…いつぞやか、  
 
 
 
独りの忍は…  
 
 
 
人の心を…  
 
 
 
何処かに忘却して仕舞いました。  
 
 
 
女、子供なぞ全くの御構い無しに…  
 
 
 
其れは其れは人が出来うる所業に非ず。  
 
 
 
只只、其処に独り、痛々しげに見えぬ傷を負うた独りの忍が…  
 
 
辺りは血濡れ、醜き肉隗、廻りに漂う…血の…かほり。  
 
月にも似た銀髪、同じく、血塗れ。  
 
 
 
──…嗚呼…  
 
 
どうしてこう迄己を…  
 
 
抑えれぬのだろう…。  
 
 
銀髪は敵から奪った刀をサク、リ。と地に刺す。  
 
そして、  
 
そうと、そうと自らの顔に触れ…る。  
 
ぬ、る、り。  
 
 
「……ふっ……」  
 
 
不意に込み上げる笑い、  
 
其れは人の心を彼方に棄て去った己への自嘲とも取れり。  
 
 
銀髪は…  
 
 
背後に立つ、見知りの者の気配に気付く。  
 
 
「…彩女…か…?」  
 
 
「…力丸…」  
 
 
「…何だ……」  
 
 
後、視ずに御回答。  
 
「…さっき…あたいを…  
呼んだじゃないか…」  
 
 
「…呼んで等居らぬ……」  
 
否、確かに名前を呼びました。  
 
 
「…力丸…  
 
あんたどうしちまったんだよ……?」  
 
 
蛻(もぬけ)の躯を荒く揺さぶる其の手は、人肌温かい。  
 
 
 
−−−…温かい?  
 
 
 
…可笑しい、此は誠に愉快だ。  
 
 
「…お前は…こんな『力丸』でも…愛せるか…?」  
 
 
 
嗚呼…  
彼方にも此方にも…『人』が居りまする…。  
血塗れの儘転がり、命亡き瞳で────  
 
 
 
 
「──いゃっだ!!  
っ!!止めッろ!!!  
どうしたんだ力丸っ!!  
こんな場所で…間違ってる!!!  
…っくぅ!!」  
 
 
 
──…師匠…矢張り我は…己を抑えられませぬ。  
 
元から露出の多い着物を引き千切る様に矧ぎ取り、桃尻を高く突き上げさせ柳腰を両手で押さえ付け、天高くそそり立つ肉契をまだ濡らしても居ない秘裂に、あてがい思い切り腰を進めた。  
 
 
「─────…ひッ  
 
っあ゙ァああ゙っ!!!」  
 
 
 
細い躰は引き付けを起こして居るのでは無いのかと思う程、仰け反り、がりりと地面を力一杯掴む。  
突っ込んだ部分…結合部を覗けばいきなり挿入した所為か紅い血と先走りが交ざり逢った物が白く柔い太股に つぃ と伝う。  
はくはくと呼吸に成らない呼吸を繰り返し乍心体の痛みにぽろぽろと泪を産み流す。  
 
 
「…な…んで………?」  
 
 
銀髪は微量だが秘貝から流れて来た血のお陰で律動が滑らかに成り、きゅぅううと締まる膣壁に溜息を洩らす。  
 
 
「…ふ…良く締まる…  
 
流石久の一…名器だ…此の様にして今迄男を誘っていたのだろう…?」  
 
 
…人間らしい易しさ等当に棄てました。  
 
 
「…う…く…っは…  
 
ち…違っ……  
 
…あ゙ァあっ!!!」  
 
 
 
「…お前にはこんな…『力丸』等…愛せ無いで有ろう…?」  
 
 
 
腰揺り動かす度に、我の眼、水、溢れ流れます。  
 
「…うっ…くっ…ふぅう…  
 
 
 
あァっう痛……り…力……力丸……」  
 
───…もし  
 
 
 
──────…もし  
 
 
 
憐れ、此の独りの忍に誰か─────  
 
 
…『 』を…  
 
 
 
───約束したでは御座いませぬか…?  
 
幾ら忍と雖(いえど)も…女、子供は殺さぬ、と、  
 
彼の時…  
 
したでは有りませぬか────?  
 
「…っ…う…はっう……くっ……」  
 
口唇咬み、其れ程迄に厭なのか…。  
 
「…其れ程…厭、と…  
…ふ…  
…為らば餓鬼を孕む様に…  
たっぷり子種を仕込んで遣ろう……」  
 
 
腰を ぶる、ぶるり。  
 
 
「────っ!」  
 
 
 ごぽっ、ごぽっ  
 
「…あ゙あッぁ!!!!!」  
 
 
額を地面に擦り付け、大量の灼熱を其の膣に吐精し、膣壁はひくひくと収縮し始め、萎え始めた肉契にまだ纏わり付く。  
当のどくどくと白濁を流し込まれた本人は、既に氣を彼方に手放して居た。  
 
 
「っはぁ…はァ…は……………  
 
 
……くっ…ははっ…は…ははは…」  
 
我、滑稽で、愉快で溜まり増せぬ。  
 
「……り……力……力丸………」  
 
意識を取り戻したか、伸ばされているたおやかな手は水に濡れた銀髪の頬を撫でる。  
「……あんたは……独りじゃ無い……だろ…?  
 
…あたいびっくりしただけだから…さ。」  
 
 
貴方様の光も闇も凡て私が受け止めましょう。  
 
貴方、私の光。  
貴方、私の闇。  
貴方、私の全て。  
 
喩え私が先に朽ち果てても…。  
 
 
 
「───…!!!」  
 
我、漸く気付きました。  
 
 
「……だから…あたいに…もう一度約束…」  
────弱きも強きも…  
 
貴方と私、  
融け込ませて…  
 
「…お…男の癖に…  
…泣くんじゃないよ……」  
 
 
 
 
私の前でだけ…  
其の弱さを見せてはくれませぬか?  
 
 
 
彼(あれ)から一月過ぎ行き。  
 
 
 
己は我、見失う事めっきり無く。  
 
 
 
…余裕すら見え隠れ。  
 
 
 
されど、  
今も昔も変わらずに、人、死に逝きます。  
 
 
 
其れは我すら避けられぬ。  
 
もし、我、逝くなら…  
 
 
気付いた愛は余りに大きく。  
 
 
己の生命としての火すらも此の愛無しには意味成さず。  
 
 
…離れる事すら…  
 
 
まま成らぬ。  
 
毎夜繋がり、熱、埋める。  
 
 
 
淡い月光は艶めく男と女を照らし出す。  
力丸は先程から彩女の秘裂を細く長い指で弄くり廻し、既に荒い息の彩女の細い脚を思い切り ぐいぃっ と広げ、黒光りする怒張を取り出す。  
片手ではまだ彩女の秘裂をもて遊んでいる。  
「…さぁ…どうして欲しい…?」  
 
「…ふあ…ぁん……言葉で…苛め…ぃ…で…」  
 
彩女は力丸の蜜壺に響く艶声を耳元で囁かれ、力丸の細長い指を膣で、  
 
きゅうぅうっ!と締め付けた。  
 
「…指をこんなに締め付けたら…動かしたく成るだろう…?」  
 
力丸は謂うが早いか中で指を くにっくにっ と曲げ伸ばしを繰り返し、膣壁を擦る。  
「…ぁあ!!…んぁあ!!…も、お願い…力丸の…」  
 
力丸はニヤリと北そ笑み乍指を引き抜き、其の天井視詰める肉杭を彩女の蜜壺にあてがい一気に腰を進め、  
 
じゅぶぶっ!!ぬぐぐっ!!  
 
と膣の内壁を抉る様に出し入れを始める。  
「―――…んあぁあっ!!!」  
 
彩女は弓なりに肢体を反らせ、力丸の肉杭を其の華奢な躯に受け入れ乍、 嬌声をあげ、悦楽の所為か柳眉を寄せる。  
 
 
ずちゅっ゚。  
 
ぐちゅっ。゚  
 
絶え間無く耳に響く粘着質で淫隈な水音。  
芯からとろとろ、とろける様な肉悦に彩女は涙を零し、いやいやと頭でかぶりを振り乍、其の小さな口唇から甘く切ない吐息が発せられる度に、 ちろちろ と赤い舌が覗く。  
「…っはぁ…はぁあっ…あっ…あ…力丸……」  
 
彩女は潤んだ瞳で力丸を見詰め、力丸の口唇を小さな舌で ぺろ と舐め接吻を乞う。  
 
「…ん…んぅ…んんっ…むぅふ…っはぁっ……力丸っ!!…」  
 
「…っ…彩女……」  
 
力丸が吐息交じりで彩女の耳元に囁けば、膣が、  
きちゅうぅっっ!と力丸の立派な肉刀を締め付ける。  
 
「あんっ!力丸っ…あぁああっっ!!」  
 
彩女は一際高く鳴き、力丸の肉杭締め付け乍絶頂へと昇り詰め、荒い息を繰り返して居た。  
程無く力丸もぬるりと膣から己の肉刀を抜き、  
どぷっ、どぷっ  
と白く滑らかな彩女の腹部に白濁した灼熱を惜しげも無く放出し、彩女の腹部の白濁を拭い取り一息吐くとまだ荒く呼吸をする彩女の横にごろりと横たわる。  
 
「…済まない…やり過ぎた…」  
 
彩女の頬を撫で乍、誠にすまなさそうに彩女に謝罪の言葉を述べる。  
 
「…〜〜ん…別に…」  
 
此方をじぃと視詰める力丸にふいと背を向け乍、彩女は答える。  
 
「……誠に済まない……」  
 
「…別に…アタイの事、気遣わ無くて…良いのに…」  
 
「…何故だ……?」  
暫しの沈黙、背中を向けた彩女が其の沈黙を打ち消す彼の様につらつらと話し出す。  
「…アタイが八つの時に…師匠に拾われて東の里に来たのは力丸…知ってるだろ…?」  
背中を向けての会話に力丸は只相槌を打つ。  
「……ああ……」  
 
「…アタイが前に居た所ってのが…『遊廓』…だったんだ…  
複雑っちゃ複雑何だけど…  
売られたんじゃ無くて…遊廓の  
…主の娘…だったんだ……」  
「……ふむ……」  
 
「…多分普通は…女衒が連れて来る娘達を『華』として…遊廓で売るんだろうけど…  
…アタイの父親は……」  
 
…年端もいかぬアタイを犯した挙げ句、 『商品』 として遊廓に出しました。  
 
 
「……!?……」  
 
彩女は滑らかな背中を向けた儘尚も噺を続ける。  
「…幼い頃から手加減無しに犯されてたから…女としての…その……『子を産む』……事が………」  
 
極端に言葉の歯切れが悪くなり、其れは彩女の顔を見て居なくとも震えるその小さな背中で難なく見て取れた。  
 
「…判った彩女…皆迄言うな…」  
 
力丸はまるで腫れ物を触る彼の様にさうと彩女を抱き寄せ、自分の方に躯を向けさせる。  
 
「…っく…ひッ…う…えッ………」  
 
 
 
……泣いて居ました。  
 
 
嗚呼、貴女も…我と同じく、  
 
見えぬ傷を…  
 
「…っうぅ…えくっ…ひっ…っふぅ…」  
 
皆悦び擲(なげう)ち  
 
傷みと付き合っていく。  
 
「…っ力丸…  
ぅうっ…ふっ…ふぐっ…えぐっ…力丸……」  
 
目を泣き腫らし脆く  
 
過去悲しみ、雨の中。  
 
 
 
貴女は我を承け容れてくれました。  
 
貴女、我の光。  
貴女、我の闇。  
 
 
 
…せめて今だけ我に、脆く弱い心体を…  
 
 
其の震える心を…  
総てを、  
 
此の愚かな我に抱き締めさせて下さい。  
 
 
「力丸!左!!」  
 
掛け声と共に勢い良く飛び散る人肌生温い紅飛沫。  
 
「…終わったか…」  
 
未だ どくどく と力無い肉塊から溢れる鉄錆臭は辺りを包む。  
 
「…取り敢えず…  
遣ることはやったんだ  
…帰ろう」  
 
自分の廻りに居た敵を斬り殺した所為か腕に付いた血液を手拭いで拭い乍、 さくさく と彩女は歩き、肩で呼吸する力丸に近寄る。  
 
「……彩女……」  
 
 
 
「…あ…りき……ま……」  
 
血濡れ滴る切っ先…。  
 
「…お前が……  
いや…お前の『総て』が……  
…欲しい…」  
 
 
ぐず…ぐぐぐ…  
 
 
其れは剰りに鮮やか…  
香しい華のかほり。  
 
「…かはっ…り…き……」  
 
途切れ途切れに言の葉紡ぎ、口唇に、朱、溢れる。  
 
溢れる朱すら、誰一人とて渡さぬ。  
 
「…ん…ん…っん……」  
 
飲み干す朱の何たる甘さ、これぞ我の欲する…  
 
「…彩女……『愛している』……」  
 
「……力…丸………あ………」  
 
声は小さく、謂わんとする言葉、聞き取れり。  
「…最初で最期……お前だけ…後は何も要らぬ……」  
 
そして  
 
 
銀髪はさうとさうと微笑い、  
 
 
「…師匠…漸く…手に入れました…」  
 
 
火は彼方、風の中。  
 
…唯一つ、  
 
遺した物は…  
 
 
 
 
【終?】  
 
 
 

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