「私が義父に引き取られたのは愛情の為ではない」  
いつもと同じミッション中の事。  
苛立った声で告げる背中越しの独白は、想像していたものよりずっとへヴィだった。  
 
 
 
 
「前に話したことがあったな。私が鳳翔家に買われた理由を」  
 
よく通る、しかし静かな声。  
放課後の校舎。広くは無いが狭いとも言えない面積で綺麗に整頓された一室。  
議事録と書かれた厚いファイルが通し番号順で本棚に収められている。  
ここは生徒会室だ。  
副会長である凛は当然としても、崇志がここを訪れるのは極稀な事。  
部屋には二人だけしかいなかった。  
設置されているパソコンの稼動音だけが響く。  
 
「ん?」  
所属部の校外活動要請書を提出しに来ただけの崇志にはそれが何を意味する のか、 
咄嗟には反応出来なかった。  
前に話したこと。  
 
それは誰が天照館行きになるかを決めた日のミッションの事だったと思う。  
フとしたきっかけで凛の家庭の事に口を出した。  
彼女にいつもの無反応で返されると思いきや、嫌そうな顔で事実を伝えてきた。  
元々は自分と同じ孤児で鳳翔の家に買われたと。  
余計なことに巻き込まれるのはゴメンだとその場は流し、また天魔が邪魔をして  
くれたお陰でその話は完了としていた。  
 
「オレっちその話は聞きたくないって言ったけど?」  
「初めに聞いたのはお前だろう、最後まで聞け」  
ガンとした態度。  
どうやら過去の不幸話を聞かせたいらしい。  
 
リンちゃんはそんな女々しいコじゃないと思ってたんだけど…  
オレっちの見込み違いかね?  
 
生憎そんな話で気を引こうとする女はゴマンと知っている。適当にからかって  
引き上げるのが妥当だろう。  
今までの記憶を検索して凛が嫌がるであろう行動をとる。  
 
「なっ!」  
「あんまウルサイ事言ってっとさぁ、この唇塞いじまうぜ?」  
腰を抱いて顔面超至近距離で囁く。スキンシップだ。  
一拍置いて唇を奪う。  
柔らかい唇を暴いて深く舌を吸い、舐め上げた。  
絡めてはこないが、拒むつもりも無いようだ。  
たっぷりと味わった後ゆっくりと顔を離す。  
「………っ」  
抵抗されなかった事も予想外だったが、凛は更に予想外をセリフを吐いた。  
「なんだ……わかっているじゃないか」  
唾液で光る唇の端を持ち上げて、妖艶な微笑みを浮かべながら。  
 
 
なんの躊躇いもなく崇志のモノを口に含む。  
ねっとりとした感触と唾液の温度に崇志はぐっと呻いた。  
「験力強化のモルモットもその一つだが、さらに理由があった。性的愛玩。お前  
が評価するこの顔が私を買い入れた決め手だった」  
ちろりと先端をねぶり、細い指先が幹を滑る。  
陰毛を巻き込まないように丁寧に愛撫しながら、同時に袋も刺激する。  
 
…上手すぎなんだけど。  
 
崇志はその容姿と性格から性体験には事欠かず、技巧と長持ちさにも自信がある。  
が、それすらも揺らぎそうな程凜の奉仕は巧みだ。  
 
唇を歯で挟むようにして先端を噛めば先走りが我慢を越えて溢れ出す。  
唇で、歯で、舌で、指先で。  
先走りか、唾液か見分けがつかなくなった液体が纏わり付く己の精器。  
それを追うように吸い付く凜の唇と赤い舌が崇志を限界まで追い詰めた。  
 
マジ…やべぇ。  
 
淀み無く与えられる刺激に些か性急気味な射精感が開放を訴える。  
「出せ」  
爆発寸前の精器から口を離して宣言すると、かり、と先端の括れを引っ掻いた。  
「う……くっ」  
 
反射的に掴んだ髪の毛が凜の頭を引き、上向かせる形になる。  
結果、吐き出したザーメンがぼたぼたと彼女の顔を汚していた。  
 
予想外の出来事に困惑する半面、この異常なシチュエーションに興奮している自  
分がいる。  
 
「ワリィ」  
 
指先で彼女の顔を拭ってやると、やんわりとそれを制される。  
そして頬のそれを自分で掬い上げ、口に入れた。  
 
「上手いだろう?7歳からやらされていたからな」  
 
「なな、さいって」  
ペンタファングの中でも比較的恵まれた生き方をしてきたと思っていたのに。  
崇志は呆然として聞くしかなかった。  
「どう考えても狂っている。辛い実験と調教と…やらなければ殺される。生きたい  
一心で私は従った。思えば私自身が既に狂ってしまっていたのだろうな。  
…セブンス・アイの副作用か性欲が強くなってしまったから養父との行為で  
定期的に発散できるのは有難いが」  
自嘲気味に笑って続く独白。  
セブンス・アイの副作用。崇志は目の奥に痛みを感じた。飛河の感情欠落、  
姫宮の性格反転…そして凛の性欲増幅。パターンは色々だが人としてのバ  
ランスが崩されていると言うこと。  
 
そして彼女の指先はさらに先の行為に移ろうと己の着衣へ移動していた。  
ネクタイを緩め、ブレザーを脱ぐ。  
「ちょ、リンちゃん」  
カッターシャツのボタンを外し、ベルトとスラックスも脱ぎ捨てた。  
いつも履いているヒールの靴を脱いで下着だけの姿になると、女性にしては  
高い凛の身長も低く、小さく映る。  
夕暮れの光を受けてオレンジに染まる体はあちこちに縛られた跡や痣、鬱血  
が見て取れて【性的愛玩】が今も尚続いている事を物語っている。  
 
「あぁ、この跡か?気にするな。いつものことだ…消えても次から次へと  
つけられるからお陰で一般女子の制服も着られない。宝塚だ男装の麗人だ 
なんだと言われても頑なに肌の露出を嫌ったのはそういう理由だ」  
なんならお前も試してみるか?とベルトを指して笑うものだから手に負えない。  
あまりに痛々しすぎて思わずその華奢な体を抱きしめてしまう。  
 
「もう、いい…それ以上言うな」  
「…そういう行為に慣れているから、濡れるのも早い。お前があんなキスをする  
から熱くなってしまった。責任を取れ」  
そう言って腰を揺らす仕草に眩暈を感じ、崇志は凛をゆっくりと押し倒した。  
 
 
「あっ」  
ホックを外して圧迫感を無くした乳房を崇志の指が滑る。  
柔らかな曲線を描く乳房と桃色の乳首。指先で挟むように転がすとそれは  
すぐに形を成した。  
そうやって弄びながらもう片方を口に含む。白い肌は滑らかで吸い上げる  
乳首もまるで果実か何かのような錯覚を覚えた。  
「んんっ」  
時折上がるくぐもった嬌声と切なげに寄せられた眉根が情欲を煽る。  
乳首から口を離さずに陰部へと手を伸ばす。  
薄い下着越しでも彼女の宣言通りに濡れているのが判った。  
隙間から指を入れると面白いように指先が滑る。  
少しだけ割れ目に埋め花芽を擦ると面白いように蜜が溢れ出した。  
「あぅ…っん、んっ」  
円を描くように指の腹で花芽を擦る。強弱をつけて何度も。  
その度に腰が跳ね、甘い声が上がる。  
雌の匂いに酔いそうな自分を叱咤して崇志は愛撫に没頭していた。  
下着を引き剥がして顔を埋め、舌で舐め上げる。  
「あっんん、ヤ、ぁぁあッ」  
ザラつく舌で花芽をつつき、優しく歯で噛んで引っ張ると凛は簡単に達した。  
 
ぐったりとした彼女には構わず、蜜の溢れる奥へと指を差し込む。  
「ぁ、…っく、うぅ」  
1本、2本。  
難なく飲み込み、凛の胎内は尚奥へと食い千切ろうとするかのように蠢いていた。  
ぐちゅぐちゅと淫猥な水温が響き、こぼれた蜜が床に染みを作る。  
3本目を突き入れてかき混ぜたところで熱に浮かされたように凛が懇願してきた。  
「や、っん、もう、入れて…これ、欲しい」  
そう言いながらむくりと起き上がって崇志自身を手に取る。  
先ほど一度抜かれはしたが一連の行為でまた硬さを取り戻しており、挿入するの  
に何も問題はない状態になっている。  
 
「それとも、こちらの方がいいか…?」  
寄り添って今度はそれを乳房で挟んで上下に梳き始めた。見え隠れする亀頭を  
ちろちろと舌で舐め上げるのも忘れない。  
膣とは違い摩擦はあるが、滑らかな胸の谷間の感触がたまらない。  
上り詰める射精感をなんとかやり過ごして、また凛に覆い被さる。  
そう何度も抜かれてしまったのでは男のプライドに傷が付く。  
勢いのままもう一度深く口付けをした。  
「ん、んん…っは」  
陰部に指を這わせて濡れ具合を確かめる。そう短時間で乾く訳も無く、そこは  
ドロドロに溶けたままだった。  
膝裏をつかんで肩に乗せ、露になった陰部に己を支えて数度入口を擦る。  
「入れるよ?」  
凛が息を吐いてぎゅっと目を瞑る。  
「………っ」  
 
 
「…………」  
 
「…………」  
 
「…………」  
 
 
「………京羅樹?」  
 
「…やっぱ無理」  
 
 
ため息をついて崇志は凛から体を離した。  
「な、何故だ!」  
慌てて凛が体を起こす。  
「オレっち嫌がるコに無理やり突っ込む趣味ねーっての」  
「嫌がってなんかな――――」  
「嫌がってるっしょ。そーんな脅えた眼ェして。ワリィけど演技かそうじゃないか  
位の見分けはつくのよ、オレっち」  
まぁ、さっきイったのはホンキっぽかったけど。  
「なん…で」  
「男が悦ぶツボ付き過ぎ。こうされたらたまんねーって事全部やってくれちゃう  
んだもん、違和感アリアリ。あとさ……」  
グイ、と顔を近づける。  
「俺に義父を重ねてるだろ?毎晩やらされてる事俺にもしただけだろ?早く終  
わることだけ考えてただろ?」  
真面目な声。明らかに怒気を含んでいた。  
更に耳元で囁く。  
「嫌なら嫌って言えよ。我慢して我慢してもう限界なんだろ?ここには恐い義父  
もいない、今だけは聞いててやるから弱音吐いちまえ」  
 
 
「も…もう、嫌だ…っしたくないんだ、こんな事。でも義父が…っ、あ、喘ぎ方も  
表情も、口でのやりかた、っも!したくないのに、気持ち良くないのに、体だけが  
反応して…気持ち、悪い…もう嫌なんだ…」  
 
ぼろぼろと涙が零れていた。  
「助けて、京羅樹」  
「…ん、辛かったな」  
 
くしゃりと頭を撫でてやると凛は崇志に縋り付いて暫く泣いた。  
 
 
 
 
ようやく嗚咽も治まり、バツの悪そうな顔で凛が呟く。  
「だが…熱くなってしまったこの体はどうすれば良い?」  
そんな問いに思わず噴き出してしまう。  
10年、性奴として調教された体はとうに熟していたが、心までは汚されて  
いなかった。ずっと純粋なままだったのだ。  
 
「…リンちゃん、オレっちの事もう怖くない?オッサンと重ねてない?」  
「………ああ」  
「じゃあ遠慮なく抱かせて頂きますけど、OK?」  
「ああ」  
「あとさ、今まで教えられた事、全部忘れて。演技したらマジで酷い事しちまうぜ?」  
「いいから早くしろ!」  
その反応はもういつもの彼女に戻っていた。  
 
 
「緊張しないでよ、オレっちまで伝染っちまうだろ」  
「で、でもどうしたらいいか判らない…っ」  
乳房を隠して喚く。  
さっきまで恐ろしい手腕で崇志を追い詰めていたくせに、この変わり様は何だ。  
「いいから、全部オレっちに任せて」  
やんわりと胸の前でクロスさせている腕を掴んで頭の横に縫い付ける。  
覆い被さって角度をつけて口付けるとおずおずとながら舌を絡めてきた。  
歯列をなぞって舌を絡めあう。  
「ん…ふっ…っ」  
空いた手で陰部を弄るとびくりと腰が跳ねた。  
「ぁ?あっん、ん」  
入口の淵をなぞって時折浅く中へと指を埋める。  
何度か繰り返した後奥まで指を突き入れた。  
本人の意思とは関係ないのか先程と同じように侵入者を逃がさぬように働く。  
「あっあっ」  
教えられた事を全て忘れろ、と言われどう反応して良いのか戸惑うままに  
喘ぐ声は充分に甘く、崇志は愛しさを覚える。  
充分にほぐされたそこから指を抜き、今度こそしっかりと亀頭を入口へと当てた。  
 
「力、抜いてて」  
「ん」  
ぐ、と腰を突き入れると僅かな抵抗の後ゆっくりとそれは飲み込まれていく。  
指でさえあの締め付けだったのだ、それが自身だったらどれだけ良いのだろう。  
覚悟はしていたが凛の中はとても熱い。  
「あぁ、っ」  
膝を肩にかけて折り畳むように体を重ねる。  
深く入り込んだ結合部からとろりと蜜が零れた。  
「ぁ…っ、ん、んん」  
ゆっくりと動き出す。派手に突き入れるよりも中をかき混ぜた方が凛は悦ぶ  
ようで円を描くように腰を動かすと泣きそうな声が上がる。  
揺れる乳房を揉み、色付いた乳首を爪先で弾けば一層膣の締め付けがきつくなる。  
引き抜こうにも襞が絡まり奥へ奥へと導かれる。  
マジで食い千切られるかも…崇志は運動から背中に浮き出る汗とは違う嫌な汗を  
感じていた。  
 
「あっあ、イヤ、こんな、の知らないっ」  
ぐりぐりと中を擦られて身悶えながら凛が叫ぶ。  
体の芯から良くなる事を知らないのか、快楽に脅えたように崇志の背中に縋り付く。  
「もう、イきそう?」  
耳朶を噛むように囁くと縋り付かれた背中に爪が食い込む。  
「わか、らないッ、あ、あ、あ」  
段々と高く切羽詰っていく凛の様子を見て崇志が何度も腰を打ち付けた。  
更にきつくなる膣への出し入れに崇志の息も上がっていく。  
「あぅッあ、はっ、ダメ!あ、ああぁぁッ」  
「くぅっ」  
際奥を貫かれて凛がイきつく。  
ビクビクと痙攣する膣から自身を引き抜き、遅れて崇志も達する。  
凛の白い腹に白濁した精液を撒いて大きく息を吐いた。  
部屋の中には暫く二人の荒い呼吸が響いていた。  
 
 
 
「家、出たら?」  
行為後の倦怠感の中で互いに乱れた着衣を直している。  
オレンジの遮光グラスを定位置に戻して崇志が問いかけた。  
「そう、だな」  
学院上層部の娘、となると簡単にはいかない問題かもしれないが。  
「…オレっちの部屋、一部屋余ってるけど。その…定期的に発散?とか一人  
で処理しなくて済むし、その度に男漁りに行く手間も省けて一石二鳥〜なんてね」  
クール&スマートが信条の崇志にしては酷く不器用な言葉。  
 
「家事は」  
 
凛が窓際に立って返す。  
大部傾いた夕陽は相変わらず眩しく崇志の目には痛むもので、しかも逆光で  
彼女の表情は見えなかったのだが。  
 
 
「家事は交代だからな」  
 
 
間違いなく微笑っていた。  
 

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