下腹部の中で、何かが千切れるような痛みが走った。  
それが破瓜の痛みであることが、凛にもわかった。  
彼女は思わず呻き声を上げそうになるのを堪え、何とかその苦痛を  
無視しようと、猿轡を砕けんばかりに噛み締めた。  
自分の胎内が異物感で一杯になる。今まで味わったことの無い感触だ。  
―自分はついに破瓜を散らしてしまった…。  
凛の胸に喪失感と絶望感が波のように押し寄せてくる。  
しかもその相手が自分の思い人ではなく、憎むべき殺戮者であったことが  
よりいっそう惨めな気持ちにさせる。  
凛は苦痛と屈辱に涙を零しそうになった。  
しかしそれを持ち前の負けん気で何とか押し止めた。  
―泣いてはいけない。  
彼女は胸の内で何度も思った。  
泣いては彼らをより一層喜ばせることになる。  
 
凛は自らの内で、自分が人ではなく、人形であると言い聞かせていた。  
人形は痛みを感じない。人形は涙を流さない。だから、何をされても平気である、と。  
彼女は夜空に輝く満天の星の数を数えることにした。  
―ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ…  
この星を全て数え終わる頃には、この生き地獄から解放されているだろうか、と彼女は思った。  
―ふたじゅう、ふたじゅういち、ふたじゅうに、ふたじゅうさん…  
三十を数えたところで、彼女を犯していた男が果てた。  
凛の脳裏に子孕みの恐怖がよぎった。  
しかしそれを意識的に無視し、再び星を数えることに没頭し始めた。  
―人形がそんな事を恐れていてどうする。  
星を数えながら、自分に強くそう言い聞かせた。  
男が凛の股座から離れると、間髪入れずに別の男が割って入ってきた。  
先程の男、凛の初めての相手が、自分の一物が破瓜の血で濡れている事を自慢する声が聞こえる。  
しかし人形の凛にとっては、最早そんな事はどうでもいいことであった。  
自分に課せられた使命はただ星の数を数え続けることだけだ。  
星を七十五まで数えたところで三人目の男に代わり、百二十を数えたところで四人目の男に代わった。  
しかし何人代わったところで、凛の反応は無い。無表情のまま、じっと宇宙を見つめているだけだ。  
そのことが男達を苛立たせ始めていた。  
「双葉姐さん、この餓鬼、いつもこんな感じなんですかね。」  
髭面の男が、酒を煽りながら陵辱の様子を面白そうに眺めている双葉に話しかけた。この男は凛の二人目の相手である。  
「そうですよ、初めてならもっと泣き喚くと思ったのに、これじゃ面白くねえ。」  
それを聞いた小柄な男も頷いた。  
「そうだねぇ…。」  
双葉は小首をかしげて考える振りをした。  
「取り合えず、剥いちまって裸を晒しておしまい。」  
 
男は刀子を取り出すと、縄を切断しないように気を付けながら器用に凛の着物に切り込みを入れ剥ぎ取っていった。  
凛の乳房が露となり、男たちの目に晒される。  
しかしそれは乳房と呼ぶには余りにも未成熟な、僅かな膨らみに過ぎなかった。  
「ははは…何だこりゃ、男みたいな身体してやがる。」  
そう言って男は凛の乳房を撫で回した。「餓鬼みたいな身体だ。」  
他の男たちもニヤニヤと嘲笑の笑みを浮かべ、凛の姿態を嘗め回すように見つめている。  
同年代の娘と比べても、未成熟な自分の体の事は、凛も密かに気にしていた。  
大体において凛の姿形は、少年と言っても差し支えないくらいである。  
実際、これまでに何度も少年に間違われたことがあった。  
その時は大抵笑ってごまかしていたが、内心は深く傷ついたものである。  
しかしその内に秘めた悩みを陵辱者達に声高に指摘されたことは、  
これまでのものとは比べ物にならない程の屈辱であった。  
男達の手が凛の身体を無遠慮に弄っていく。  
その上彼女の身体について「やれ肉付きが足りない」だの「痩せ過ぎ」だのと  
あれこれと批評しては、下卑た笑い声を上げる。  
まるで物を扱うときの態度である。事実、男達は凛を一人の人間として見ていない。  
自分達の欲望を吐き出す、生き人形であると思っている。  
 
男の一人が自らの怒張を凛の眼前に突き出した。  
凛は慌てて目を閉じる。  
男の一物を見たのはこれが初めてであった。  
しかも男は怒張を凛の滑らかな頬に擦り付け始めたのである。  
顔中に擦り付けられる肉の感触とすえた匂いに、凛の背筋に悪寒が走った。  
思わず顔をしかめ、首を振って抵抗するが、そうすると髪の毛をがっちりと掴まれ  
ますます強く擦り付けられてしまう。  
しかも彼女の顔を陵辱している肉は一本だけではない。  
三人の男達が、代わる代わる凛の顔面の感触を愉しんでいた。  
余りの出来事に、猿轡の端から凛のくぐもった吐息が洩れる。  
男の一人が大きく溜息を付いたかと思うと、自分の顔が何やら暖かい液体に濡れた。  
それが男の吐き出した精であるとわかるまで、そう時間は掛からなかった。  
何ともいえない生臭い匂いが凛の鼻に付く。しかも男は自らの一物を使って、その白濁を  
塗りたくり始めたではないか。  
自分の顔面に射精されたという事実と、白濁の生臭さに溜まらず吐き気がこみ上げてくる  
 
―わたしは人形、人形なんだ!だから何をされても気にしてはいけない!  
凛は心の内で、経文を唱える様に自己催眠を掛け続けた。  
目を強く閉じているので、星を数えることは出来ない。  
その為ただ只管自分を人形だと思い込むことで、この場を切り抜けたかった。  
しかし生まれて初めて嗅ぐ白濁の臭いに、うまく精神を集中することが出来ない。  
おまけに、ここにきて初めて見せた凛の嫌悪の反応に、男達が面白がって次々と凛の顔面に白濁を吐き出していく。  
彼女の顔は、付着した白濁で白く染まっていった。  
それは彼女の鼻腔の中にまで侵入し、息苦しさと生臭さで思わず咽てしてしまう。  
その様子を見ていた双葉はさも愉快そうに笑った。  
「おや、凛よかったねぇ。そんなに綺麗に化粧して貰って。  
 これで男みたいなあんたの女振りが上がるってもんだよ。」  
双葉の非道な言葉に、凛の忍耐もいよいよ限界に来た。  
自分はやはり人形などではなかった。里を壊滅させた襲撃者達に陵辱されている  
ひとりの無力な少女であった。  
強く閉じていた凛の眦から、一粒涙が零れた。そしてそれは堰を切ったように後から後から溢れ出し、彼女に施された  
白い化粧を洗い流していくかのように頬を濡らしていった。  
 
 
空が白じんできた。  
里の広場には、体中から精臭を漂わせた凛が呆けたように中空を見つめていた。  
彼女は一晩中男達に弄ばれ嬲られた挙句、胎内は勿論のこと、体中白濁塗れにされ  
襤褸雑巾のように捨てられていた。  
 
「さぁてあんた達、あの餓鬼どうするんだい?  
 気に入ったんなら生かしておいてやってもいいけどさ。  
 それともこのまま殺しちまうかい?」  
双葉の問いかけに男達皆首を振った。  
その中の一人が言った。  
「いや、あの餓鬼生意気だから生かしておきましょう。  
 ワシらの里でたっぷりと躾てやるんですよ。  
 躾がいがありますよ、あの餓鬼なら。その時どうなるかが楽しみだ。」  
 
 
―八百七十七、八百七十八、八百七十九…  
男達が凛に陰険な笑みを向ける一方、彼女は朦朧とした意識の中、当の昔に消えて無くなった星をまだ数え続けていた。  
八百八十、八百八十一、八百…  
 
彼女の夜は、まだ終わってはいないのだ。  
           
                            〜続く〜  
 

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