これは一つの可能性の物語――
少女は独り、校舎の中を走っていた。何かを求めて、誰かを探して。いや、正確には逃げていると言ったほうがいい。
学院が鬼王によって周りとは隔絶されてからどれぐらい経ったのか。
数える意味も無く、またそんな余裕もない。多少の援軍が来たとは言え、戦力差は絶望的。
疲れた体に鞭を打ち、<力>のない一般の者達を護る。
それは少女―天草理緒が自身に課した使命でもあるので肉体的な疲労は苦にはならない。
それよりも彼女を、彼女達を蝕む疲労は精神的なもののほうが大きい。
草凪八雲を差し出せ――
鬼王・大嶽丸はそうすれば他の者達の命は助けると言った。あまりにも非人道的な要求。とうてい呑めるものではない。
理緒も仲間もその要求を一蹴しようとしたが大人は可能性の一つとして考えているという。
理緒とてその言い分は分からないでもないが、断じてその選択肢は選ばないつもりである。
それが自分のエゴだと彼女も分かっている。他の仲間は仲間意識から八雲を差し出さないのであろう。
しかしそれ以上に理緒は自分が惹かれている男を見捨てたくはないのだ。
向こうがどう思っているのかは分からないが、自分を変えてくれた人――
その想いゆえに最後まで戦い抜く、そう決心した。
その矢先だった。何もかもが崩壊したのは。
「どうして!? どうして誰とも連絡がつかないのよっ!?」
声を荒げながらもう一度携帯をいじる。しかしノイズが走るだけで応答はない。
先程までは何ともなかった。天魔の襲来に備えて電源は皆が入れっぱなしのはずなのだ。
体の汗を拭こうと皆から離れたあとに、膨大な気配が現れたと思ったら校舎中に天魔が出現したのだ。
一体、誰が見張りをしてたのよ!?
そう毒づいた所で状況が変わるわけでもない。十数体を屠っても天魔はまるで無尽蔵であるかのように湧いてくる。
独りでは何も出来ない。仲間と合流したいのだが天魔はその方向から湧いてきている。
遠回りになるが反対側から退却しながら連絡をつけようとして今に至るのだ。
一旦携帯をしまって走るのを止めずに考える。
学院が閉じ込められるという異常な状況には多少慣れたが、今回のはそれに輪をかけて異常だ。
自分達が持っているこの携帯は特殊なもので並大抵の事では故障しない。
もっともそれが自分だけなのか、全員に起こっていることなのかは分からない。
なんでこんな時に独りになったのよ!?
しても仕方の無い後悔をせざるを得ない。そして同時に思う。昔の自分だったらあのまま独りで戦っていただろうか。
仲間の誰とも一線を画していたあの頃の自分だったらこんなにも皆を頼る事はしなかったかもしれない。
思わず笑みが浮かんでくる。その事については後悔もしてないし、むしろ変わった自分が嬉しかった。
「八雲……無事、だよね…?」
そんな自分に変えてくれた、そして惹かれている男を思い浮かべる。
いつも笑っていて、でも仲間を傷つけられた時には真っ先に立ち向かっていった。
そんな彼だからこそ守りたい、失いたくない。鬼王に差し出すなどもっての外だ。
こんな時でも八雲と一緒ならばどうにか切り抜けられるという半ば妄想じみた希望までもが浮かんでしまう。
仲間の許へ、と言うよりも八雲の許へという気持ちが強いまま階段を降りていく。
だがそこに今以上の狂気が存在する事を理緒は知らなかった――
何階か降りた後、再び廊下を走ることになる。どこか妙な雰囲気だとは感じたがそれを言えば既に異常が続いている。
今更気に病む程の事ではない。そう理緒は断定してしまった。
より注意深く探っていればこの先の惨状を避ける事が出来たのかもしれない。
しかしある意味軽度のパニックに陥っていた理緒には「仲間と合流する」、それ以外の考えなど浮かばない。
長い廊下を駆け抜けようとした時に行く先の方向に人影が見えた。
仲間かと思い走る速度を早めたのだが近付く途中で違うと分かり、瞬時に焦りの感情が湧き出してくる。
確かに人ではあるが、そこにいた者達は理緒が守るべき者達。<力>のない学院の生徒達であった。
なんだってこんな所に!?
その状況を作り出した本当の意味を考えずに、避難させようとその群衆に近付いて叫ぶ。
「ここは危険だから早く逃げて!」
今天魔の群れが近付いてこられては大惨事になる。ましてやパニック状態になられては手に負えなくなる。
しかし触れられる程度にまで近付いて、ようやく生徒達の様子が尋常でないことが分かる。
先程の叫びに反応したのか理緒の方を向いてはいるが、皆一様に放心しているとでもいうか虚ろな表情なのだ。
騒ぐでも暴れるでもない。ただ静かに見つめられているだけ。
理緒は一瞬、ゾクリとする。そしてこの焦点のあってないような眼をどこかで見た気がした。
ネトリと肌に纏わりつくような不快な視線。体の隅々を観察しているかのようなそれは視姦されている気分になる。
そこではたと気付く。これは天魔の視線だ。天魔に取り憑かれている人間の視線なのだ。
理緒はそこでようやくなにもかもに気付く。
本来、普通の学生達は体育館にいるはずだ。そして結界の影響で意識を持っている人間は多くはない。
だが目の前には居るはずのない場所に居て、そして起きているはずのない人数が居る。
止めにはそこに追い込むような天魔の襲来。全てが罠。仕組まれた罠だったのだ。
手足が震えだし今まで味わったことのない恐怖が全身を包んでいく。
だが僅かに残っていた理性が相手を刺激しないようにと警告し、今すぐ駆け出したいのを我慢して二、三歩後ずさるだけに留める。
その時、前から何かが投げ飛ばされて理緒のすぐ前に落下する。
何かの攻撃かと思い顔を塞ぐが、痛みはなく、顔の前に出した手に何かがビチャッと付着した。
恐る恐る手をどけて見てみるが初めは何がなんだか分からなかった。突然の事で頭が麻痺してしまっていたのだろうか。
だが「それ」が分かった所で何の得もなく、ただ理緒から血の気が引いていくだけだった。
「それ」は人間。「それ」は少女。恐らくは月詠の学生であろう。
恐らく、と言うのは判明出来るのが破り捨てられた制服であろうものがかすかに付着していただけだったからだ。
そして体に付着していたものはそれだけではない。白く粘つくような液体が全身にこびり付いている。
だらしなく広げられた股間からもそれはゴブリと溢れ出している。
開いた口からも垂れていて、瞳に色は無く、生きているかも分からない。
そこで自らの手に付いたものも同じ物だと気付く。手を拡げればヌチャリと糸を引く。
理緒とてそちらの方面の知識が無いわけではない。男と女が交わればどうなるかぐらい知っている。
だが眼前の陵辱の惨状はあまりにも異常すぎた。とても許容出来るものではない。
ここで大抵の人間がそうであるように理緒の理性も崩壊した。今するべきことも自分の使命もかなぐり捨てて逃げ出していく。
怖い。怖い。分からない。分かりたくもない。
もつれて転びそうになる足を無理矢理言う事を聞かせてこの場から遠ざかろうとする。
だが時間は致命的なほど消費してしまっていた。駆け出したその先からは天魔が湧いてきている。
「嘘……嘘…こんなの嫌よ。ねぇ…何かの冗談でしょう…?」
呟いた所で何も変わらない。前からは天魔が、後ろからは操られた人間が理緒との距離を縮めていく。
既に理緒は絶望の牙に捉われていた。
操られているとは言え相手はただの人間、本能的に攻撃出来ない。恐慌状態にあるものの、そのぐらいの思考は出来ていた。
もっともそれが理緒にとっての不幸となる。辺り構わず、であれば少しは結果も違っていたかもしれない。
何体かの天魔を葬ったものの所詮は数の暴力の前に無駄なあがきに過ぎない。
理緒を取り囲む人間と天魔の包囲網は刻々と狭まり、遂に人間の手が理緒の腕を掴む。
そうなってしまっては最早理緒に抵抗の手段はない。<力>があるとは言え純粋な腕力では敵いようもない。
組み伏せられ虚ろな眼をした者達の無数の手が理緒の体を這いずり回り、制服を剥ぎ取っていく。
「嫌ぁっ! やだやだっ、やめて…やめてよぉっ!?」
無論それに応える者はいない。あらわになった肌を撫で回され、何の遠慮も無く乳房に指をめり込ませる。
それだけではなくたっぷりと唾液の付いた舌で舐め回す者もいる。
足の指を、太ももを、腕を、顔を。そして何よりも理緒の心を陵辱したのは唇を奪われ口内に唾液を飲みこまされた事だった。
「ぷはぁっ! なんで…なんでアンタ達なんかにぃ…」
彼女とて年頃の少女。ファーストキスに夢を見る事もある。同時に思い浮かぶのは一人の男の笑顔。
悲しみよりも憎しみがこみ上げてくる。だが周りの人間達はそんな想いなど一考だにしない。
一言も発さずただ己の欲望に忠実に従っている。そして行為はより加速していく。
ビュルッ
そんな奇妙な音が聞こえると理緒の顔に何かがかけられる。何事かと思いその音がした方向を見てさらに恐怖が増した。
グロテスクとしか思えない男の一物。その先からは白い液体が垂れている。
そこでようやく自分の顔にかけられたものが男の精液だと分かってしまう。
「ひっ…やだぁ、嫌……嫌ぁ…そんなの近づけないでぇっ!!」
理緒の悲鳴に興奮したのか、それともその男に呼応したのか周りからも次々にその醜悪な物体が現れる。
既にまともな思考が出来ない理緒に肉棒が絡みつく。ある者は体に擦りつけ、ある者は理緒の手に握らせて…そして口内に挿し込む。
「んぐっ!? んんっ、んむぅ〜!?」
まるで予想していなかった行為に理緒の眼が見開かれる。
それだけでなく剛直な肉棒は頬の裏側に擦り付けたり喉の奥を突いたりする。
その苦しみと男のモノを咥え込んでいるという不快感で吐き気がするがそれすらも許さないというように男の動きは増していく。
ほんの数時間前までは予測していなかった事、それと汚されている事に涙が零れ落ちる。
体と手に射精されている感触が分かったあと、口内の男の動きが激しくなる。
そして吐き出す事を許さないというように喉の最奥で液体が噴出する。
その衝撃に半分を飲み込んでしまい、残りの半分は息苦しさから飲み込まずにはいられなかった。
「げほっ! ごほっ! うえぇ……」
生臭い臭いが鼻につき、口を動かす度に口内が粘りつく。だがこれで終わるはずも無い。
「ごほっ……うぐっ!? んぶっ、んぐぅっ!?」
空くのを待っていたのか僅かな間隔で次の男のモノが侵入してくる。
それだけでなく理緒の眼には周りに無数にと思えるほどのそそり立つ肉棒が見える。
これを全部……私がするの…?
宴はまだ始まったばかりだった。
「んぐっ!? おごっ、ひぐぅ、んむぅ!?」
口辱は未だ続いている。理緒の事など何ら気にかけずただただ欲望を吐き出す為に。
なかなか順番が回ってこないからか頭から精液を浴びせる者もいる。
このまま気を失ってしまえばどれほど楽になれるだろう。
そう考えてはみたものの息苦しさ、不快さに絶えず意識は男の肉棒に向かざるを得ない。
それでもどこか朦朧としていたのだろう。この先に起こる事への意識は全くなかった。それが彼女にとって幸か不幸かは分からないが。
「ぷはっ! はぁ…はぁ……うあ…? っ!? うあああぁぁああぁっ!?」
突然の衝撃に今日最大の悲鳴が木霊する。しかも衝撃は一回だけでなく断続的に彼女に襲い掛かる。
下腹部を貫かれるような感覚。挿れる、などと生易しいものではなく抉られている感覚でしかない。
ここに来て理緒は理解する。犯された。男の肉棒が私の体を抉っている。
「いやああぁっ! ひぐっ、あがぁっ!? やめ…うああっ!?」
体の外につく痛みなど我慢出来る。だがこれはその比ではない。体の中を削られ抉られている。
「抜いて! 抜いてよぉ! うあがっ!? ひぎいっ!」
今まで発したこともない心からの嘆願。何も考えられずただ本能から悲痛に叫ぶ。
しかもその速度は段々と速くなる。果てる直前のラストスパートだと分かると理緒は発狂したと思われる程叫び出した。
「嘘…でしょ? いやぁっ! やだやだやだっ! 出さないでぇ! 抜いてよおっ!?」
無論男は聞く耳持たない。力強く打ちつけ理緒の奥に挿し込み精を放出しようとする。
「助けて八雲ぉ! こんなのやだぁっ! 助けて……助けてよぉっ!!」
願いは聞き届けられない。男の動きが止まった一瞬の後、勢い良く精液が理緒の中に注ぎ込まれていく。
「いやあああああああぁぁああぁあ!!!」
自らの中に熱が流れていく感触が分かると理緒は盛大に叫んだ。歓喜の声には程遠い絶望の叫び。
「いやぁ……いやぁ…うぅ、うああぁ……」
何もかもが奪われた。そう理緒は感じた。愛しい人との、という少女らしい夢は粉々に砕かれた。
まるで今までの自分の人生を真っ向から否定されたように感じた。
だがこんなもので終わるはずもない。射精した男が膣から抜くとすぐ次を待っていた男の肉棒が挿し込まれる。
「うああっ!? そんな……もうやめてぇ! もう私を犯さないでぇ!!」
膣内射精と自衛の為に溢れた愛液があるとは言え処女を失ったばかりの理緒には再び衝撃が繰り返される。
そして余りにも締め上げて気持ち良かったのかそれとも単に男が早漏なだけであろうか。
挿れてすぐに射精してしまう。だが固さは失われず精を中に出しながら理緒の体を抉っていく。
「いやぁ…出てる、また中にぃ……ひぐぅっ! あうあっ! 出しながら…犯されて……あああっ!?」
犯されながら理緒は周りの男達を見る。虚ろな表情なはずなのにどこか嗤っているかのよう。
許せない。許さない。死ね。死ね。殺してやる。
理緒の頭についぞ出てこなかった憎悪が浮かび上がる。相手が守るべき普通の人間だという事など歯牙にもかけない。
殺す殺す殺す。その言葉が呪詛のように理緒の思考を支配していく。
だが男達の行為はその呪詛すらも吹き飛ばしていく。二人目の男がまた膣内で射精したあと、理緒は次の男に跨るように犯される。
最早抵抗のしようもない。諦めにも似た感情でされるがままになっていたが次の瞬間全ての感情が消し飛んだ。
「――――――――っ!?」
言葉にならない悲鳴を上げる。頭の中が焼き切れたと思うほど表現のしようもなかった。
それもそうだ。もう一人の男が肉棒を尻穴に突き刺している。本来使うべきでない箇所。
だが欲望を満たす為ならば男達に躊躇はない。ギチギチに締まったその穴に許容外のモノをめり込ませる。
「あ………かはっ………」
理緒は魚のように口をパクパクさせるだけ。己の下腹部を貫く二本の肉棒の衝撃に言葉を出す事も忘れてしまったかのよう。
もう流し尽くしたと思った涙が再び溢れ出す。悔しさからでも悲しさからでもなくただ痛みから。
ズブリ、グズリと異なる感覚が絶え間なく体を貫く。酸素を求める口内にも肉棒が侵入してくる。
両手にもそれぞれ男のモノを握らされ、何が楽しいのか理緒の髪を巻いてしごいている者もいる。
三つの穴を全て埋められ、体で使われていない箇所などない。
白濁液を飲み込まされ注がれ浴びせられる。抜かれた穴からは収まりきらなかった白濁が流れ落ちる。
だがすぐに新しい肉棒によって塞がれる。それなのに周囲から人間が減ったとは思えない。
死ぬ。死ぬ。犯されて壊されて殺される。
そう叫びたいのに口を塞ぐものによって言葉としては発せられない。
狂宴の終わりはどこにも見えなかった。
理緒が目を覚ました時には周りに誰もいなかった。ようやく終わった、と思うよりもいつから気を失っていたのかと考えた。
覚えている事はさんざん膣内や尻穴に精液を出され、それを乱暴に手で掻き出された事。無論、一回二回の話ではない。
それが示すように今理緒が横たわっている場所はまるで白い湖のようになっている。
腕を少し動かすだけでビチャッと跳ねる。口内にも多少残っており、鮮やかだった黒髪は乾燥したものやらが付着してしまっている。
今の彼女には何の感情もない。ただ体のあちこちが痛いな、と思うぐらいだった。
それから何とか体を起こそうとした。とりあえず上半身だけでも壁にもたれかけたかった。
途中何度も起き上がれずに精液の湖に倒れた。まるで何年の筋肉を使っていなかったかのような不便さだった。
十数分経ったあと、何とか壁にもたれかける事が出来た。たったそれだけの事なのに息が荒くなる。
しばらく呆然としていたが、ふと自分の両手の平を見てみた。
白濁液がこびり付き、倒れた時に付いたものは下に垂れていく。
「ハハ……アハ、アハハハハ………」
乾いた笑いが出てくる。何てザマなんだろう。今まで男を知らなかった自分が一気にこんな無様な格好だ。
大事にしていたものが何もかもあっという間に奪われていった。何て滑稽なんだろう。
「アハハ……アハハハハハハハ……うぶっ!? おええっ!!」
自虐的な笑いをしていると急に吐き気がこみ上げてきて胃の中のものを吐き出していく。
吐き出されたものは白い水。口虐によって飲み込まされた男達の精液だった。
「げほっ、ごほっ…。う……あ…うあああぁ……」
体の外だけでなく中まで汚された。陵辱の証をまざまざと見せられると悲しみと悔しさでまた涙が零れる。
ひとしきり泣いた後、一人の男の顔を思い浮かべる。犯される寸前まで助けを求めていた相手。
壁にもたれかかりながらフラフラと立ち上がる。動いたからか股間から男の精が床に垂れる。
正直体を動かすのも辛いのだがヨロヨロと、それでもゆっくりと前に進んでいく。
「やくも……やくもぉ……」
男の名を呟きながら疲労の限界の体を引きずる。汚れた体を拭おうともせずただ前へ。
上半身は切り裂かれた制服が僅かに付着しているだけで胸も露なままだ。
下半身に至っては何も付いていない。そんな自分を気にする余裕―いや、考えすら存在していなかった。
現在の理緒の精神は既にまともではない。ただ草凪八雲に会いたい、それだけしか彼女の心の中になかった。
長い時間をかけてようやく学院長室にまでやってくる。ここに来るまでに障害は何もなかった。
普段の理緒ならばそれがおかしいという事に気付くのだが、今の彼女の精神は擦り減っている。
何も考えずに、草凪に会いたいが為に扉を開ける。
これで助かる。八雲がいれば何とかなる。
そんな淡い希望を胸に部屋の中に入る。探し人はすぐに見つかった。ただし理緒の希望を粉々に打ち砕く形で。
「ひぃっ、あうっ、ふああっ! すごい…すごいよぉっ!」
最初に耳に入ったのは少女の嬌声。嫌がる様子はどこにもなく、嬉々として男に後ろから貫かれている。
「ひゃああんっ! もっと…もっと奥まで突いてぇ!」
口から涎を垂らし、ひたすらに快楽を求めて別人かとも思ったが理緒が見間違えるはずもない。
だがそれ以上に理緒の心を打ちのめしたのは――
「んんっ、あはぁ…ふわああっ! あはっ…八雲くんのがまた中で出てる…」
少女は七瀬由紀。そして由紀を貫いていたのは草凪八雲だった。
「なによ…これ……。なんで、由紀が八雲と……」
状況が何も分からない。なぜこんな所で二人が交わっているのか。
だがそんな呆然とする理緒を余所に二人は再びまぐわりだした。
「あはぁっ! また…大きくなったぁ…。ねぇ…キスして、八雲くぅん…」
鼻にかけた甘ったるい声で由紀は八雲を求める。二人の唇が重なった瞬間に理緒は見た。由紀がこちらを見てニヤリと笑ったのを。
怒りがこみ上げる。何故自分が見も知らぬ大勢の男達に犯されながら、由紀は八雲に抱かれているのだ。
立場の違いでほんの少しもつれた少女達の友情はここで完全に崩壊した。
由紀は八雲を奪った事で愉悦を感じ、理緒は八雲を奪われた事で殺意を感じる。
二人に近付こうと足を出す。だがいつの間にか現れた男達によって理緒の動きは封じられる。
「離して! 離してよぉ!? 二人にあんな事させないでよっ!!」
狂ったように叫ぶ。しかし男達はそんな理緒を二人に近づけさせまいと組み倒す。
それは二度目の陵辱の開始の合図。
「うああああっ!? なんで…なんで私だけなのよぉ!? 助けて…助けて八雲ぉ!!」
理緒の必死の懇願も聞き届けられない。そして理緒は知らない。今の八雲に「八雲としての意識」が存在しない事を。
最早八雲は力を受け入れる器としての存在でしかない。
そしてそれを知ったからこそ由紀が形だけでもと愛する男との肉欲に溺れている事も。
既にまともな意識を持っている者はここに誰一人いない。
「なんで由紀なのよ…? どうしてそこにいるのが私じゃないのっ!?」
犯されながら狂乱する。犯されたのは体だけではない。この時点で理緒は心までも犯された。
最早未来がどう変わろうと理緒の心が戻ることはない。
だが戻ることがないのはもう一人の少女とて同じ事。
絶望に狂を発した理緒とは対極の位置にいる由紀。しかしある意味発狂の度合いは彼女のほうが大きい。
「もっと強くわたしを抱いて…。ずっと傍にいてね、八雲くん? ズットズットズットズット……」
それでも壊れてしまったとは言え本人としては幸福なのだろうから矢張り理緒とは苦しみの大きさが違う。
「そんな嬉しそうな顔をしないでよ!? なんでアンタだけが…! 許さない…許さない! 殺してやるっ!!」
憎悪を明確な殺意にして理緒は男達の肉の中に消えていく。
「もっとわたしの中に出してね…。こうしてるだけでわたしは幸せなんだから」
許容出来ない現実から逃避した由紀はひたすらに肉欲に溺れていく。
八雲だけが、いや、そうであった人間だけが何も感じていなかった。
これは一つの可能性の物語――
<完>