凛を胸に抱いて眠りに付き始めてから、一体幾日過ぎたであろう。  
彩女の心の中で、凛に対する想いが日に日に風船のように膨らんでいく。  
このまま放っておけば、いずれ心の内から破裂してしまいそうな勢いである。  
―凛…可愛いあたしの凛…。  
ここ最近、彩女はずっと寝付けない夜を過ごしてきた。  
凛の寝顔を一晩中眺めているせいである。  
夜は凛の顔をその目に焼き付けることの出来る絶好の時間帯なのだ。  
凛の寝息を聞きながら、そっと彼女の頬に触れたり、鼻の頭をくすぐったり、  
髪を撫で付けたりして夜を明かした。  
 
「彩女さん、眠れないの?」  
突如として凛が声を発した。  
彩女は驚いて、僅かに身を反らせた。  
眠っているものとばかり思っていたからである。  
「そんなことないよ。どうして?」  
「だって…彩女さん、ここ最近眠ってないように思えたから。」  
まさか、自分のささやかな悪戯を知っていたのだろうか。  
狼狽を悟られないように、わざと明るく笑った。  
「ははは…そんなことないさ。よく眠れているよ。」  
明らかな嘘である。声が浮ついている。  
勘の鋭い凛にはそのことが伝わったはずである。  
しかし彼女からは、彩女の言葉に疑問を抱いた節は感じられない。  
ふぅ、と溜息を付くと彩女の胸に強く顔を埋めてきた。  
「彩女さん…わたし、ずっとここに居ていい?」  
彼女の胸に顔を埋めたまま凛が聞いた。  
「ああ、勿論さ。ずっとここで二人きりで暮らそう。」  
「本当に?」  
「本当さ。」  
彩女は凛の髪を優しく撫でた。  
うれしい、と小声で呟いて、凛は瞼を閉じた。  
彩女のふくよかな乳房の奥にある、心臓の鼓動が耳に心地いい。  
 
子供のように甘える凛を、彩女は心底いとおしいと思った。  
今だかつて、これほどまで人をいとおしいと思った事は無い。  
突如、胸の中の凛を奪いたくなった。彼女の全てを己の物にしたくなった。  
そう思うと居ても立っても居られなくなって、気が付いたときには  
凛の唇に自分の唇を重ね合わせていた。  
凛は嫌がってはいない。それどころか、さらなる愛撫を期待するかのような  
甘い吐息を漏らし、潤んだ瞳で彩女の顔を見つめている。  
彩女は凛の胸に手を伸ばしてみた。  
寝着の上からでも、彼女の淡い膨らみを感じることができた。  
その感触を直に味わってみたいと、さらに凛の寝着の懐から手を差し入れてみる。  
凛の身体が僅かに震えた。  
彩女は慌てて己の手を懐から引き抜いた。  
「…嫌だったかい?」  
少し間をおいて凛が首を横に振った。  
「ううん。嫌じゃないよ。」  
「本当に?」  
「うん。嫌じゃない。」  
その言葉が嘘ではないと証明するかのように、凛は彩女の手を取って自らの懐の中に導いた。  
そして消え入りそうな声で呟いた。  
「だって…わたし彩女さんのこと好きだもん。」  
「そんなこと言ってくれるなんて…嬉しいよ…あたしもあんたのこと好きさ。」  
「本当?彩女さん」  
凛の声が踊った。  
「ああ、本当さ。あんたと会ったときから…あんたのことが好きだった。」  
「わたしもだよ、彩女さん。わたしも彩女さんのこと大好き。」  
「じゃあさ、続きをしてもいいかい?」  
彩女は凛の額に口付けした。  
「うん…して…。」  
凛は彩女の胸から顔を離すと、布団の上に身を投げ出した。  
 
彩女は身体を起こすと、自らの寝着の帯を解き、前を肌蹴た。  
彼女の豊かな乳房がまろびでて、凛の視線を釘付けにした。  
そして凛の帯も同じように解いてやり、寝着の袷を左右に開いた。  
まず、彼女の淡い膨らみが目に飛び込んでくる。彩女のそれとは違い、申し訳程度の膨らみである。  
自分の乳房を、凛の乳房に重ね合わせるようにして、唇を合わせた。  
彩女の乳房が凛の胸板に挟まれて、柔らかく形を変えた。  
舌を絡ませ合い、互いの唾液を啜り合い、これから始まる悦楽の刻に胸を昂ぶらせた。  
二人は一晩中愛し合った。疲れると少し休み、気持ちが昂ぶリ始めると再び肌を重ねあわせた。  
闇の中に、二人の裸身が黒く、艶やかに浮かび上がった。  
襲い来る悦びの波と共に、二人の吐息と愛の言葉が混ざり合い、  
彼女達をさらに熱く蕩かした。  
最初はぎこちなかった二人の動きも、夜明けが近づくにつれ、より大胆に、より的確なものに容を変え、  
引いては返す漣のように二人は呼吸を合わせていった。  
 
 
その日以来、二人は互いに激しく求め合うようになった。  
寝食を忘れて身体を貪りあい、気が付いたら夜が明けていたと言う事も何度もあった。  
彼女達が愛の交歓を交わすのは、何も庵の中だけではない。  
時には縁側で、また時には日の光を体中に浴びながら、庭先にゴザを引いてすることもあった。  
ある時は、川海老取りの最中に河原で、またある時は二人で一緒に竹やぶに筍を取りに来たものの、  
互いに我慢が出来なくなりついつい時を忘れて求め合い、筍を取る事を忘れてしまっていたこともあった。  
その時は体中藪蚊に刺されて散々な目にあったが、互いの刺され後を掻きあっているうちに、再びもよおしてきてまた…  
ということになってしまい、後で二人で大笑いしてしまった程である。  
時にはわざわざ里に降りて来て、神社の境内や寺院の軒先で肌を重ねたこともあった。  
聖域で淫蕩な遊戯に耽るという背徳感に、二人の肉体は一層燃え上がった。  
畑を耕している百姓のすぐ隣の大岩の影に隠れて、互いの肌を重ねたときは息も出来ぬほど興奮したものである。  
途中、百姓が休憩のためにその大岩にもたれ掛かり弁当を食べ始めた。  
それでも二人は互いの行為を中断することが出来なかった。  
岩一枚隔てて人がいるという事実が、更なる媚薬となって彼女達を愛欲の渦の中へと引き込んでいった。  
女二人の悦楽遊びは、何も互いの肉体を使って行うだけではない。  
彩女が何処からか調達してきた張り形を使うこともあった。  
張り形は当初、男達の怒張を思い起こさせるのか、凛が受け付けることはなかったが  
彩女が徐々に細い形のものから慣らしていくと、十日も経たないうちにより太い形のものを甘えた声でねだるようになった。  
また畑で取れたキュウリやナスを張り形の代わりに使い、  
ぬらぬら輝く愛液がべったりと付着したそれらをそのまま齧ることもあった。  
行為はますますエスカレートし、縄を用い身体を扇情的に拘束したり、互いの尿を飲みあうまでになった。  
 
今日は村の夏祭りである。  
村の衆が日頃の憂さを忘れて踊り明かす年に一度の晴れの日だ。  
普段は閑散としたこの山間の村も、この時ばかりは途端に賑やかさを増す。  
鉢巻にはっぴ姿の男衆が勇ましく神輿を担ぐと、色とりどりの浴衣を身に着けた女達が  
黄色い声でそれに華を添える。  
彩女は普段は祭りに足を運ぶ事はないが、凛が祭りに行きたがったので、今年は  
久しぶりに祭り見物にやってきたのだ。  
二人は彩女が仕立てたお揃いの唐紅色の夏着を着こみ、片手には巾着袋を提げ、仲良く手を繋いで  
村の大通りを練り歩いた。  
傍から見ると仲の良い姉妹のように見える。いや、姉と弟と言ったら、凛に叱られるだろうか。  
二人は村の中心部から少し東に逸れた小高い土手に並んで腰掛けた。  
一町半ほど前の眼下では大篝火の炎が美しく輝き、祭りの活気を伝えている。  
村中の人々が祭りの輪の中に溶け込んでいるため、周りに人の気配はない。  
十五夜の満月に照らされて、辺りは思いのほか明るい。暗闇の中でも二人の表情まではっきりとわかる。  
 
凛が彩女の肩にしな垂れかかり、陰部が見たいと言い出した。  
突然の淫らなおねだりにも、彩女は嫌な顔一つしない。  
「おやまあ…この娘ったら…いやらしい娘だねぇ…。」  
「だって…急に見たくなっちゃったんだもん…。」  
顔を伏せて、凛が拗ねた様に彩女に訴える。  
この仕草に彩女は弱い。  
凛の望み通り、彼女は着物の裾をはだけて見せた。下には腰巻を付けていない。  
素裸の上に着物を着込んでいた。  
股を開いて凛に秘所がよく見えるように姿勢を変えた。  
「ほら、あたしのいいもの、よく見えるかい?」  
「うん、丸見えだよ。すごい…。」  
凛は上ずった声で、彩女の秘所をまじまじと見つめた。  
月明かりに照らされて、彩女の秘所は淫猥な陰影に彩られていた。  
「あん…丸見えなんて…そんな恥ずかしいこと言わないでおくれ…。」  
恥じらいの言葉を口にしても、彼女は股を閉じる事も裾を整える事もしない。  
「だって…本当に丸見え何だもの…ねえ、もしかしたら村の人に見られてるかもよ。」  
凛はそう言って彩女の秘所に手を伸ばした。  
村の中で、しかも祭りの最中に最愛の少女に股間を弄られているという事実が  
より一層彩女を燃え上がらせる。  
「あんたのいいものも見せておくれよ…お凛…。」  
「うん…いいよ…見て…。」  
彩女と同じように着物の裾をはだけると、下半身を露出させた。  
「ふふふ…相変わらずあんたのは可愛いねぇ…。」  
 
彩女の手はスルスルと凛の股間に潜り込み、巧みな指さばきで凛の蕾を弄んでいく。  
暫く二人は互いの秘所を愛撫しあった。すでに二人とも悦びに濡れているのが分かる。  
そのうち凛が彩女の乳房を見たいと言い出した。  
彩女は彼女の望み通り諸肌を脱ぎ、乳房を露出させたが、凛はそれでもまだ足りないという。  
そこで思い切って帯の戒めを解き、着物の前を完全に肌蹴て見せた。  
村人に見られるのでは、という羞恥心や警戒心があったが、それらも今の彼女には単に媚薬の役目を果たすに過ぎない。  
凛は彩女の乳房を玩具にして遊び始めた。擦ったりしゃぶったりと休む暇がない。  
暫く乳房を彼女の自由にさせていると、凛は荒い息を吐きながら自らの帯を解き放ち、  
彩女と同じように着物の前をばさりと開いた。  
そのまま彩女の乳房と自分の乳房を重ね合わせるようにして、唇を求めてきた。  
「いいのかい…?誰かに見られちまうかもよ…?」  
「そんなのいやだ…。」  
その言葉とは裏腹に、凛の目は情欲に潤み、全身で彩女を欲しているのが一目で分かる。  
「うちまで我慢できるかい…?」  
「わたし…我慢できないよ…。」  
そう言って、再び彩女の唇を奪った。  
「じゃあ、見られても仕方ないねぇ…。」  
彩女は淫蕩な笑みを浮かべ、そのまま凛を優しく押し倒した。  
月の光が二人の影を一つに溶かし、彼女達の秘密の遊戯を闇に隠した。  
祭囃子も、村の喧騒も、最早彼女達の耳には届かない。  
ただ十五夜の月だけが、彼女達の営みを黙って見つめていた。  
 
                       〜続く〜  
 
 

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