらばあなたを斬る!!」
自身の人柄を表したような不器用な告白を経て、鳳翔凛は鎮守人として旅立つ伊波飛鳥に同行する事となった。
人知れず郷を去った今の飛鳥は何の後ろ盾も持たず、旅は苛酷なものとなるだろう。
現に、初日から宿を得る事も叶わず、山の中で野宿をする羽目になる有り様である。
辺りが暗くなるにつれて獣の声も聞こえてくるようになったが、この二人ならばまず危険は無いはずだ。
それよりも、二人きりで向かい合っていても間が保たない事に飛鳥も凛も困惑していた。
共に元来口数の多い方ではなかったし、これまでなら誰かしら月詠の仲間と一緒だった。
互いに焚き火に照らし出された顔を見合わせているだけで、何を話せば良いのか分からないでいる。
結局、碌に言葉も交わさないまま、その日は睡眠を取る事となった。
一方が眠りに付いている間、もう一方は火の番をしながら周囲にも注意を払う。
そうして交互に休息を取るのである。
飛鳥が異変に気付いたのは、彼が凛に火の番を任せて眠りに付いてしばらく経ってからの事だった。
ふと目が覚めてみると、辺りに凛の姿が見えないのである。
すぐに戻ってくるだろうと思ったが、五分経っても十分経っても戻ってくる様子が無い。
さすがに異常を感じて飛鳥は身を起こした。
凛の姿を探してしばらく山の中を歩くと、どこからか水の流れる音が聞こえてくる。
誘われるようにその音の方に向かうと、やがて視界が開け山の中を流れる渓流へと辿り着いた。
河原は結構な広さで、水の流れも緩やかだった。
この夜は空に満月が浮かび、その影が水面に揺れている。
飛鳥は凛の姿を求めて辺りを見渡した。
「・・・んっ、くぅっ・・・」
「!?」
その時飛鳥は凛の声を聞いたような気がした。
水の流れる音の中から更にハッキリと聞き分けようと耳を澄ます。
「あっ、うぁ・・・」
飛鳥が聞いたのは確かに凛の声だった。
それも、苦しそうな呻き声である。
声は下流の方の岩陰から聞こえてきた。
もしや体の具合でも悪いのではないかと、飛鳥は急いで声のする方へ駆け寄る。
「凛、大丈夫か!?」
「!!あ、飛鳥・・・!?」
その岩陰に、確かに凛はいた。
但し、飛鳥が全く想像していなかった姿で。
辺りには凛の制服が脱ぎ散らかしてあった。
今凛が身に付けているのは紺色のハイソックスと、ボタンを全て外して前のはだけたワイシャツだけである。
月明かりに照らされた肌はどこまでも白く、浮かび上がる腰から脚にかけてのラインは戦闘中の彼女からは想像できない程華奢で、美しい。
突然声をかけられ、凛の動きは固まってしまった。
両手で、自らの下腹部をまさぐる姿のままで。
「こ、こんな所で一体何を・・・」
「い、いや、違うんだ!!これは・・・」
しどろもどろになってしまう凛。
飛鳥はそんな凛の姿を見てはいけないと思うのに、その美術品のような肢体から目を逸らす事ができない。
そして、飛鳥は信じられない物を見てしまった。
凛が両手で握っている物。
それは、飛鳥自身も見慣れた、彼自身も持っている、男性のシンボルだった。
その男性器が、凛の下腹部で隆々とそそり立っているのである。
飛鳥の視線はその一点に釘付けになっている。
(ああ、み、見られている・・・)
その飛鳥の視線を意識した刹那・・・。
「あ、ああぁっ!!」
凛のペニスの先端から、乳白色の液体が勢い良く噴き出した。
「だ、駄目だ!見るな!!・・・見ないで・・・!!」
凛はペニスの先端を両手で抑えて迸りを止めようとするが、熱い液体は次から次へと溢れ、指の間から漏れ出してくる。
「見ない・・・で・・・」
長い長い射精がようやく収まると、凛はその場に力無く座り込んでしまった。
放心し、焦点の定まらない瞳からは涙がこぼれ落ちている。
肩は大きく上下していて息は荒い。
ペニスを覆い隠す事はすでに諦めてしまい、ビクリ、と痙攣する度に鈴口から残滓が流れ出た。
その一部始終を呆然と見つめていた飛鳥は、しばらく経ってからようやく言葉を絞り出した。
「・・・その体は・・・?」
「・・・我々の力が」
凛がゆっくりと語り出す。
「・・・我々ペンタファングの験力が、人工的に引き出された物である事は知っているだろう?」
飛鳥は無言で頷く。
「大きな力を得た代償に、我々の心身には様々な副作用が生じた。感情を喪失した薙に人格が分裂した伊織、御神は知能が極端に低下したし、皆には隠しているが京羅樹の目はもう殆ど見えないはずだ。・・・そして、私はこんな体に・・・」
恥ずかしさと情けなさの余り、凛はきつく唇を噛んだ。
飛鳥の目から逃れるように背中を向け、ワイシャツの前を合わせる。
「それで、定期的に、その・・・排出・・・しないと精神が不安定になって・・・自分でもどうしようもないんだ!!こらえようとしても、抑えようとしても、どうしても我慢できなくて、それで・・・。こんな事したくないのに・・・こんな・・・こんな・・・」
うつむいた凛の瞳から、また新たな涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。
「・・・こんな醜い、あさましい体であなたに愛してもらおうとは思わない。ただ、ただあなたの側に居られれば、それだけで・・・あっ!?」
その言葉を遮るように、飛鳥は後ろから凛の体を抱きすくめた。
「もういい。もういいんだよ」
「あす・・・か・・・」
「君の体は醜くなんかないよ。とても綺麗だ」
「う、嘘だ」
「嘘じゃない。こっちを向いて」
飛鳥は凛に自分の方を向かせると、頬を伝う涙をそっと拭う。
「凛、僕も君の事を愛している。これからもずっと僕と一緒に居て欲しい」
「・・・本当に?こんな私でも・・・?」
飛鳥はニッコリと笑って頷いた。
「飛鳥・・・」
二人の顔がゆっくりと近づく。
そして、二人は今初めて唇を重ねた。
始めは軽く触れる程度に、そして次はしっかりと互いの体を抱き締めながら強く、深く。