まさかこんな事になるなんて――!  
読みが甘かったのか、それとも全て初めから仕組まれた事だったのだろうか。後悔の念だけが頭の中を渦巻く。  
女―鳳翔 凛は今の状況に思考する。化け物相手ならば自分はいくらでも戦える。その為のこの「力」のはずだ。  
  しかし、しかし!こんな、人間相手など――  
そう考える間にも相手の得物が自分の命を刈り取ろうと振るわれる。  
「あうっ!く…一体どうしたら…」  
敵は人間。しかも同じ学園の生徒。いくら話しかけようとも反応は一切ない。  
思わぬ事態に直面し、味方ともはぐれてしまった。他の者達は無事だろうか。だが余計な考えすら今は許されない。  
完全に囲まれたような形になり、絶体絶命の局面に陥る。体力は限界で、ここを切り抜ける答えは全くみつからない。  
相手に斬りかかろうとしても、どうしても手が震えてしまう。「人間」の命を奪う事には恐怖を覚えてしまうのだ。  
だが今の相手はそんな事を考えはしない。  
あらゆる方向からの攻撃に遂には膝をついてしまい、そして頭上に鈍く光るものが見えてしまう。  
「ここまで、か」  
選択肢が全て潰えて、目をつぶり、衝撃に備える。命の喪失は一瞬のはずだ。恐怖は少しだ。だが、  
ドゴッ!  
「が――はっ――」  
腹に伝わる衝撃に苦悶して、倒れこむ。  
  な、んで、仕留めない…?  
腹を押さえ、敵の顔を見上げる。ニタリと笑うその顔に今まで以上の恐怖が背筋を走る。  
次の瞬間、手足を押さえられ組み伏せられる。  
「お前達、何を――あうあっ!?」  
全身を駆け巡る不快感。服の上から胸を揉まれ、太ももを手が這いずり回る。  
そして確信する。こいつらは自分を犯す気なのだと。死への恐怖ならまだいい。だが封じ込めた女としての本能が事態に恐怖してしまう。  
「やめっ、やめろぉっ!あうっ、こ、んな、辱めなん――ひぐっ!?」  
ズボンを脱がされ、前戯すらなしに指を入れられる。  
「ひっ、ぐっ、あうっ、やめ、ひいっ!?」  
何の遠慮もない挿入なのに、胸を揉まれ、女としての防衛行動に凛の秘部は濡れ始め、卑猥な音を立てる。  
一片の欠片も想像していなかった事態に頭は混乱し、下腹部を伝わる衝撃と乳房への愛撫に口をパクパクさせる。  
だから考えもしなかった。  
 
グモッ  
  なんだこれは。なにかが口の中を――  
「んんっ!?んむっ、んむっ――んんんっ!?」  
その正体がわかっても今の自分にはどうしようもない。男のペニスを入れられ、苦しみが増す。  
頭を押さえつけられ、前後に振らされる。ただただ男が快楽を得る為だけに行っていた。  
喉を突くのと、酸素を満足に得られない事に、涙は零れ唾液が溢れ出す。  
男のペニスを口に入れられている嫌悪感。全身を舐め回すかのような無数の手への不快感。  
そして下腹部をズチュッ、ズチュッと伝わる一割の快楽と九割の苦痛。  
女性としての部分を隠していた彼女にこれほどの屈辱を味合わせる手段は存在しない。  
そして口の中のペニスの動きが喉奥で止められる。何事だろうとぼんやりとした頭で考えた瞬間、  
ドビュルルルッ  
奇妙な音を立たせて、粘りつく液体を流し込まれる。  
「―――――――っ!?」  
言葉にならない叫びを上げ、息苦しさに液体を飲まずにいられない。大半を飲み込んでからようやくペニスが引き抜かれる。  
「げほっ!ごほっ!うえぇ…こ、これは…っ!?」  
何故か手足の拘束が解かれ、少し残ったものを吐き出して、ようやくそれの正体を知ってしまう。  
  白い液体、男のものからでた…男の精液――  
それの正体が判明した時、胃の中のものがこみあげ吐き出してしまう。  
飲み込んでしまったものを体から追い出すように。  
だが男達はこんなものでは満足しない。操られ、本能が顕著に表れたいま、欲望は剥き出しになる。  
嗚咽する彼女を再び拘束し、足を開かせ快楽を得ようとする。  
「や、だ…やめて…いや、いや!やめてぇーっ!!」  
凛は初めて、人前で女性としての悲鳴を上げた。  
 
 
今は何も考えたくない。少しでも思考に入れば先ほどの惨劇が鮮明に蘇ってくる。  
だからこうして傷ついて血も流れる体を振り絞って動いていなければならない。月詠の生徒の救出――  
大半は正気に戻ったが、未だ戻らない者もいるらしい。襲われているものの中にはペンタファング。  
御神の仲間だった、敵対もしたし、説得をしにいった者が襲われている。  
もう誰も死なせたくない。この体が朽ち果てようとも自分はそうしなければならない。  
それが仲間を、尊敬し、信頼してくれた人を殺した自分がすべきことなのだ。  
そう決意をして男は―伊波飛鳥は駆け抜けていく。  
 
「鹿跳っ!!」  
悲鳴を上げたすぐあとだった。どこかで聞いた声が響くと自分を拘束していた男達は突然の乱入者に困惑しているようだ。  
だがそれも束の間。乱入者は鮮やかな動きで昏倒させていく。  
小太刀を振るい、次々と打ち倒していく様に柄にもなく見惚れてしまう。  
しかしどこか必死なまでの哀しげな雰囲気が見え隠れするのは気のせいか。  
「はぁ、はぁ…ふぅ。これで最後か…。鳳翔さん、大丈夫ですか?」  
「お前は、伊波…飛鳥…?」  
自分に起こった事も、今の裸を晒す状況も忘れ、突然の助け人の出現に半ば放心する。  
「っ!と、とりあえず、これを!す、すいません!」  
「あ、え?…きゃあっ!!」  
突然振り向いて自分の制服の上を差し出す飛鳥を見て、ようやく我に返る。差し出された服を羽織り、しばしの沈黙のまま二人はたたずむ。  
「えっと、他の皆さんは無事です。操られていた人も正気を取り戻してたんですが…。  
 中にはこの人達のようにまだ正気じゃない人もいたようで。  
 すいません、その、助けるのが遅くなって不快な思いをさせてしまったようで…」  
状況を見ればいかに飛鳥と言えど、何が起きていたのかは一目で分かる。  
「い、いや助けてくれただけで十分だ。そ、それにギリギリの寸前――あわわ、そうではなくて!  
 皆も助けてくれたようで、その…ありがとう」  
「別に…今はただ体を動かしていないと辛いだけですから」  
「え?」  
聞き取りにくかったが、「辛い」だけは聞こえた。急な心情の吐露に不思議に思ったが――  
「いえ、もう大丈夫ですか?そろそろ皆と合流しないと…」  
寂しげに、辛そうに感情とは裏腹な笑顔に、思わずこのままではいけないと思ってしまう。  
「ま、待ってくれ!いや、そのすまない。まだちょっと辛くて…済まないが水かなにかあるか?」  
「え?あぁ、はいありますよ。…どうぞ」  
ペットボトルの温くなってしまった水ではあるが今は何よりもありがたい。口に含み、汚れを落とすようにすすいで吐く。  
そして背中を向けている飛鳥を見て、そしてやっと冷静になった所、飛鳥の体の異常さに気付く。  
「お、お前怪我をしているじゃないか!血がシャツに滲んで…いや、腕のところも血が流れているじゃないか!?」  
慌てた様子の凛を尻目に、飛鳥は異常なまでに冷静に呟く。  
「ああ、これですか。別にこれぐらい何ともないですよ」  
「何ともないって…。そんなにべっとりとしているのに何ともない訳がないだろう!?」  
その冷静な様子に思わず激昂して振り向かせる。しかし――  
「これぐらいの浅い傷じゃ死にませんから。こんな『斬り傷』ぐらいじゃ、人は死にませんから」  
先ほどとは別人のような生気のない瞳で答えられる。  
 
「そうですよ、生きてれば血なんかいくらでも流れるんですよ。こんな傷…貫かれないぶんマシですよ」  
そう吐き捨てて指を肌に食い込ませる。いや爪が食い込み血が滲む。  
「ほら、こんなに血が流れても痛くない。…全然痛みが感じられないんですよ」  
激昂した感情が引いて行く。ここにいるのはまるで泣き出しそうな子供だ。  
何が起きたかは分からない。以前出会った時とは別人だ。放ってはおけない。  
「服を脱げ」  
「え?」  
「脱がないのなら私が脱がす。いいから傷を見せろ!」  
飛鳥の正面にしゃがみこみ、シャツのボタンを外していく。飛鳥の制服を羽織っただけの凛では、ほぼ裸体が見えてしまうが構わない。  
黙ったままの飛鳥を強引に脱がして、傷を把握する。  
「まったく…どこが浅い傷なんだか…。ザックリいかれてるではないか。ほら、腕を出せ」  
もらった水で軽く洗い、破り捨てられた自分の服をさらに破り、とりあえずの処置を施す。  
「ほら、次は背中を出せ。…もう水がないか。仕方がない」  
ペロリ  
思わぬ感触に飛鳥はたまらず声を出してしまう。  
「ほ、鳳翔さん!?な、なにを!?」  
「動くな!鼻に当たったではないか!」  
「あ、え、す、すいません…」  
「仕方がなかろう。洗浄しようにも水がなくなってしまったのだから。子供の頃はこうして傷を舐めていただろう?」  
「そ、それとこれとでは幾分レベルが違う気が…」  
「お前が駄々をこねるからだ。いいから猫にでも舐められてると思え」  
ペロリ、ペロリと傷を舐められていく。  
  無理だ、無理無理!猫になんか思える訳ないじゃないかぁ!  
他人に、しかも女性に舐められるなど興奮を増加させるだけである。やっぱりやめさせようと思った時、  
「…何があったかは分からないが、お前が生きてくれたから私は助かったのだ。そうでなければ今頃は…」  
先ほどの事を思い出して体が震える。  
「痛かったし怖かった。お前が来てくれなければ私は正気ではいられなかっただろう。  
 だから…お前が生きてくれて嬉しいのだぞ?お願いだから…簡単に死ぬなんて言わないでくれ」  
興奮が治まり、逆にどんどんと安らいでいく。  
「返事は?」  
「…はい、わかりました」  
ペロリ、ペロリと水音だけが二人の間に流れていった―――  
 
 
「そう、か。九条総代が亡くなられたのか…」  
あの出来事以降、天照郷に身を寄せる月詠の者―その一人、凛はようやく今回の事件のあらましを聞く。  
「しかもさー、なーんか変な噂も流れてるんだよねぇ。凛ちゃん、知ってる?」  
事件の内容が内容なだけに、自由に行動できない月詠の泊まる部屋で雑談をする。  
同室の姫宮 伊織と今後の事も含めて話がしたかったのだが、相手を間違えたか。  
「噂?なんだそれは?」  
「あー、知らないかぁ。いい?大きな声で言っちゃ駄目だよ?…ゴニョゴニョ」  
下らないものだと思い、話半分で聞いていたが内容が衝撃的すぎる。  
「何ぃーっ!伊波が九条総代を殺しただとっ!?」  
「凛ちゃん、大きな声で言っちゃ駄目だって言ったばかりなのに…」  
動揺を無理矢理抑えて再び座り込む。  
「ねーっ!?ひどいよね、ダーリンがそんな事するわけないのにねー。あんな颯爽と現れて駆けつけてくれちゃうんだもんっ!  
 もう伊織感激して惚れ直しちゃったよーっ!キラーンと歯を輝かせて『大丈夫かい?』なんて言われたら、  
 もう卒倒して倒れちゃいそうだよ!それにね!それにねっ!――――」  
伊織の言葉に耳がいかずに考え込む。そしてあの時の飛鳥の状態を見れば結論が出る。  
噂は真実だ、と。望んでした訳ではない。そうならあんな茫然自失の状態になるわけがない。  
明らかにおかしかった。「痛みが感じられない」そう言っていた。  
「って凛ちゃん聞いてる?すっごいカッコ良かったんだから!」  
顔を覗かれ、考えを表に出さないよう努力する。  
「す、すまない。…それで当人の伊波はどうしているんだ?」  
「御神のバカに聞いても部屋から出てこないんだって。全く使えねーヤツ」  
落ち込んでいるのか、悩んでいるのか、それとも塞ぎこんでいるのか。  
「そう言えば凛ちゃんもダーリンに助けてもらったんだよね?どう?カッコよかっ――」  
「済まない。話は後だ。私は少し出かけてくる」  
「え?え?」  
何か言われかける前に部屋を飛び出していく。  
「外出禁止なのに、いいのかな…?」  
 
 
「はぁ…今日も出てこーへんか…。一体全体どないなっとんのか…。紫上はんもなんも言うてくれんし」  
飛鳥の部屋の前で今日も返事がなく、空振りに終わる。置いておいた食事にも手をつけた様子はない。  
「あの変な噂でイナミン落ち込んどんかぁ?まさかなぁ」  
もう一度ノックして返事を待つが、ない。今日は一旦戻るかと振り向いた所に、  
「伊波はどこだ!?」  
「どわぁ!?急に人ん前に立つ奴がおるかぁ!って凛?おまえこんなとこに何の用や?それにお前らまだ外出禁――」  
「む?そこが伊波の部屋か。どけ、御神。私はこの部屋の主に用がある」  
「人の話は聞こうや…。イナミンなら出てこんで。今もノックしたけど返事がなかったし…」  
「ならばドアを破るまで!」  
ドガン!と足蹴り一閃。問答無用に中に入る。  
「な、何つー無茶苦茶を…。お、おまえ、んな事したら只でさえよくないワイらの立場が」  
「……いないぞ」  
とんでもない事が御神の耳に入る。  
「な、何やて!?う、嘘やろ!?……マジか…」  
凛の言葉通り部屋には誰もいない。隠れるような場所はない。  
「い、いつからいなくなったんや…?これは至急、紫上はんに――」  
「御神、お前はこの部屋にいて伊波の振りをしろ。誰が来ても部屋に入れるな。『伊波はここにいる』と周りにはそう思わせろ」  
「はぁ!?なんでワイがそんなん…」  
「…斬られたいか?」  
腰に下げる刀をチャリと鳴らす。  
「はい、イナミンの振りをします」  
「私は伊波を探してくる。いいな、それまで誰にもこの事は言うなよ!」  
そう言い終るや否や恐らく伊波が出て行ったであろう窓から身を投げ出して姿を消す。  
伊波の部屋には御神が取り残される。少しの間、呆然としつつハッと我に返り内側からドアを閉める。  
「ホンマ、ワイにどうせいと…。『ハーイ、僕、イナミンですよー』…………似てるな、バッチリや」  
 
 
事態は思っていたより深刻なようだ。探す当てがある訳でもないが人目がある所にはいないはずだ。  
精神を集中させて験力を探ろうと目を瞑る。天魔との区別がしにくいが虱潰しに当たっていく他ない。  
早く見つけてやらなければならない。きっと飛鳥は泣いているはずだから。  
数時間後――  
恐らくこんな所までは来ないだろうという所までたどり着いてしまった。  
「ここにもいない、か…。力を感じたのだがな。あいつではなかったか…」  
自分の力不足に歯痒くなる。あの時助けられておいて自分は何もしてやることが出来ないのか。  
「そうだ!何故気付かなかったんだ!頼むヘカーテ…あいつを、伊波を探し出してくれ…!」  
自らの分身と共に験力を探る。  
「…っ!近い、あちらか!」  
駆け出しながら少し顔が緩む。ようやく見つけだせた、と。会えたらまずは一発殴ってから抱き締めてやろう。  
心配をかけた報いだ、と笑って言いながら慰めてやらねばなるまい。  
緩む自分を叱りつつも思わず嬉しくなり、まるで恋する乙女のように思考は止まらない。  
人目を忍んで逢引をする恋人達のようだ、と自惚れながら目的地へ着こうとする。  
月明かりの下、ポツンと立つ飛鳥の姿が映る。  
「伊波あす――」  
グズリ  
呼びかけようとした時、足元に奇妙な感触を感じた。薄暗く何かは分からないが何か柔らかいもののようだ。  
若干、気味悪く感じた時、雲に遮られた月明かりが足元を照らす。  
そこにあったのは肉。動かなくなった天魔。足を出した所だけではない。  
辺り一面肉の山。倒してから時間が経ったものは昇華したのか。まだピクピクと動くものもいる。  
凛は動かない。いや動けない。あまりの異常さについていけない。  
膨大な肉の山の中、飛鳥は無表情に天魔を虐殺していた。  
 
声が出せない。アレは本当に飛鳥なのか。あの時も異常だとは思ったがこれはその比ではない。  
今呼びかければ自分も殺されるかもしれない。恐怖を感じながらも一縷の希望をかけて名前を呼ぶ。  
「飛鳥ぁっ!!」  
首だけをグルリと向け、どこか嬉しそうに壊れた笑いを浮かべ近付いてくる。  
「驚いた。貴女が来るなんて。てっきり紫上さんや宝蔵院さんが来ると思ってたのに。  
 あぁ、那須乃さんも僕を嫌ってたっけ」  
声色もまるで違う。生きている気配の声ではない。  
「ど、どういう事だ?」  
「僕を殺しに来たんでしょ?九条さんの憎い仇を討つ為に。僕は別にだれでもいいんですけどね」  
お願いだからそんな事を言わないで。  
「待ってるのも退屈だから掃除してたんですよ。幾分綺麗になったでしょ?」  
お願いだから心を壊さないで。  
「ちょっと疲れたところだったから、ちょうど良かったですね。これで楽になれますよ」  
どれだけの心無い言葉にさらされたの?  
「ほら、僕は抵抗しませんよ?その刀でブスリとやっちゃいましょうよ」  
どれだけの心無い視線にさらされたの?  
「ほら早く。さぁ早く。早く早くはやくはやくハヤクハヤクハヤク――」  
「もうやめてぇっ!!」  
抱き締める。少しでも心が壊れないように、心を繋ぎ止めるために。  
「飛鳥のせいじゃないっ!飛鳥が悪いわけじゃないっ!心無い人達なんか放っておけ!だから、帰ろう。な?」  
涙が零れる。こんなにも心が痛いなんて。心が惹かれてすぐにこんな事になってしまうなんて。  
飛鳥の顔に触れる。そして戦慄する。汚らわしいものでも見るかのような冷え切った目に。  
「何だ、違うのか」  
言い放つと凛を突き飛ばす。グズリ。そこにあった肉を凛の体が潰す。  
「いや、そうか。貴女も嗤いに来たんですね?天魔達のように」  
必死な願いも、もう通じないのか。  
「なるほどなるほど、貴女も天魔だったんですね?いやお見事。見事に騙されましたよ」  
もう救うことは出来ないのか。  
「じゃあ殺してあげますね。…いや、天魔ならもっと苦しめてから殺したほうがいいかな?」  
 
「ほらほら、そこの樹に手をついて。抵抗しないんですか?抵抗したほうがやりがいがあるんですけどね」  
呆然としながら言われるがままになる。  
「飛鳥…どうして…あうっ!や、やめ、ひぃっ!!」  
乱暴に胸を揉まれ、秘部をなぞられる。結局こうなるのか。  
「あまり胸は大きくないんですね。あの時も見えたけど、やっぱりこっちを弄ったほうが面白いかな」  
ズボンと下着を一気に脱がされ、秘部を直接なぞられる。  
「ひあっ!やめ、やめ、はぁ、はうっ!ひっ!あっ!そこは、だ、め、うああっ!?」  
クリトリスをコリコリと弄び、シュッ、シュッとなぞる。  
「どうやらこっちのほうが感じやすいみたいですね。挿れる前に一回イカせましょうか」  
「はぁ、はぁ…なに、を…?ふああっ!やっ、うあっ、こんなのっ、ひぐぅっ!?」  
指を膣に入れて挿入を繰り返し、舌でなぞっては中も絡め取り、蜜壷もいじり愛液を増やしていく。  
グチュリと水音を激しくしてわざと聞こえるように羞恥心を煽っていく。  
「ひっ、ふあっ、あうんっ、あんっ!力が、ぬけて、ひゃうんっ!!」  
声色に甘いものが混じる。飛鳥に触られることが、恥ずかしさと嬉しさが同時に凛の中に存在するためか。  
「ほら、こんなにグチョグチョにしていやらしい人だ。あの時も本当は嬉しかったんじゃないですか?」  
「ちがっ、ちがうっ、私は、ふあぁんっ!!も、だ、め、あたまが、しろく、ひゃうっ!なって、いく…」  
指の出し入れの速度を早める。掻き出される液体が飛び散り、太ももをつたって垂れていく。  
「あ、す、か…っ!?い、いやあああぁっ!!!」  
盛大な嬌声を上げて、潮をふき、絶頂に達してしまう。  
振り向いて飛鳥を見るとニタリとあの時の男達のように笑っている。  
全身から力が抜けていき、言葉を出すことも出来ない。ヘタリと座り込む。  
「あぁ………か…は…」  
そしてチョロチョロと水が流れる音が聞こえる。いや、これは自分の体から流れているものだ。  
「あはははっ、こいつは傑作ですね!あの鳳翔さんがお漏らししてますよ!これはいい眺めですね!」  
「いやぁ…いや、いやぁ…こんなの、いやぁ…」  
体裁を繕うこともなく、子供のようにボロボロと泣き出してしまう。  
それは恥ずかしさからなのか。変貌してしまった飛鳥に哀しいからか。  
誰も救えない自分への無力さに呪っているのか。誰にもわからなかった。  
 
「さて次はどうしましょうか?もう犯されたいですか?それとも僕のものを咥えたいですか?どちらでもいいですよ」  
もう救いはないのだろう。ならば飛鳥の心がなくともせめて最後は結ばれたい。  
「犯して…ください…、わたしを、犯してください…」  
「そうですか、自分から求めるなんて本当にいやらしい人ですね。じゃあ――」  
「その前にっ!その前にキス、してください…最後ならば、せめて…!」  
最後の願いを聞き届けてくれたのか、飛鳥が正面に立つ。顔を上げさせられ、唇が合わさるだけのキス。  
これでもう思い残すことはない。唇が離れた時、名残惜しさからなのか、飛鳥の顔をペロリと舐める。  
瞬間、飛鳥の瞳に色が戻り始める。  
「この感触…あの時の…とても、安心できて、ひどく安らいだ、あの時の…!」  
その言葉、その瞳の色に凛も我に返る。何気ない仕草が飛鳥の心を呼び戻したのかもしれない。  
ならばすることは一つ。  
呆然とする飛鳥を抱き締め、あらゆる所をキスをして舐めていく。腕に、胸に、首に、頬に、髪に。  
砕けて壊れた心を組み直すかのように、全てを愛するキスが飛鳥を包んでいった。  
 
「…あの時もこうやってもらって落ち着いたんですよ。…鳳翔さん、僕は――」  
「謝罪の言葉ならいらないぞ。説明もしなくていい。…ただ今はこうしているだけでいいぞ。  
 落ち着くまで甘えてくれてもいいぞ。お前の気がすむだけな」  
飛鳥の頭を胸に抱き、幼子をあやすように頭を撫でる。そのまましばらく時間が経ったあと、飛鳥から言葉が出る。  
「怖かったんです。みんなの視線が、みんなの口に出せずにいる言葉が。『お前が殺したんだ』という言葉が。  
 殺したくて殺した訳じゃない。でもそれを証明するものは何もなくて。みんなは優しいから気を使って何も言わない。  
 けどその優しさが痛くて、ならば僕一人が悪者になればいいのかと思ってしまったんです」  
「優しすぎるな、お前は」  
「何も考えられなくなって、暴走して、挙句には貴女をあんな酷い目に――っ!?」  
その先の言葉を塞ぐようにキスをする。唇を合わせるだけでなく、舌を絡ませ、互いの唾液を飲ませあう濃厚なキスを。  
「…っはぁ。謝罪はいらないと言ったはずだぞ?一人で何もかも背負うな。  
 使い古された台詞だが…、私も一緒に背負ってやるから、な?」  
「鳳翔さん…」  
「こういう時は名前で呼んでくれ。少々気恥ずかしいが我慢する」  
「凛…凛っ!!」  
もう一度濃厚なキスを。体を張って自分を止めてくれた愛する女性にキスを。  
「ぷはぁ…。普段は女である事が邪魔でしかなかったが、今ほど女で嬉しかったことはないな。  
 あとは…証をくれ。お前と、いや飛鳥と共に重荷を背負えるという証を」  
「…僕でいいんですか?」  
「い、今更言わせるなっ!こ、こんな格好で求めてるんだぞ!?空気ぐらい読め!」  
「はは、御免なさい。何か出会って間もない僕らですけど…大好きです、凛」  
「惚れたはれたなど、こんなものかもな。私も大好きだ、飛鳥」  
 
「じゃあ、いきますよ。痛かったら言ってくださいね」  
先ほどのいささか乱暴な前戯で、すでに秘部は男を受け入れるのに十分濡れそぼっている。  
「ひ、ひとおもいにやってくれ。か、覚悟は出来てる」  
「そんな打ち首にあうんじゃないですから…。でも苦しまないように一気にしますね」  
ペニスを入り口に添え、少し進んでから一気に奥まで挿入する。  
「〜〜〜〜〜〜っ!!」  
言葉にならない悲鳴を上げて、何かを求めるように手を中空にばたつかせる。  
飛鳥は、自分はちゃんとここにいる、という事を伝え安心させるためその手を握り締める。  
「〜〜っはぁ!はあっ!はぁ、はぁ、こ、こんなにも、痛いなんて、知らなかった、ぞ、はぁ…。  
 ど、どうした?私のことは気にせず、う、動け。」  
「でも、あまりにも苦しそうなんですが…」  
「ばか者、ただ繋がっただけでは本当に結ばれたとは言えん。わ、私も女だ…惚れた男に中で果ててもらわないと気がすまない…」  
顔を真っ赤にして、愛を宣言する凛に愛らしさといじらしさを感じる。  
その応えとして行為で示す。  
「ひっ、あぐっ!なかで、うごいて、ひぐっ!?うああっ!?わた、わたしが、抉られてるぅっ!?」  
苦痛を紛らわすためか、自らに起こっている事を実況する。その痴態が飛鳥の興奮を増加する。  
それだけではない。凛の膣中は熱く、自身のものに食いついてくる。  
「はっ、はぁ、ひゃうっ!!奥に、奥に、当たって、ひゃああっ!?そん、な、また大きくっ!?」  
粘膜はペニスを押し付け、絡みつき、決して離そうとしない。これでは余裕などなくなってしまう。  
グチュリ…ズブリ…と卑猥な音が響きわたり、夜の空の下、二人の嬌声も響き渡る。  
「ひぃっ!あっ、はっ、あんっ!はや、はやくなって、そう、か、気持ちよく、なって、ひゃんっ!くれてるん、だな?」  
限界が近くなり、まだ味わいたいとも、早く果ててしまいとも相反する気持ちが混ざり合う。  
「凛っ、凛っ!だ、出すよ!?」  
コツンというような音が凛に聞こえた気がして、飛鳥の律動が最奥で止まる。直後、  
ドクドクドクッ!  
「あ…は…なかで、でてるぅ…」  
ドクドクッ!  
「すご、たくさん、わた、わたし、そそがれてる…」  
不快な気持ちなど微塵も感じない。今はただ飛鳥を受け止めきれたという幸福感のみ。  
ドクッ……ドクッ  
膣中に収まりきらない精液が結合部から漏れ出す。ハァッ…ハァッ…と荒い息を出しながら、倒れこみ二人は抱き締めあう。  
月光が優しく光り、穏やかな風が二人の熱を心地良く治めていった。  
 
 
「はぁ…、にしてもこのゲームなめとんのか!?5時間放置って、お前どんだけ放置プレイ好きやねん!」  
飛鳥の部屋で一人残された御神が雑誌片手にゲームをしながらくつろいでいる。  
「まぁえらい暇潰しにはなったがなぁ。結局誰も来んかったし。…いやいや、それはそれで面倒や。  
 …いやいや、でも渾身の物まねを見せれてオイシクはあるなぁ。さて、もうええやろ。さぁ、目押し目押しっと――」  
「入るぞ」  
突然の他人の声に御神の頭の中がパニック状態になる。  
「は?え?ちょ、ま、ハ、ハーイ僕イナミンですよー?ああぁっ!!目押し失敗してもうたぁ!!  
 く、くそぅ…おんどりゃ、ワイの5時間返せぇーっ!!ってあれ?ドアにだれもおらんぞ?」  
「何だ今の『ハーイ僕イナミンですよー』は。振りをしろとは言ったがそれはないだろう…」  
「僕は普段あんな風に思われてるのか…?」  
呆れたように頭を抱える飛鳥と凛。  
「う、うるさいわい!元はと言えばお前があんな無茶苦茶言うから!はぁ、まぁイナミン連れてきたから良しとするか…」  
「晃、僕は…」  
「ええ、ええ、なーんも言わんでええよ。相方信じられんでコンビは組めんて」  
カラカラと笑いながら言う御神に、かけがえのない親友の存在を感じる。  
「にしても…なーんで、凛がイナミンの制服着とるんや?生足さらけだし――っ!」  
ブルブル体を震わせて二人を指差しわななく。  
「あわわ、ま、まさかまさか、お前ら二人して『ハロワの階段の〜ぼる〜♪』をしでかしたんじゃ…」  
「それを言うなら『大人の階段の〜ぼる〜♪』だろうに――しまっ!!」  
「あ、飛鳥!」  
見事に誘導尋問に引っかかった飛鳥を咎めようとしたが時すでに遅し。  
「っしゃあーっ!大・成・功っ!いつの間にやら呼び方も変わっとるし。そうか、そうか〜。  
 凛ちゃん、やるときゃやるんやなー。スイマセーン、ボク、ミナオシマーシター、HAHAHA!」  
エセ外国人の真似をしてフランクに笑う御神に凛も遂に切れる。  
チャキッ  
「…どうやら貴様は頭と体の仲が良くないようだ。今すぐ分けて差し上げよう。ほら遠慮はするな」  
刀を晃の首に添えて、顔は笑顔だがその奥に漂う殺気と怒気に、地獄の悪魔はこういうものかと飛鳥は思わず震えてしまう。  
「い、いやだなぁ。ちょっとしたお茶目な晃ちゃんのジョークじゃないですかぁー、アハハ。  
 あ、あの、やめてやめて、ギャアー、食い込んでる食い込んでる!」  
「いいな、この事は他言無用だぞ。もしわずかでも他人の口からこのことが耳に入れば…」  
「は、ハイ!この御神晃!秘密は墓場まで持っていきます!」  
刀を外し、命の危機から脱出した御神は最敬礼のまま直立不動だ。  
 
「はは、凛も脅しはその辺にしたほうが…」  
「も、元はと言えばお前が失言したからだぞ!」  
ワイワイと言い合うその姿に、今まで見た事のない笑顔と信頼の情が垣間見え、御神も思わず顔が緩む。  
もう本当に何の心配もないのだな、と。  
「さて、ワイはそろそろ失礼するわ。ほんならな、お二人さん」  
「あ、晃!」  
ドアを開けた御神の動きが止まる。  
「今日はありがとう。このお礼はいつか必ずするから」  
「ええて、ワイは何もしとらんし。ただ無事でなによりや。ほなおやすみさーん」  
カチャリと静かに閉じられて、二人は顔を見合わせて笑う。  
「全く変な所で勘がするどいやつだ。しかしもっと念入りに釘を刺しておくべきだったか…?」  
「それは心配ないよ。根拠はないけど、本当に大切なことなら晃は茶化さないよ」  
「むぅ…それが男同士の友情というやつか。少し羨ましいな」  
少し口をとがらせた様子が可愛くて、凛の体を抱き寄せ見つめあう。  
「そんな暇は与えてあげないようにするよ、凛…」  
互いの顔が近付く。本当に欲しいものを与え、受け取るために。  
ガチャリ  
「あー、一つ言い忘れとったわー」  
「「な、何だ!?」」  
すんでの所の乱入者に、目にも止まらぬ速さで体を離す。しかし声が裏返っては動揺は隠しきれてない。  
「?なんか、不自然やな…ま、ええか。イナミン、おかえりな」  
それだけ言って再び、部屋には二人だけになる。しかし、その言葉は何よりも飛鳥の心を打つ。  
「晃…ありがとう」  
もういない親友に礼を言い、凛を見やる。  
「…先に言われてしまったな。本当は私が一番に言いたかったのにな」  
少し悔しそうに笑って応える。そして名残惜しいが夜も更けた。そろそろ戻らねば。  
「では私もそろそろ戻るとす――」  
最後まで言葉を言えぬまま、体を抱かれポフリとベッドに横たわらせられる。  
「あ、飛鳥!?」  
「ごめん、でも今日は帰したくないんだ。せめて今夜だけは…傍にいて欲しいんだ。まだ少し、怖いから」  
そう言って抱き締められる。少し慌てたものの異論はない。  
「とんだ甘えん坊だな、飛鳥は。いいさ、それに傍にいるのは今夜だけじゃない。…この先もずっとだ」  
 
 
「遅い、遅すぎるぞ!」  
全ての件が片付いたあとのうららかな春の日の東京に凛の叫びが木霊する。  
まだ少し寒さがのこるものの、もはや何の憂いごともなくなった日々は暖かく感じる。  
それともこれは久し振りに恋人と会える事からくる高揚のためか。  
凛達、月詠は平穏を取り戻した東京へ。飛鳥はそのまま天照へ残った。  
離れたくはないけれど、自分のわがままで飛鳥を連れていくわけにもいかない。ましてや彼は神子なのだから。  
それでもまったく会えないわけではない。今日のように時間を見つけては二人で会い、体を重ね、楽しい時間を過ごしていた。  
だからほんの少しの遅れでも待ち遠しい。早く会いたいから口調も荒くなる。  
無論、待ち合わせの一時間も前から待っている自分も自分なのだが、  
今日は何をしよう、どんな事を話そうと考えていれば、待つ時間も楽しくなる。  
何人ものナンパを撃退して(力ずくの時もあり)、伊織チェックも無理矢理やらされた私服で恋人を待つ。そしてようやく――  
「遅いっ!5分28秒の遅れだぞ!」  
口調は荒々しく、しかし晴れやかな笑顔で最愛の人を迎える。  
「ごめん、急いではみたつもりなんだけど…」  
「ふん、まぁ許そう。さぁ出かけるぞ!ほら出かけるぞ!わずかな時間でも惜しいからな!」  
 
「あんっ、ひぅっ!?もう、だめ、ひっ、んああーっ!!」  
ビクッ、ビクッ…と体を震わせて絶頂に達する。中に流れ込むものを感じて恍惚になる。  
久し振りの邂逅―色々な名所に連れて回り、観光とデートを兼ねたものを楽しんだ後は宿を兼ねた凛の部屋に到着する。  
若い二人がそういう状況になれば当然、互いを求め体を重ねることになる。  
「はぁっ、はぁっ、はぁ…また、達してしまったな…。お前にそうされるのは幸せなのだが、少し悔しいな…」  
どの辺に悔しさが交じるのかは分からないが、行為を終えた二人は横になる。  
「それにしても今日は幾分激しかったな。もしかして溜まっていたのか?」  
「そういう事は女性の口から言わないほうが…。ま、まぁ凛としたかったのは当然あるけど」  
「そうなのか?まぁ離れた場所にいるのだから仕方のないことだが、こうやって私を求めてくれるのは素直に嬉しいな。  
 こういう所に女としての幸せがあるとは思ってもいなかったからな。まぁ、その弊害もあるが…」  
「弊害?何か嫌なことでもあったの?」  
男に言い寄られたのか、痴漢にでもあったのか、何事かと心配になる。  
「あ、まぁ別に嫌な事ではないんだが…その、伊織に色々とな…」  
「喧嘩…ってわけじゃあないみたいだね?」  
「勿論だ。ただ、その…色々と親切なのかおせっかいなのかは分からんが、やれ服はこういうのがいいのだとか、  
 やれ男を魅了するためにこういう事をしろだの…。あんなフリフリなスカートなど私には似合わないというのに」  
フリフリスカートを履いた凛を想像して、それはそれで見たくもなってくる。  
「そういえば男を悦ばす方法なども教えられたな。たしか男のものを…」  
「あ、あの、凛さん!?」  
急に股間をまさぐられる。  
「いいではないか。いつもいつもお前に主導権を取られて悔しいんだ。たまには私が主導権を握りたくもなる」  
そういう問題なのか?と考えているうちに、凛は顔をペニスに近づけ舌で舐める。  
「うああっ!?」  
情けない声を出してしまったが、しょうがない。舐められただけで頭に衝撃が走る。  
「ふふ、可愛い声を出してくれるな。それでこそやりがいが…ぺろっ、ちゅるっ、ふはぁ、私も興奮してしまうな」  
あの時はただただ嫌でしかなかったが、目の前のものが飛鳥のものだと考えると、ビクビクするそれは可愛らしく見えてくる。  
「はぁ…精液の匂いが直接…はむっ、じゅるっ、ちゅぱぁ…」  
舐めるだけではなく、口に咥え、竿全体を刺激していく。唾液を含ませ、頬をすぼめ、圧迫させる。  
少し目線を上げてみれば、いつも飄々とした飛鳥の顔が必死に快楽に耐えており、もっと歪ませてみたくなる。  
「凛…すごっ…。こんな、の、我慢できない…」  
余裕のない声と表情。そしてガチガチに硬くなった肉棒は暴れて今にも爆発しそうだ。  
絶頂が近いことを悟り、顔全体を揺らし、射精にまで持っていく。  
ドビュルルルッ!  
二回目とは思えぬほどの精液が口のなかに出される。勢いに少し驚いたが、飲み込み、竿に残る精液も吸いだしていく。  
「ふぅ…はぁ…、す、凄い量だったな。しかし良かったぞ?飛鳥の可愛い顔も見れたしな」  
口元から精液を垂らしながら微笑み、可愛い事を言ってくれる。これで興奮しない男はいない。  
「う、うそ…出したばかりなのにまた大きく…はっ!?」  
ムクムクと膨れ上がるペニスに目を取られている隙に、押し倒される。  
「あ、飛鳥!?」  
「凛が悪いんだよ…、あんな事言われちゃあ男として黙ってられないよ」  
夜はまだまだ長いようだ。  
 
「ひうっ!?あ…はっ…また、イクぅっ――」  
今日何度目かの絶頂に達して、今度は精液を頭からかけられる。  
「――っはぁっ!はぁ、はぁ、そんな、まだこんな濃い…。もう、ドロドロだな、わたしは、はぁ、はぁ」  
指を動かせばヌチョリと、膣からはゴブリと溢れ、黒髪に白濁が染み込んでいく。  
互いの体が汗と唾液と愛液と精液に塗れていく。まるで互いの匂いを忘れさせないようにと。  
「だが、嫌じゃないな…。お前となら、こんな風に溺れていくのも悪くない」  
そして今度は四つん這いにさせられ、後ろから貫かれる。  
「ひゃうんっ!あぁ…あは…すご、まだ、こんなに、かたいなんて…ああんっ!!」  
獣のような格好で、獣のように貪っていく。もうどんな格好をさせられても構わない。  
久し振りの時間なのだから、好きなだけ好きな事を好きな人にさせてあげたい、そう凛は思っていた。  
だけれでも、飛鳥にとっては違う。恐らくこれが最後になるだろうから。  
聞いてしまったから。神子は短命だと。そして何よりも決意させたのが、「周りの人間を不幸にする」のだと。  
それだけは許せない。それだけは許せることではない。  
自分を救い、共に支えてくれたこの愛する人だけは守らなければならない。だから――  
「あんっ、溶けるっ、溶けてしまうっ!ドロドロに、グチョグチョにっ!」  
君はきっと怒るだろうね  
「あすかとぉ、あすかといっしょにぃ…きてぇ、きてぇっ!」  
だけど君だけは幸せになって欲しい  
「ひゃああんっ!もう、だめっ、からだがぁ…イキっぱなしで、あたまが、はうんっ、とろけちゃう…」  
せっかく勝ち取ったこの日常で生きてくれ  
「あすかぁ、あすかぁ!キス、してっ、一緒に、行こう…?」  
それだけで僕は生きていけるから  
「ひゃぶっ、じゅるっ…っはぁ、あ、あ、あ、また、イッちゃう、はぁんっ!」  
いつでも君の幸せを祈ってるから だから  
「愛してるっ、愛してる!凛っ!!」  
「わたしもっ、あすかぁ、わたしも愛してるっ!」  
溢れるほどの精液が中に注ぎ込み、体力の限界だったのだろう。凛はそのまま眠りに落ちていく。  
だから気付かない。だから気付けない。  
飛鳥の瞳から涙が零れ落ちている事に。そして幸せそうに眠る凛にキスをする。  
「…さよなら、凛」  
 
 
三月、天照館の卒業式の日。記念の日に宴を、という事で凛たち月詠の者も郷へ来ていた。  
しかし皆集まる所に飛鳥一人だけが来ていない。  
式の後、部屋に戻ったようなので迎えに行こうとするが、何故かペンタファングの者達も付いてくる。  
「まったく、迎えにいくだけなのに何故こうもゾロゾロと。一人で十分だというのに」  
「いやぁ、凛に行かせるとそのまま二人で組んずほぐれつしそうで…ギャアーッ、刃が食い込んでる、食い込んでるぅ!」  
「晃ちゃん、自分から地雷を踏みにいくとは生粋のマゾだねぇ」  
「いーじゃん、いーじゃん、私だってダーリンと…凛ちゃん睨まないでよ〜。久し振りに会うんだし」  
「まったく揃いも揃って…飛河、お前は?」  
「…暇だったから」  
そんなこんなで一名が負傷しつつも飛鳥の部屋にたどり着く。  
「うーす、イナミン時間やでー、そういう訳で入るでー」  
「どういう訳だよ…」  
「キャー、ダーリン久し振りー!…ってあれ?」  
整えられた部屋にはだれもいない。小用で外しているのかとも思ったが、普段立てかけてある愛刀もない。  
四人がポカンとしている中、一人飛河だけが机に向かい何かを発見し、凛に差し出す。  
「宛名が凛になっている。…読んでみてくれ」  
「手紙…?飛鳥め一体何だというのだ…」  
「はっはぁーん、さては二人だけでどっかで落ち合おうとかそういうのやなぁ。やっぱ凛一人で行かせなくて正解…って凛?」  
手紙をハラリと落とし、ヘタリと座り込む。その目にはうっすらと涙が。  
「ちょ、ちょっと凛ちゃんどうしたのよ!?」  
座り込む凛を伊織が心配そうに抱きかかえ、京羅樹が落とした手紙を拾い、読み上げる。  
「なになに…『凛へ。君に黙っていなくなる事を、まずは謝る』…!?『全ての件が片付いてから自分なりに調べてみたのだが、  
 この神子の力、やっぱり只ではすまないものらしい。詳しくは言えないが、ただ一つ。『周りの者を不幸にする』らしい。  
 君を、君だけをそんな目には合わせられない。絶対に自分を許せなくなるから。そして君からみんなに伝えてくれないか?  
 ごめん、と。許してくれなんて言わない。多分…これもあの時の罰の一つなのだろう。  
 ただ君に幸せになって欲しいから。君が生きてくれるだけで僕は幸せだから。  
 愛してくれてありがとう。僕もこの先ずっと…愛してる。伊波飛鳥』……くそ!何でだよ!」  
読み終わると同時に凛が泣き出す。誰にも見せたことのない、子供のように大声で。誰一人言葉を出せないまま沈黙する。  
「そんな…ダーリン…凛ちゃん…」  
「神子の力、矢張り僕らと同じように副作用があったのか。…気付いてやれれば…!」  
「またか!アイツはまた同じ事を!何べん繰り返せば気が済むんや!ワイら、コンビやったんちゃうんか!  
 もう許せへん、ぶん殴ってでも連れ戻したる!」  
「その必要はない」  
いつの間にか泣き終わっていた凛の言葉に皆が驚く。  
「ちょ、その必要はない、て!そんな訳にはいかんやろ!?」  
「そうじゃない。お前がぶん殴る必要はない、というだけだ」  
新たな決意が凛を立ち上がらせる。そうとも、あの時と同じなだけだ!  
「私が連れ戻す。ぶん殴って連れ戻す!ふふ、そして皆の前で土下座させてやる!」  
そうとも、いくらでも泣いて逃げても構わない。その度に私が追って慰めてやればいい。  
少し怖がらせるかもしれないが、それは約束を破った罰だ。  
「また泣きながら戦っててかまわんぞ、飛鳥。また、私が抱き締めてやるんだからな…!」  
涙はもう、ない。  
 
 
<完>  
 

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル