よく考えれば分かることであった。  
 僕はそれを拒否していたのだろうか。今になっては答えは得られず、得たとことで何も意味はなかった。  
「草凪殿、天照に戻りませんか?」  
 そう訊ねられた時僕は嬉しかった。  
 僕を必要としてくれている人がいて、その人が彼女だったから。  
「ええ、いつか」  
 僕はすぐにでも戻りたいという気持ちを押し殺した。まだ、その時ではないと知っていたからだ。  
「そう、ですか」  
 彼女は少し残念そうに言う。僕は少し心が痛んだ。  
「桔梗さん」  
「はい」  
「またね」  
 そう僕は言いながら手を振った。  
「はい。また」  
 彼女もまた微笑み言った。  
 僕は別れてからしばらく考えていた。  
 
 何故、僕は彼女に対してはああまで自分を隠すのだろうと。  
 僕は何を緊張していて、何故今顔が火照っているのだろう。  
 
 今となっては呆れかえるほど愚かな思考だった。  
 
 
 
 
「ここで私はボケるべきなのでしょうか」  
「いや、強要はしないけど」  
 ふと街を歩いてみたくなったのでちょうど来ていた彼女を誘った。  
 このことに対して他意はないのだが、妙に緊張してしまった自分が居る。  
 それは彼女も同じだったのか、桔梗さんはそう突然言った。  
「私としては脈絡もなくボケるのではなく、もう少し会話を弾ませてから」  
「こだわりみたいのあるんだね……」  
「ええ、草凪殿と会う時は……」  
 そこで会話が途切れた。  
 僕と会う時は、なんだ?  
「えっと、桔梗さん?」  
「いえ、なんでもありません」  
 そう遮られた。  
 僕たちはまた黙って歩き出した。  
 雨が降り出していた。  
 

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